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ライフの宣言とエンリーの決断③

エンリーは自分の部屋に戻ってからもベッドの上で自分の未来についてため息交じりに考えていた。


『僕がエンリー・レヴァントになるかあ・・・考えてもみなかった』


エンリーは突然のライフの提案に自分でもどう返事をしていいのか迷っていた。リーベンス社を継ぐという重圧に耐えられるのか自分でも自信がもてなかったのだ。考えてもできる自信なんか微塵も沸いてこなかった。その時、電話が鳴った。


「はい、兄さん?珍しいですね、何か急用ですか?」

〈その声じゃあ、かなり動揺して悩んでるってとこだな〉


声の主はフレッドだった。


「ああ…もしかして母さんから聞いたんですか?レヴァント家の事」


〈ああ、それと碧ちゃんからもね。お前の知り合いの中で、お前の気持ちを一番に理解してアドバイスできる人間は僕だけだから、話しを聞いてあげてってね。お前はいい母親を二人も持ってて幸せ者だな〉


「・・・」


〈まあ正直、突然他人の家の会社を継いでくれっていわれても、はいそうですかとはならないよな〉

「僕は…自信がないんです」

〈自信かぁ…それより、養子になるっていうのは抵抗ないのか?〉


「…不思議なんだけど、ここ数年アトラスに戻るたびにレヴァント家の人たちとアトラスで過ごすうちに、なんでだかわからないけど、碧華ママのいうようにファミリーだっていう感覚になっていたんだと思うんだ。だから、抵抗はないんだ。それよりも…僕にリーベンス社なんて大きな重責が背負いきれるのか・・・僕みたいな人間が、はいそうですかと引き受けていいものなのか…」


〈なあエンリー、自信なんてものは夢中でこなしているうちに自然と沸いてくるもんだ。肝心なのはできる才能と根性があるかだ。お前の場合は才能はあるはずだ、俺の弟だからな。こんな事態にならなければいずれ、俺と一緒にレシャント社を背負っていく人間になってもらいたいと思っていたんだが、お前なら、俺と張り合うぐらいの器になれるはずだ。もっと自信をもてよ。お前ならやれるはずだ。お前は一人じゃない。一度本気になってみたらどうだ。もうできない人間のふりをする必要はないんだぜ。お前は俺なんかよりも才能があるんだからな。それにだ、あのライフをうまくコントロールできる人間はお前ぐらいだろ。ライフもまたお前とは別の才能がある人間だ。二人が組めば最強じゃないか。俺は強敵を生む手助けをしてしまったと後悔する日がくるかもしれないな〉


そう言ってフレッドは笑い出した。

「兄さん・・・」


〈エンリー、お前がレヴァント家の人間になっても、お前の兄であることは変わらない。お前の生きたいように生きろ。嫌なら嫌でいいんだぞ、日本でも居場所がなくなったら、俺が面倒をみてやるから安心しろ〉


「ありがとう兄さん、真剣に考えてみるよ」

「ああ」


エンリーは不意に携帯をポケットに突っ込こみ鞄を掴むと、部屋を飛び出し、車に乗って出かけることにした。


エンリーが向かったのはお気に入りの場所だった。

細い海沿いの道を山側に車で走ると、その頂上付近に小さな灯台が見えてくる。

あまり人けは多くない無人の灯台だが、そこから見える海の景色が好きだった。

夜に来たことはなかったが、無料の駐車場があり、そこに留めているだけでもすぐ下の岸壁に打ち寄せる波の音が聞こえて落ち着くのだ。


エンリーは窓を開け、シートを少し倒して目をつむって波の音を聞いていた。

どれだけ時間が過ぎただろうか。

気が付くといつの間にか寝てしまっていたのか、頭が少し重い気がした。

エンリーはぼーっとする頭を起こして、ふと、自分にブランケットがかけられているのに気が付いた。


不思議に思って後ろを見ると、後ろの助手席側の車のドアが開いていた。

驚いてエンリーは飛び起き、鞄を確かめたが何も取られている様子もない、エンリーは車をおり、月明りで比較的明るい周辺を見渡してみた。

すると、目の前にある白い灯台の上の方から女性の鼻歌が聞こえてきた。


どうやら開放されて上にあがれるようだ。

エンリーはそっと外階段をのぼって上まで行くと、そこには碧華が手すりに肘をついて海を眺めて歌っていた。


「碧華ママ!どうしてここにいるんですか?」

「あらエンリー起きたの?どう気分は?」

「大丈夫です、それよりどうしてここにいるんですか?」


「あら、あなたの予備の車のキーを栞から勝手に拝借して、勝手にあなたの車の後部座席で寝てたのよ。そしたら車が動いてここに着いたってわけ。私夜の灯台に来たのは初めてよ。ここにくるのなんて二十年ぶりかしら、全然変わらないわね」


