カリーナの夏祭りパーティ―⑦
それから更に三十分後、突然会場の電気が暗くなり、音楽が鳴りやんだ。
そして突如、会場の一番後ろの扉が開いた。会場中の人々の視線が一斉にその扉に集中した。
外のロビーからまぶしい光のその先には、ブルーのフード付きマントを羽織り、片手には魔法のステッキを握った二人の魔法使いの姿があった。
二人の魔法使いは会場にいる多くの人々に向かって深々と頭を下げると後ろを振り向き二人の後ろにいる女性の両側に立ち、彼女の手をそれぞれにとり、彼女を会場の中へと導いた。
そして、中央に立つ、王子様の前まで導くと頭を下げて、スッと両サイドに消えて行った。
突然、王子様の前に現れたのはブルーのロングドレスを身にまとい、髪は肩までウエーブがかかり、素敵なガラスの靴ではなかったがドレスとよくあった水色のパンプスを履いていた。
フレッドがシンデレラの手をとった瞬間、再び音楽が鳴りだした。
注目を一心に浴びながら二人はダンスを始めた。
シンデレラが王子様と素敵なダンスを踊っている頃、二人の魔法使いはというと、そっと舞踏会を抜け出して夜の庭園にいた。
「テマソンさすがね。彼女まるでおとぎ話のシンデレラみたいだったわ。あんなドレス私に着せようとしていたの?」
「そうよね、あなたには似合わないわよね。どうしてかしら、でもあなたもよくあんなパンプスなんか持っていたわね。あなたパンプスははかないじゃない」
「そうなのよね。私は栞が履くかなって思って、ほらエンリー背が高いでしょ。でも不思議ね。私たちやっぱり魔法使いなのかしら」
二人は顔を見合わせて笑いあった。
「でもこのローブ素敵な色ね、何?」
「これ?これはレインコートよ」
「レインコート?どうしてもってるの?」
「この素材ね新作のカバンに使おうかなって思って仕入れたんだけど、あなた優ちゃんを雨の日に向かえに行くとき、高校時代の古い雨合羽来てるっていっていたでしょ。それ思い出してレインコートにしてもいいんじゃないかしらって思って試作してみたのよ。私のは本当にこの素材が雨をはじくか自分用に試作したものよ。今日は夜、雨の予報出ていたでしょ。ここは駐車場は地下じゃないから、傘だけじゃドレスがはねて濡れるでしょ。栞ちゃんたちのドレスはロングじゃないから傘でも大丈夫だけど、あなたのはロングだから一応荷物に入れておいたの。まさかこんな形で役に立つとは思わなかったけどね」
「ねえ、じゃあ新作のバッグとお揃いで作って売り出せば売れるんじゃないかしら。新作出来たら私にもちょうだいね。私ショルダーがいいわ」
「そうね、いいかもしれないわね。でもレインコートを縫えるミシンが少ないのよね」
「あらそうなの?残念」
「バッグはあなた自分で作ればいいでしょ。欲しい分だけ布をわけてあげるわよ」
「本当?でも・・・考えるのめんどうだしなあ・・・」
「碧華、あなた最近お年寄り思考になってきてるわよ」
「そう?じゃあそろそろ私も退職するかなあ。後は印税生活でなんとかならないかな」
「碧華!」
「だって~ぐーたらは私の理想的生活なんだもの。最近忙しすぎなのよね。お小遣いは増えても…って最近考えちゃうのよね」
「まったく仕方のない子ね、じゃあ、新作発表会が終わったら、週末私がバカンスに連れて行ってあげるわよ。あなたショッピングより観光する方が好きでしょ」
「本当テマソン!私お城巡りがいい!約束よ、早速栄治さんに許可もらわなきゃ」
「わかったわ、私が案内してあげるわよ」
碧華は嬉しそうに小さなバックからスマホを取り出し栄治にラインを送った。
その様子をテマソンは何だかため息と共に微笑みを浮かべながら碧華を見ていた。
「ねえ、碧華」
「何?」
碧華はスマホをいじりながら返事した。
「ライフと優ちゃんのことだけど」
「あの二人がどうかしたの?」
「あの二人、今日は仲良さそうだったけど、本当の所どうなの?」
「本当の所って?」
「二人の関係よ、あの音也くんって子、優ちゃんと仲良さそうじゃない。みている限りじゃ、ライフが二人の間に割り込んできている感じみたいじゃない」
「あらテマソン、よく観察してるわね」
