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冬休暇③

家に着いた碧華は二人をリビングに通し、優の昼食の用意をしながら聞いた。


「お二人はお昼はもう食べたの?」


台所から顔を出して聞いた碧華に、ライフは日本の狭い家を興味深げにキョロキョロ見渡しながら答えた。


「まだなんです。空港には早くに着いたんですけど、荷物がトラブってしまって時間がかかってしまったんです」


「そう、じゃあチャーハンでも食べる?お店の味には程遠いけど」

「いただきます。ところで、この机はどうして布をかぶせているのですか?」


ライフにとって、日本の家は初めてみるものが多かった。玄関で靴を脱ぐのも初めての経験だった。

ライフとエンリーは椅子のない部屋にどうすればいいのかずっと立ったまま小さなリビングを眺めていた。


「ああ、それはコタツっていうのよ。家は節約のために暖房はつけないの。こうやって座って足を入れるのよ。あなた方は足が長いから中でぶつからないようにね。あっコートはそこにかけておいてね」


碧華はコタツの電源を入れて手本に先にコタツに座ってみせた。エンリーとライフも碧華の様子をみてコタツに座り足を入れてみた。


「ワオ!温かい、なんだこれ、気持ちいいい~。日本はこんな気持ちいいものがあるんだ。わあ~床に直に腰をおろすなんてしないから不思議な感覚だけど、こんなに気持ちいいならここに入って寝たら気持ちいいだろうな」


「一人でお昼寝をする時は気持ちいいわよ。そうだ料理ができるまで何かテレビ見てる?あなたたちはアニメとか見ないの?」


「あまり見ないですね。でも僕は日本の漫画は好きですよ」


ライフはコタツが気に入った様子で答えた。


「あら我が家もみんな大好きなのよ。そうだ。この間出たばっかりの映画、レンタルしたのあるから観る?」


「ワオー!僕アニメの映画版は視たことがないんですよ。見たいです。すごい感激だー 」


ライフはかなり興奮しているようだった。碧華は早速DVDをセットしてあげた。すると、目を輝かせてテレビ画面にくぎずけになっていた。

碧華はそれを微笑みながら立ち上がると、昼食の準備にとりかかった。チャーハンを手早く作り終えた頃、着替えを済ませた優も一階におりてきていた。


「はい、できたわよ」


そういって、碧華がお盆に昼食を運んでくると驚いた顔をした。


「あの、ここで食べるのですか?」


エンリーが不思議そうにたずねた。


「そうよ、ごめんなさいね。家は狭いから、我が家はいつもここでテレビを見ながら食べているのよ」


碧華はそういいながら四人分の昼食を運び入れた。すると、映画に夢中のライフが言った。


「最高の習慣ですね。テレビをみながら食事ができるなんて」


そういうと二人はお祈りを始めた。そこはお金持ちのご子息なんだなって碧華は感心してみていた。そして祈りが終わると、碧華は両手を合わせて「いただきます」をいうと食べ始めた。


「ねえ、エンリーくんたちはいつまで日本にいられるの?」

「三十一日の便でアトラスに帰る予定です」

「そうなんだ。どこか観光でもする予定なの?」


「今のところ何も考えていないんです。あいつはいつも行き当たりばったりのところがありまして、現地で次に何をするか考えるんです」


「そうなんだ」


碧華は食べながら隣に座っているエンリーに向かって話しかけた。ライフはアニメの映画に夢中のようだった。食べ終わると、碧華は片づけを済ませると、隣の母に二人を泊めてもらえるかを聞きに行った。

映画を見終わったライフが満足そうに食後に出されたアップルティ―を飲みながら言った。


「だめだ、お腹いっぱいになったら眠くなっちゃった。あのここで少し横になってもいいですか?」

「どうぞ」


碧華のその言葉でライフはもそもそとコタツの中に体を横たえたかと思うとすぐ寝息を立て始めた。碧華は上半身がでたままになってそのまま眠ってしまったライフの為に、毛布を掛け、頭に座布団を折り曲げひいてあげた。


「すみません」


その様子をみたエンリーが碧華に代わりに謝ってきた。


「いいのよ。エンリーくんは大丈夫?」


「はい、あの・・・本当に突然たずねて来てしまってご迷惑ではありませんか?」


「全然迷惑なんて思っていないわよ。私ももう一度エンリーくんに会いたいなあって思ってたし」

「どうしてですか?」


「私、嬉しいのよ。こんな素敵な青年とメル友なんだと思うと、何だか息子ができたみたいで」

「僕の方こそ、いつも変なメールばかりしてすみません」


「あらそんなことないわよ。私もよく悩むもの、悩みってね、誰かに話すとスッキリするものなのよね。たとえ答えが自分と違っていたとしてもね。あっそうだ。私ね。エンリーくんにプレゼントしようと思ってボディーバックを作ったんだけど、送ろうか止めようか迷っていたんだけど、みるだけでも見てくれる?」


