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冬休暇⑥

ライフはDVDをみだしたので碧華はテマソンとのテレビ電話はあきらめていたのだが、ライフの鑑賞をさえぎった人物がいた。


「あのライフさん、少し時間いいですか?」

「優ちゃん、何?」


「あの、英語の宿題あるんだけど、まったくわからなくて、少しでもいいので、教えてもらえないかなって思って。明日までの宿題なんだけど、空白が多すぎて提出しても答えもらえないかもしれなくて」


「英語なら教えられそうだね。いいよ。コタツでしようか」


ライフはそういうとパソコンルームをあっさりと立ち退いた。


「あっ碧ちゃん、今だったら、叔父さんとテレビ電話使ってもいいよ」


台所で夕食の準備をしていた碧華に向かっていうライフに碧華が言った。


「あなたわざとじゃましてたの?」


「そんなことないよ、あそこ使っていいって言ったの碧ちゃんだよ。なんか碧ちゃんの顔を見ながら直接言いたいことあるみたいでさ、叔父さんかなりイラついてたみたいだったからさ」


「あらご親切にありがとう」


碧華はそういうと、テレビ電話の画面にパソコンを切り替え電源を入れた。テマソンはすぐに出た。


「あら、ライフがテレビ電話を占領してたんじゃなかったの?」


「今、優に英語を教えてくれているのよ、その間使用許可がおりたの。そんなことよりテマソン、また寝ないでずっと仕事してたの?かなり疲れているみたいな顔してるじゃない」


「そんなことないわよ。大丈夫よ、無理してるわけじゃないし、トラブルも抱えてないわ。ただここ数日はやりたいことが多すぎてあまり寝てないだけよ。上よりここの方がはかどるからここでやってるだけだから、限界がきたら寝るわ」


「そう、ならいいけど、会社が休みなら無理して倒れて誰も助けてくれる人いないんだから無理しないようにね」


「わかってるわよ」


テマソンは自分のことよりも真っ先に相手を気遣う碧華のその優しさが好きだった。

なぜだかわからなかったが、さっきライフが言った言葉がしっくりきていた。碧華と話していると素の自分が出せる気がするのだ、まだ出会って何か月も経っていないというのに


「テマソン?本当に大丈夫、しんどいなら寝なさいよ」

「大丈夫よ、実はね、いい知らせなのよ、早くあなたに知らせてあげたくて」

「あら何?」

「実はね、これ見て」


そういって、テマソンはデスクの横に置かれていた一枚の紙を画面に見せた。

そこには英文で何かが書かれているようだったが、何が書いているのか分からなかった。


「何それ?」


「驚いちゃだめよ。実はね、あなたの詩集に私が絵を描いたのあったでしょ。私ね、あれと同じものを英語でタイプして一応私の名前で出版社に送ってみたのよ。そしたら、昨日郵便が届いていてね。ぜひ我が社で出版させてくださいって知らせが届いたのよ」


「・・・」

「碧華大丈夫?」

「つまりどういうこと?」


「つまり、あなたの詩集がアトラスで出版されるってことよ。まだ絵とか追加で描かなきゃいけないんだけど、出版するにあたっていろいろと話したいって通知なのよこれは」


「ええええええええ~!」


碧華の叫び声に驚いた優とライフが碧華に近寄ってきた。


「碧ちゃんどうしたの?」

「テマソンが変なことをいうのよ」

「ちょっと何誤解を招くような発言してるのよ」

「叔父さんどうしたの?」


「ライフ、実はね、碧華の詩集を出版したいっていう出版社がいるって教えてあげただけよ」


「えっ?詩集って何?」


ライフがたずねると、優がすかさず言った。


「ママ、詩も書くんだよ。ママすごい。おめでとう!」


優に言われて碧華がようやく正気に戻ってテマソンに向かって聞き返した。


「ほっ本当に本当なの?」


「そうよ、でね、私は翻訳しただけで、詩の作者は日本人だっていったらあなたと本にするための細かい打ちあわせをしたいっていうんだけど、あなたこっちに来るの無理よね」


「うん無理、第一パスポート持ってないし」

「えっ?パスポートも持っていないの?パスポートぐらいもってなさいよ」

「そんなこと言ったって海外旅行に行く機会なんてまずないもん」


「しかたないわね。じゃあ年が明けたら、私の会社の会議室で国際会議するわよ」

「何それ?」


「あなたのパソコンを会社の会議室のモニターにつないで、出版社の人を呼んで、私と三人で会議するのよ。細かい交渉なんかは私がしてあげるわ」


「なんだかすごすぎてよくわかんないけど、顔をだすのは嫌だな。私がその場に出席しても出版社の人の言ってることわからないし、あなたが交渉してくれたことを私に後で伝えてくれたら書き直す場所とかの追加とかあればやるから、ダメかな?それじゃ」


