仕事は忘れた頃にやってくる➁
「はあ~」碧華は大きなため息をはきながら、三人を渋々我が家に招き入れた。
招待もしていないのに強引に我が家に突撃訪問してきた三人は大きなキャリーケースを玄関に放置して
勝手知ったるなんとやらってな感じでテマソンなんか
「狭くてほこりっぽいけどあがんなさいな、あっこの家は靴を脱ぐのよカリーナ」なんていいながらズカズカと我が家に上がり込んで一応遠慮しているカリーナとシャリーを手招きしている。
その上、ちゃっかり栄治さんには愛想を振りまきながら高そうなお土産を「隣のお母さんさんの分と栄治さんにです~」なんていいながら賄賂をさっそく渡してるし、今日はクリスマスイブでせっかく有給をとった栄治さんも朝から家にいるから夜はどこかに外食でもするかって話していた所だったのにこれじゃあ、中止ね。あ~カリーナやシャリーも渡してるじゃん、あれ絶対めちゃくちゃ高いやつじゃん
アトラス産のチョコレート菓子めちゃくちゃおいしいの知ってるもんだから栄治さんもニコニコで受け取って「ごゆっくり~」なんていいながら隣の家に逃げて行っちゃうし。
くそ~くそ~エンリーの卒論も終わったみたいだし、あとは栞の卒論が終わるめどがついたら年末は家族でのんびりしながらまったり過ごすつもりだったのに、あの荷物の量ってぜったり仕事がらみじゃん。仕事は四月までしないって言っておいたのにー
碧華はブツブツそんなことをつぶやきながら台所に行き緑茶と茶菓子を用意しだした。
用意した緑茶と茶菓子をコタツのテーブルの上に荒々しく置く碧華にカリーナが申し訳なさそうに話しかけてきた。
「碧ちゃんごめんなさいね。休暇中なのに」
「あら、カリーナは巻き込まれた口でしょ。どうせ言い出しっぺはテマソンでしょ」
キッとテマソンを睨みつけながらカリーナには笑顔を見せていう碧華に、平然とした顔をしながら出された緑茶の入ったコップを自分から一つとり早速すすりながらテマソンが答えた。
「だって仕方ないでしょ。あなた今年の年末はアトラスには来られないっていうし、緊急事態だったのよ。私だって年末の休暇返上できてるのよ」
「何よ、緊急事態ってそんなのあなたの才覚でなんとかすればいいでしょ。栞が日本を離れるまでに家族でのんびりできるのはこの年末年始の休暇しかないのよ。仕事なら四月からいくらでもするって言ってあったでしょ」
そういう碧華に対して軽くため息をはきながら脱いだコートの中に入れていたスマホを取り出すとスマホの画面を操作しだした。そんなやりとりを見ていた優がシャリーとカリーナにコタツに置きっぱなしのコップと茶菓子を二人に進めた。
「シャリーおば様、カリーナおば様もご無沙汰しております。安物のお茶と和菓子ですけどどうぞ」
「あら、お気遣いありがとう。私日本のお茶大好きなのよ。優ちゃんもお邪魔ししてごめんなさいね。でも、ふふふっ私碧ちゃんの家初めてよ、小さくてかわいいお家なのね」
カリーナは部屋をキョロキョロ視線を移動させながら言った。
「すみません、こんなボロ家にわざわざ来ていただいて、我が家にはリビングにはソファーもないから床の上の座布団に座るなんて抵抗あるでしょうけれど、楽なように足を崩してくださいね。もしどうしても抵抗あるようでしたら、台所のあの椅子持ってきますから」
「あら、大丈夫よ、私、コタツって大好きだから、正座も練習してるのよ」
そういいながらコタツに上品に正座しながら座っているカリーナの横で、シャリーも慣れた様子で正座をしながらコタツに座ってカリーナ同様リビングの様子を珍しそうに眺めていた。
優はそれだけいうと自分はコタツには入らずペコリと頭をさげて、そそくさと自分の部屋に避難しようとする優の腕を碧華がっつり掴んだ。
碧華は逃がさないわよ。と目で訴える。
ママ、私は関係ないでしょと目で反論する優
