仕事は忘れた頃にやってくる④
時は12月27日の早朝だ。なぜか私は大阪市内のホテルに25日の夜から缶詰状態だ。
「はあ…25日からきちんと寝てない気がする…もう限界よお~。目がチカチカしてきたあ~詐欺だああ~私はケーキバイキングを食べに来ただけなのにいいいいい」
とてもお高そうなホテルの最上階にあるスイートルームやその下の階フロアを全室貸しきるなんていったいいくらするんじゃいって聞くのも怖いから聞かないけど、この下の階のフロアの部屋は急きょ2日まで借りているらしい。ということは私は今年中には自分の家に戻れないってことなのか? まあ着替えとか服は新しいのをカリーナが用意してくれているから不便は何もないけども…いったいいくら払ったら年末の年始の繁忙期にここかしきれるのやら、聞かないけど。
だけど、本当なら今頃はコタツでゴロゴロしてる予定だったのに、年末年始はエンリーが食事を担当してくれるって言っていたから楽しみにしてたのに…ホテルのバイキング確かにおいしいけども…私は家族団らんをしたかったのに、くそ~テマソンめえ~私を家から拉致るために100万もの迷惑料を栄治さんの個人通帳に払い込むなんて、あんな大金入ったら遊びに行くに決まってるじゃないか、くそ~案の定会社が休みになる明日からさっそくアトラスに行くなんて連絡入ってたしさ。羨ましすぎる。
「あっ碧華さん、空いてる僕のキャリーケースどこだっけ? 年末は仕事で大変だろうから、僕は邪魔にならないように一人でアトラスに28日の朝の便で行ってくるよ。栞も優も年末年始はずっとそっちのホテルに滞在するみたいだし、ひまだからさ、ビルさんとジャンニさんに連絡したら、29日~31日は空いているらしいから、2日には帰ってくるよ、あっ母さんは28日からは純おばさん家で過ごすってさ。戸締りはきちんとしていくから心配無用だよ」
なんてうれしそうにいっちゃってさ、私はもう睡眠不足で肌もボロボロなのに,そもそも私が仕事してるのにどうして私にお金が入らないで栄治さんにはいるのよ.栄治さんのお給料私が管理させてもらってるけども、そもそも私,栄治さんからのお給料から小遣いもらったことないしぃー、なんか、釈然としないプンプン
まったく栄治め、私を悪魔に引き渡しやがって! 珍しく優と二人でケーキバイキング行ってきたらってお金までだしてくれたと思ったらケーキどころか、何も食べずにこの部屋に拉致られたってのよ。優も共謀者だったとは、まったく、なんかあれから時々姿が見えなくなるけどどこにいったのかしら? とっくに大学は休みにはいっているはずなんだけどな。年末は予定ないって言ってたのに、そういえばシャリーの姿もみないのよね
「はあ…どうしてこんなことに…栞、あんたこんなことしてる場合じゃないでしょ。卒論はどうしたの?ところで優は?」
この状況に追い込んだ元凶の一人を睨みつけながら碧華が栞に言った。
栞は碧華が睨んでいてもどこ吹く影で碧華の小説をプリントアウトした紙から自分が登場していた場面での自分のセリフの修正を修正ペンで修正したり、新たに付け加えた方がいいなどの提案などを何度か行っていた。
「心配ご無用よママ、優はシャリーおば様と一緒よ。卒論はきちんと提出のめどは付けてきたわよ。あと一息で完成、提出期限まで余裕よ、本当に追い込み大変だったのよ徹夜続きでさっ、まっちょっと息抜きにきたのよね。確認作業も頼まれたしね」
「寝てないなら無理してこなくてもよかったんじゃない」
「何いってるのママ、こんな高級ホテルのスイートルームに入れる機会なんてめったにないじゃん、それに部屋も用意してくれてるんだよ。食事もここのホテルの高級なバイキング料理を利用してもいいっていうしさ、こないなんて選択肢ないでしょ。エンリーがついてるから大丈夫だよ、エンリーも一月の中頃まで大学には行かないって言っていたし、私達の事は心配しないで、ママは自分の仕事に集中していいよ、なんかすごい量の書き直しあるみたいじゃん」
