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誓いの儀式③

ライフはというと、急に力が抜けたかのようにその場にしゃがみ込んでしまった。

冷静になって考えると、優だけに言ったつもりの言葉が全部聞かれていたことになるのだ。

恥ずかしさで穴があったら入りたい気分だった。


「何が誓いの儀式だよ。ああ~恥ずかしい~」


そう言って真っ赤になりながら床にしゃがみ込んで頭を抱え込んでいるライフの横にしゃがんで優が言った。


「でも、私ちょっと嬉しいかも」

「どうして?全部聞かれちゃったんだよ」


「だって証人がたくさんがいるって素敵だもの、後からあれは夢だったのかなって思った時、確認できるもん」


「優ちゃん!夢だったって忘れる可能性もあるっていいたいの?もう無理だよ」


「もうライフさん、心配しないで、でもライフさんも後悔しても遅いんだからね。他にどんなに美人さんが現れても心変わりしちゃ嫌だからね。私友達に宣言しちゃうからね。婚約者ができたって、もうこれで私に言い寄ってくれる人いなくなるんだから、責任取って将来結婚してくれなきゃ嫌だからね」


「もちろんだよ。優ちゃんも大学の奴らにちゃんと言ってよね」


「うん、でも一つ条件があるんだけど」


「条件?」


「ええ、あなたが今までデートしてきた方全員に謝ってきてくださいね。思わせぶりな態度をとって申し訳なかったって、そうじゃなきゃ、私アトラスに来るたびにビクビクしていないといけなくなるから、今日みたいなことがこの先も続いたら私アトラスが嫌いになりそうだから。あなたが遊んできた全ての女性の方全員に謝罪してきてくださいね。そうでないと私、あなたと正式に婚約はしないから」


「よく言ったわ。その通りだわ。ライフきちんと清算しないと私も許しませんからね」


リリーも優の側に行くと、ライフを睨みつけながら言った。


「ええ~過ぎたことじゃないか、そんなこと今更しなくても」


「何言ってるのよ。昔の事と思っていないから彼女達が私の優に因縁をつけてきたんでしょ。ライフ、きちんとしないと私もこの婚約は許さないわよ。別の男子応援しちゃうわよ」


碧華もリリーの言葉に加勢した。


「わかったよ、僕の記憶にある限り、謝罪をしてくるよ」


「そうしなさい。女の怖さを思い知りなさい」



その後、教会の中では先に栞とエンリーの交換で誓いの儀式が行われた。


マティリア様の前で改めて結婚の誓いを宣言し、リリーと碧華とテマソンは花の折り紙を手にもち、互いに作った花を交換しあい、これからも生涯変わらないきょうだいの儀式を行ったのだった。


そして最後になんと、ヴィクトリアとチャーリーも誓いの儀式を行ったのだ。

姉妹の誓いの儀式だった。

チャーリーは嬉しそうにヴィクトリアが作った花を手に握りながら言った。


「お姉様、ありがとう。私ね本当は子どもの頃からここで誰かと誓いの儀式をやりたかったのよ。結局結婚はできなかったからあきらめてたんだけど、夢がかなったわ」


「あら、どうしたしまして、だって、あなたは私の宝物で自慢の妹なんですもの。これからもお互い元気で暮らしましょうよ。ライフと優ちゃん、それに栞ちゃんとエンリーくんの結婚式を見届けなきゃいけない見届け人になったんだもの」


「あらそうだったわ。そうね、元気で長生きしなきゃ」


二人の老姉妹はほほ笑みあった。


〝最愛なる者たちよ、そなたたちの絆、確かに確認した。

未来永劫変わらぬ絆、確かに結んだぞよ‶


九人は互いに楽し気に笑い声を響かせている中、目の前のマティリア像が微かにほほ笑みを称えていた。



真夜中、もうすぐ夜明けが近づこうとしている深夜の三時、満天の星が夜空にきらめき、満月がグラニエ城を照らしだしたころ、誰もいなくなった教会に一人たたずむテマソンの姿があった。


