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カリーナの夏祭りパーティ―④

その後、このパーティーではもう一つ大きな出来事が起きていた。


それは、着替えを済ませたお客たちがそれぞれパートナーとダンスを開始しだした時だった。


そこにブラックタイのタキシード姿のテマソンが碧華を伴って姿を表したのだが、

碧華が直前に足をひねってしまいダンスはできないからとダンスフロアには行かず隅でシャリーとおしゃべりをはじめ、

テマソンも来客者の中の顔見知りの男性たちとそれぞれに談笑し始めた。


その様子を遠巻きにみていた女性陣がテマソン争奪戦を開始すべく、

話しが途切れた瞬間にテマソンの周りに押しよせたのだ。


特に独身女性たちの入れ込み用はすさまじく、女性同士で喧嘩騒動にまでなってしまったのだ。


その頃になると、碧華はテマソンから離れて壁きわでシャリーと一緒にあとから入って来たソフィアとカリーナたちのファンクラブ幹部たちとカリーナの通訳で雑談していたせいもあり、

会場の真ん中でそんな騒動が起きているとは思いもしていなかったのだ。

だがやがて女性同士で激しい口論が始まってしまい、

主催者であるカリーナが仲裁に入ることとなった。


碧華もシャリーと共にテマソンを取り囲む輪の中に入り、

仲裁しているカリーナを見ながらその様子を見ていた。


「カリーナ様は黙っていてくださいませんか?」


「これはわたくしたちの問題ですのよ。わたくしが先にテマソン様にダンスをお願いしましたのに、後からこの人が割り込んできたのよ」


「何よ、一人だけ抜けがけしようなんて図々しいのよ」

「ねえ、テマソン様わたくしと踊ってくださいな」

「いいえわたくしと」


「ちょっと、お辞めなさい。今夜のテマソン様のパートナーは碧華様なのよ。碧華様とまだ一度もダンスをなさっていないのにあなた方が先にダンスを踊るのは筋違いじゃないこと」


「あらだって、碧華様は今夜は足をくじかれたとかでお踊りにならないんでしょ。それに舞踏会では色んな方と踊るのが普通ですわ。テマソン様とご一緒できる機会なんてそうそうありませんもの」


「はあ…だからって、テマソン様もお困りになっているでしょ」

「ですから、どなたか一人をお選びくださいませって申し上げているんですの」


そのもめている様子を碧華はシャリーから通訳してもらい状況を把握すると、おもしろそうにつぶやいた。


「ねえ、どうしてみんなあんなおじさんに群がるのかしらね」

「あら、そんなの決まっているじゃない、あわよくば結婚を狙っているんじゃないかしら?」


「結婚?テマソンなんてもう四五歳でしょ。おじさんじゃない」


「あら、男性の45歳はまだまだ男さかりですわよ。それに、テマソンって知能指数高いし、お金持ちだし、地位もある家柄も申し分ないもの。ダンスをして少しでもお近づきになりたいんじゃないかしら」


「そんなものなの?でもテマソンってダンナにするとウザイわよきっと」

「あっ、私もそう思うわ」


碧華とシャリーが小声で日本語で会話しながらクスクス笑い出した。


「ちょっと、そこに二人、聞こえてるわよ」


テマソンはカリーナの後ろで小さい声でぼそぼそと日本語で話していた碧華とシャリーに向かって睨みつけた。


「あらだって、あなたもそう思うでしょ。自分が結婚には不向きな人間だって、いいじゃないダンスぐらい、もうアレルギーでないんでしょ」


碧華の言葉にテマソンは反論しなかったが、不敵な笑みを碧華にむけたかと思うと、

もめている群衆の輪に向かって英語で言い放った。


「わかりました。この際だから皆様に宣言しておきますわ。私は生涯誰とも結婚はしないわ。碧華の気が変わらない限りわね。ですから皆様私のことはどうかそっとしておいてくださいませ。私は結婚したい相手としかダンスは踊りませんから」


そう言うなり視線が碧華に集中した。

碧華はテマソンが何を言ったのかシャリーにたずねたが、シャリーは面白そうに何も答えようとしなかった。


「ちょっとテマソン、私の名前を出したみたいだけど、あなた何を言ったのよ。なんだか私が睨まれているみたいじゃない」


「あ~ら、私は自分の想いをいっただけよ」


テマソンはそういうと平然と碧華に不敵な笑みを浮かべた。碧華はどうしたものか困惑していると、カリーナが近づいてきて小声で碧華の耳元で言った。


「碧華様、テマソン様は碧華様以外の女性とは結婚しない宣言をしたのですわ。ですからダンスは結婚したい方以外とはしないといいましたのよ。どうします。この状況では碧華様が不利ですわよ。パーティーでのダンスは既婚・未婚関係なくダンスはできますから、ダンスパートナーとしてなら碧華様が既婚者でも構いませんのよ。でもダンスは今日はご無理ですわよね。先ほど、ヴィクトリア様からテマソン様の女性アレルギーの話はお聞きいたしましたけれど、今このことを皆様に申し上げても、テマソン様の今後に影響が出てもいけませんし」


