カリーナの夏祭りパーティ―①
フランスの高級リゾート地の郊外に広大な敷地を持つビモンド邸の別荘で開かれたカリーナ主催のパーティーは世界中のセレブや著名人が多数参加していた。
カリーナの提案で最初は自分の国の民族衣装を身に着けるか、
仮装などがパーティーの参加条件だった為、
多くの人たちがめいめい思い思いの衣装で参加して、
大勢の人たちと写真を撮りあって話しが盛り上がっていた。
碧華達も浴衣姿で参加していたが、
フレッドとエンリー、それにテマソンとライフの四人は特に高身長のアトラス人が日本の浴衣を着こなした姿がひと際目立っていた。
急遽同行して浴衣を着たヴィクトリアも自分の浴衣姿をいたく気に入った様子でパーティ―に出席していた
昔馴染みと話しに花を咲かせていた。
碧華達も大勢の人たちに囲まれ、大きな輪ができていた。
「ちょっとソフィア!あなた何をしているの!」
碧華を取り囲むひとだかりの横で別の人だかりができている中心にいる女性に向かってカリーナが睨むような視線で叫んだ。
ソフィアと呼ばれた女性はフランスの民族衣装を着ていて、フリルのついたブラウスにベスト、ロングスカートにエプロン姿の女性だった。
「なにって、あなたも見る?あなたの好きなaoka・SKY先生のしょぼい私生活の写真よ。どうしてこんな庶民の方がこのパーティーへこれているのか不思議だわ。あなたもお友達は選んだ方がいいんじゃなくて」
そういいながらソフィアは手に持っている写真をヒラヒラさせながら言った。
「ちょっとあなた、誰の許可を得てこんな写真を撮影したの!」
カリーナはその写真をソフィアから奪うとその写真を見ながらさらに睨みつけた。
「あら、許可なんかいりますの?私は知り合いから買っただけよ。面白いものがあるってね。みて笑ってしまいましたわ。あの碧華先生がこんなみすぼらしい家に住んで、誰このおばさん?うまく化けたものだわ。日本ではただのおばさんじゃない。ねえカリーナ、あなた、わたくしたちとこんな庶民を同じパーティーへの招待したの?あなたの品位を落としかねなくてよ」
ソフィアの発言にざわつきだした人たちに向かってカリーナが叫んだ。
「碧華様には素晴らしい才能があるのよ、碧華様が日本でどんな生活をしようとそれは碧華様の自由ですわ。こんな写真ぐらいで、碧華様の品位を貶める材料にはなりませんわ。ですけれど、プライバシーは守られるべきですわ。こんな場で公にしていい理由はどこにもありませんわよ。あなた、こんなことをしてただで済むと思ってらっしゃるの?」
カリーナの言葉に、周りにいた取り巻き立が躊躇しているのをみてソフィアがうろたえながら反論した。
「あら、私は真実を言っているだけよ。あなたこそ、今の地位が脅かされるんじゃなくて?アトラスじゃセレブを装っている碧華先生が実は日本じゃただのおばさんだったなんて、こんな詐欺師みたいな方とお友達をしていると、あなたの品位も下がりますわよ」
「あっはははは、おかしい」
辺りがざわつき始めた時、
人ごみをかき分けてカリーナに近づき、
その写真をみて突然笑い声をあげたのは碧華本人だった。
「ママ!笑い事じゃないよ。ママのスッピンを大勢にさらされてるんだよ」
碧華の後ろにいた栞が笑い転げている碧華に言った。
その隣にいたエンリーも険しい顔で言い加えた。
「そうですよ、プライバシーの侵害ですよ」
すると、ようやく笑いを止めた碧華が平然とした口調で言い返した。
「でもみてよ、私、まあまあいけてない?可愛く映ってるじゃない」
碧華は銀ぶちの眼鏡に、髪は後ろにポニーテールにして黒テーシャツにデニム生地の短パン姿でサンダルを履きながら
大きなゴミ袋を両手に持ちながら玄関から出ようとしている写真をみて呟いた。
「そうねえ、確かに可愛いわね。でもこの服装はダサイわよ碧ちゃん、もっと可愛い服を着ればいいのに。私が今度選んであげるわ」
後からやってきたシャリーもその写真を見て言った。
するととなりに来ていたフレッドがシャリーをたしなめるようにさえぎった。
「母さん、今はそんなことを言っている場合ではないですよ」
「あら、いいのよフレッド、確かに私服のセンスないんだから、シャリー、今度買い物に付き合ってね。いつ撮られてもいいように、この際服を全部おしゃれに変えようかしら」
碧華は全くその写真を見られてもうろたえる様子をみせなかった。
というのも、碧華自身にすればうまい角度で撮られていて少しあるシミや除去しきれていないほくろなどもまったく写真には写っていなかったのだ。
むしろスリムな体系の碧華はまだ二十代でも通用するような写真写りになっていたのだ。
「碧華!」
嗜めたのはテマソンだった。
「もう、みんなどうしてそう怒っているの?だって事実じゃない。私は隠した覚えはないし、お金持ちのセレブだなんて言ったこともないわ。アトラスにいる時の服は仕事用だからって全部テマソンから支給してもらっているものばかりだし、私はお金持ちじゃないもの。でもソフィアさんっておっしゃるの?もしかして私、探偵さんにアトラスから尾行されたのかしら?」
「…」
碧華の質問に答えようとしないソフィアに対して怒り心頭のカリーナが叫んだ。