ご機嫌で、ホテルの売店に売っていた高級なお菓子やケーキなんかをエンリーに買ってもらってそれをつまみながら赤ペンで修正していく栞に碧華はため息で返事した。
「はあっ、まああなたの大学のことは心配してないけど、ほどほどになさいね。環境でいえば家より快適だし、高級料理食べ放題の上にうちと違って暖房完備だしね。どうせ必要なものは全部もってきてるんでしょ。そのでっかいキャリーケースの中に、まさか、この状況を見込んで私のことテマソンに売ったんじゃないでしょうね」
疑いの視線を送る碧華に栞はそっと視線をそらした。
「売ったって人聞きの悪い、それをいうならパパでしょ。私、小説の修正手伝いしても前もって何ももらってないよ」
そう言った栞に対して、碧華がじと~とした目で栞をみながらぼそりと言った。
「私知ってるのよ、24日の日の帰り際ぶっとい封筒もらっていたでしょ」
「あっあれはお年玉だよ。少し早いけどって、優もエンリーももらってたよ。まだ大学生だからって、テマソン先生、日本のお年玉の習慣っていいわねって、だから、今回のことは関係ないよ」
栞が焦った様子で返答した。きっと大金をもらってるんだろう。確かカリーナやシャリーからももらっていたのをみたわよとはあえて言わなかった。
私も欲しい…
「あぁああ~もうう~‼ あんたがチクったおかげで、騙されてここに拉致られた後、小一時間正座させられて説教されたのよ」
「それはママが勝手にネットに投稿なんかするからでしょ」
「だって、私文才ないからさ、セリフばっかりの小説なんかほとんど読む人いないだろうけど、日記感覚で旅行日記みたいな小説投稿してたらなんだかおもしろくなってきちゃったんだもん」
「完全に自業自得じゃん、でもそのおかげで東京で知らない人と仕事しなくて済んだんでしょ」
「そうだけど…久しぶりのぐーたら生活が…」
「ママそれが本音でしょ。エンリーが食事担当するからって、年末の大掃除もしないでテレビ三昧生活をするつもりだったんでしょ」
「あら、あなたに差し入れとかきちんとしてたでしょ」
碧華は不満たらたらのグチをまじえて栞相手にブツブツ文句をいいつつ、目の前のパソコンに指摘された新たな文章を参考にパソコンに言葉をどんどん打ち込んでいる碧華のパソコンの横に温かい紅茶が置かれた。
「あら、エンリーありがとうね」
「いえ、それが終われば碧華ママの作業はひと段落するみたいですよ」
「えっ本当?仮眠できるわね」
「はい、栞ちゃんのそれでとりあえす休憩できそうですよ」
隣の部屋ではアトラスからディオレス・ルイの編集部員が急遽来日して一日、スイートルームの部屋三部屋ある一室では編集作業が急ピッチで進められて、碧華がいる部屋のソファ以外はベッドなどは撤収されて、代わりにデスクが数台置かれていた。挿絵の作業や表紙のデザインなど、ものすごい速さで進んでいた。碧華の修正された日本語の文も、ものすごい速さで、英語に訳されていっていた。
それもこれも、いつものように一から詩を創作するのではなくある程度完成されている小説の編集作業や修正作業だけというのもあって、ボンズ編集長も日本に向かう飛行機の中で既に全部読み込んでいたので、ある程度スムーズに作業ははかどっていた。一月に急きょ発売予定なのは全六巻のうちに一巻だけで、今、急ピッチでテマソンが挿絵を描きまくっているようだ。それと同時進行で小説の各所の文章表現やセリフの駄目だしも編集長と協議して修正や書き直しが次から次へと碧華の元に送り込まれていて、そのつど、碧華は自分のパソコンでセリフなど打ち直したり考えなおしたりを繰り返していた。テマソンの絵を描くペースも、すごい速さで描かれているようだ。たいしたものだ。あれは人間じゃないかもしれない。ちらっと挿絵をみたが見事なイラストだ。なんなら漫画を読みたいぐらいだ。