「あなたの詩じゃないの」

「だって・・・」

 

意外にもテマソンは碧華は多分そういうだろうと予想していたのか、強引に出席しろとは言わなかった。


「じゃあペンネームは何にするの?アトラス式の名前にするの?」

「あっ名前ならAOKA・SKYでお願い」


碧華は横に置いていた紙にペンで書き、それをテマソンに見せた。


「どうして空なの?」


「だって、私の詩だけじゃぜったい出版社の人の目には止まらなかったと思うもの、あなたの素敵な絵があるからこそだと思うのよね。私ねあなたを最初にみた時のイメージが空だったのよ、澄み切った青空の空、そのイメージは今も変わってないから、碧華とテマソン二人の詩集って意味。あっでも変か、絵の作者はあなたの名前入れるものね?」


「SKYねえ…いいじゃない。私はペンネームSKYでいいわよ。詩がAOKAで絵がSKY二人合わせてAoka・SKYでいいんじゃないかしら。じゃあ出版社の人には私の仕事を手伝ってくれている日本人ってだけ伝えとくわ。じゃあ会議の時は顔だしNGということで、声だけ参加してくれる。私が通訳してあげるから。それならいいでしょ」


「うーん、まだ信じられないけど、本当にテマソンがいろいろ手伝ってくれるんだよね?うそじゃないよね?」


「碧華、あなたもっと自分に自信を持ちなさい。あの詩集はあなたの作品で、私が今読み返しても感動する内容よ、私はそのお手伝いをしてるだけよ」


「だって不安なんだもん。お願い!本の印税がはいったら半分ずつでいいから、私、いろいろ決めるの自信ないから見捨てないでよね」


「別にあなたの本の収入を奪おうなんて思っていないわよ。じゃあこの件は私が進めておくわね。あなたを見捨てたりしないから安心しなさい。それと、あなたに配色アレンジしてもらいたいバッグがあるんだけど、年末はだめかしら?」


「うーん、いつまで?」

「できれば2日までにお願いしたいんだけど」

「わかった。やっておくわ、資料を私のパソコンの方へ送っといて」

「オッケー。ライフ、あんまり碧華を困らせちゃだめよ」


テマソンはおそらく聞いてるであろうライフに向かって言った。


「わかってるよ。いい子にしてるよね。碧ちゃん」

「ええ、いい子よ私のじゃまは何にもしてないわ」

「あっなんかひっかかる言い方、僕傷ついたなあ」


「あら可哀そうに、じゃあお詫びに温かい紅茶でも入れてあげるわ。テマソンもきちんと寝なさいよ」


「わかってるわよ。じゃあね」


テマソンはテレビモニターを切って、一人社長室の天井を見上げた。


「あああっ、私も行きたかったわ日本、碧華に教えてあげたら何だか眠くなっちゃったわ。少し寝ようかしら」


テマソンはそういうと大きなあくびをしながら最上階へと上がっていった。



そのころエンリーは心臓が飛び出るのではないかというぐらい心臓がドキドキと鳴り響いていた。なぜなら、ポケットにはアトラスから持ってきたあるものが入っているからだ。


「ねえ、これおいしいね」


栞は大好きなたこ焼きとラーメンの両方を食べながら満足げに話していた。今日は年末ということもあり、多くの人々がかなり多く行き来していた。


栞も知り合いに何度かすれ違っていた。エンリーは大きな眼鏡をして目深に帽子をかぶっていたせいもあって、栞の学校の同級生にもあったが、彼が留学していたエンリーだとは誰も気付いていないようだった。


「栞ちゃんは食べてる時、本当に幸せそうに食べるね」

「そう?だって、普段おいしい物食べてないもん」

「それ、碧華さんの料理がおいしくないって聞こえるよ」


「あっ、そんなこと言ってないよ。ただ、ママの料理はワンパターンだから。もうエンリー、ママには内緒だよ。ママすぐすねちゃうから」


「わかった」


エンリーは相手の事を思い遣り、自分の言動を気にする性格の栞も好きだった。エンリーの知る限り、彼に近づいてくる女性は相手がどう思うかなど気にする人間はほとんどいなかった。だから栞のその優しさがかえって自分の心をとらえるのかもしれないと思うエンリーだった。





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