しばらく沈黙が続く、その沈黙を破ったのが玄関から再び鳴った玄関の来訪を告げるチャイムの音だった。
「あれ、また来客だ。ママ腕離して」
「まったくどうして今日なのよ、今日はクリスマスイブだからケーキやチキン買いに行ってテレビの録画をのんびりみるつもりだったのに、そっか、昼から買い物と言わず今から行けばいいのか、隙を見て逃げるか…」
そうブツブツいいながら碧華は重い腰を上げて、台所の隅に置いたあった段ボールの箱の中からミカンをも数個だしてお盆にもりコタツの上に乗せると、玄関に置きっぱなしになっている三人が持ち込んだキャリーケースを和室に移動させるべく玄関に向かった。その間にテマソンは二階にのぼって行ったようだ。
その時、優が玄関を開けたようで、聞き覚えのある声が再び聞こえてきた。
「もうライフさん、昨日は何も言っていなかったじゃない、ビックリしちゃった」
「ごめんごめん、優ちゃんのびっくりするその可愛い顔がみたかったから内緒にしていたんだ。まあ、来ることは急に決まったんだけどね。だけどひどいめにあったよ。僕の乗ったタクシーがさ、カーナビが壊れたっていいだしてさ、ここに来るの僕がスマホをみながら指示する羽目になったんだよ。なのに料金は迷って遠回りした分も請求されるしさ、まっ料金は叔父さんに請求するけどさ」
どうやらライフも来たようだ。まったく仕事しないって宣言して日本でのんびり年末年始を過ごす予定にしていたのに台無だわ。なんの用できたのかしらないけど、とっとと追い出すに限るわね二人の様子をリビングからみていた碧華が独り言をつぶやいていると
ブツブツ文句をいうライフに笑顔をむけつつ優は玄関に置かれている大きなキャリーケースを避けながらライフと共に仲良くリビングに入ってきた。
「おば様たちひどいじゃないですか、僕だけ空港に置き去りにして先にさっさと行っちゃうなんて、僕の乗ったタクシーなんか道に迷っちゃうし散々だったんですよ」
リビングに入ってからも愚痴り始めるライフに対してシャリーはのんきな様子で笑顔でさっそく出されたミカンをむきながら言った。
「あら災難だったわねライフくん、でもほらテマソンっていいだしたら人の話聞かないんだもの、無事ついてよかったわね。ねえカリーナ」
「ライフくん、本当にごめんなさいね。急に日本行きが決まったものだからいろいろ事前に手配できなくて、荷物が多くなってしまって、あなただけ三台目のタクシーで来る羽目になったのよね。そうだわ日本にいる間は一緒に外食する時はわたくしがおごらせていただくわよ」
カリーナもミカンに手を伸ばしつつライフに笑顔を向ける。
「本当? ラッキー、叔父さんケチだからさ、お給料あんまりくれないし、母さんなんか仕事始めたのなら小遣いはいらないだろうってなんの援助もしてくれないからあんまり贅沢できないなあって思ってたんだ。そうだ優ちゃん、僕ねお休み1月4日まであるんだ、帰るのは四日の夜の便だから、今回の仕事が終わったらどこか遊びに行こうよ。日本では年が明けたらお正月って言うんでしょ。レンタカー借りてさドライブがてらどこかへ行こうよ」
一緒にリビングに入ってきて横に立っている優に向かってライフがそう言っていると、再び追加で玄関に置かれた大きなキャリーケースを順番に和室に移動させつつ碧華がわざと二人の間にわりいって再び玄関に向かった。
「はいはい邪魔よ、ライフあなたどうせ移動がめんどくさいとかでホテル予約せずに、エンリーの部屋に居候するつもりなんでしょ、それだったら何か手伝いなさいよね」
「ええ~碧ちゃんのお世話になるわけじゃないから関係なくない? 広さんにはお土産も買ってきてるから問題ないよ」
「まあ生意気ね、でも、な~んだ4日までしかいないんだあ、ふぅ~ん残念ねぇー仕事年内に終わるかしら~」
ニヤニヤしながら勝ち誇ったような顔で碧華はライフの顔を見ながら二人の横をすり抜けた。