そもそも、どうしてこんな状況になったのかというと、
25日の昼過ぎ、優の誘導の元、このホテルの一階にあるケーキバイキングに入ろうとしたその瞬間、目の前に24日の夜に別れたはずのテマソンとライフ、それに、カリーナやシャリーの四人が立っていたのだ。その瞬間、カリーナとシャリーに両腕をがっちり確保されたと思ったら、ケーキバイキングに入ることも許されず、ホテルのエレベーターに押し込められ、最上階のスイートルームへ直行させられたのだ。
この部屋に私を引き入れて直ぐに、なぜか私がいつも小説のデータが入ったUSBを常に持ち歩いているのを知っていた様子でそのデータを渡せと怖い顔で言ってきた。小さく舌打ちする私にあいかわらず整った綺麗な笑顔で微笑まれたのはちょっとビビった。目が笑っていなかった。
暇つぶしでネットへ投稿した小説で、絶対バレるとは思っていなくて油断していたら、投稿していた小説が、どこからばれたのかテマソンの知るとことになってしまったのだ。しかもヤバイことに、テマソンのアレルギーやらを色々ばらしてしまっている。まあ小説の登場人物の名前や地名は変えてはいても知っている人間が読めば一目瞭然なのだ。
正座させられてお小言を聞きながらチラチラとテマソンをのぞき見していると、テマソンが簡単に状況を説明してくれた。まあ要は、新しいコラボ提案は改めて断りを入れたようだ。まあいろいろ大変な状況になるみたいだけど、なんだかよくわからないけれど、年明け早々私の小説を出版することでなんとかなるようだ。なんかカリーナやシャリーもいろいろ手伝ってくれたようだ。
でもよくわからないがカリーナからは目を潤ませながらお礼を何度も言われたがどうしてだろうか? なんか小説を読んで感動したって言っていたけれど、泣く場面なんかあったか? まあ、あの小説は私目線でしか書いてなかったから、ここに缶詰めになっている間にいろんな登場人物目殿で修正をさせられて大変だった。まだ一巻が終わったところだから、先は長そうだ。どこまで修正するのか先が不安になる。
しかし、売れなかったらどうするつもりなのだろうか?
私に責任とれなんて言われてもどうにもできないしな…なんてことをぼーっと考えていたら、データを渡して二時間後、紙にプリントしたかと思うと真っ赤っかの駄目だしをだされてはやり直しをさせられて、今にいたるのだ。ほぼ日記もどきなので関係者はその小説の事件を知っているだけに、私がしらない裏情報も盛り込んで文章力の無い私の小説がかなりいい感じの小説に仕上がりつつあった。
そんなわけで今日はすでに27日の朝7時を過ぎている。本当なら栄治さんを今年最後の仕事に送り出して朝食を食べようとしている頃だ。なのに、昨日から仮眠を1時間ぐらいとっただけで、延々と作業をしているのだ。
「でもこれ、わざわざ日本でやる意味があるのかしら? スタッフを日本に呼んだり、ここ借りたりってすごいお金かかっているだろうし、元とれるのかな?」
バタバタする周りのスタッフなどを見渡しながら碧華がつぶやくと、今まで隣の部屋でテマソンの挿絵の手伝いをしていたカリーナが碧華の隣に腰かけて出された紅茶を一口飲んでから話し出した。
「あら碧ちゃん、スタッフの皆様は元々アトラスから私の荷物を運んでくる予定だったわたくしのプライベートジェットできましたから、費用はわたくしもちですわ。このホテルのスイートルームもわたくしが宿泊予定で予約していたものですのよ、まあ皆様の休む部屋は改めて予約いたしましたけれど、空きあってよかったですわ。わたくしも別室を改めて予約しなおしましたの。空いていてよかったですわ」
「ええ~カリーナがだしてくれていたの? どうして、カリーナは関係ないでしょ」
