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冬休暇⑧

全員がそろったところで碧華が携帯を鳴らして誰かに電話をしている様子だった。

〈はい・・・碧華?なあに、私寝てるんだからじゃましないで〉


いかにも寝起きといった眠そうな声の主はテマソンだった。


「寝なさいっていったけど、そっちはお昼の昼間でしょ。よく寝れるわね」


〈碧華、あなたに言われたくないわね。何よ、要件なら終わったでしょ。話ならもう少し後にしてくれない。私は今眠いのよ〉


「後じゃ私たちが寝ちゃうのよ。今からトリプルお祝いパーティ―の乾杯をするんだから早く起きて。ワインでももってテレビ電話できる部屋まで行って」


〈何を言ってるのかわかんないわよ。今ベッドの中なんだから嫌よ!〉


「そんなこと言わずにお願い起きてテマソン。起きろー!」

〈もういい加減にして、答えはNOよ〉


「もういいわ。テマソンの馬鹿!せっかくあなたもパーティ―の仲間入りさせてあげようと思ったのに、ごめんね睡眠の邪魔をして、ずっと寝てろ!」


碧華は勢いよく携帯の電話を切った。


「碧ちゃん叔父さんどうだった?」


ライフがリビングのみんなの様子が見られるように縁側に置かれていたパソコンをリビングにセッティングしながら聞いてきた。


「どうもこうもないわよ。テマソンったら昼寝してるみたいで、眠いから睡眠の邪魔するなって」


碧華がそう言いながらブツブツいっていると


「寝てるのか・・・手ごわそうだね。じゃあ今度は僕がかけてみるよ。僕が合図したらみんな十日お誕生日おめでとうって言ってよ」


ライフがそういうと、ズボンの後ろポエットから携帯をだしてかけた。

長い間鳴らしていたらしくようやくテマソンがでたようだ。しかもライフは携帯の音声をスピーカーにしていたようだ。


〈いい加減にしなさいよ。私は寝たいのよ〉


テマソンが英語で言ったその声を合図にみんなで一斉に声をあわせていった。


「テマソン、十日お誕生日おめでとう」


電話越しから聞こえたその言葉に、寝ぼけていたテマソンが急に目を覚ました。


〈ちょっと何?〉


テマソンが一人ベッドの上で携帯に耳をつけながら混乱していると、ライフの声が聞こえてきた


「叔父さん、目が覚めた?」

〈ライフ?何なの今のは?〉


「何って、叔父さん十二月十日が誕生日だっただろう。それを話したら今から碧ちゃんの詩集出版祝とエンリーと栞ちゃんの祝恋人記念パーティーと一緒に叔父さんの誕生日のお祝いもしようってことになったんだよ。テレビ電話を使ってね。こっちの様子をテレビ電話で叔父さんがみれるようにパソコンをリビングに向けてるから叔父さんもパーティー一緒に参加しない?叔父さんは何も食べれないんだけどさ」


〈ちょっと待って、あなたさらっとすごいこといわなかった?〉


「何?」

〈栞ちゃんがどうしたって?〉


「聞きたい?聞きたかったらテレビ電話の前に来てよね」


ライフはそれだけいうと携帯をきった。


「えっライフそれだけでホントにテマソンが画面に現れる?」


碧華はまだ信じられないと言いたげだったがライフには自信があるようだった。その言葉の通りに十分後テマソンが画面に現れた。


「あら?真っ暗じゃない。おかしいわね通じたはずなんだけど」


テマソンは下の社長室のパソコンの前の椅子に座って、画面をのぞき込んでいた。


「ハッピ―バースデイ ツゥーユー」


真っ暗な画面の中から突然歌が聞こえてきたかと思うと、真ん中にろうそくの灯がともった。そして歌が聞こえてきた。


「テマソン、お誕生日おめでとう!」


拍手と共に電気がつけられ拍手と共に画面に桜木家の家族とライフとエンリーが映った。驚いているテマソンにライフがアップで現れた。


「驚いた?叔父さん」

〈ライフ、びっくりするじゃない〉


「テマソン、おはよう。今からパーティ―よ、そこで見ていてね」


「じゃあ、今夜は碧ちゃんの詩集本出版記念のお祝いと、エンリーと栞ちゃんのカップル誕生記念と叔父さんの誕生日を祝ってカンパーイ」


ライフの合言葉と共にパーティーが始まった。みんな食べ始めた様子を一人社長室で眺めているテマソンは一人ワインを飲んでいた。そこの画面にライフが近づいてきた。


「みてよ叔父さん、このピザ、僕が作ったんだよ。すごいでしょ。叔父さんに食べさせてあげられないのが残念だよ」


〈あらライフ、本当にそれあなたが作ったの?全く料理をしたことがないあなたが?〉


「そうだよ、すごいでしょ」

〈本当ね、私もそっちにいけたらいいのに〉


テマソンは楽しそうに食べているみんなの様子を眺めながらつぶやくように言った。すると、今度は碧華が画面に出てきた。


「テマソン、お誕生日プレゼント何も用意してなくてごめんね。来年はちゃんと用意するからね。何が欲しい?」


〈あら碧華、誕生日プレゼントって相手に聞くものじゃないんじゃないの〉


「いいじゃない、いらないものをもらうより欲しいものをもらうほうがいいでしょ」


〈そうねえ、じゃあ・・・私をイメージした詩が欲しいわね〉

「ものじゃないの?」


〈あら、ものは私自分で買えるし、第一私が欲しいものなんてあなたがお小遣いで買える値段のものはないわよ〉


「ごもっともです。でもテマソン、私の詩なら物のプレゼントより高価よ」

〈あら言うじゃない。来年を楽しみにしてるわ〉

「了解!」


碧華はそういうと、画面の隅に移動し、机の上に並べられた食事に手を付け始めた。


〈それより、さっきから気になる言葉を聞くんだけど、栞ちゃん。エンリーくんといつ付き合うことになったの?〉


テマソンは画面の奥の方でエンリーと並んで夕食を食べていた栞に言った。その言葉を聞いたエンリーがむせって咳き込んでしまった。栞は慌ててエンリーの背中をさすりながら、画面の向うのテマソンに向かって言った。