「何? どういう意味? 優ちゃん大学冬休暇中だから時間あるよね」
ライフが優の顔を見ると優は苦笑いを浮かべながら横の壁にかかってあったカレンダーに視線を向けて言いにくそうにしている。
ライフはすぐにカレンダーを一枚めくり1月の家族の
予定が書かれてある優のところの予定に視線を移して固まってしまった。
そこには、一日から四日まで予定が書きこまれていた。
「ごめんなさい、4日なら空いてたんだけど、昨日急に連絡きて小学校時代の同窓会に参加するって連絡いれちゃったの」
「昨日かぁー、あれちょっと待ってこの着付けってなに? 11日のとこ? 何かあるの?」
「着付け? あぁ…二十歳の集いがあるから振り袖着るんだよ、久しぶりに中・高校時代の同級生達とかとも会う約束してるんだ。みんなで振袖姿の写真撮り合うんだよ。あっ4日は小学校時代のクラスメイトと小学校の卒業式に学校に預けていたタイムカプセルを開けるんだよ。なんかその日しかみんなの予定が空いてなかったみたいでね。その日に急に決まったみたいなの」
「えー! 優ちゃん、どうして言ってくれなかったの?」
「え? 同窓会のこと?」
「違うよ、振り袖を着ることだよ、振り袖って着物のことだよね。二十歳の集いってよくわかんないけど、休みとってまた日本に戻ってくるよ。うんそうするよ、振袖って確か二年前に栞ちゃんも着た奴でしょ。優ちゃんの着物姿みたい、うん絶対、日本にくるよ、金曜日に午後から休みをとって飛行機に乗れば間に合うよね」
「あら、それは無理なんじゃないライフ」
ライフは碧華の言葉にムッとした顔ですぐに反論した。
「どうして? 休暇申請まだ残っているはずだから半日ぐらい休めるよ、駄目でも仕事が終わって最終便に乗れば間に合うよ、ここに昼頃までにつけばみれるでしょ。アトラスには日曜日の飛行機の便に乗れば月曜日の仕事に間に合うしね」
「お金持ちのあなたらしい発想ね。だけど忘れたの? その日は確かリリーお姉様に予定をお空けておくように言われてるんじゃないの? 城のお祭りじゃなかったの? 確か今年から、毎年一月の第二の週末にグラニエ城祭がささやかだけど開催されるんでしょ。城の教会が開放されたりして、確か、あなたも開催の挨拶しなきゃいけないんじゃなかったかしら? エンリーも栞も最初は参加要請されてたみたいだけど、栞の卒論完成がかなり前からやばいって言っていたから事前に断ってたし、私や優も誘われたけど優の二十歳の記念式典に参加するのに昼振袖の準備とか美容院の送迎とかバタバタするだろうから断ったのよね」
碧華の言葉にライフが頭をかきながら床にしゃがみこんだ。
「ああ~そうだったくそー!」
頭をかきながら悔しがるライフをよそに、シャリーとカリーナはどうやら優の振り袖姿をみる気満々のようで、二人で早速予定の変更をしているようだ。
頭をかいて発狂していたライフだったが諦めたのか1日と2日を指差して優に話しかけた。
「じゃあ、この2日間はなんとかなるんじゃない? 初詣とか買い物って書いてるけど、友達とでかけるんじゃないから僕と二人で行こうよ」
「う~ん、ごめんなさい」
「えっ駄目なの?」
「まだ、詳しい予定立てていないけど、一日も二日も友達とじゃなくママやお姉ちゃんたちとおでかけの予定なんだ。三日はママの親戚の家に行く予定だし、あっでもね、どっちもライフさんも一緒でも全然いいと思うよ。二人だけでは一緒にお出かけはできないと思うけど」
「初詣や福袋ってなんのことだかよくわからないけど、どうせ碧ちゃんの命令でしょ。碧ちゃんとの予定ならキャンセルしていいんじゃない、僕と二人でデートしようよ」
「私もライフさんとデートはしたいけど、でも初詣や福袋の買い物とかも今回は私、家族みんなと行きたいんだよね。お姉ちゃんとワイワイいいながら行くのも最後だろうし、お正月までの間で時間あったらどこか行こうよ」