「あら、そんなことはありませんわよ。わたくしもこの小説はぜひ書籍化して欲しいですもの。AOKA・SKY先生誕生の物語ですのよ、ファンクラブの会長としてはお手伝いできることがあるのでしたらこのぐらいなんでもありませんわ。それに、碧ちゃんがネットに投稿していたのは碧ちゃん視点で描かれた小説ですでしょ、それもすてきでしたけれど、それだけではなくて裏話とか、いろんな登場人物視点での話や思いも追加されているって面白いですし、少しお手伝いさせていただきましたけれど挿絵もあると本当にすてきですわ。もう発売日が楽しみでしかたありませんわ。それに、世界中がAOKA・SKY誕生物語に注目ですのよ。碧ちゃんが投稿していた小説はテマソンさんとボンズさんの意見で昨日削除してしましたけど、最終的に一日ですごく多くのかたが閲覧してましたわよ。コメントも世界中から書かれていましたし」
「あれね、なんか消しちゃったみたいね、もう好きにしてって感じよ」
碧華は目の前に積みあがっているA4のコピー用紙の束を見てため息を吐き出した。その一枚一枚には赤ペンでびっちり修正が施されていた。
周りには何故か急きょディオレス・ルイ社の編集部のスタッフも休暇返上でパスポートを持っているスタッフたちが来日し、あれよあれよという間に新年早々の新作発表会に間に合うように私が趣味で書いていた小説の本が出版されることになったようだ。
年末休暇返上で日本に駆り出されたスタッフのみんなにあやまったらみんなから逆にお礼を言われた。
「碧華先生、こっちこそありがとうございます。日本には来てみたかったんです。帰りにたくさんお土産を買うのが楽しみなんです。日本食も楽しみです」
と25日の夜アトラスから到着してから、まったく疲れを見せない様子で、答えてくれた。それから寝ずに編集作業やなんかわかんないけどテマソンとボンズ編集長の指示でいろいろしている。私は言われたことをしているだけだからよくわかっていない。
でも、たった数日で、あんな下手くそな文章が、それなりに面白い内容に変わってて、びっくりだ。
この超豪華なスイートルーム編集室で仕事をしているほとんどの人間は楽しく仕事をしている様子だが若干一名は私と同じくブツブツと不満を駄々洩れに垂れ流しながら作業している人物が一人いた。
碧華が座るソファの右横のソファに座っているライフがノートパソコンで文章を打ち込んでいた。
「まったく、いい迷惑だよ、今頃東京で優ちゃんとデートしてかもしれないのになあ」
「はあ? 私がもし東京に行かされることにでもなっていたら、年明け早々いろいろお出かけの予定がある優に同行の許可なんか出すわけないでしょ。年明け早々に大学の課題の締切りもあるっていっていてたし、東京とかインフルエンザとかもすごい流行しているみたいじゃない。それにいい迷惑なのはこっちのセリフよ。まあ明日は餅つきなのよ、なんとしても今日中に仕上げるんだから」
「無理だよ~もう餅つきなんてどうでもいいじゃないか」
ライフは頭をかきながら叫んだ。
「ライフさん、あなたの担当箇所、まだ修正が終わっておりませんわよ。あなたの高校時代のご友人に、事実確認のご連絡をお願いいたしますわ」
そう言ったのはカリーナだった。カリーナは紙にページ数が書かれた数枚の紙をライフに渡しながら言った。
「はああああ、全く誰だよこんな本ほしいなんて言ったのは」
「うるさいわよライフ、愚痴はいいから作業してよね。でないと優が戻ってきても、初詣一緒に連れて行ってあげないわよ」
「なんのことだよ。碧ちゃんも仕事だし、栄治おじさんもアトラスだろ、家族で初詣は中止になっただろ。金魚の糞じゃあるまし、どうしてエンリーと栞ちゃん達と一緒に行かなきゃいけないんだよ。僕は別に優ちゃんと一緒にいくから」
