グラニエ城祭②【ライフの不満】
グラニエ城祭の計画が始まってからというもの、確かに楽しい。
父さんの会社の手伝いをしているより叔父さんの会社でいろんな企画をしている方が断然おもしろいのは認める。
だけど、本格的に細かく詳細を見て行くうちに僕はうまく家族にこき使われているだけなんじゃないかと思えてくる。
桜木家でも優ちゃんが大学生になったことで、長期休暇がとれるようになったこともあり、八月に入ってすぐ碧ちゃんと栞ちゃん、それにエンリーと優ちゃんの四人が早々にアトラスへときて長期滞在をしていた。
栄治おじさんも有給とお盆休暇を合わせてグラニエ城祭がある前日から一週間滞在予定になっていて、父さんも同じ日程で休暇をとるようだった。
なのに、なのにだ、どうして僕だけが仕事なんだ!
せっかく優ちゃんがすぐ近くに来てるっていうのに側にいる事も出来ないなんて。
何かの陰謀に違いない!
ムスッと膨れてテマソンのリビングでふてくされているライフに碧華が近づいてきて言った。
「あら~ハンサムが台無しね」
「碧ちゃん、どうして優ちゃんはこっちに泊まらないんだよ。大切な娘が心配じゃないの」
「だってあの子達はグラニエ城祭の準備を手伝ってるんだもの。ここに泊まるよりグラニエ城に泊まる方が便利じゃない。城にいる分には断然安全だしね」
「何よライフ、この間も言ったけど、あなたがそうしたいならあっちの手伝いをしてもいいのよ」
まだ不貞腐れているライフを見かねて仕事の準備を終えたテマソンがリビングに入ってきて言った。
そんなテマソンを睨み返しながら言い返した。
「僕もできるならそうしたいさ。だけど、ママがチクチク嫌味をいうからさ。どうせ僕は役立たずだよ。力仕事はできないしさ、チャーリー叔母さんの手伝いって言ってもあんなチマチマした作業むいてないしさ」
「可哀そうなライフ、そう言えば、栞が昨日言ってきていたわね。叔母様の展示用の最新作の仕上げがギリギリになりそうだから、今ピリピリだって、そう言えば子どもたちの中でもエンリーが一番上手だって言っていたわね」
「フン、あいつはおかしいだよ。なんでも器用にしやがって。くそ~遊びてえ~」
「やれやれ、まったく、どうしてこうわがままに育っちゃったのかしら」
「甘やかすからじゃない」
「あら、それをいうならあなただって甘やかしているじゃない」
「そうねえ・・・おかしいわね。あははは」
「笑い事じゃないわよ。ライフ、そんなにこっちの手伝いが嫌なら、一人でどこにでも遊びに行きなさい。あなたがいなくてもこっちは困らないから」
テマソンがあきれて言うと、ライフがいっそう口を膨らませた。
「そんなこと言っていいと思ってるの叔父さん、僕がいなかったら、ディオレス・ルイ新作コレクションの最終進行確認できないよ」
「あら、データは全て揃っているんだし、私でもできるわよ」
「フン、まだ絵本の仕上げ残ってるくせにさ、そんな時間どこにあるんだよ」
「あらあなたしかできないって思っているのはあなただけよ」
「そっ、じゃあ好きにしたらいいじゃないか。僕は寝てるからさ」
そういうとソファーに横になって目をつぶってしまった。
「勝手にしなさい」
怒っていうテマソンに碧華がすかさず割り込んできて寝ているライフに近づくと、ライフの頭を撫でながら言った。
「もう不貞腐れているライフってかわいい。いいなあ~私もさぼって一緒に昼寝しようかしら。どうせ私なんかもいなくても全然大丈夫だと思うしなあ」
ニコニコしながらライフの頭を撫でだした碧華にライフは照れながら碧華の手を払っていた。
「辞めてよね、僕はもう大人だよ、子どもじゃないんだからね」
「あら、やりたくないなんて駄々をこねているなんてまだまだ子どもの証拠じゃない。私も子どもになろうかしら、そしたらさぼってライフと観光しにいけるしなあ」
「そうだ、この際碧ちゃんでもいいや、どこかにドライブ行こうよ。運転手してあげるからさ」
がばっと起き上がって碧華に向かっていうライフにテマソンが鬼の形相になって二人に言い放った。
「いい加減にしなさい!この忙しい時に何本当に子どもみたいなわがまま言ってるの。碧華、あなたもあなたよ、毎日徹夜しても間に合うかどうかギリギリなのよ、新作絵本の制作間に合わなかったらどうするの、、もう大人だっていうんだったら、今回のプロジェクト責任者の一人として最後まで責任を持ってやり遂げなさい」
「・・・」
無言で何も言い返さないライフに碧華が耳元に囁いた。
「ライフ一週間の我慢じゃない、グラニエ城祭が終わったら優たちもすることがなくなるんだから。存分に遊べるじゃない。仕事休暇もらってるんでしょ。優はね、普段おちゃらけていてもきちんとやり遂げる男が好きなのよ。遊んだことが優の耳にはいったら優どう思うかしら、あの子そういうところ結構きちんとしたがるタイプだから」