優は申し訳なさそうにしながらもライフからの誘いをきっぱり断った。そんな優と明らかにがっかりしているライフを交互に眺めながら碧華がぼそりと呟いた。
「なんの仕事かしらないけど終わるかなあ」
碧華の言葉にライフが碧華を睨み付けた。
「碧ちゃん、子どものデートの妨害するのってどうかと思うよ。僕達遠距離恋愛してるんだから、邪魔しないでほしいんだけど」
「あらぁ~、私そんなつもりこれっぽっちもないわよ。そもそも、仕事なんか持ってこなければ、年末優とデート三昧できたんじゃないの? 年末は優何も予定ないんだから、優は今日から大学は古休みで家にいるし~」
「僕は巻き込まれただけだよ。碧ちゃんこそ、さっさと仕事終わらせてよね」
二人がにらみ合いしだしたので優が碧華とライフを交互にみながら二人をなだめている。
「もう二人とも喧嘩しないで、ママもお仕事なら仕方ないでしょ、頑張ってよ。ライフさんも一日の日に福袋買いにお姉ちゃんとショッピングモールとかドラッグストアなんかも手分けしてあちこち買い物に行く予定だからそこに付き合ってほしいな。ライフさんもアニメのフィギアとか小物類とかいろいろアニメグッズがつまっている福袋なんか買うのもいいんじゃないかな。何が入っているのか開ける瞬間がドキドキしてすっごく楽しいんだから。アトラスには多分売ってないでしょ、福袋とかって、年明け最初の運試しだよ。ハズレも多いけど、すごくお得な当たりとかもあっておもしろいんだよ。私は服とアクセサリーや化粧品の福袋かうんだけどね。お菓子の福袋なんかもお得なんだよ」
「へえ~、なんだか楽しそうだね。まあ、いいかお邪魔虫たちの存在は無視すればいいか」
「誰がお邪魔虫よ、まったく、だいたい仕事は内容によるからいつ終るかわかんないわよ。まあ、今のところやる気ないけど」
「もう、お願いだからわがまま言わないで頑張ってよ、なんか断ったらやばそうだからさ」
優の誘いにようやく機嫌がなおりつつあったライフにまだ碧華はご機嫌斜めだった。一体どんな仕事を持ってきたのやら、イライラが増すばかりの碧華だった。そんな碧華に珍しくライフが仕事をしろと言ってくる。まったく何があるっていうのよ。
軽くため息交じりに言うライフに座っているシャリーやカリーナも頷いている。
三人の様子で今回の強行来日の主犯はあいつだなと二階に視線を向けながら碧華が二階をにらんだ。
「ねえ、私と同盟をくまない」
ライフは大きなため息をはきながら首を横に振った。
「だめだよ碧ちゃん、諦めてとっとと仕事終わらせてよね。日本にいられる時間は限られているんだからね。優ちゃんとのデート時間がとれるかは碧ちゃん次第なんだからね」
「はああっ! まったく役立たずなんだから、優こんなの外にほおり出しちゃいなさいよ」
「ちょっと、こんなのとはひどいよ碧ちゃん、将来の義理の息子に対して冷たくない?」
「そう? 私の平安を乱すものはたとえ息子であっても敵よ。私の娘がほしいなら、アトラスの空港であの鬼の日本行きを阻止すべきだったわね。まったく、私があれだけ4月まで仕事はしないって言ってあったのに」
「僕も頑張ったんだよ。だけど緊急事態がおきちゃったんだから仕方ないじゃないか。だいたい新作を引き延ばしてた碧ちゃんも悪いんだよ」
「何よライフ、結局は私のせいっていいたいわけ?」
ブツブツといいながら、リビングにいる招かざる侵入者達をもう一度恨めしそうに睨みつけてやった。
私の睨みなんてまったく気にしてないけどね。
早々に帰ってもらわないと、私は三月の末まで断固として仕事は拒否するんだから。
こぶしに力を籠める私をよそに。テマソンが二階から降りてきた。
まったく誰が勝手に二階に上がっていいっていったのよ。
「栞ちゃんも数日には卒業論文完成しそうらしいわね。まあエンリーがサポートに入っているならあなたは用なしよね」
