冬休暇⑤
家に到着すると、ライフは早速快適なテレビライフの為にテレビ電話専用のパソコンの横の引き出しの上にお盆をのせ、コーラと買ったお菓子袋をたくさんのせ、寒さ予防の為に電気毛布をマッサージチェアーに敷くと、毛布を膝にのせた。
「これでバッチリだよ!」
ライフは碧華に向かってご機嫌でいうと、障子を閉じた。
碧華はお昼の段取りを済ませると、掃除を始めた。
エンリーは碧華が言わなくても進んで掃除の手伝いをかってでてくれた。そのおかげで、一階の窓ふきもすぐ済み、家の周りの片づけもお昼までには終わってしまった。
「エンリーが手伝ってくれたおかげで今年は早く終わったわ」
「お世話になっているんだからこれぐらい当たり前ですよ」
「あら、あなたもあそこの坊やみたいに図々しくてもいいのに、私は助かるけど」
「あいつはいつもそうなんだ。だけど、学校でも寮でも人気があるんだ」
「きっとそうでしょうね。でも私はあなたみたいな子の方が好きだわよ。まっライフは憎めないのは確かだけどね。でもあんなに真剣にテレビに夢中になって笑っているのを見るとちょっとムカついてくるわね」
「同感です」
「じゃあ、二人でおやつにしましょうか。お昼は栞とラオンで食べるんでしょ」
碧華はそういうと、流しで手を洗うと、とっておきのお菓子を取り出し、紅茶を入れて台所でエンリーと二人で休憩をした。一息ついた所で碧華に、エンリーがたずねた。
「あの、仕事はしなくてもいいのですか?」
「テマソンに頼まれた仕事ってこと?今テマソンの会社も休みみたいだから急ぎの仕事はないのよ。でも、テマソンは仕事が溜まってるみたいで一人会社で仕事するってこの間テレビ電話で話してたけど」
「あの、いつか聞こうと思っていたんですけど、テマソンさんを紹介して本当によかったのでしょうか?」
「あらそんなこと気にしていたの?」
「はい、外国の知らない人間がたずねてくるというのはいい気がしないのではないかと思うので」
「じゃあ正直に答えるわね。すごくドキドキしたわよ。でもその後はすごくワクワクしたの、今まで、何か素敵なことが起きないかずっと思っていて、それが実現した瞬間って感じ、あなたのおかげで私の世界が百八十度変わることができたのよ。すごくいい意味でね。だからものすごく感謝してるのよ。ありがとうエンリー」
碧華の言葉を聞いたエンリーは安堵のため息をついた。もしかしたら迷惑だったんじゃないかとずっと気になっていたのだ。
碧華は手を伸ばしてそんなエンリーの頭をそっとなでた。
「ふふっ、息子がいたらこんな感じなのかしらね。あら大変、もうすぐ十二時半だ。私、栞を迎えに行ってくるわ。エンリーはテレビでもみてくつろいでいてね。コタツもつけてね。寒いから」
碧華は慌てて車をだす用意をして栞を迎えに行った。
碧華が学校の駐車場で栞を待っていると、携帯が鳴った。
「はい!」
碧華はてっきり優からだと思って誰からだという表示を見ずに出ると、そこから聞こえてきたのは意外な人物からだった。
〈ちょっと碧華、あなたどうしてテレビ電話もメールも返事くれないのよ。昨日からずっと連絡しているのに、つながらないじゃない。忙しくても返事ぐらいくれてもいいんじゃないの?〉
「あらテマソンじゃない。なんだか久しぶりのような気がするね。三日ぶりじゃない。あれ?でも三日しかたっていないのに、久しぶりって思うなんて不思議ね」
〈何よ、のんきな声だしちゃって、私これでも怒ってるのよ。何も返信ないと心配するでしょ。今何してるの?なんだか騒がしいわね〉
「今栞を学校まで迎えにきてて、駐車場で栞待ちしてるのよ、学生が団体で歩いてるからその声よ」
〈そう、今電話してもよかったの?とにかくみんな元気なのね〉
「大丈夫、みんな元気よ」
〈じゃあよかったわ。でも年末ってそんなに忙しいの?〉
