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冬休暇②

二人はその後、冬休暇前半はずっとグラニエ城でのんびりと過ごした。

アトラスの首都であるウエスタの郊外にあるグラニエ城周辺は学校がある場所とは違い、高いビル群がなく

まだまだ平原が広がり昔ながらの古い建物が残っていて、のんびりするには最高の環境だった。

ライフにとっては退屈な場所のようで、ライフの祖母であるグラニエ城城主のヴィクトリアの前では愛想を振りまいていたが、部屋に戻ると文句ばかり言っていた。だが、エンリーにとってはこの環境が最適だった。日頃のストレスから解放され、家にも戻る必要のない冬休暇を満喫していた。それに、この城にはたくさんの歴史的価値のある書籍が大量に保管されている図書室があり、エンリーは許可を得て一日中読書にふけって過ごしていた。


そしてあっという間に二十五日が近づき25日のお昼前には、大きなキャリーバッグを持って、空港に直行し日本へと出発した。

 

二人はまず東京で一泊し、さらに翌朝十時前には桜木家に一番近い空港に到着していたが荷物が出てこないというトラブルがあり、結局、キャリーバッグが手元に届いた頃には十一時を過ぎていた。

電車を乗り継ぎ、桜木家の家がある近くの駅に着いたのはもう一時を過ぎていた。


「思った以上に田舎だな。タクシーもないじゃないか、だから僕は空港からタクシーで行こうって言ったんだ」


「お前の金銭感覚で行くと、僕らはすぐに予算が底をつきそうだ。昨日だってあんな高いホテルに泊まりやがって、予算オーバー気味なんだよ。帰りの便まで野宿なんてことになるのはごめんだからな」


「なんだよ、そのためにママからカードを借りてきてるんだろ」


「うるさい、もらったお金で何とかするんだよ。ここから歩いて二十分ぐらいでつくみたいだぞ、これはどっちなんだろう」


エンリーはスマホのマップをみながら、桜木家の家までの地図を開いて、左右の道をどういけばつくのか検索していた。そしてふと目の前にいた自転車に乗った女性と中学生らしき女の子に話しかけた。


「すみません。この住所に行くには左右どっちらにいけばいいかわかりませんか?」


エンリーは流ちょうな日本語でたずねた。すると女性は外国人の青年に一瞬驚きながらもスマホの画面をのぞき込んだ。


「えっと、あれ、これ家の住所よ」


そう言って驚いたような声で言ったその女性はまぶかにかぶっていた帽子を上げて見上げた。


「あら?その顔どこかで…」


その声を聞いてエンリーが驚いたような顔で言った。


「あっあなたは、あのもしかしてあなたは碧華さんではありませんか?」


その言葉にその女性は驚いて顔をあげた。


「え? あ~! もしかしてエンリーくん? えっ? ええっ~! どうしてここにいるの?」


「お久しぶりです。実は冬休暇中でして、日本に遊びにきたんです。せっかくきたから、碧華さんと栞さんにもお会いたいできたらいいなと思いまして急に思いついてきてしまいました。ご迷惑でしたらこのまま電車に乗ります」


「あら~そうだったの。大歓迎よ! 栞が聞いたら喜ぶわよ。ああでも今まだ学校なのよ。今日は三時まで補習があるって言っていたから。ゆっくりしていけるの? あっこの子、栞の妹の優なの。今学校の帰りなのよ。優、ほらお姉ちゃんによくメールくれるエンリーくんよ」


碧華は髪の毛を後ろで二つに結んで、学校のブレザーの制服らしい服装姿の隣にいた少女に話しかけた。


「えっ? あのエンリーさん? あっ姉から話はいつも聞いてます。初めまして優です」


優は笑顔でエンリーに言った。エンリーはそんな優に手を差し出した。

優は戸惑いながらも握手すると、その横でじっと聞いていたライフが突然しゃべりだした。


「はじめまして、僕こいつの親友のライフっていいます。叔父のテマソンがお世話になってます」


駅に着くまでブスっとしていたライフの態度が急変したのをあきれながらみていたが。何も指摘しなかった。


「テマソンって、ああ、あなたが甥のライフさん?お噂は聞いてますよ。あなたも叔父様に似てイケメンなのね。それにあなたも日本語お上手ね。私も娘達もテマソンさんにはお世話になっているのよ。よくいらしてくださったわね。エンリーくん、くるなら事前に教えてくれたらよかったのに、前もって聞いていたら関西空港まで迎えに行ったのに」


碧華はエンリーに言うと、エンリーは頭をかきながら笑っていた。


「すみません、僕が突然行って驚かそうっていったんですよ」


「あらそうだったの、今年最大のビックリよ。でも、ごめんなさいね。疲れてるでしょうけど、ここからまだ二十分も歩いてもらわなきゃいけないの」


「大丈夫ですよ。もともと歩くつもりでしたから。でも本当に急にきてすみません」


丁寧な口調で笑顔で流ちょうな日本語で話すライフに碧華も笑顔でいうと、ライフとも握手した。


「あなた方なら大歓迎よ」


碧華はそういうと自転車をおしながら優と共に先に歩きだした。後ろから二人もキャリーバッグを転がしながらついて歩いた。


「おい、あの子中学生ぐらいかな、小さくて可愛いな、僕のもろ好みだ。彼氏とかもういるのかな」


「おい、あの子に手をだしたら、お前とは絶交するぞ!」

「なんだよ、お前は栞ちゃんといい感じなんだろ、僕だっていいじゃないか?」

「お前はいつもいい加減だろ。いいか、余計なことはするなよ」


「わかったよ、だけど話すぐらいいいだろ。お前の横でだまってるだけじゃ、ママに報告できないだろ」


「仕方ないな。だけど、余計なことは絶対するなよ」


エンリーは二人に聞こえないように英語で小さな声で言った。その時、信号待ちをしていた碧華が二人に話かけた。


「ねえお二人はこの後どこかへ行く予定になっているの?」

「いえ、まだ未定です」


「そう、なら今夜は家に泊まっていかない?隣のお母さんの家の和室でよければだけど、それともベッドじゃないと眠れないかしら?」


「大丈夫だと思います。実は僕たち、まだ今夜のホテルを予約していなかったんです。泊めて頂けるなら助かります」


エンリーがしゃべろうとする前にライフが答えた。エンリーは睨んだが知らん顔で碧華に返事をしてしまった。


「よかったわ。今日はなんていい日なのかしら」


碧華は本当にうれしそうだった。エンリーは内心ほっとしていた。もし自分の顔をみて嫌な顔をされたらどうしようかと思っていたのだ、だが碧華のあの笑顔が一瞬でその不安を吹き飛ばしていた。


「おーいエンリー、早く渡らないと信号変わるぞ~」


すでに道を渡り切っているライフがエンリーに向かって叫んだ。エンリーは正気に戻って駆け足で横断歩道を渡った。





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