「あら~、本当にいいのね、じゃあ三人で行くとするわ。今年はあなたよりも私と一緒がいいみたいよ優はそれにね毎年優は初詣に行っておみくじをするのを楽しみにしているのよね。エンリーがここまで車できているから、もし、ママの編集作業が31日までかかったとしても、車で初詣できるから年越しそばを食べてから、夜の間に三社詣りした後は初日の出をみるのに少し遠出ドライブしてからラオンモールや他のところとか何カ所かの福袋ゲットしに行く予定だから、31日の夜から家に戻ってくるのは1日の昼過ぎになると思うけど、あなたはホテルで一人で過ごすのね。優にそう伝えておくわ」
ふふんと言った顔でいう栞に初めて聞いたという顔でライフのお顔に動揺が走っていた。
「ちょっと、夜中の初詣の話は聞いてないよ。大丈夫なのか? エンリーがいると言っても夜中に若い女の子が外にでて」
「アトラスと一緒にしないで、ここは日本よ、それにエンリーの車で神社の近くまで行くしね、終電気にしなくていいし、行くのは家の近くの神社とか毎年行っている神社ばかりだから大丈夫よ。それに年が変わってすぐに初詣する人けっこういるのよ、すごく混雑すると思うけど、それもまた風物詩だしね」
「よく考えたら、夜中の神社かあ、異国の神様のところに行くのは少し抵抗あるけど、夜中に手をつないで初詣も悪くないかもね。初日の出もいいかも、エンリーと栞ちゃん二人も運転手がいるなら僕は移動中は寝ても大丈夫だしな。なんだ、いいかもしれないな」
「おいライフ、それの作業を30日までに終わらないとお前の同行は許可できないぞ」
横からエンリーの容赦ない言葉が割り込んできた。
「そうよ~、31日はライフは私とここでインスタントの年越しそばすすろうよ。なんだかんだでテマソン、2日まで、帰国延期したみたいだから絶対年内まで終わりそうにないし、あなたたちだけ楽しそうな初詣や初日の出ドライブなんて羨ましすぎるもの」
話を聞いていた碧華がエンリーが入れた紅茶と横に置いていた栞が買ってきたお菓子をつまみながら答えた。
「え~それは絶対やだよ」
ライフが碧華の言葉で真剣に渡された指示書に目を通し始めた。
「ねえエンリーくん、あなたは抵抗ないのかしら?」
隣で話を聞いていたカリーナが栞の隣に腰を降ろしたエンリーに話かけた。
「何がでしょうか?」
「あなたたちが話していた、初詣というものですわよ。確か日本の神社という日本の神様のいる場所ですわよね。日本の神様のところに新年早々にご挨拶に行くなんて、マテイリア様を裏切ることになりませんこと?」
「そうですね。僕は日本で生活して四年、少し考えが変わってきたんですよ。マティリア様を信仰していないわけではないのですが、なんていうんでしょうか? 神社でいうところの日本の神道は日本古来の宗教で。自然や祖先、山や野、土地などあらゆる存在を神として崇拝する「八百万の神」という概念が好きになってきたんですよ。マテいリア教も神様、でも他にも神様も存在していていいんじゃないかと思うようになったんです。僕は三月までしか日本にいませんが、大学の四年間に日本でお世話になりましたから、最後に日本の神様にお礼のご挨拶にいきたいと思っているんですよ」
「あらゆる存在を神と考える宗教? すごいのね、あっだから、碧ちゃんもアトラスで抵抗なくマティリア様を受け入れられましたのね。素敵ですわね。わたくしも行ってみたいですわ。初詣、それにおみくじって聞いたことがありますわ。吉凶を占うくじのことですわよね。一度やってみたいと思っていたのですのよ」
「そうよ、カリーナ私達も紅白歌合戦みてからこの近くのホテルの近くの神社に行こうよ。歩いていけそうな所に確かかなり大きい有名な神社があったはずだからすごい人ごみだと思うけど、それはそれでた楽しいわよ。寒いな中、神様に新しい一年の事をお願いして、帰りに屋台がでていたら何か暖かいもの食べるのもいいし、きっといい経験になるわよ。日本の神様はくるもの拒まずよきっと、異教徒でも広い心で出迎えてくださるわ。おみくじで一年の運を占うの楽しいわよ」