「ごめんなさい。そういうわけじゃないけど」
〈まあいいわ。でも本当に心配したのよ。あなたに顔をみて直接話したいことができたからテレビ電話したいと思って連絡しても全然通じないし、メールを送っても返信くれないし、病気にでもなってるのかしらって心配しちゃったのよ〉
「メール?そういえばスマホ全然チェックしてなかったわ。あっすごい来てるごめんなさい。昨日からライフたちがきてるからバタバタしててチェックできてなかったのよ。本当にごめんない」
〈ちょっと誰よライフって〉
テマソンは少しムッとした声で聞いてきた。
「誰って、あなたの可愛い甥のライフ・レヴァントに決まってるでしょ」
〈はあ?、あなたこそ何言ってるのよ。ライフは今クリスマス休暇でグラニエ城に行ってるはずよ。そんなウソをいっても冗談にもならないわよ〉
「冗談って、私はさっきから本当のことしか言ってないわよ。昨日からエンリーと二人で家に泊まってるのよ。今、ライフは日本のアニメにはまってて今もうちのテレビ電話用のパソコンルームでずっとアニメの録画を一話から観てるわよ」
〈…本当にホントなの?〉
「ええ、本当よ、彼に電話してもヘッドフォンしてみてるから、電話の音に気付かないかもしれないけど」
〈またかけるわ〉
「ちょっとテマソン?切れちゃった。一体なんの用件だったんだろう」
碧華が携帯を見つめながらブツブツ言っていると、栞が車に歩いてくるのが見えてきた。碧華はひとまず携帯をカバンに詰め込んで、車を走らせた。
家につくなり栞は私服に着替えると、碧華は栞とエンリーを乗せて、ショッピングモールに向かった。
「栞、帰りたくなったらまたラインしなさいよ。あっ今充電なかったんだ。もしママから反応なかったらエンリー、私のガラケーの携帯にかけて、迎えにはきてあげるから」
「わかりました」
「じゃあデート楽しんで、あまり遅くならないようにね。ライフのおもりはまかせて」
碧華はそういって笑顔で手をふると車を走らせた。碧華の車をみながらエンリーは栞に言った。
「君は幸せだね。あんな素敵なママがいて」
「そうかな、でもママ文句ばっかりいうのよ」
「それは君を愛してくれているからだよ。何も言われないことほど寂しいものはないよ」
「そうかな・・・じゃあエンリーもママの子供になれば。ママ昨日言ってたよ。エンリーみたいな子どもいたらいいなあって。もう一人頑張ればよかったかなって」
「そうなれたら幸せだろうな」
二人はそんな会話をしながら、昼食を食べるために、食堂街へとむかった。
二人がデートを楽しんでいる頃。家に戻った碧華は、優と相変わらずずっとDVDを見続けているライフの三人で遅い昼食を一緒に食べた。スマホを充電しながら、テマソンからのメールをチェックしていた。
驚いたことに、早朝に入ってから一時間おきにテレビ電話で話したいことがあるというメールが入っていた。
『テマソンったらどんな急用があったのかしら?あれからぷっつりとかかってこないし』
碧華がそう思っていると、ようやくテマソンから再び電話がなった。
〈ごめんなさいね。りりーったらなかなか電話にでなくて、ようやくつながったのよ。今確認したらうちの甥っ子がやっぱりそっちにおじゃましてるみたいね、かわってくれるかしら?あの子リリーからの電話もでないらしいのよ。今もかけたんだけど出ないから〉
碧華はテマソンからの電話をライフに渡すと、ライフはヤバという顔をして両手をクロスして首を横にふって拒否した。
「なんか嫌だって言ってるわよ」
〈じゃあリリーに許可もらってるから、カード使えなくするって言ってくれる?〉
碧華がそのままいうと、別にいいよという返答が帰ってきた。碧華は仕方なく、ライフに強行手段にDVD禁止するか、電話に出るかの二択を迫った。さすがのライフもあきらめて電話にでることにした。
