カリーナの夏祭りパーティ―⑧
それから二人は雨の予報とは裏腹に珍しく月明りの夜空を見上げながらしばらく空を見上げ、二人の時間を楽しんでいた。
その二人を少し離れた場所から睨む影があった。
「悔しい!どうしていつも私だけ仲間外れなのかしら!あんなに楽しそうにおしゃべりしちゃって、何を話しているのかしら」
「そんな所でのぞきみですかおば様」
「あらあなたたちもでてきちゃたの?」
シャリーが後ろを振り向くとそこにはライフとエンリー、栞と優が立っていた。
「休憩ですよ。それより、母さんはどうしてここにいるんですか?兄さんが探していましたよ。珍しく彼女を気に入った様子で、パーティ―の後デートをするらしいですけど、帰りはどうすのかって?」
「あらそう、私はもちろんあなたたちと同じ車で帰るわよ」
「クスッそういうだろうと思ってそう伝えときましたよ」
エンリーは母親をみて小さく笑うと言った。
「何がおかしいのよ。変な子ね。それより音也くんだっけ、一緒じゃないの?さっきまで一緒じゃなかったかしら?」
「ああ、あいつはさっきいとこと合流して、いとこが演奏が終わったから仲間の演奏家とホテルに戻るっていうから、あいつも今夜はいとこと同じホテルに泊まることになったから、もう帰るってさ、ヴィクトリアおばあ様にもきちんと別れの挨拶は済ませてきたから、母さんとフレッド兄さんにもよろしくって言ってたよ。きちんと音也の母親にも連絡を入れさせたから、碧華ママには会いたがっていたけど、会場にいなかったから、残念がっていたけどね」
「あらそうなの、音也くんともう少しお話ししたかったわねえ。素敵な子ねあの子、私気に入っちゃったわ」
「音也も言ってましたよ。また時間があったらゆっくり話したいそうですよ」
「まあ、うれしいわね。今度日本に行ったらぜひ合わせてね」
シャリーはうれしそうに言った。
「わかりました。ところでフレッド兄さんのことはほっといてもいいんですか?息子が今日出会ったばかりの相手とデートをするから母親をエスコートしないでどこかに行くっていっているんですよ」
「いいわよ。もういい大人なんだし。あの子が誰を選ぼうと私の意見なんか聞く子じゃないし。息子なんて可愛いのは子どもの内だけよ。碧ちゃんは子どもは宝だっていうけど、それは娘だからよ。栞ちゃんや優ちゃんは、碧ちゃんと友達みたいに仲いいでしょ。だから可愛いって思えるのよ。息子がたくさんいたって誰一人私の相手をしてくれないし。母親なんてどうでもいいのよ。あなたもそうでしょエンリー」
「そんなことはないですよ母さん」
「いいのよ今更気を使ってくれなくても、私はもう子離れしたんだから、あなたは栞ちゃんのことだけ思っていればいいのよ・・・フレッドも同じよ、私がどういおうと自分の想い通りにしか行動しないもの」
「シャリーママ、私はママのこと大好きですよ」
「まあ栞ちゃん、私も大好きよ。本当に可愛い!こんな子ほっといて明日私とデートしましょうよ」
「母さん!あなたは明日も仕事に行くんでしょ」
シャリーが栞に抱き着いたのを引きはがしながらエンリーが言った。
「いいわよ休むから。だって見てよ、あの二人、私の存在忘れて二人で浸ってるんだもの。テマソンもテマソンよ!私のことなんか頭になかったのよ。ひどくない?」
「別にいつものことじゃないですか。それにさっきは外に行くという二人の誘いを先に断ったのは母さんの方ですよ」
「だって、一応母親としては、フレッドのお相手の人には挨拶をしておく必要があるでしょ」
エンリーの答えにシャリーは口を大きく膨らませて反論した。
「シャリーおばさま、やきもちですか?叔父さんと碧ちゃんが二人で仲良く話してることが気に入らないのですか?」
ライフが聞くとシャリーは二人を指さして言った。
「違うわよ。あのお揃いのコートよ」
「えっコートですか?」
「そうよ。悔しい!どうして、ねえどうして私じゃないのよ!シンデレラに出てくる魔法使いはお婆さんでしょ。おかまさんじゃなかったわ。私も碧ちゃんと一緒にやりたかったのに~」