「あら、いいですわよね。アトラスでも比較的治安はいいですから夜に少しぐらいでしたら歩けますけれど、そんな年が明けて直ぐに多くの人たちが参拝に行かれますの?」
「そうね、アトラスのように毎週マテリア様に会いに会いに行ったりみたいに神社には頻繁にはいかないけど、一年に一回は行こうかなって思う日本人は多いんじゃないかな。わかんないけど。少なくとも私は一年に一回は行きたいかな」
「そうですね、僕も日本に来て、お正月は行きたくなりましたね。行けない時は日本に戻ってきてから桜木家の近くの氏神様にはお参りしてましたし」
「そうね、私も特に新年はやっぱり初詣に神社に行って神様に一年の無事をお祈りしたくなるのよね、普段まったくいかないのに、日本の神様は寛大だなって思うよ」
栞が頷くと碧華も頷いて付け足した。
「そうよね、日本の神様たちは一年に一回しかいかなくても、罰当たりめがあ~なんて怒ったりしないものね、いつでもどこにいても私達を見守ってくださっている神様たちがたくさんこの日本にはいるものね。まあ、ここ日本で新作を作っているのも何かのお導きかも知れないわね」
碧華がそういうと、不思議そうな顔をするアトラスのスタッフたちだがなぜか、栞やエンリー以外にもいつの間にか隣の部屋からでてきたテマソンが碧華の後ろに立って同意したように頷くのだった。
周りで作業していたアトラス人である編集部のスタッフたちも全員聞き耳をたてていたようで、口々にぼそぼそとおみくじ? 八百万の神? と所どころ興味をひく言葉があったようだ。
「あれ? どうしたのテマソン? 何か用事?」
「表紙が完成したのよ、それに神様がどうのって話声が聞こえてきたから、気になってきたのよ。二日の帰国までここで追い込みをかけて頑張ろうかと思っていたけれど、みんなも休暇返上で日本に来てくれたし、一日はこの小説の日本でのヒット祈願も兼ねてみんなで日本の神様に初詣と、ショッピングに行きましょうか? あちこちでみんなもどうせなら、いろんなお得なものが入っているっている福袋とか買いたいでしょ。気になる場所とかあったら調べておきなさい。早朝の初詣以外は自由行動にしてあげるから」
「え? この小説日本で発売するの?」
テマソンから完成したばかりの表紙のイラスト画を手にしながら、碧華が驚いた顔で後ろに立ったテマソンを見上げた。
「ええ、今回からは日本でも販売するわよ。この小説を通してアトラス国を日本の方たちにも知って訪れてもらいたいしね。まああのアクセス数じゃあ日本で売れるかどうかは微妙だけどね。最終日のアクセスはほとんどアトラスでAOKA・SKYファンクラブの人たちからのアクセス数だったでしょうしね」
「テマソン、日本で本が売れなくても私のせいにしないでよね」
「しないわよ、日本で売れるなんて最初から思っていないわ。でもあなたっていうおばさんが日本の片隅にいたんだって知ってもらいたいじゃない」
「テマソン…ありがとう」
碧華は小さな声で言った。テマソンは何もいわず碧華の方に自分の手をそっとのせただけで、また、挿絵を描きに別室へと戻って行った。
さて、皆様ならもうお判りでしょうか? 時間は24日に遡ります。
実は24日の日、碧華と二人っきりになっていた間、碧華が書いた小説の事をテマソンのスマホに情報を流したのは栞なのでした。
それを読んだテマソンが決断をくだしたのだ。
「ライフ、決めたわよ、とりあえず、書道家とのコラボは断ったわ」
その言葉を聞いたのは24日のホテルに着いてからだった。桜木家からタクシーでホテルに向かう時、三台のタクシーを呼んでいたが、一台目には行きと違ってテマソンが一人で乗りこみ、二台目にはライフとシャリーとカリーナが乗り込み、三台目には大きなキャリーケース四人分が積み込まれてカリーナが予約していた大阪市内のホテルに向かったのだ。