碧華はそういうと、完成したばかりのバッグを隣の部屋から持ってきてコタツの上に乗せた。


「これなんだけど、この布ね、テマソンが会社で使わなくなったサンプル品を送ってくれたのを使ってるのよ。だからすごく高価な布だから見た目はまあまあよくできたかなって自分では思ってるんだけど、どうかな?いらないなら正直に言ってほしいのよ、気を使われるのは好きじゃないから、ダメな所とかあったらいってくれたら次の参考にできるから」


碧華はそういったが、エンリーは悪いところなど見当たりそうになかった。

すごく自分の趣味にあっていて、実際に店頭に売られていたら真っ先に手に取っている出来ばえだった。


「あの、すごくいいと思います。僕はその、うまく言葉にするのが苦手なので、うまくいえないのですが、これはその、僕の好みそのものっていうか、本当にかっこういいです」


エンリーはそのバックを手に持ちながら言った。


「そう?じゃあ使ってくれる?」

「ほっ本当にいいんですか?僕がもらっても」


「いいのよ、だって、エンリーくんに使ってもらいたいなって思って作ったんだから。でもお店で売っているのじゃなくて、おばさんが作ったものだからいろいろ丈夫じゃないかもしれないんだけど、ほんとにお世辞抜きに気に入ってもらえた?」

「はい」


エンリーはそれしか言葉が出てこなかった。こんなプレゼントは始めてだったからだ。


「よかった~」


碧華は心の底からホッとしているようだった。


「あのね、これね二つ作ったんだけど、私のペンケースも気にってくれたって聞いていたから、ライフくん受け取ってくれるかしら?ほら、ライフくんはテマソンからたくさんブランドバッグとかもらってるんでしょ、素人の作ったものなんかいらないかな、どう思う?」


碧華は後ろにもう一つ別の柄で作った同じ型のボデイーバッグを紙袋から取り出した。

同じ型のはずなのに、まったく違う雰囲気のバックに仕上がっていた。


「これもいい感じですね」

「好きな方選んでくれていいのよ。なんだったら、二つでも」

「ノー!それは僕のだ!エンリー」


エンリーが受け取ろうとした瞬間、寝ているはずのライフが突然起き上がり、エンリーからそのバックを奪い去った。


「なんだよお前起きてたのか?」


「目をつむっていただけだよ。碧華さん、これ本当にあなたが作ったのですか?」

「ええそうよ、おばさん素人だから、へたくそでしょ」


「いえ、そんなことないですよ。まさに完璧ですよ。僕、こんなデザインのバッグが欲しかったんですよ。この使ってるのは実をいうとあんまり好きじゃないんだけど、叔父さん使わないとすねちゃうから、けど、なんていうのかな、叔父さんのデザインは僕ら若者向きじゃないんだよね。確かに高級感はあるんだけど、なんか違うんだよね。けど、これまさに理想形だよ」


ライフの様子からその言葉は心の底から言ってくれているのだというのが態度でわかったので、碧華はうれしかったと同時にホッとしている自分がいた。


「そんなに褒めてくれるなんて感激よ。作ったかいがあったわ。ああ~よかったあ。気に入らないっていわれたらどうしようかと思ったわ」


「でも、どうして僕らなんかに作ってくださったのですか?」


エンリーはそのバッグをまだ手にしながら聞いた。


「エンリーくんがね、栞と文通してくれるようになって、栞すごく毎日楽しそうにしてるのよ。以前は毎日学校が嫌だなんて言っていたのに、毎日楽しくてしかたないみたいなのよ。私もね、テマソンにお仕事もらえて、仕事するようになったでしょ。私も毎日すごく忙しいんだけど、楽しいのよ。こんなに楽しいのなんて人生で初めてかもしれない。だからお礼がしたかったのよ。でもあなたたちなんでも持ってるでしょ。だから、世界で一つの私にできるプレゼントがしたかったのよ」