「はあ・・・ママンも面白がっているのね。もう親子そろって、私にどうしろっていうのかしら・・・」


碧華は豪華なシャンデリアがある天井を見上げながら呟いた。


『まったく、これじゃあテマソンも私に丸投げじゃない・・・後で覚えておきなさいよ』


碧華がどうしたものか思案しているのをよそに、周囲の女性たちは何やら英語で避難の言葉を碧華に浴びせかけているようだった。


『こういう時は早口で英語をしゃべられると何を言っているのか全くわからないから、便利よね・・・でもどうしようかしらね。この状況』


「碧ちゃん、どうしますの。このままではさすがのわたくしも収集が付きませんわ」


カリーナは碧華の薄いドレスの袖を揺らしながら日本語でささやいてくる。


「はあ・・・仕方ないわね。テマソン、これは貸よ。後で倍にして返してもらうからね」


碧華はそういうと、テマソンを睨みつけると笑顔を作り一歩前に歩みでた。


「カリーナ通訳してちょうだい」

「わかりましたわ」


「皆様、テマソンが何を言ったのか正確にはわかりませんけれど、私は今の主人と別れるつもりはありません。今日は主人にはテマソンがパートナーだと許可は得ていますが、あいにく足をくじいていて、無理なんです。どうぞ、どなたでもテマソンとダンスを踊って差し上げて下さい」


碧華の日本語をカリーナが通訳すると、どよめきが起き、一斉にテマソンへと女性陣が詰め寄ってきた。その時、碧華が突然テマソンの前に立ちはだかった。


「スト―プ!でも皆様、今一度よ~く考えてみてはいかかがですか?」


そういって笑顔で続けた。


「このテマソン、確かに歳のわりにはイケメンだし、お金持ちだし、頭もいい、家柄も申し分ないけれど、もう四十五歳よ、皆様はまだ二十代から三十代のお若い方々ばかりですわよね。私がもし、あなた方のようにまだ独身で二十代後半だったら、私ならおかまさんのテマソンのようなおじさまにターゲットを向けませんわ。私なら」


碧華はそこまでいうと、人垣をかき分けてつかつかとホールの端で栞と優の二人と談笑していたフレッドの所に近づいた。


「フレッド、あなた私達が困っているんだから協力してちょうだいよ」


「おや碧ちゃん、僕を巻き込まないでくださいね。僕はまだ結婚はする気はないんですから」


「あら、私を敵に回すと後悔するわよ、私は根に持つタイプよ。いいの?」


「おや、これは困ったな。どうして僕なんですか?」


「そんなの簡単よ、あなたが私の理想のタイプだからに決まってるじゃない。どうなの?協力してくれるのしてくれないの?」


「おや、そんな愛の告白をされては承諾するしかありませんね」

「よし、交渉成立ね」


そういうと、碧華はフレッドの腕に自分の腕を回すと、

こちらに視線が集中している群衆に向かって言い放った。


「私がもし後二十歳若くて、独身だったら、もちろん、このフレッド・ビンセントを狙いますわよ。彼、こういう場って嫌いらしくて、この機会を逃したら近づきになるチャンスはないでしょうね。それに彼、テマソンと同じ大学を主席で卒業してる天才ですし、この通りイケメンの上、ビンセント家の次期当主よ、この歳で会社の副社長にまでのぼりつめているし、なんと言ってもまだ二十七歳よ。どう考えてもおかまさんのテマソンなんか相手してるより、彼を狙う方がいいと私は思うわ。まああくまでもおばさんの意見ですけれど」


「おや、こまりましたね。こんな愛の告白をされたのは初めてですよ。どうですか?テマソン氏はほっておいて一曲だけでも僕とダンスを踊っていただけませんか?軽めのダンスなら大丈夫なのではないですか?僕がダンスしやすいようにエスコートしますよ」


そう言ってフレッドは碧華に微笑みかけた。


「あら~フレッドにそんなことを言われちゃったら、断るわけにもいかないわね」


「碧ちゃん!ずるいわ。フレッドの今日のパートナーは私よ、碧ちゃんが躍るなら一番は私よ!」


そう言ったのはシャリーだった。それをかわきりに、テマソンに群がっていた女性陣が一斉にフレッドの方に近づいてきた。


「あら~大変、やっぱり私は辞退するわねフレッド、じゃあよろしくね」


そういうと、碧華はスッとフレッドから離れると、

一斉に押し寄せてくる女性陣を回避すべく、フレッドから離れた。


「碧ちゃん、これは貸ですよ」


多くの女性にもみくちゃにされながらフレッドは碧華に向かって日本語で叫んだが、

碧華は笑顔で手を振るとファイト!と右手をグーにしてエールを送った。

碧華はその様子を楽しそうに見守っていた。


「お見事ですわね。さすが碧ちゃんですわ」


カリーナは一気に女性陣がフレッドの所に移動する様子をみて感心した様子で近づいてきた。


「フレッドには悪いことをしたかしら?」


「大丈夫なんじゃない。あの子ああいうのは慣れてるから。でも、母親とは踊らないっていうのよ。一度ぐらい一緒に踊ってくれてもいいのに、フレッドったら冷たいんだから」


フレッドに群がっている女性陣を見ながらシャリーが少しふて腐れながら言った。


「そうね。フレッドカッコいいもんね。一緒にダンスしたらドキドキしちゃうかも。でも…このままだったら私フレッドに大きな貸を作ることになるわね。何とかしなきゃいけないわね」