どうやらそのタクシーの中でテマソンは電話で改めて交渉の断りの連絡を入れたようだった。
「叔父さん、でもいいんですか? 仕事に影響がかなりでるんじゃないんですか?」
テマソンは途中で大量に買い込んだ機材や紙類などカリーナが予約していたホテルのスイートルームに運び込んでいた。もちろん、カリーナは喜んで自分が予約したホテルのスイートルームを提供すると了承済みだった。
「それで、その荷物は?」
「はあ、碧華のへたくそな小説を修正し直して1月そうそうに出版するためのものよ」
「え? そんな急がなくてもいいんじゃ、契約が無しになったのなら、ディオレス・ルイ社の新しい仕入先を探した方がいいんじゃないんですか?」
「それは1月にはいったら始めるわよ。今の年末はどことも休暇が始まっているから無駄よ、それより今は碧華の小説の出版の準備をするのが最優先事項よ。今のこのタイミングを逃しちゃそれこそ損害よ」
「印刷会社の方にはわたくしの方から手配しておきましたわ。もちろんわたくしもお手伝いいたしますわ。後飛行機にも搭乗者の追加の手配も終わりましたわ。ちょうどいいタイミングでアトラスからわたくしの荷物の追加の飛行機をチャーターしていてよかったですわ」
「何から何までありがとう仕事が早くて助かるわカリーナ、細かい編集や修正の指揮はビンズ編集長にお願いすることは既に連絡済みよ、休暇返上で日本に来てくれることになったわ、あなたからボンズ編集長に連絡してくださるかしら」
「よろしくてよ、作業に必要なものでしたら、わたくしの荷物にはまだ余裕がありますから、多少大きな荷物でもよろしくてよ。帰りももちろんわたくしのチャーター機をだしますから、わたくしも一度アトラスに戻り予定を変更してきませんといけませんから」
「さすがカリーナおば様だね。やることがスケール大きいや、チャーター機を簡単に貸してくれるなんてでもなにより叔父さん、変わり過ぎだよ。仕方ないから僕にできることは協力するよ」
目の前にドンドン運び込まれてくるデスクや買いたい去れていくベッドなんかを眺めながらそういったライフにテマソンはすかさずライフに言い放った。
「よく言ったわ。それじゃとりあえず、今すぐ桜木家に戻って、栞ちゃんが起きているみたいだから小説のデータのありかと碧華のノートパソコンを貰ってきてちょうだい」
「はあ? そんな無茶な、明日の朝でいいじゃないか、今から戻っても碧ちゃん開けてくれるわけないよ。なんだかんだいって碧ちゃん寝るの早いし」
「ふふっ、もう寝てるなら問題ないわね。さっき栄治さんに連絡して許可はもらってあるわ」
「えっ? 許可だしたのおじさん?」
「ええ、奥さんを借りるんですもの、それ相応の金額を前もって支給させてもらうことを提示したら喜んでくれたわよ」
「なんだ、栄治おじさんらしいね。碧ちゃんは売られたんだね」
「餅つきに行きたいと言っていたから目標は28日の朝までだよね、とりあえず一巻仕上げなきゃだね」
「そうね、頑張りましょう」
「ふふふっ久しぶりですわね。いいですわよ。わたくしのできることはさせていただきますわ。ではとりあえず、読ませて頂いてもよろしいでしょうか?」
「そうしてちょうだい。明日碧華からデータを借りて紙に文章を印刷してから訂正を入れて行きましょう」
そうして碧華の退屈しのぎで投稿していた小説の書籍化が決まった瞬間だった。
この日の日付が変わる瞬間、再び桜木家に舞い戻ったライフが碧華のパソコンを密かに運びだしホテルまでとんぼ返りしたことを碧華が知るのは翌日になってからだった。
今年最初の投稿となります。
今年も一年よろしくお願いいたします。