「僕のほうこそ感謝してます。いつも僕の独り言を聞いていただいてどれだけ救われたかしれません。これからも聞いてくれますか?」


「いいわよ。私も独り言また送るわね」

「なあエンリー独り言ってなんだよ」

「お前には関係ないよ」


エンリーはライフに英語で答えた。


「二人は仲良しなのね。いいわね、親友って」


碧華は本音を言って言い合いをしている二人の様子を見てほほ笑みながら言うと、エンリーはライフを見ながら碧華の言葉を訂正した。


「親友っていうより悪友ですよ。小さいころからつるんでますから」

「なんだよ。おまえ、僕がいなかったらに一人ぼっちだろうが」

「うるさい」


「いいわね、喧嘩できるほど仲がいいって、おばさんそんな親友いないからうらやましいわ」


「こんなやつうっとうしいだけですよ。いないよりましだけど」

「どう思います?ひどいいわれようだなあ」


「あら、本音を言える関係って素敵だわ。あなた愛されてるのね。うらやましいわねえ。おばさんも仲間にいれてほしいぐらいだわ」


「いいですよ、僕、碧華さん気にいっちゃった。ねえ碧ちゃんっていってもいい?」

「ライフ、年上の女性に対して失礼だろ」


「あらそんなことないわよ。そんな素敵な呼び方してくれる人いないから大歓迎よ。いいわよ。じゃあ私は呼び捨てでもいいかしら?」


「いいですよ」

「じゃあ握手」


碧華とライフは握手すると笑いあった。


「そうだ優ちゃんも僕と友達になってくれると嬉しいんだけどな」


隣の台所で宿題を始めていた優に向かってライフが言った。すると優はうれしそうにただ頷いた。


「本当?じゃあメール交換しようよ。碧ちゃんいい?」


ライフはチラッと碧華をみていった。すると碧華はしばらく考えてから


「いいわよ、でもあんまり頻繁に送ってこないであげてね。この子の勉強に支障が出てくると困るから。父親との約束なのよ、成績が落ちたらスマホは取り上げなのよね。優はまだ中学生だから、その辺よろしくね。ライフ」


「了解しました。たくさん送りたくなったら、その時は僕も碧ちゃんに送るようにするよ。もちろん碧ちゃんのメールアドレスも教えてくれますよね」


「あらどうしようかしら?毎日テマソンからも大量に送ってくるのよね」

「ええ~、コイツには教えたんでしょ。僕だけ嫌はなしですよ」

「ママがメールアドレスを教えないなら私もやめようかなあ」


優がスマホを片手に碧華の隣に来て小さい声でぼそっと言うと、ライフがすねたような顔で言った。


「僕泣いちゃおうかなあ・・・」


そういって泣きまねをしたライフに、碧華は笑ってしばらく考えるふりをした。その時碧華の携帯が鳴った。


「はい、あっ栞、補習もう終わったの?」


〈うん、それでね、早く終わったから友達が駅で何か食べようっていうんだけど、電車で帰ってもいいかな?〉


「別にいいけど、あっちょっと待って」


碧華はそういうと自分の携帯を突然エンリーに手渡し、何か話すように言った。


「栞ちゃん、補習お疲れ様」

〈えっ?えっ誰?〉


栞は突然母親の携帯にでた男性の声に驚いている声が響いた。エンリーはそれだけいうと、すぐ碧華に携帯を渡した。碧華は笑いながら受話器の向こうの栞に向かって言った。


「もしもし栞」

〈ママ今の誰?〉

「誰だと思う?」

〈わかんないよ〉


「今ね、エンリーくんとお友達のライフくんがアトラスから遊びにきてるのよ」


〈・・・またまた冗談ばっかり、そんなわけないじゃん〉

「ホントだってば、もう一度かわろうか?」


〈いい、ホントにホントなの?えええ~!じゃあすぐ帰ろうかな。迎えにきてくれる?〉

「でもお友達と約束したんでしょ」

〈そうだけど・・・〉


「二人とも今夜はおばあちゃん家に泊まってくれるって言ってるから、友達と遊んできてからでも大丈夫よ。せっかく誘ってもらったんでしょ」


〈うわ~迷う。今すぐ帰りたいけどなあ~せっかく誘ってくれたしな・・・どうしよう~ママ〉

こんな時の栞は優柔不断だった。


「どっちでもいいよ。自分で決めなさいよ。エンリーくんたちは消えてなくなったりしないから、夕方遅くなるようだったら駅まで自転車で迎えに行ってあげるけど」


〈うーん、じゃあ、約束しちゃったから行ってくる。電車乗る時また電話するよ。暗くなりそうだから駅まで迎えお願いします〉


「わかった、じゃあ気をつけてね」

 

碧華はそういうと電話を切った。


「やれやれ、あの子本当に優柔不断なんだから」

「ママ?お姉ちゃん迎えにきてって電話?」

「うううん、お友達と駅で何か食べてくるって」

「そうなんだ、じゃあ帰り遅いの?」


「うん、六時過ぎじゃないかな。さて、その前に夕飯の段取りしないといけないなあ。張り切って作るかな!」


「そうだ、私も宿題早くしないと」


二人はいそいそと台所に戻って行こうとしたので、スマホを手に持ったままのライフがすかさず話に割り込んできた。


「本当に泣いちゃおうかな!」


 口を膨らませて二人をじっと睨んでいるライフに碧華は急に笑い出した。


「ごめんごめん、冗談じゃない。からかいがいのある子ね。本当に可愛いわね。私、あなたみたいに言葉にだして言ってくれる子大好きよ」


碧華はそういうと自分のスマホを取り出すと、ライフのスマホにかざした。

そのすぐ後で優もライフとメール交換をした。優はエンリーともメールを交換していた。





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