そういうと、しばらく考えていた碧華が何やらいいアイデアがひらめいたのか、

カリーナの耳元で小声でなにやら提案をした。

それを聞いたカリーナが面白そうに頷いた。


「わかりましたわ。何だかおもしろそうですわね。早速次のゲームのお題にしますわ」


そういうと、いそいそと碧華の元から離れると、カリーナは会場の隅に設置されているマイクを手に持ちマイクに向かって会場中の人々に向かって話始めた。


「おくつろぎの皆様、ではこれより、ゲームを開始いたします。題して今を時めくフレッド・ビンセント氏争奪ゲ~ム」


そういうと、カリーナはマイクを持ったまま、フレッドに群がっている群衆をかき分け、フレッドの腕を掴むとフレッドに向かって言った。


「さてフレッド様、どうです。ここはわたくしの顔を立てるということで、わたくしとじゃんけんゲームをしていただけませんこと?もしわたくしが勝てば、今日のパートナーであるシャリー様以外にもう一人、この会場の中からダンスのパートナーを選んでいただけませんか?もちろん人選方法はあなたにおまかせいたしますわ」


「おや、カリーナ様からそんな光栄を頂けるなんて名誉なことですね。そうですね。わかりました。では僕が勝てば・・・」


フレッドはそこまでいうと、カリーナの耳元に何かささやいた。少し驚いた顔を見せたカリーナだったが、笑顔で承諾した。そして、カリーナは再びマイクを持ち言った。


「さ~て皆様、では交渉が成立いたしました。では参りますよ」


カリーナがそういうと、二人の手元に一斉に視線が集中した。その結果、勝者は


「皆様、やりましたわよ。わたくしの勝ちですわ」


カリーナの勝利となった。その瞬間一斉に黄色い歓声があがった。


「おや、僕としたことが、負けてしまいましたね。仕方ありませんね。では、お嬢さま方の中からお一人だけ、一曲僕とダンスをしていただけませんか?我こそはという方はおられますでしょうか?」


フレッドはそういうと、フレッドの周りに集まっていた女性陣のほぼ全員が手を挙げた。


「おやこれだけなのですか?僕もまだまだですね」

「あらフレッド様はこれだけの女性の方達に求められていてまだご不満ですか?」

「そうですね、僕はうぬぼれやなんですよ。なんでも一番でなくては気がすまないんですよ」


その時、その様子を遠くで座ってみていたヴィクトリアがカリーナとフレッドの側まで近づいてきた。


「フレッドさん、わたくしのようなおばあちゃんでも立候補してもよろしいのかしら?」


「これはヴィクトリア様、こんな若輩者でよろしければぜひこちらからお願いしたいぐらいですよ」


その言葉と同時に、遠巻きに見ていた。年配のご婦人方がこぞってダンスに立候補の名乗りを上げてきたのだ。


「そうですね、ではこういたしましょうか」


そう言ってフレッドは選別方法を提案した。

その提案方法とは、

ある問題が起きた時、フレッドの好みのタイプが行動するとしたらどんな行動をするかという問題を十問だすというものだった。


フレッド自身が問題と解答を先に紙にかけあげるという形式で、

全問正解者の中から一人を選ぶというものだった。


早速参加者全員に用紙が配布され、

フレッドみずから問題を読み上げ、三択問題で問題が進行して行った。


この問題は自分ならこんな行動をすると想像してかくもよし、

またはフレッド・ビンセントが好きなタイプはどんな女性かを想像して書く、どちらならフラッドが理想とする女性のタイプの行動予想と合致するかが焦点になってくるのだ。

フレッドが好きなタイプが分からないそのた大勢の女性にとってこの問題はかなり難問のように思われた。


 そうして、最後の問題が読み上げられた後、その用紙は番号札と交換で回収された。

参加者は合計で100人が参加することになった。

しばらくして集計が終わり、フレッドが正解者の書かれた用紙を手に全問正解者を読み上げた。


「では、発表します。今から番号を読み上げますので、呼ばれた番号の人は前に出てきてください。三十六番 三七番 九十九番 百番以上四名が全問僕と同じ回答をした方々です」


フレッドの言葉に会場中に落胆の声が飛び交った。

だが、感激の叫びが聞こえてこなかった。

しばらく待っても呼ばれた番号の四人は名乗りを上げる者はいなかった。



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