「マティリア様、私は嘘つきです。私は自分でたてた誓いを破ってしまいました。罰はどうか私自身にお与えくださいませ」


「テマソン・レヴァント、誓いとは永遠もあれば時と共に変わりゆくものもあるもの、そなたが気に病むことなど一つもないぞ」


テマソンはその声に驚いて後ろを振り向いた。


「碧華、あなた寝たんじゃなかったの?」


「寝るつもりだったわよ。寝ようと思って窓の下を見たらあなたが教会へ入って行くのがみえたから、予備の鍵をどこで手に入れたの?叔母様にしれたら叔母様怒るわよ」


「まったく、油断も隙もないわね」


そう言ってテマソンは横の長いすに腰をおろした。碧華は笑顔でテマソンの横に自分も座り目の前のマティリア像を見上げた。


「ごめんね、マティリア様とのお話しに水を差しちゃって」

「そんなんじゃないわよ。ただ、子どもの頃にたてた誓いを破っちゃったから懺悔してたのよ」

「そうなんだ。それでマティリア様許してくれそう?」

「どうかしら、今度こそ愛想をつかされるかもしれないわね」

「どうして?」


「私は…私はね、生涯誰とも誓いの儀式はしないって誓いを立てていたのを破ってしまったからよ」


「あら、そんな誓いを立ててたの、人生どんな素敵な出会いがあるかもわからないのに」


「あら私は女性アレルギーになっていたのよ」


「そんなの関係ないじゃない。それじゃあどうしてさっき私が嫌がったのに賛成したのよ。嫌ならあなたも反対すればよかったじゃない」


「だって、私も誓いの儀式したくなったんですもの。あなたとのことマティリア様に正式に認めてもらいたかったのよ。私が見つけた相棒をね。リリーは余計だったけど」


「あらそんなことないわよ、リリーお姉様がいてくださるから、私達は姉弟でいられるのよ。優しいビルさんが栄治さんと兄弟のように親しくしてくれるようにね、私達にとってかけがえのない存在なんだから」


「そうね・・・そうかもしれないわね。大切にしなきゃだめね、私達のお姉様を」


「そうよ。それに、マティリア様なら許してくださっているわよ。私頼まれたんだから。わらわの宝物を頼むって、私テマソンのことだってすぐピンと来たわよ」


「マティリア様にいわれたっていいたいの?どうせ夢でもみていたんじゃないの?」


「そうかもしれないわね。でもマティリア様はレヴァント家の守り神様でしょ。あなたの幸せを願って下さっているわよ。これからの人生をあなたがどんな選択をして生きて行ったとしてもね」


「碧華・・・私今でも不安になるのよ、あなたと出逢って私の長年の誓いを破ってばかりで、お怒りになられていないかって、マティリア様の怒りが私自身にだけに降り注ぐのならいいけど、もしあなたやあなたの家族の身に災いが降り注いだらと思うとここらあたりが痛くなるのよ」


テマソンは自分の胸の辺りを指さして言った。

碧華は小さく笑うとテマソンの顔をのぞき込みながら聞き返した。


「あら、そんな心配をしてくれていたの?」


「だって、あなたアトラスに来るたびに何かしらのトラブルに巻き込まれていたでしょ。私があなたといることが原因なのかしらって思う時があるのよ。もしかしたらマティリア様がお怒りになっているんじゃないかって・・・今日の優ちゃんのことだって、もしかしたらお怒りになっているのかもしれないって思うと、眠れなくて」


テマソンは碧華の顔をちらっと見た後立ち上がると、ゆっくりと教会の祭壇の前まで歩み寄ると頭上のマティリア像をしばらく見上げながら言った。


「最近思うのよ、私はあまりあなたと関わらない方がいいのかしらって」


「あら、私はここにきて不幸せを感じたことなんて一度もないわよ、落ち込むことはたくさんあるけどね。栞や優だってきっとそうよ。この国の事大好きよ。それに私、レヴァント家の一員になったこと後悔なんて微塵もしていないわよ。これからだって後悔はしないわ。私はその時に決断したことを先の未来で後悔なんかしないわ。だって後悔しちゃ失礼でしょ過去の自分に。でも反省はするわよ。未来の自分にとって治した方がいい選択史ができたら治しながらね。テマソンは私と日本でであって、今こうしていることを後悔しているの?あなたが誓いを立てた昔の自分に懺悔しなきゃいけないと思っているの?」


「いいえ、後悔はしていないわ。私は自分の生きたいように生きてきたもの。誰かに命じられて選んで生きた人生じゃないわ。だから困っているんじゃない。桜木家はみんな素敵で愛しさが止まりそうにないのよ。あなたと出逢って、こうしてここにいることも後悔なんてしていないわ。でも私は無力なのよ、神の怒りまで阻止できないわ。私のわがままでもし、あなたやあなたの宝物達の身に何か災いが降り注ぐことにでもなったら私は謝っても謝りきれないもの」


「大丈夫よ、私も栄治さんも娘たちも自分の中にきちんとすごい神様を住まわせているから。その神様がそれぞれ守ってくださるわ。その上で、マティリア様も新しい神様として迎え入れたいと思っているのよ。マティリア様はそんなに懐の狭い方じゃないわ。レヴァント家と共にある神様でしょ。私は大好きよ。私はこれからも図太くレヴァント家とかかわりを持って行こうって決めてるから。あなたもそんなに心配しなくても大丈夫よ。テマソンもそのつもりでいてよね」


「欲張りね、神様を二人も住まわすつもりなの」

「ええ、私欲張りなの。だって決めたんだもん」

「何を?」


「私が掴んだファミリーを私からはぜったい手放したりしないって。人生の半分を過ぎちゃっててもまだまだ未熟者はかわらないけど、私は私のやりたいことをあきらめたりしないって。だから、私はあなたの仕事の相棒もまだまだ辞めるつもりはありませんからね。人生の伴侶は無理だけど」


「あら、私もよ」


そう言ったテマソンはその先は心の中でつぶやいた。


『あなたも覚悟しなさいよ。私は生涯現役を通すつもりですからね。まだまだ仕事のパートナーは続けてもらいますからね』



二人はそれから二人仲良く教会をでた。

その後ろ姿をやさしく見守るかのように月明りに照らされたマティア像がほほ笑みを浮かべていた。




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