「ソフィア答えなさい!返答次第であなたとは絶交ですからね」
「あら、そうなって困るのはあなたじゃないのカリーナ、ここにいるみんなはどうかしら?こんな庶民と仲良くしているカリーナなんかと親しくお付き合いできるかしら?」
ソフィアの言葉に周りの取り巻きたちはひそひそと話しはじめた。
だがそんな状況にも関わらず、カリーナはがんとした姿勢を崩さずすぐさま反論してみせた。
「わたくしは家柄だけで友人を選んだりはいたしませんわ。わたくしは碧華様の人柄や才能にほれ込んでいますの。お友達になれて光栄に思っていても恥ずべきこととは微塵も思っていませんわ。碧華様を馬鹿にするような方々とは親しくしたいとは思わないわ。今すぐわたくしのパーティーから出て行ってちょうだい!」
「あっあらそう。皆様行きましょう。こんな方たちと一緒にいては貧しさが移ってしまいますわよ」
ソフィアはそう言い捨てるとカリーナが持っていた写真を奪うと、出口へと歩きだしてしまった。
その後を数人の女性たちもついていっていた。
「ちょっと待って!」
碧華は横にいたエンリーに通訳してもらっていて叫んだ。
「カリーナももうやめて、私がいることであなたがあなたのお友達の方々と絶交なんかしたらよくないわ!今仲直りしておかないと、一生喧嘩別れになっちゃうと大変よ」
「いいのよ碧華様、わたくしは碧華様を侮辱するような人とこれからも親しくしたいとは思わないわ」
「でも!」
そういうと碧華は走りだして今にも扉を出て行こうとしているソフィアの前に両手を広げて立ちはだかった。
「待ってください! 私がこのパーティーにいることで不愉快に思われるのでしたら。私が出て行きますから」
碧華は日本語で叫んだ。
すると、ソフィアの耳元に日本語ができる女性が耳打ちした。
するとソフィアが笑い出した。
「悲劇のヒロインになったおつもり」
碧華の前で腕を組んで碧華をあざ笑っているソフィアと碧華の間にいつの間にかテマソンが立ちふさがってソフィアの手から写真を奪うとソフィアを睨みつけた。
「黙って聞いていれば失礼よあなた。碧華に何の恨みがあるのかわからないけれどね、出て行く前に、この写真の出どころを言ってからになさいな。こんなことをしてただで済むと思わないで頂戴。裁判に訴えるわよ。あなたが指摘したように日本じゃ確かに碧華はただのおばさんだわ。だからどうだっていうの?ただのおばさんが詩を書いて出版しちゃいけないの?素敵なバッグを作っちゃいけないの?どこに住んでどんな格好をして過ごしたってその人の自由でしょ。こうやって人前にさらして笑い物にしていいって理由にはならないわ。そういうあなたは、家柄やお金をのぞいたら、何かこのただのおばさんより優れている魅力があるっていうのかしら?私はお金や家柄を自慢することだけしか能のないあなたに碧華が劣っているとは思えないわね。いますぐあやまりなさい。人として、それなりの地位にいることを自慢にしているのなら、今の行為は恥ずべき行為だわよ」
「まあ~言わせておけば失礼の数々、テマソン様、あなたもどうかしているのではなくて、こんなおばさんよりわたくしが劣っているっていうの?」
テマソンとソフィアがにらみ合いをしている間にさわぎを聞きつけたヴィクトリアがやってきてテマソンの頬を軽くはたいた。
「テマソン、レディに対してなんですかその言葉は失礼ですよ」
そういってヴィクトリアはソフィアの方に向き直ると頭を下げた。
「ごめんなさい、こんな年寄りが口出すことじゃないんですけどね。うちの馬鹿息子があなたに失礼な言動を言ってしまって本当の申し訳ありませんわ。テマソンはこと碧華さんに関しては少し冷静さをなくしてしまう所がありますの。テマソンあなた言い過ぎですよ。それに碧華さん、あなたもですよ。いつもいっているでしょう。レディたるもの、朝おきたらまず身だしなみを整えなさいと、あなたは日本では気を抜きすぎですわよ。本当にごめんなさいね。私の子供達が原因であなたとカリーナ様が仲違いなどされてしまっては末代までの恥になりますわ。どうかこの年寄りに免じて気を静めていただけないかしら。この通り」
そう言ってヴィクトリアはソフィアに向かってもう一度頭を下げた。
「まっまあ、ヴィクトリア様に頭を下げて頂く理由がありませんわ。どうか頭をおあげくださいませ。わっわたくしも言い過ぎましたわ」
ヴィクトリアが出てきて頭を下げたことでソフィアも強引な態度をとることを止めた様子だった。
「あらわかっていただけますの?」
「えっええ、わたくしも出過ぎたことをしてしまいましたわ」
「そう、ではカリーナ様と仲直りの握手をしていただけませんこと?この私をたてると思って」
「それは…」
ソフィアはヴィクトリアの言葉に躊躇しているとカリーナがソフィアに近づいてきて言い放った。
「あら、わたくしはよくってよ。但し、碧華様におあやまりになっていただくのが前提ですけれど。碧華様の許可なしに碧華様のプライベート写真を隠し撮りするなんて、プライバシー侵害ですわよ。もし変なやからが碧華様の住所を特定なさって碧華様やご家族の方々にもしスターカーなどの被害が及ぶことになったらあなたどう責任をお取りになるつもりなの?」