「わかったよ。だけど僕は頑張っている所優ちゃんにはわかってもらえないじゃないか」
「あらそんなことないわよ」
そういうと碧華は自分のスマホを取り出すと、画面上に優とのラインの様子をみせた。
そこには仕事をしているライフの横顔がたくさん映し出されていた。
「なっ何これ?隠し撮りしてたの?」
「そうよ、優に頼まれていたのよ。仕事しているカッコいいライフの写真送ってって言われてね」
「なにそれ、それならそうと早く言ってよね。さあ今日も仕事頑張るかな!そうだ、栞ちゃんに言って優ちゃんの写真送ってもらおうかな」
「あら? 栞あなたに送信してなかったの。すごく真剣に手伝っている可愛い優の隠し撮り写真私に送ってきてたわよ。あなたにも送るって言ってたんだけどな」
「はあ? そんなの知らないよ。なんだよ、栞ちゃんまた忘れてるんだな。自分はエンリーといつも一緒でご機嫌だからってさ、文句言わなきゃ」
ライフはさっきまでの態度とは反対に勢いよく立ち上がると、いそいそと準備をし始め、栞に催促の電話を入れて優の写真を早速ゲットして一気にご機嫌になっていた。
その様子をため息交じりに眺めるテマソンに碧華がニヤケながら小さい声で言った。
「会社経営や絵の才能ははあなたはすごいけど、子どもをやる気にさせるのはまだまだね」
「確かにそうね」
テマソンはご機嫌で先に下に行くという甥に手で合図しながら囁いた。
そうしてグラニエ城祭の準備はディオレス・ルイ社でも着々と進行して、本番を迎えることになった。
ディオレス・ルイ社の初の試みであるグラニエ城での新作コレクション発表会は大盛況のうちに幕を上げ、無事に二部制も滞りなくおえることができた。
中でも、展示即売会で販売された様々なデザイナーによるエコバッグの中で一番売れたのが、ライフのデザインした物だった。
これには本人も驚いていたようで、のちにこのエコバッグはディオレス・ルイ社の定番商品となることが決定されることになった。
様々なイベントも滞りなく進み、昼間の間のグラニエ城祭は大きなトラブルもなく大盛況のうちに終了した。
いよいよ残すは夜の舞踏会のみとなった。
しかし、この舞踏会のパートナーを巡ってもまたライフの不満は爆発したのだ。
それは舞踏会が始まる一時間前の事だった。
当然舞踏会で優のパートナーを務めるものだとばかり思っていたライフに直前になってリリーがライフに言った一言が原因だった。
「何言ってるのよ、あんたの今日のパートナーは私に決まってるでしょ」
ライフは最初リリーが何を言っているのか理解できなかった。
「いやいや何言ってるんだよ。母さんのパートナーは父さんでしょ」
「違うわよ、ビルのパートナーは栄治さんよ、あなたこの間決めたって報告したでしょ」
「はあ? 聞いてないよ」
「何言ってるのよ。とにかくこれは決定事項なのよ、私とあなた、ビルと栄治さん、ママンとテマソン、チャリー叔母様と碧ちゃん、それぞれ分担して招待客への接待と挨拶の声かけをするって決まったのよ」
「まってよちょっと、じゃあ優ちゃんが余ってくるだろ? 可哀そうじゃないかパートナーがいないんじゃ」
「はあ・・・本当に聞いてなかったのね。誰よライフに報告しなかったのは」
そうりリリーが言うとすかさず碧華が突っ込んだ。
「もうとぼけちゃって、ライフには直前まで秘密にしておこうっていったのお姉様じゃない」
「あっそうだったわね。でも安心しなさい、優ちゃんのパートナーにはフレッドにお願いしてるから、優ちゃんにもフレッドにも了承を得ているわよ。あら? そう言えば優ちゃんとフレッドまだ見ないわね」
一同が準備を終えて別室に集まっている部屋を見回して言った。
「あっ僕が探してくるよ、優ちゃんをフレッドなんかに任せてたまるか」
スタスタとその場をでて優を捜しに行こうとしているライフの肩を掴むとリリーがすごい顔でライフを睨みつけた。
「あなたね~このグラニエ城祭の舞踏会がどんなに重要か分かってるわよね、勝手な行動は許しませんよ。そんなことをしたら大学を卒業するまでの生活費全て送金をストップするわよ」
「はあ?いい加減にしてくれよ。なんでそうなるんだよ」
「なんでってあなたが次の後継者だからでしょ」
嫌がるライフを問答無用で最終打ち合わせに引っ張っていくリリーを見送りながら、碧華が優の携帯に電話したが出る様子もなかった。
「ねえ、栞、優がどこかにいないか探すの手伝ってくれないかしら、着替えもまだだったわよね、テマソンも化粧手伝ってあげてくれない。まだ大丈夫よね」
「わかったわ。手分けして探しましょう」
「わかった。よし、我々もさがそう」
そう言ってビルと栄治、栞とエンリーそれにテマソンと碧華の六人は手分けして城の内外を優の捜索を始めたのだ。舞踏会開催まで一時間と迫っていた。