「当たり前じゃない。ライフも優ちゃんも大切な子達だもの。でもね、優ちゃんの気持がライフ以外に向いているんだったら、ライフを優ちゃんに近づけない方がいいんじゃないかしら?あの子、相手の気持ちよりも自分の想いばかり優先する所あるから」
「そうね、ライフの欠点でもあり面白い所よね。私も優の真意はわからないけど、ライフのことを迷惑に思っているんだったら、受験勉強を本気で取り組まなきゃいけないこの夏休みの貴重な時間を割いてまでこっちにくるとは言わないんじゃないかしら、こっちにくるとライフには否が応でも会う事になるのはわかっていたことだから」
「それだったらいいんだけど」
「まあ、グラニエ城での優の様子を栞から聞いて、面白い状況になっているみたいだけどね。栞の見解だと、音也くんも優も恋愛感情っていうよりも、仲のいい友達みたいな関係なのに、ライフが一人空回りして優に付きまとっていたみたいな状況だったようね。本当にライフったらまだまだね。まっそれだけ本気ってことなんだろうけど。あんまりしつこいと気持ちも冷めちゃう気がするんだけどな」
「あらじゃあ、この後、あの子日本に行かない方がいいんじゃないの?」
「そうね、まあ、なるようになるんじゃないかしら、日本行きを進めたの栞みたいだし」
「えっ?栞ちゃんなの?」
「そうみたいよ。栞は単に遊び相手が欲しかっただけだと思うけどね。ほら、今年はエンリーは優の家庭教師に燃えてるみたいだから、デートも中々できないってぼやいてたから」
「あらそうなの?優ちゃんの勉強に支障がでるようなら、新しい本が完成次第あなた日本に戻ってもいいのよ」
「私がいると勉強しなさいっていうだけで何も私は教えてあげられないから、いてもいなくても変わらないみたいよ。最近は自分のことは自分でするしね。そうそうこの間なんかも、模試の結果をエンリーがみて、二時間もリビングに優を座らせて、テストの結果の解説を懇々と解説してたわよ。なんか志望大学の判定がBに下がっていたらしくて、アトラス行きも中止にして勉強に集中しようって言いだしたぐらいだから、優本人はまったく焦っていないんだけど、エンリーの方が妙にピリピリしてたわよ」
「あらそうだったの。でもそれならなおさらライフがお邪魔したらダメなんじゃないの?」
「そうなんだけど、ライフがあの子たちが日本に戻る時に一緒に日本に来てしばらく滞在したいって連絡きた時ね、勉強のじゃまだから来るなっていうエンリーと、いいじゃないかってライフの味方をした栞が大喧嘩してたわよ」
「あら、エンリーくんでも怒るのね」
「そうね、栞にだけは本音で言い合いしてるわね」
「あらその喧嘩どうなったの?」
「知りたがるわねテマソン」
「何よ、だって私の甥のことよ、優ちゃん達に迷惑はかけられないでしょ。迷惑をかけそうなら事前に阻止しないと」
「大丈夫よ、優秀な家庭教師がついているんだから。栞もね、優の勉強は応援してるけど夏休み退屈みたいでね。女友だちはみんな彼氏とデートだとかコンサートだとかで遊ぶ子いなかったみたいなのよ、でっ恰好の遊び相手にライフがちょうどよかったみたいね。結局エンリーの方が折れたみたいだけどね」
「そういうわけね。優ちゃんの勉強のじゃまだけはしないようにくぎをさしておかないといけないわね。でもライフと栞ちゃんの関係も不思議よね。あの二人、すごく仲がいいじゃない。趣味も合いそうなのに、恋愛感情はまったくなさそうじゃない」
「そうね、そこが人間の感情の奥深い所ね、愛と友情は別物、愛があっても趣味が同じとは限らないものね」
「そうね、まあ、あの子達が納得しているのなら私たちがとやかくいう問題じゃないわね」
「そうよ、親はお金を出すだけよ、あんまりとやかくいうとうっとうしがられるだけだしね」
「あなたも子離れできてきたってことかしら?」
「そうね・・・あの子達が笑っている間は何もしないでいられるほどには子離れできてきたわよ。それもこれも私に仕事を与えてくれている社長のおかげです。ありがとうございます」
碧華はそう言って頭を下げた。
「あら、どういたしまして、その気持ちを作品で返してくれればいうことないわ」
「まかせなさい!私はやる時はやる女ですからね」
碧華はそういうとテマソンに握りこぶしをみせ大きく頷いて見せた。




