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冬休暇⑦

二人は遅い昼食を食べた後、いろんなお店をまわり二人の時間を楽しんだ。そして二人はイルミネーションされた駅方面にある広場に向かった。

少し肌寒かったが、外に置かれたベンチには人がまばらでゆっくり話すにはもってこいの場所だった。

「寒くない?」


エンリーは栞に聞いたが


「大丈夫。暖かいココアあるし、エンリーくんは?」

「僕もミルクティーあるから大丈夫だよ」


そう言ってしばらくたわいもない話をしていて、エンリーが突然、ポケットから小さな箱を取り出し栞の方を向いて言った。


「栞ちゃん、僕の恋人になってくれませんか?」


エンリーはそういうと、栞にポケットから小さな箱を取り出し頭を下げた。

栞は驚いて言葉を失っているようだった。しばらく無言が続いて、エンリーががっかりしたような声で言った。


「やっぱり、僕なんかじゃダメかな?」


エンリーは差し出した小箱をひっこめようとした時、栞は慌てて、エンリーの手を掴んだ。


「ちっ違うの。あっあのわっ私、びっくりして…」


栞は真っ赤になってその手を引っ込めてしまった。


「栞ちゃん、僕はまだ、学生で全然頼りないけど、いつか君を支えられる人間になりたいと思っているんだ。いつも君の側にいられないけど、僕じゃ君の彼氏にはなれないかな」


「エンリーくん、あっあの、冗談じゃないよね。ほっ本当に私なんかでいいの?だって、だって、アトラスにはすっごい美人の人とかたくさんいるでしょ。私、自分でも可愛いとは思えないし・・・あの、その」


栞は何を言ってるのか自分でもわからなくなってしまった。その時エンリーがそっと栞を抱きしめて、もう一度聞いた。


「僕は君がいいんだ、君じゃなきゃ駄目なんだ。YESかNOで答えて。君が嫌なら諦めるから」

「嫌じゃないよ。いっYES。わっ私・・・」


栞は混乱する頭の中でそれだけ言ったのを覚えている。その後は何を言ったのか全く覚えていなかった。気が付くと、エンリーが栞の首にシルバーでできたユリをデザインした栞の誕生石のペリドットが埋め込まれたネックレスをつけていた。


「実は君の誕生日に送ろうかと思ってずっと持っていたんだ」


エンリーは照れながら言った。


「ありがとう。あっあのほっ本当に私でいいの?後でやっぱり冗談とか・・・」


「君は本当に心配症だな。どうしたら信じてもらえるの。僕の心の中をみせられたらいいんだけどな」


エンリーは立ち上がると、栞の前にしゃがみ込むと下から栞を見上げるような視線をむけてじっと見つめた。

どれだけ時間が過ぎただろう。突然、エンリーの携帯が鳴った。

エンリーが頭をかきながら電話に出ると、相手はライフだった。


「なんだよ」

〈ごめんまさか告白の最中だったか?〉

「うるさい。なんだよ。急用じゃないなら切るぞ!」

〈まっ待った待った! 碧ちゃん代わってよ〉


電話の向うに碧華もいるようで何やら話しているようだった。その時になって初めて、辺りが真っ暗になっていることに気が付いた。エンリーが慌てて時計をみるともう7時半を過ぎていた。一時間以上もここにいたことになる。

その時受話器ぐちに碧華がでた。


〈ごめんなさいねエンリー、栞のラインに何度もメッセージをいれてるんだけどまったく既読つかないし、夕飯みんなで食べようかと思って待ってるんだけど、二人で食べてくるなら、先に食べようかなって思ってライフにかけてもらったの。どうする?〉


「あっすみません。こんなに遅くなっていたなんて」


エンリーがそこまでいうと、急にまたライフに変わってライフが言った。


〈あのさ、さっき、叔父さんから電話があって、アトラスで碧ちゃんの詩集の本が出版されることが決まったって連絡がきたんだよ。そのお祝いをしようってことになって、僕も夕食作りを手伝ってお前らを待ってるんだぞ。こないなら先に始めてるぞ〉


「えっ!それ本当なのか?」

「嘘言ってどうするんだよ。それで、お前らどうなんだ?」

〈まだならもう少しぐらいなら待ってやってもいいぜ〉


「すぐ帰るよ。碧華さんが忙しいなら電車で帰ろうかって聞いてくれ」


〈でっどうなんだよ。さっきから碧ちゃんが聞け聞けってうるさいんだよ〉

〈何よライフ、私はそこまで言ってないでしょ〉


受話器の向こうから言い合いをしている二人の声を聞いてエンリーは笑い出した。

そしてそのまま栞に携帯を渡した。栞は真っ赤になりながら小さい声で


「もしもし、ママ?」

〈あっ栞、デート中ごめんね〉

「あのね、エンリーくんと付き合うことになったよ」

〈ほっ本当?〉

「うん」


〈おめでとう!よかったね栞。本当によかったね。今夜はお祝いだね。じゃあ今から迎えに行ってもいいの?〉


「おっお願いします」

〈わかった!すぐ出る〉


碧華たちが受話器の向こうで歓声を上げているのが聞こえてきた。そして電話が切れた。

二人は真っ赤になりながら立ち上がった。エンリーは栞の手をにぎったまま言った。


「なんか、碧華さんの詩集の本が出版されることになったようだよ」

「えっママの本?すごい!」

「夕食はみんなでお祝いする予定なんだって」

「じゃあ、ケーキ買っていかない?お祝いの」


栞が言うとエンリーも頷いた。



エンリーと栞が碧華の車で家に戻ると、リビングのコタツの上にはたくさんの料理が並べられていた。それにプラスして、隣の座卓がもう一つ運び込まれていて、隣のヒロも来ていた。


「お帰り、見ろよ。これ作ったの僕なんだぜ、初めて作ったわりにはすごいおいしそうだろ」


ライフが初めて自分でつくったピザを指さしながら言った。


「本当にお前がつくったのか?」

「本当だって、なあ優ちゃん」


「うん、トマト切ったり、ソーセージ切ったり、ピザ生地伸ばしたり頑張ってくれたんですよ」


ライフは自慢げにどや顔をしていたが、ライフが生まれて初めて作ったピザの味は見た目通りに最高においしい味だった。




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