シャリーは隣にいるエンリーの袖を引っ張りながらテマソンと碧華に視線を移しながら言った。
「痛いですよ母さん、あのコートは二人の体形に合わせてあったんだから、母さんがテマソンさんのをきると丈が大きすぎるし、碧華ママのをきると小さすぎたんでしょ。そんなことを悔しがっているんですか?」
「なっ何よ、いいでしょ。私も魔法使いの役碧ちゃんと二人でやりたかったのよ!」
シャリーは悔しそうに二人を眺めながら言った。
「今回はダメだったけど、シャリーママもママと同じものをテマソン先生に頼んで作ってもらったらいいんじゃないですか?そしたら雨の時一緒にママと歩けでしょ。あれすごく素敵だし、私もテマソン先生に作ってもらって、一緒に歩きましょう」
エンリーの左側にいた栞が前からのぞき込むようにしながらシャリーに向かって言った。
「そうね、作ってもらおうかしら、まったく、テマソンったらいっつも碧ちゃんだけにつくるんだから。エンリーは仲間に入れてあげないんだからね。女だけで散歩よ」
それを聞いていたライフが横からシャリーにたずねた。
「ねえ、シャリーおば様、おば様って碧ちゃん派なの、おじさん派なの?前から気になっていたんだよね」
「何にそれ、どういう意味かしら?」
「最近、碧ちゃんがこっちにいない時はよく二人で出かけたりするでしょ。もちろんジャンニおじさんの許可はとってあるみたいだけど、仲いいんだなって思って、僕、ずっとおば様は碧ちゃんが好きなんだって思っていたけど、そうじゃないのかなって」
「何言ってるの、テマソンは友達よ。変なこといわないでライフくん」
「だって、以前はおじさんのことテマソンさんって言ってたのに最近は呼び捨てにしてるでしょ」
「そっそれは…碧ちゃんがそう呼ぶから」
シャリーは真っ赤になりながら掴んでいたエンリーの服の袖を離した。
「僕もそれは気になっていたんですよ。母さん、どうしてですか?まさかテマソンさんに気があるのですか?」
エンリーの直球の質問にシャリーは思わず咳き込んでしまった。
「そっそんなわけないでしょ。わっ私が世界で一番好きなのは碧ちゃんよ!」
「えっ?」
そう叫んだシャリーに四人は一斉にシャリーの顔を見た。その時、その声を聞いた碧華とテマソンも後ろを振り向いた。真っ赤になって立っているシャリーに碧華が駆け出してきてシャリーに抱きついた。
「シャリー、もう写真撮り終わったの? ねえ、あなたも一緒に星みない? 座ってみると素敵よ」
「わっ私もそっちいっていいの?」
「もちろんよ。そうだわあなたたちもみんなでここで横になって星みない?気持ちいいわよ。ここ丘の上でしょ。今日はすごく星がきれいにみれるから横になってみたらきっと素敵よ。あら音也くんは?」
「ああ、あいつならいとこが会いに来ましてね。今夜からいとこと一緒に行くことになりました。きちんと蘭さんには連絡をいれさせましたから安心してください」
「そう、じゃあ安心ね」
「碧ちゃんはいつもすごいことを考えるね。今日はパーティーだよ。星を見にきたんじゃないんだから、僕達そんなかっこうしてきてないし」
「あらいいじゃない、みてこのブルーシート大きいでしょ。みんなであおむけに寝ても十分な広さがあるわよ。ダンスも飽きたし、お腹もいっぱいだし、栞と優も上に羽織るのも持ってきてたでしょ。とってきなさいよ。冷えるといけないから、私ちょっと用を思い出したから、すぐ戻るわ」
そういうなり碧華はシャリーから離れると、すぐにテマソンの所に行くと、テマソンの腕を掴んで立ち上がらせると、テマソンを引っ張って建物の中に姿を消してしまった
「やれやれ、今度は星見会の開催かあ」
「でもきっと気持ちいいよ。私、上着とってくる。車にあったよね」
栞はエンリーにたずねると、仕方ないというかのように、
「わかった。僕がとってくるよ。君はここにいて、ついでにブランケットも持ってくるよ。優ちゃんのも持ってくるから」
そう言って、エンリーは一人駐車場に向かった。