「もしかして僕が車でどこかに行くってわかってて車に先に乗っていたんですか?」

「あら、あなたの車の後ろって気持ちいいのよね。勝手に乗りこんじゃってごめんね」


「碧華ママ…、ママは本当にいいんですか?僕がレヴァント家の養子になっても、栞ちゃんは僕について来てくれると言ってましたけど、栞ちゃんにとったら異国で生活するのは大変なことだと思うし、大切な娘が日本を離れることに対して本当は反対じゃないんですか?」


「あら全く知らない土地に住むって言うわけじゃないじゃない。あなたの生まれた国でしょ。それにたくさんの頼りになるファミリーもいるし」


「ですが…」


「ねえエンリー、あなたの気持ちはわからないではないわよ、もし私にあんなこと言われたらプレッシャーで胸が張り裂けるかもしれないわ。すごく心配性で、自分に自信がなくて、自分のことよりもいつも周りのことを一番に考えちゃう。あなた私と性格が似ているのよね。あなたの方が何百倍も優秀だけどね。あなたはやればできる子なのよ」


「そんなことないです。碧華ママは僕を過剰評価しすぎているんですよ」


「そんなことないわよ。ねえエンリー、挑戦してみてもいいんじゃないかしら、自信がないならアトラスの大学を入り直して経営に必要な勉強をもう一度やり直してもいいじゃない。それからでも返事は遅くないと思うわよ」


「はあ…僕は…怖いんです。僕の決断で多くの人の人生が変わるかもしれないと思うと、栞ちゃんもそうだし、碧華ママや栄治パパさんだってそうですよね。家族がバラバラになってしまうかもしれない」


「確かにそうね。でも子どもはいつか親から巣立つ日がくるものよ。あなたの心はもう決まっているんでしょ。ライフが言い出した瞬間に、あなたの眼が一瞬輝いてたわ。いろんな問題はたくさんあるだろうけど、やりたいかやりたくないかだけ質問されたらどう答えるの?」


「僕は…僕が本当に務まるのかわからないですけど、二択ならやりたい、やってみたい。僕は三男坊なんだから、高望みしちゃいけないんだと思っていたました。だけど…」


「そう、みんな喜ぶわね。よしエンリー乾杯しましょうか、あなたの未来に」


碧華はそういうと背中のリュックから野菜ジュースを取り出して一つをエンリーに渡した。

碧華は缶ジュースを開けるとエンリーの前に突き出した。

エンリーもそれを受け取ると、缶の蓋を開けた。

碧華はエンリーのもつ缶に自分の缶を持っていき言った。


「カンパーイ。大丈夫きっとうまくいくわ。人生はね自信がない時こそ、声に出していうのよ。大丈夫、絶対うまくいくってね、人生には自己暗示も必要なのよ」


そう言って一気にジュースを飲んだ。

エンリーもジュースを口に含んでしばらく暗い海のよせてはかえす波の音を聞いて遠い海の彼方に視線を向けていた。

そして、しばらくして、エンリーは隣に立っている碧華に向き直ってスッキリした表情で言った。


「碧華ママ、僕に出来るかどうかわからないですけど、やってみます。あいつにリーベンス社を一人で任せると、僕の大切なレヴァント家の人たちが不幸になってしまうかもしれないですしね。僕にしかできない事、あいつにしかできないこと、二人合わせれば何でもできる気がしてきました。碧華ママ、初めてあった時のこと覚えていますか?僕は、あの駐車場で握手したあの日、あなたに出会えて本当にラッキーでした。僕の人生が今もそして明日も続いているのはあなたのおかげです。ありがとうございました」

 

エンリーはそう言って頭を下げた。


「あら、それなら私もだわ。あなたに出会わなければ私の人生は、もっとみじめになっていたわよきっと…テマソンやシャリーやリリーお姉様ともであっていなかったかもしないわ。こちらこそありがとう。これからもあなたの母親止めるつもりはないから、迷惑もかけるかもしれないし、ボケちゃうかもしれないけど、よろしくね」


「任せてください。いつか碧華ママをドーンと支えられるような男になってみせますよ」


「その意気よ!さあー家に戻ろうか、きっと栞が玄関で凄い顔して待ってるわよ」


碧華はそう言ってエンリーの腕を掴んで階段へと導いた。

エンリーは飲みかけのジュースを一気に飲み干し、碧華と共に階段を降りて行った。


海の波の音は変わらず優しいリズムを奏でていた。



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