表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/171

ディオレス・ルイ新作発表会一日目②

その後の記憶が全くなかった。碧華が再び気が付いたのはそれから五時間後のことだった。


「あれ、ここは?」


碧華が目を覚ますと、周りは薄暗かった。ゆっくり起き上がり、周りを見渡した。碧華が横になっていた部屋は大きな天蓋付きのベッドだった。


「テマソン?」


薄暗く広い部屋の端に濃い紺色の安楽椅子に座っている姿が目に入った。


「目が覚めた?気分はどう?」

「うん、大丈夫、ちょっと咽喉乾いているだけ、今何時?」

「今ジュースを入れてくるわ」


そういうとテマソンは立ち上がると部屋を出て行った。碧華はゆっくりとベッドからでて立ち上がった。貧血とかはないようだ。なんだかへんな気分がするが、いつもの昼寝から目が覚めた時の感覚に似ていた。


碧華は首を回してから部屋を改めて見渡した。部屋の後ろ半分はすべて備え付けの大きなクローゼットになっているようだった。ベッドの横にはサイドテーブルがおかれていて、机もあるが上にはノートパソコンしか置かれておらず他には安楽椅子しか置かれていなかった。


すごくシンプルな部屋だった。壁もそうだがクローゼットも薄い青を基調にした色合いで統一されていた。例えるなら空に薄雲がかかっているかのような落ち着く色合いだった。


碧華は窓に歩み寄ると窓のブラインドから外の様子をのぞきこんでみた。太陽はまだでているようだったが、夕焼けが近づいてきているようだった。


窓の外は大きなビルが立ち並び、普段目の前に山が見え、高いビルなどない田舎に住んでいる碧華にとってそこはまるで異世界のような景色だった。


「ここわりと高いわねえ、いったい何階なのかしら?」

「二十階よ、でも他もビルに比べたら低い方でしょ」


テマソンは手にジュースが入ったグラスを持って戻ってきた。碧華にそれを手渡し答えた。


「二十階?高いはずね。私はやっぱりこんな高い所で住むのは無理ね、外見てるとおちつかない」


碧華はそういうと、ブラインドから手を放し、入れてくれたジュースを口に運んだ。


「あっリンゴジュース、これおいしい」


碧華はいっきにそれを飲み干した。その様子をじっとみていたテマソンだったがどこか元気がない様子だった。


「テマソン、疲れているんじゃないの?ねえ、ここどこ?もしかしてここあなたのベッド?私が占領しちゃってたの?ごめんなさい」


「あなたが謝ることは何もないでしょ。悪いのは私なんだから」


テマソンは少し震えているようだった。


「テマソン?」


「碧華、今日は本当にごめんなさい。あなたには無理をさせちゃったわ。よく考えたら、あなたはあんな場所初めてだったのよね、本当にごめんなさい」


「もう、何度も謝らなくていいわよ。確かに緊張したけど、いい経験させてもらったし、なんか別の自分になれた気がして楽しかったし、ちょっと貧血気味がたたったみたいだったけど、私、最後にへましちゃった。私こそごめんなさい」


テマソンは首を大きく横に振った。そして、そっと碧華に近づき、碧華をそっと抱きしめ何度も謝った。碧華はそっとテマソンの背中を手でトントンと軽くたたき、優しく言った。


「そんなに謝られると、私そんなに大きなミスをしたのかって不安になるじゃん」

「大丈夫よ、あなたが倒れたのは最後のお客様が帰った後だったから」


そういうとテマソンは碧華から離れた。


「軽い軽食用意してるんだけど食べる?」

「うん、でもみんなどうしてるんだろ?私けっこう寝てたでしょ」


「今、目が覚めたって電話したら、広さんはさすがにファーストクラスだったから、飛行機の中でぐっすり眠ってたみたいで時差とかなく元気にりりーが同行してロンドン観光してたみたいだけど、栞ちゃんと優ちゃんはさすがに疲れたみたいで、昼から二時間ぐらい仮眠をとってたって言っていたわ。栄治さんはずっと寝ていたみたいね。でも三時間前にみんなでグラニエ城の晩餐会に向かったらしいわ。りりーが晩餐会用の服を事前に用意してたみたいだから、見せたらすごく喜んでくれていたらしいわ」


「それって、他の人とか集まるの?」


「いいえ、今夜招待されているのは桜木家だけよ。あっエンリーくんも同行してって頼んでるから一緒だけど」


「そうなんだ、ここからだと遠いの?」

「そうね、渋滞していなければ一時間ちょっとぐらいかしら」

「じゃあ、私たちも急ぎましょうよ」


「碧華、無理しちゃ体に悪いわ。お医者様には十分眠らせなさいっていわれたんだから」


「もう十分寝たから大丈夫よ。でも、テマソンは大丈夫そうじゃないわね?真っ青よ。運転は無理かしら?」


「大丈夫よ、ちょっと驚いただけだから」

「驚いた?」


「まさかあなたが倒れるなんて思ってもいなかったから。人生であんなに驚いたのは初めてよ。飛行機のフライトだけでも疲れるのに、その後人前での仕事なんかさせて、男と女の体は違うのよってリリーにもさんざん電話で叱られたわ」


「ごめん。もっと体力付けとくんだった。明日は栄養ドリンク飲んで頑張るから」

「もう明日はいいわ」

「ええっ?どうして。私がいると足でまとい?」


テマソンは首を振って碧華に背を向けた。


「そうじゃないわ。私、いつも自分を基準に物事を考えちゃう悪い癖があるのよね。私は男、あなたは女、体力も精神力も全然違うのに、同じように無理させちゃったみたいだから。今日手伝ってくれただけで十分よ。明日は家族一緒に観光を楽しんできて」


その言葉に碧華はしばらくテマソンの背中をじっと見上げながら考え込んだ。そして、突然、テマソンの前に回り込んで両手でテマソンの両頬を思いっきりつねった。


「いらいわね、はにするのよ」


「テマソン、私はあなたの相棒でしょ。仕事の依頼を引き受けたのは私なんだから、最後まで付き合うわよ。私はやると覚悟を決めたらやる女なの。ただ、気晴らしにブツブツ文句を言ってるだけよ。それにあんな経験二度とできないかもしれないでしょ。本当だったら出会うことのない世界のセレブの人達に対等に話しかけられて、夢の中の出来事みたい。こんなおいしい経験逃したら一生後悔する。明日もサポートお願いします」


そう言って両手を放すと笑顔を向けた。両手で頬を無意識にさすりながら、驚いた表情になったテマソンだったが、急に明るい表情に戻って碧華を抱き上げ、クルクルと回り出した。


「そうね、あなたの家族に高い交通費だしてあげたんだものね。仕事はきっちりしてもらわなきゃね」


「ちょっとテマソン、危ないわよ。おろしてよ」


二人はまた笑い出した。テマソンはこの時、相棒という碧華の言葉がいつまでも心に響いていた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