「何が言いたいわけ、私はこの家の主婦なの、食事や洗濯なんかあるし、忙しいのよ」
「ママ、仕事ならまた明日から出前でもいいよ。なんなら私が代わりにしようか」
「あらあ~それもいいわね。あっでもなあ、仕事はしたくないのよね」
「ママ諦めたら」
「優は私の味方じゃないの?」
ぎろりと睨んだ私に首を横に振って苦笑いを浮かべる。
はあ、諦めるしかないのか…一瞬頭をよぎるがブンブン頭を振った。
「言っとくけど今は何も湧いてこないわよ」
碧華はそう言い放つと、ひとまず部屋を暖めるために普段あまり付けないエアコンの暖房にスイッチを入れた。
テマソンがいつの間にか碧華が運び入れたキャリーケースを開いてファイルを取り出して碧華に見せた。
「この記事を読んでみなさいよ」
そう言って見せたのは、何かの記事のコピーのようだった。
そこには英語で書かれた雑誌の記事のようだった。
「わざわざ私を馬鹿にしにきたの?」
「あっ間違えたわ、こっちよ、それはね、あなたに仕事依頼を間接的に言ってきている記事よ、あなたがどうしてもするっていわないもんだから、強行手段にでてきたのよ」
そういって別のもう一枚の紙を取り出して碧華に見せた。碧華はその日本語に訳された記事を読みながらプルプル手を振るわせている。
「嫌だっていったじゃないの。どうしてこんなにけなされなきゃいけないの」
「仕方ないでしょ。世界でも有名な日本の画家兼書道家があなたとのコラボ作品を書きたいって言ってきてきてるのに、あなたがことわるからでしょ」
「だって、嫌なものは嫌なんだもの。どうして何が書いているのか読めない聞いたこともない書道家の作品からイメージして詩を書かなきゃいけないの。普通逆じゃないの? 詩を先に書いて、その詩を毛筆で変わった字体で書くもんじゃないの? まったくアトラスの雑誌を買収してまでこんな記事を書く必要ある? 有名な詩人なんて世界中にたくさんいるじゃない」
「う~んそうだけど、アトラスじゃあ、詩人と言えばAOKA SKYなんだよね。碧ちゃんはアトラスに住んでるって思ってるんじゃないかな。でも一応依頼者碧ちゃんの大ファンらしいよ。なんとしてでもコラボしたいらしいんだ」
ちゃっかり後から優が入れた緑茶を一口口に含みながらコタツに座ってライフが言った。
「なにそれ、ファンならこんな批判めいた記事で私をけしかけなくてもいいんじゃないの? こんなことを書かれて私がやる気になるって思っているのかしら? まったく」
手に持っていた紙をテーブルの上に放り投げて私は大きいビーズいりのクッションに体を埋めた。
「批判というより、挑戦状ってところだよね、自分のこの字体と絵だけでもすごい人々から賞賛されているけどアトラスで今一番有名な詩人である言葉の魔術師って定評のある碧ちゃんは果たして自分の得意とする書道アート作品にどんな言葉をいれられるのかってお得意の詩を入れて読者を感激させてみてほしいってね。まあ、その雑誌を読んだ多くの読者からも見て見たいって要望が殺到しているだよね。それもこれも、しばらくの間、碧ちゃんが新作を発表していないからだよ。まあ去年から今年にかけてあのウイルスのせいでいろんなところでかなりダメージを受けたのも影響しているみたいだけどね。みんな碧ちゃんの言葉の癒しが欲しいんだよ」
「ライフのいう通りね、碧華のファンはなんでもいいから碧華の作品を待っているのよ。もうあのウイルスの猛威もかなり急激に弱くなってきているし、人々の行動制限も以前のように戻ってきているし、年明けに新作を発表するのは急務なのよ」
テマソンはそういいながら、その記事に書かれていた記事と一緒に載ってある絵の他に別の本も碧華にさしだした。
「これが彼が出版している絵と書道のコラボによるアート作品の本よ」
そこに描かれていた作品は確かにすごく圧倒されるほどの作品の数々だった。
