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冬休暇①

季節は変わり今年も憂鬱な冬休暇が近づいてきていた。なぜ憂鬱なのかというと、冬休暇は学生以外もアトラス国全体が祝日になるマティリア休暇があるからだ。我がアトラス国の女神マティリアの誕生を祝う為12月25日から12月31日までは一般の会社なども休みに入るのだ。


『会いたくもない人間と一週間も一緒にもいなきゃけないなんて、地獄だ』


エンリーは明日からの冬休暇の事を考えると気分が滅入っていた。

冬休暇もまた寮全体が閉鎖されるため、強制的に家に帰されてしまうのだ。


家族で別荘や海外へ行く連中も多いようだったが、家には行きたくないが、かといってどこに行きたいわけでもなかった。正確には一ヵ所をのぞいてはだが、簡単に行ける場所ではなかった。


特に冬休暇の後半は、企業などが休みになる年末は自由がきかなかった。食べたくもない家族が集まっての食事や、興味のないパーティーへの強制参加があるからだ。そして一番嫌なのが父親の顔を毎日見なくてはいけないことだった。


毎年の行事を思い出しただけでも気分が悪くなりそうだった。家出でもしないかぎり旅行の許可などだしてくれそうになかった。

エンリーはため息ばかりを口から吐き出しながら、帰り支度をしていた。


《トントン》

エンリーの部屋をノックする音が聞こえた。エンリーは無言で扉を押し開けた。


「おい、準備はもう済んだのか?」


扉の前にいたのは予想通りライフだった。ライフはいつも以上に上機嫌でこっちをみて何か言いたげな顔を向けて立っていた。悩みの少ない奴は幸せでいいよなと嫌味の一つでもいいたくなるのを我慢して言った。


「なんだお前か、相変わらずうれしそうだな。そんなに家に帰ることがうれしいのか?ちょくちょく帰ってるだろ?」


「楽しいわけないだろ。帰らなきゃ小遣いくれないんだから仕方ないだろ。そんなことより、お前冬休暇はまだ何も予定入っていなかったよな」


「入っていなかったらどうだっていうんだよ」


「なんだよ、そんなにツンツンしなくてもいいだろう。お前ならきっと喜ぶだろうと思っていい情報もってきてやったのに」


「僕は忙しいんだ、要件はなんだ」


「ああ~そんなこと言っていいのか、止めたっていいんだぞ。お前が今一番行きたい場所に僕が連れて行ってやろうっていい話もってきてやったのに」


「お前に僕の行きたい場所なんかわかるわけないだろ」


エンリーは扉の前でイライラしてライフに言い放った。すると、ライフがポケットの中から、航空券を取り出して言った。


「ここに日本行きの往復の航空券が二枚あるんだけどな」


ライフの言葉を聞いたエンリーが突然、ライフを自分の部屋に引っ張り込んだ。

エンリーは扉を閉じて、ライフの手ににぎられていた航空券を奪い取り、中身を確かめた。確かに日本行きになっていた。しかも日程は12月の25日からだった。


「お前、これどうしたんだ」

「ああ~いいのかな。僕にそんな態度で、やっぱりやめようかな~」


ライフはチケットをエンリーから奪い返すと、エンリーの部屋から出ようとした。


「お前こそいいのか?僕を敵にまわして、テストどうなっても知らないぞ」

「チッ、お前にはその切り札があるからな~、ああもういいよ。実はな」


ライフはそういうとそのチケットをエンリーの机の上に投げおくと、ベッドの上に座り話始めた。


「それな、提供者はうちのママだよ。ある人物を偵察に行ってきてくれって」

「偵察?」


「そっお前の知ってる人物だよ。実はな、九月に叔父さん日本のなんてったっけあお‥」


「碧華さんのことか?」


「そう、そのおばさんに会いに行ってから、叔父さん毎週僕の家に必ず顔をだしていたのにパッタリ来なくなったもんだから、ママがおかしいっていいだしてな。叔父さんの会社に乗り込んでいったらしいんだ。そしたら、いろいろ忙しいからってだけで、詳しく話そうとしないんだって、それで会社の人たちに聞きまわったら、どうやら、九月に日本に行った辺りから毎日、社長室にこもるようになってしきりにテレビ電話をしていることが多くなったっていうんだ。相手はどうやらそのおばさんらしいんだけど、ママが今まで僕以外の人間に関心をもたなかった叔父さんが急に夢中になっているその人がどんな人物なのか見てきてほしいって頼まれたんだよ。お前、その人の娘と親しいんだろ。だから、遊びにきたっていってもあやしまれないだろうからって。お前も誘って日本に行って来いって司令がきたってわけ。もちろん、お前の親の許可はとってあるっていってたよ。どんな人物か会って話したら、後は好きな所へ行っていいって、お前の分の小遣いもくれたんだ。用事をとっとと済ませて東京見物しようぜ」


