表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
160/171

ライフの宣言とエンリーの決断①

ある日の休日の朝九時、朝食を食べていたレヴァント家の婿ビルと妻のリリーの所に深刻な表情のライフが近づいてきた。


「あらライフじゃない、珍しいわね。休日に朝顔を出すなんて、それともどこかへ行くの?」


昨夜遅くに突然家に帰ってきたライフはグレーの開襟シャツにジーンズという姿で部屋から出てきたのだ。                            


「僕が早起きしたら悪いの? 平日はいつもこの時間なら授業にでてるよ」

「あらそう」


ライフは自分の席に座り、給仕が用意した朝食のトーストをかじりながら言った。


「ねえ父さん、今日少し時間あるかな?」

「なんだ? 会社じゃ話せないことか?」

「そうだね、家の事もそうだけど、仕事の事も関係してるから」


そう言ったライフにビルとリリーは驚いて顔を見合わせた。


「ちょっと、何の話しかしらないけど、家の事ならまず私にじゃないの? レヴァント家の次期当主は私よ」


「ごめんママ、ママにも後で話すけど、まず最初に父さんに話して、意見を聞きたいんだ」

「まあ!ビルに話せて私には話せないっていうの?」


リリーがヒステリックに叫び返した。


「まあまあリリー、母親には話しずらいことかもしれないじゃないか、君がいたらライフが最後まで話せないかもしれないだろう」


「そうだよ、ママの悪い癖だよ、人の話しをいつも最後まで聞かないじゃないか」


「なんですって!いいわよ。男同士仲良く話せばいいでしょ!後から私に頭を下げてきても聞いてあげないから」


リリーはそう言い捨てると、朝食を食べかけたまま立ち上がると、自分の部屋に戻ってしまった。


「やれやれ、あれはかなり怒らせてしまったようだぞ、後でご機嫌取りが大変になりそうだな」

「ごめん父さん」


「いいさっ、まっ先に食べろ」


ビルはそう言って残りの朝食を食べ始めた。その頃、自分の部屋に戻ったリリーは怒りで部屋のあちこちに物を投げつけ、ひとしきり投げ終わってから碧華に電話をかけた。


〈ハロー、リリーお姉様。そっちはまだ朝でしょ?何かあったの?〉


「あら碧ちゃん、何かなかったら妹に電話しちゃいけないの?」


〈そんなことはないけど〉


「碧ちゃんは今何してたの?今日は土曜日でしょ、みんなは?」


〈ああ、栄治さんは仕事よ。娘達は仲良くエンリーの車でドライブに朝から出かけててまだ帰ってきていないわ、私は今テマソンとテレビ電話で仕事の打ち合わせ中よ〉


「何、あのおかまと?そんなテレビ電話切りなさいよ。土曜ぐらい仕事休んでのんびりしなさい。後で私がきつく言っといてあげるわ」


〈あらありがとう。でも仕事は楽しいから、あっ待って〉


そういうとしばらく保留の音楽が流れた。


〈ごめんなさい、リリーお姉様、テレビ電話は切ったわ。でっどうかしたの?私にできることならなんでもするわよ〉


「相変わらず優しいわね。本当になんでもないわ」


そう言ったリリーだったがまた話し始めた。


「実はね、昨夜からライフが家に戻ってきてたみたいでね、起きてくるなり、ビルに話があるって言いだしたのよ。私じゃなくてビルと二人だけで話したいって、どう思う碧ちゃん、大切な話しならまず母親にすべきじゃないの?どうして父親なのよ!」


〈クスクス、なあんだそんなこと〉


「何よ碧ちゃん、そんなことって笑い事じゃないわよ」


〈だって、リリーお姉様、ビルさんに嫉妬してるみたい。私は娘しかいないからわからないけど、男の子ってまず悩みは父親に話すんじゃないかしら、将来の事や仕事のことかならなおさらね〉


「将来のこと?碧ちゃんライフから何か聞いてるの?」


〈いいえ何も、ただそう思ったのよ。だって恋の悩みとかなら親には言わないでしょ〉


「将来って?」


〈例えばよ、ライフずっと悩んでいたみたいじゃない、私には何も言ってこないけど、栞には何となく話してきていたみたいね〉


「優ちゃんじゃなく栞ちゃん?」


〈ああ、もちろん優にも独り言を言ってきていたみたいだけど、ライフにとって栞は気軽に話せる姉みたいな存在なんじゃないかしら、答えを求めるとかじゃないと思うけど、ようやく答えを出したんじゃないかな〉