「ふ~ん、すごいわね。でもこんなすごい人がどうしてちっぽけな詩人にこんな挑戦状をたたきつけてくるのよ。こんなにすごい作品を書ける人なら、わざわざ他人の詩とコラボしなくてもいいじゃないの? 日本にだってすごい有名な詩人もたくさんいるでしょ、何も日本から遠いアトラスの島国でしか販売していない詩人を相手にしなくてもいいと思うんだけどな」
シャリーが碧華がみ終えた本を手に取るとパラパラとめくりながら答えると、カリーナが続けて答えた。
「あら碧ちゃん、碧ちゃんの作品は今は世界中にファンがいるわよ。そうですわね、これはわたくしの予想ですけれど、今回は彼の個人的な嫉妬ですわね」
「嫉妬?」
「ええ、この記事を書いたの私の知り合いなんですけれど、彼曰く、どうやら、彼のお孫さんがあなたの本の大ファンらしいわよ」
「孫?」
「そうよ、お孫さんが碧ちゃんの本をとにかく肌身離さず見続けるもんだから、自分の作品に碧ちゃんの作品とコラボしてお孫さんに関心を持ってもらいたいらしいのよね。なのに何度依頼してもあなたからの返事はノーでしょ。ですから雑誌を通して依頼してきたようですわ。雑誌に載せれば、読者からの声は無視できなくなりますでしょ」
「そんなの知らないわよ」
「碧華、それがそうもいかなくなってきたのよ、12月に入って、コラボ作品はいつ出るんだって問い合わせが殺到していて業務に支障をきたしてきたのよ。我が社ではそんな企画はないって何度も言っているのだけど」
「そうなのよ、AOKA SKYファンクラブにも問い合わせが殺到しているんですのよ。彼の作品は世界中でも有名ですごく高額で売られているんですのよ。その彼からのラブコールをどうして受けないんだって、最近では脅迫まがいの問い合わせもでてきて対応に困ってきておりますの。ファンクラブに言ってきてもどうしようもないですのに、きっと、ディオレスルイ社にはもっとひどい苦情の問い合わせがきているのでしょうね」
「そうね、対応する専属を雇った程度には問い合わせが来ていたわね」
テマソンがそういうのならよほどの数の苦情が会社にきていたんだろう。まったく知らなかった。
秋口にはあのやっかいなウイルスにはかかっちゃうし、この年末年始はなぜかインフルエンザも流行してるみたいだし、あんまり遠くへの旅行や移動はしたくないのよね。まあ、初詣や買い物へ行きたいけど…結局、そんなプレッシャーのかかる仕事はしたくないのよね。
「なにそれ、まったく迷惑な話ね、詩なんてかけって言われてかけるもんじゃないし、人の書道作品なんかみただけでポンポンと詩なんて浮かんでこないわよ」
「碧華ならそういうだろうと思って正式に断りを入れていたのだけれど、今度は、ディオレスルイ社と大口の契約している会社から、取引の中止もありうると言ってきたのよ」
「はあ? 脅し?」
「そうね、言い方は悪いけど、でもね、そこに取引を止められると、我が社の販売しているバッグの生地の30%が入ってこなくなるのよ」
「何それ、最低ね」
「私もね、そんな卑怯な所と取引は止めたいんだけど、新しい所が中々見つからなくて」
珍しく弱気のテマソンの言葉に碧華は諦めとも混じったため息を吐き出した。
「やるしかないってこと? でっもしコラボするなら、書道作品はできあがってるの?」
「それがね、詳しいことは来ていただいてから伝えるって言ってきてね。彼忙しいらしくて、年末年始は日本にいるらしくて、26日に東京に来てほしいって伝えてきたのよアトラスからの渡航費用は全額だすって言ってきていたんだけれど、まあ、こっちに寄る予定だったからそれは断ったんだんだけれどね、とりあえず、引き受けるかはわからないけれど、碧華、あなたを連れて向かいますって伝えたのよ」
「はあああっ?! なんかムカつくわねその上からの態度、やっぱり無理いいいいい~」
再び碧華の怒りに満ちた声がリビングに響き渡った。
少し文章の修正をいたしました。