「叔父さん久ぶりだね。元気?」
〈リリーが白状したわよ。あなた、碧華に迷惑かけてないでしょうね〉
「大丈夫だよ。大人しくしてるよ。あっちょっと待って、碧ちゃんの携帯充電がきれそうだから僕の携帯から後でかけ直すよ。今近くにないから、大丈夫だよちゃんと五分後かけなおすから、切るよ」
ライフが携帯を切って碧華に渡した。そして隣でかけてくると言って隣にいそいそと携帯をとりに行ってしまった。ほんとに携帯を手元に置いていなかったようだ。
ライフは隣の部屋から電話をテマソンにかけ直した。隣のヒロは出かけていないようだ。
「叔父さん、寝てないの?なんか機嫌悪いみたいだけど」
〈当たり前でしょ。私は碧華に急用があってずっとテレビ電話に連絡してたのよ〉
「ああ、朝からずっとパソコンの画面にメッセージとかいってうっとうしいのがでてたの叔父さんからだったのか?」
〈あんたわかっていたんなら、碧華に取りつぎなさいよ〉
「だって碧ちゃん、朝から栞ちゃんの学校に送って行ったり、買い出し言って帰ったと思ったら掃除
始めちゃうし、忙しそうだったから、邪魔しちゃいけないなと思ってさ」
〈だったら、碧華ん家にいないでさっさとどこか別の場所に観光にいけばいいでしょ。あんた達がいることで碧華の仕事が増えてるんじゃないの?要件はすんだんでしょ〉
「それがさあ、エンリーの奴がどうやら栞ちゃんに告白するつもりらしいんだよな。でもさっ、さすがに碧ちゃんたちがいる所でできないじゃん。まだ彼女学校あるみたいだしさ。だから僕が碧ちゃんがぎりぎりまで泊めてくれるならここにいてもいいよっていったんだよ」
〈へえ~あんたがねえ、エンリーくんの為にねえ。本当はどういう魂胆があるの、白状しなさい!〉
「もう、叔父さん疑り深いな、何もないよ。ママから聞いたんでしょ。偵察にきて、僕もノックアウトだよ。桜木家のみんなすごくいい人達でさ、こんな狭い家なんかで一日も過ごせないなあって思っていたんだけど、まあ、日本のアニメが面白くてさ最高なんだよ。日本のお菓子がこれまた安くてすごいおいしいし、あのパソコンルームの狭い空間がまた最高でさ。病みつきになりそうだよ。というわけでさっ、あいつの恋の行方はまだわからないけど、うまくいったら、ぎりぎりまでこっちにいるつもりだから、ママに言っといてよ。碧ちゃん最高だって、叔父さん、あんまりしつこいと碧ちゃんに嫌われちゃうよ。とにかく家のリリーママと違って日本の主婦って忙しそうだからさ。じゃあね」
ライフは自分の言いたいことだけいうと、さっさと切ってしまった。ライフはテマソンがイライラしている時はこっちの言い分をさっさといって切り上げるのに限るということを知っていたのだ。
その後携帯の履歴をみると、リリーからもかなりの量のメッセージが入っていた。それを確認しながらライフは心の中で思っていた。
『まったくママも暇なんだから、僕は忙しいんだよね。
今日あいつが栞ちゃんにふられたら明日にでもこの家出なきゃいけなくなるし、DVDたくさん見とかなきゃならないんだからね。
栞ちゃんに紹介してもらった他のDVDも気になるしな。
エンリーの奴見る目あるよな。確かにいい子だよな。
この桜木家のみんな、一緒にいても気を使わなくていいし、楽なんだよね。
こんなに気楽にいられる時間なんて久しぶりだよな。
さて、あいつが帰ってくるまで、またDVDみて楽しむかな。
あっ優ちゃんと話すっていうのもいいな。
僕はどっちかっていうと優ちゃんみたいな小さい丸顔の子がタイプなんだよな。美人すぎると飽きちゃうもんな。
いつもニコニコしてるし、たまに怒って脹れてる姿も可愛いし』
ライフはそんな事を思いながら、またいそいそとパソコンルームの前に座りDVDの続きを見始めた。