「答え?」


〈そうよ、将来自分がどうなりたいのか〉


「だったらビルだけじゃなく、私にも話してもいいじゃない?どうして私だけ後なのよ」


〈これはもしかしたらだけど、お姉様に真っ先に話したら反対されるかもしれないからじゃないかしら?〉


「反対って何? ライフたら何を決めたっていうの」


〈知らないわ。本当よ、でもお姉様、まず深呼吸して落ち着いて、今イライラしていたらライフがどう答えても、反対だって言ってしまうかもしれないでしょ。冷静になって〉


「はあ…ありがとう碧ちゃん、私の悪い癖ね。頭に血がのぼると周りが見えなくなっちゃうのよね。ああ~部屋の中ぐちゃぐちゃだわ。また電話するわ。碧ちゃん、いつもありがとう」


〈こちらこそ、お姉様大好きよ〉


「私も、じゃあまたね」


リリーはそう言って電話を切ったが、ふと、いつもの自分に戻っていることに気が付いた。


それからすぐにリリーはテマソンに電話をかけた。




 それから一時間後、ちょうど朝食を食べ終えて、紅茶を飲んでいる所でテマソンが慌てた様子で飛び込んできた。


「あれ叔父さん、どうかしたの?」


「どうかしたのじゃないわよ。さっきリリーから電話がかかってきて、あなたから重大な発表があるから急いできてって言ってるっていうから仕事放り出してきたんじゃないの。リリーはどこ?」


「はあ? 何それ! 叔父さんせっかくきてもらって悪いけどまだ、叔父さんに話す段階じゃないから帰ってよ」


「何よそれ?こっちはどんなことかとわざわざきたのよ」


「ライフ、いいじゃないか、テマソンも忙しいのにわざわざきてくれたんだ。お前の話とやらを聞いてもらってもいいんじゃないか?」


ビルの言葉にしばらく考えていたライフだったがしぶしぶ了承した。

それからすぐに、執事がビル宛にヴィクトリアから電話がかかっていると言ってきた。


「はいママン、おはようございます。何か急用ですか?リリーに代わりましょうか?」


〈あらビルさんおはよう。リリーから電話をもらって今車でそっちに向かってるんだけど、後一時間ぐらいかかりそうなのよね〉


「えっ? リリーがそちらに電話をなさったんですか?」


〈ええ、何でもライフから重大な発表があるんでしょ〉


「すみません、ちょっとお待ちいただけますか」

「どうしたの父さん」


「リリーがママンにまで電話をかけて今こっちに向かってるそうだ」

「くそ~!」


ライフは頭を抱えてテーブルに顔を打ち付けて頭をかきむしりながら叫んだ。


「なあライフ、何を話すつもりかしれないが、こうなったら、覚悟を決めた方がいいんじゃないのか? 優ちゃんのこととか、個人的な悩みの相談なら今すぐにママンに帰ってもらうよういうけど」


「・・・」


しばらく返答に迷っていたライフだったが、覚悟を決めたような顔で一言言った。


「わかったよ、話しは僕の将来についてだよ。もうこうなったら、みんなの前で宣言するよ。桜木家も関わってくることだから、テレビ電話を繋いで桜木家のみんなにも聞いてもらうよ」


そういうと、ライフは碧華に電話をかけた。


「碧ちゃん、重大な話しがあるから、桜木家のみんなが揃うのいつ頃になりそう?」


〈あらライフおはよう。そうね・・・栄治さんもならあと二時間後ぐらいには帰ってきていると思うわ。子どもたちはそろそろ帰ってくると思うし。エンリーもいた方がいいのかしら〉


「うんそうだね。わかった、じゃあ二時間後テレビ電話の前にみんな集めといてよ」


〈了解〉


碧華はライフに詳しく聞き返すこともせず了承して電話を切った。


「ママ、そこにいるんだろ、僕も覚悟を決めたよ、みんなの前で話すから」

「あっあら、そう、私は別に後でもいいのよ」

「じゃあ二時間後ね。ここのテレビモニターにテレビ電話回線繋いでおいてよね」


扉の向こうに立って様子をうかがっていたリリーが驚いてしどろもどろの返答をしているのを見ようともしないで、ライフは一気に紅茶を飲み干して立ち上がると、自分の部屋に戻って行ってしまった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