数分後、碧華から話を聞いたカリーナがなんと、大きなシートを庭園の芝生の上にひき詰めるようにスタッフに指示をだし、舞踏会上にいた人々に庭にでて星をめでる会を提案した。
その結果、多くの人々が芝生の上に横になり満点の星を眺めるという異様な光景ができあがった。
碧華も右側にはテマソン、左側にはシャリーという定位置に三人で並んで星を眺めた。
「なんだか、こうやって星を眺めていると、人間ってちっぽけに思えない?」
「そうねえ、星の寿命に比べたら、人間の寿命なんてあっと言う間ですもんね」
「ねえ碧ちゃん、もし次に生まれ変わるとしたら日本とアトラスどっちがいい?」
「そうねえ…どっちでもいいかな。でも、今度は幼馴染がいいなあ。テマソン、シャリー、今度生まれ変わったら今度は幼馴染にしましょうよ。そしたら、ずっと仲良くできるじゃない。人間の一生は短いんだもん。同級生で幼馴染なんて楽しそうだよね」
「あらいいかもしれないわね」
「ママ、なんだかもう人生終わった人達の会話みたいに聞こえるよ」
「あらそうね、いやーねえ人生まだ半分残ってるのにね、これからもっと楽しまなきゃね。さあ明日から本の完成めざすわよ!」
碧華はそう叫けぶと大きく両腕を頭の上に伸ばした。
「あれ、碧ちゃん、明日はグラニエ城に行くって言ってなかったっけ?チャリー大叔母様に話しがあるって昨日の夜言ってたじゃん」
「あ~忘れてた。チャーリー叔母様の今までの作品見せてもらう約束してたんだ。ありがとうライフ。やっぱり予定はみんなに言っといて正解ね」
「ちょっと、私は聞いていないわよ。明日中にコンセプト考えないと間に合わなくなるわよ。詩集の発売日」
「そうだけど…ああ~んシャリーどうしよう。間に合わない」
「がんばるしかないわよ碧ちゃん!私にできることがあったら手伝ってあげるから」
「ねえ~発売日伸ばそうよテマソン」
「あら碧華様、それは許されませんわよ」
話しに割り込んできたのはカリーナだった。
「そうですわ。わたくしたち碧華様の詩集を楽しみにしているんですのよ」
碧華の一言に大勢の声がかえってきた。
「ほっ本当?」
「ええもちろんですわ。今や世界中に碧華様のファンがいますわよ。わたくしたち自慢なんですのよ、こう
して一緒に星を見上げているなんて、ほらご覧になってくださいな。いいねコールがこんなにきてますでしょ」
そういって碧華の頭の上の方で横になっていたカリーナが起き上がり、碧華に自分のスマホをかざして見せた。
そこには英語で何か書かれていたが、横にいたテマソンが訳すと確かにいいねコールらしかった。
カリーナが自分のツイッターにつぶやいたようだった。
「ああ~。なんか猛烈に感動しちゃう。よ~し、私頑張るわ。皆様~!完成したら買ってくださいね!」
その声に多くの拍手が巻き起こった。
「あなた人気者になってきたわね」
テマソンがそっと耳元で言った。
「そうねえ、神様に感謝だわ。私の夢がかなってるものね」
「ねえ碧ちゃん、あなたの神様ってどなた?日本は仏教でしょ。だったら、え~っとお釈迦様かしら?」
「いいえ、私の神様はここにいるのよ。形なんかないけどね」
碧華はそう言って自分の胸の辺りを指で押さえた。
「えっ?」
「あなた方にはきっとわからないでしょうね。私よく思うのよ。神様は心の中にいるんだってね。私専用のね」
「それもまた一つの形ね。それであなたの中の神様は明日はどうすればいいっていっているのかしら?」
「う~ん、明日は明日の私が考えるわ。とりあえず今夜はゆっくりするけどね。明日から徹夜でがんばるわ」
「まったくあなたらしいわね」
「でしょ。仕事付き合ってね」
「仕方ないわね。シャリーあなたも徹夜大丈夫?」
「もちろんよ」
「碧華様、今夜は素敵なパーティーにしてくださってありがとうございました」
帰り際カリーナが碧華に向かって頭を下げた。
「いえいえ、カリーナ様こそ、今夜は素敵なパーティーへご招待いただいてありがとうございました。今夜は予定を変更させてしまうハプニングを起こしてしまってすみませんでした」