エンリーはベッドで寝そべっているライフを横目に、荷物整理を始めた。   

エンリーはめんどくさそうにしながらも内心では日本に行ける喜びで叫びだしそうなぐらい感情が高ぶっていた。だがライフの手前平静を装っていた。


「僕は別に東京には興味がないから、行きたいならお前一人で東京見物しろよ。それにしても、よくうちの父上が許可をだしたもんだ。いつも旅行なんか生意気だとかいって会社関連のパーティ―に参加させるのに」


「それはお前がいつもわざと悪い点をとっていたからだろう。お前、今学期はテスト全教科満点とっただろう。それで教授たちから親父さんにすごいことだって連絡がいっていたみたいだな。まっ、それがなくても、うちのママのことだからうまく丸め込こんでたと思うけどな、交渉事となると百戦錬磨だからな、家のママは」


エンリーはふと碧華からのメールの内容を思いだしていた。

エンリーはいつもはわざと低い点数をとるのだが、栞と文通をするようになってから、いつも勉強を頑張っている栞を思うとわざと低い点を取っていたとは言いずらく、言ってはいなかったのだが、碧華には独り言をつぶやいていた。

  

すると碧華からもおばさんの独り言と書かれたメールが届いたのだ。


〈おばさんの独り言

わざと悪い点をとってるエンリーくん、おばさんがあなたと同じ学生だったら、

一度は言ってみたかったセリフですねえ。

でもそれって、逆に言えば、高得点をとれる自信があるわけでしょ。

いいなあ、天才は。

うらやましすぎる~!

うちの娘達が聞いたら逆切れパターンだな。

おばさんは、一度オール満点のテストってみてみたいなあ~

全教科百点ばっかりなんて先生もビックリするだろうな。

それも数学だったら、先生がしらない解き方で正解を正確に解説付きなんてしたらびっくりするだろうな。

いいなあ、エンリーくんはそれをしようと思えばできるんでしょ。

きっとすごいだろうなあ~。みてみたいなあ…楽しみにしています。

まだ全教科満点のテストをみたことのない碧華おばさんより〉


碧華からしきりにいいな~メールが届くものだから、エンリーは始めて真剣にテスト勉強をした。

そして答案用紙をすべて埋めることにしたのだ。

エンリーにとってテストは単なる退屈な行事にすぎなかったが、


今学期は頑張ったテストの結果を碧華に写真付きでメールをすると、ものすごい数のおめでとうと、すごいという褒め言葉のメールが届いた。悪い気がしなかった。

なんだかうれしくて、その次のテストもついつい何も考えず素直に受けた結果だった。


「そんな感じだよな。リリーさんは」


エンリーはライフにそういいながら、もう一度念押しをした。


「じゃあ本当に僕も一緒に行ってもいいんだな。でもホテルとかはどうするんだ?碧華さんには連絡しなくていいのか?あそこは市内といってもかなり田舎だぞ」


「空港に到着するのは朝だから、もしかしたら、少し話をして、東京に逆戻りするかもしれないだろ、ついてから考えようぜ、資金はたくさんあることだし。ママが念のためにってママのカードも貸してくれたんだ。あちらさんにはもちろん言うなよ。前もって行くって伝えたら身構えられたら、本性がさぐれないだろ」


「お前、碧華さんの前でそんな態度をとってみろ絶交するぞ」


「わかってるよ。お前にしちゃ珍しいな。そんなにいいのか?桜木家だっけ、ますますあってみたいなあ。堅物のお前がそこまで入れ込む親子。安心しろよ、人当たりのいいこの僕が相手に本心を見せるなんてミスをするはずないだろう」


ライフのこの変な自信はなんだと突っ込みたくなるが、確かに嫌いな奴でも相手はコイツをきらっていないということが多いのも事実だった。

愛嬌のよさは天性のものらしい。


「けど、もし留守だったらどうするんだよ」


「大丈夫だよ。なるようになるよ。お前気にしすぎなんだよ。日本は安全な国だっていうじゃないか。僕らは日本語を話せるんだしよ。何とかなるって。あっけど、出発は二十五日だけど、今日から準備ができたら迎えの車が寮まで来てくれることになってるから別の場所に行くぞ。着替えとか大丈夫か?冬休暇中家にはもどれないけどお前大丈夫だよな。着替えは買えばいいしな」


「はっ?一ケ月?どこへ行くんだよ?」


「実は、俺毎年冬休暇中はビザリアのおばあ様のいるお城に行かなきゃいけないんだよ。毎年の恒例行事なんだ。でっ、ママが今年はお前も一緒に誘えっていうんだ」


「お前のおばあ様が住んでいる場所って確かグラニエ城だろ?僕なんかが行ってもいいのか?」


「ああ、ずっと前から、おばあ様が一度お前に会いたいって言ってたんだよな。いい機会だからついでにお前を紹介したいなって思ってな。どうする?」


「行くよ、家に帰るよりましだ」


エンリーは即答した。初めて父親と顔を合わさなくていい冬休暇だ、楽しくないわけがない。

エンリーは思ってもいなかった旅行が舞い込んできたことを内心ではとても嬉しかったのだが、それをライフには言うつもりはなかった。


エンリーはライフと共に25日までの時間をライフの祖母の城で過ごし、エンリーは日本である計画を実行しようと密かに決意したことがあった。





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