「あっあの、今日からよテマソン先生」


〈え~そうなの。エンリーくん、栞ちゃんを泣かせたら許さないわよ。それでなくても、遠距離恋愛になるんだからね。もう栄治さんと碧華にはきちんとご挨拶したの?こういうのはきちんとしといた方がいいわよ。見届け人になってあげるから、今しなさいよ〉


テマソンはあえて英語でエンリーにいうと、エンリーは急に立ち上がり、栄治と碧華が座っている場所に行き正座をした。すると栞も立ち上がり、エンリーの横に座った。


「お父様、お母様、僕は栞さんを泣かせるようなことは絶対しません。僕はまだ未熟者ですが、いつか僕をこの家族の一員に入れていただけませんか?」


エンリーは突然正座して栄治と碧華の方に向かって真剣な顔で言った。


「エンリーくんなら大歓迎だよな」


栄治はとなりの碧華に向かって言うと、碧華も頷いて言った。


「あなたはとっくに私たちの家族の一員よ。遠距離だけど、栞をよろしくね」

「ありがとうございます」


エンリーと栞は照れくさそうに見つめると元の場所に戻った。それを見ていたテマソンが感激して涙を拭いていた。


〈よかったわね。栞ちゃん、おめでとう。彼なら大丈夫ね〉

「ありがとうございますテマソン先生」


テマソンも何だかうれしそうだった。その時突然ライフが叫んだ。


「僕も仲間入りしたいな。そうだ、優ちゃん、僕と付き合わない」


突然の告白に視線が優に集中した。


「ライフさん、ごめんなさい」

「え~なんで?優ちゃん。僕、君を絶対幸せにするよ」

「ごめんねライフ、私もごめんなさいだわ」


優が返答に困っているとすかさず碧華が言った。


「え~、碧ちゃんまで、僕、地味にショックなんだけど、コイツとどこが違うんだよ。ねえ叔父さんも何とか言ってよ」


〈可哀そうなライフ、でも私も大切な優ちゃんは今のあなたには任せられないわね。ライフあなたにたりないものは誠実さよ。真剣さがたりないのよ〉


画面越しにいうテマソンにライフは少し落ち込んだような態度を見せたがすぐに笑っていった。


「くそ―みてろ。僕はこのままじゃ終わらないからな。優ちゃん、またリベンジするからね。彼氏作らないで待っててよね」


ライフは涙を拭いているような演技をしてみせた。そんなライフに碧華が近づいて頭をなでてからコップにジュースの追加を注ぎ入れて言った。


「ライフ、あなたはやればできる子なんだもの。またのチャレンジを楽しみにしてるわよ。次は真剣にお願いね。あなたも私の大切な家族なんだから」


テマソンは画面の中の桜木ファミリーを見ながら一人呟いた。


「いいわねえ。家族って、私も仲間にはいりたいわ。一人がこんなに寂しいなんて思わなかったわ」


テマソンはそういいながら持ってきたワインを一気に飲み干した。画面の向う側ではめいめいに話ながら盛り上がっていた。その時、テマソンの携帯のメールがなった。


〈テマソン、あなたも桜木ファミリーの一員だからね。これからもよろしくね。遅くなったけど、お誕生日おめでとう。テマソンにとって素敵な一年になりますように。あなたに出会って本当に人生が変わった気がする。毎日が本当に楽しいもの。本当に感謝してます。ありがとうね。 碧華〉


テマソンはそのメールを読みながら一人ほほ笑んだ。

社長室から差し込んでいる光をまぶしそうに眼を細めながら、テレビ画面に向かって言った。


「みんな、今日は私も仲間に入れてくれてありがとうございました。おやすみなさい」


テマソンの言葉にみんな一斉に画面に向かって手を振った。



翌日は、ライフは宣言通り、お留守番をすることは譲らず、一人居残り組になり、碧華はエンリーと栞をのせ、途中栞を学校でおろし、エンリーと二人で実家に向かった。

実家につくと弟家族たちや兄夫婦もエンリーの姿に驚いていたが、エンリーも最初は緊張していたが、碧華同様話しやすい碧華の親戚たちとすぐに打ち解けて、お餅をこねる作業を楽しんでいたようだ。そして生まれて初めて食べたお餅に感激していたのは言うまでもなかった。



エンリーとライフはこうして日本滞在のギリギリまで普通の日本の家庭生活を堪能して過ごし、アトラスに帰って行った。


アトラスに戻ったライフを待ち構えていたリリーから、質問攻めにあったライフだったが、ライフは「楽しかったよ」としか言わなかった。そしてもう一人、ライフを待ち構えていた人物によってライフはさらに拘束され、質問攻めにあうのだった。

それは碧華が渡したプレゼントを早速使っているボデイーバッグの存在を知ったテマソンだった。

テマソンは縫製などはまだ未熟ながらも、ライフの心をわしづかみにした碧華のデザインセンスに嫉妬するほどだった。




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