碧華はそういうとカリーナに向かって頭を下げた。そして顔を上げると、お互い笑い合った。
「わたくし、今夜は本当に楽しい舞踏会でしたわ。これも、全て碧ちゃん、あなたのおかげよ。わたくしは素晴らしい親友を持てて誇りに思いますわ」
「ありがとうカリーナ、私もよ、あなたを親友に持てて私は幸せ者だわ。また会いましょう」
碧華はカリーナに笑顔をむけ、二人は握手をかわした。そして、碧華はテマソンやシャリーそれに子供達の待つ車へとかけて行った。
テマソンやシャリーの元にかけ寄る碧華の後ろ姿をみてカリーナは思うのだった。
『碧華様、あなたが誰であれ、わたくしは本気であなたを親友だと決めましたわよ。誰から何を言われようと。わたくしが見つけた宝物、わたくしは欲しいものはあきらめません事よ。あなたとっては一番の親友にはなれなくても・・・今夜のパーティ―は伝説になりますわね』
カリーナは一人ほほ笑んだ。
そして、その日を境にテマソンに言い寄る女性陣が姿を消したのは言うまでもなかった。
それはのちに伝説となる今夜のパーティ―は、テマソンと碧華の魔女の姿での登場により更に盛り上がった演出も影響していた。
テマソンを慕う多くの女性陣が、碧華を見つめて楽しそうにしているテマソンをみて諦めたのは言うまでもないが、陰で社交界のドンであるカリーナの一言があったのは言うまでもなかった。
そして、この時二人がきていたレインコートも後日、
多数の要望により、お揃いの撥水バッグカバーと共に売り出され、
爆発的な人気商品となったことは言うまでもないことです。
パーティーの夜、フレッドの家に戻った一行は子どもたちはフレッドの案内で翌日はフランス観光を楽しみ、そのまま日本へと戻って行った。
もちろんライフも一緒に日本に行き、八月の末まで日本に滞在するようだった。
ライフは当初、アトラスに戻ってすぐにビルの仕事を手伝う約束になっていたが、九月まで休暇を欲しいと夏休暇中のビルに直接電話で懇願したのだ。
最初はダメだと言っていたビルだが、リリーがビルに口添えをして、
リリーの一声で長期休暇を許可されたのだ。
電話口でリリーが言った言葉にライフは小さく笑みを浮かべるのだった。
「ライフ、もう一度でじっくり考えてきなさい。自分がどうしたいのか、誰が本当に必要なのかをね」
「はあ・・・ママありがとう。考えてみるよ」
ライフはそういって電話を切った。
そして、四人一緒に日本へ向かった。
ライフは日本滞在中、結局ずっと栞と行動を共にし、アニメ映画を見に行ったり、本屋を巡ったりアニメの聖地巡りをしたりとご機嫌で日本を堪能していた。
時折、エンリーの雷が落ちていたようだったが、
息抜きに優をデートに誘い、
優の夏休み最終日前日には電車で遊園地デートを楽しんだようだった。
優の学校が始まると家でアニメのビデオを堪能しつつ、
何かを考えている様子だったが、
栞はあえて何も言わずエンリーにもそっとしておくように伝えた。
一方碧華とテマソンとシャリーの三人はヴィクトリアと共にパーティーの翌日にはすぐにアトラスに戻り、三人はヴィクトリアと共に先にグラニエ城に行ったが数時間後すぐにディオレス・ルイ社に向かい仕事を再開させていた。
碧華はパーティーの夜、フレッドの家に戻る車の中で、別れの挨拶をできなった音也に電話し、無事、ホテルにいとこといることを確認した。
「音也くん、もしアトラス滞在中、困ったことがあったらいつでも連絡してきなさいね。私は八月いっぱいはアトラスにいる予定だから」
〈ありがとうございます。お別れの挨拶もできずすみませんでした。京都に滞在することがあれば僕に連絡くださいね。京都観光ガイドしますから〉
「あら頼もしいわね、その時はよろしくね。日本に帰ったら蘭ちゃんにもよろしくね」
〈はい、あの碧華先生、新作楽しみにしてます。頑張ってくださいね〉
「了解!じゃあまたね」
碧華は新しい息子ができた気分で何だか嬉しく思うのだった。




