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グラニエ城滞在:ライフVS音也③

それから朝食を終えた九時すぎ、

城門の前にはライフを除いて城の手の空いたスタッフ数人も含めてかなりの人数が帽子をかぶり、

首にはタオル、手には手袋をつけ、大きな透明な袋を持ち集まってきていた。

いつも参加している老婦人たちは驚きの顔をしてチャリーにたずねていた。


「ねえチャーリー、今日はどうしたの?それにあの子達は誰?」


ひそひそと声を小さくしながらチャーリーにたずねるご婦人方は、

実はチャーリーが花の栽培を依頼している仕事仲間だったのだ。


元々ゴミ清掃も、年に一度ヴィクトリアが業者を雇い一斉に清掃を依頼してしているのだが、

それでもよく森に行くチャーリーにはたまに落ちている空き缶や空のお菓子の袋など見て見ぬふりができなくて、森に葉や花を摘みに行くついでに目についたゴミを拾いながら歩く姿を見て、次第に仲間が増えていったのだ。


ご婦人方も、月に一度おしゃべりしながらのゴミ拾いは結構楽しいらしく楽しみにしている様子で集まっているようだった。


「あの子達はライフくんのお友達と碧華さんの娘さんたちよ、昨日から泊まりにきてるの、今日ゴミ清掃するって話したら、お手伝いしてくれるって言い出して、そしたら、お姉様もするって言い出して、この人数が集まったの。今日清掃の後時間あったら、みんなで湖でピクニックする予定なのよ、一緒にどう?」


「あああの碧華さんの娘さんたちかい、若いのにゴミ拾いなんかしようって日本人の子は違うねぇ。家の孫に見せてやりたいぐらいだよ」


「そうだねえ。でもピクニックって、私らも参加させてもらってもいいのかい?」

「えええもちろんよ。今日は料理長さんがたくさん昼食を用意してくれているのよ」

「わあ~!素敵だねえ。私はもちろん参加させてもらうわよ」

「私も、こんなチャンス逃してたまるもんですか」


ご婦人方はご機嫌で話合った。


それからすぐにめいめいにゴミ袋を持ち、森に向かって歩きながら途中道路の脇に投げ捨てられているゴミを拾いながら楽しそうに会話を楽しみながら歩きだした。


栞も優とエンリーと音也の四人で楽しくおしゃべりしながらゴミを拾いつつ、森に向かって歩きだした。



森までの一本道をゴミを拾いながら歩きだして半分ぐらいまできたところでみんなの手に持っていたゴミ袋がゴミでいっぱいになってしまった。


「ねえチャーリー? いつもこんなにゴミが落ちているの?」


ヴィクトリアは手にたくさん詰まった空き缶やゴミを眺めながらチャーリーにたずねた。


「いいえお姉様、いつもはこの道にはそんなに落ちてないわ。マジョルカの木の辺りは毎回結構ゴミが捨ててあるけれど」


「そう? こんなにゴミがあるんだったらゴミ清掃も頻繁に依頼しないと駄目ね」


ヴィクトリアはそういいながら森へと続く道にまだまだあるゴミを眺めながらため息をついた。


「ヴィクトリア様、最近となり街の郊外に新しくショッピングモールがオープンしましたでしょ。実は、あそこに通じる抜け道がその森の近くの道を通っているんですよ。私らもよく利用するんだけど、逆に、向こうからくる車も多くなって、最近ショッピングした帰りにあの森を見にくる人が勝手に路上駐車して森の中に入りこんで色んな食べ物や食べかすなんかをそのまま捨てて帰るやからが増えたんですよ。それで帰りはこの道を通って帰るみたいなんですけど、私も時々車から缶とか投げ捨てるのを見かけるんですよ。その時は怒鳴りつけてやるんですけどね」


一人の老婦人が言った。


「あらそうだったの?知らなかったわ。マジョルカの森を見に来るだけならいいけれど、路上駐車やゴミの放置がひどいようなら立ち入り禁止を考えなきゃいけないわね」


「全く迷惑な話ですよ。あそこは私らにとっても神聖な場所ですし、マジョルカが怒って私らの住んでるところに災いが振りかからないといいんだけどって話してるんですよ」


「わかったわ、早急に対策をたてるわ。でも、もう全員の袋いっぱいのようね。ゴミ袋取りに行かないといけないわね」


ヴィクトリアは周りを見渡していうと、エンリーが言った。


「じゃあ、僕が走って追加の袋をとってきます。ついでにゴミの収集も庭師の方たちに車の手配もお願いしてきます」


「あらエンリー、あなたはいいわよ、スタッフの誰かに行ってもらうから」


そういって少し離れたところでゴミをまだ拾っている男性スタッフに声をかけようとするのを栞が止めて言った。


「おばあ様、私に任せてください。わざわざ取りにいく必要はありませんわ。庭師の人達も仕事中ですし、トラックを貸していただけるのなら、暇を持て余している人間を一人知ってますから、聞いてみます」


「あら、それなら私も心当たりあるけど、来るかしら?」


ヴィクトリアも栞が誰の事を言っているのかピンときたのか城を見ながら不安そうに言った。

すると、栞は笑みを浮かべて即答した。


「大丈夫ですわ。エンリー、ライフに電話をかけてみて」


栞の言葉にエンリーも浮かない表情を浮かべていたが、

とりあえずエンリーはライフに電話をかけてみた。


一方栞は自分のスマホを取り出すと目の前の道の反対方

向にスマホをしばらく向けながら何か操作をしている様子だった。


「ライフ、すまないが、ゴミがいっぱいになってしまったから、今から、ゴミ袋を多めに持って庭師の人からトラックを借りてきてくれないか?」


エンリーがライフの携帯に電話をかけるとすぐにライフが出たが、

エンリーが危惧したように嫌だと言い張った。


「栞ちゃん、やっぱり嫌だっていってるぞ、僕がとってくるよ」

「ちょっと貸して」


そういうと栞はエンリーのスマホを借りると、電話の相手のライフに向かって言った。


「ライフ、あなたの嫌いな奉仕作業だけど、今日は参加した方がいいと思うけどなあ~今写真をあなた宛てに送信したから。じゃあ待ってるわよ」


それだけいうとそれ以上何も会話せずにあっさり切ってしまった。

これにはヴィクトリアも驚いて聞き返した。


「栞ちゃん、ライフ来るって言っていたの?」


「いいえ何も、だけど必ず来ますよ。ねえおばあ様、、ライフがくるまで休憩しましょうよ。ゴミ袋がないんじゃどうにもならないし」


そう言うと、栞はその場に座り込み、

汗をタオルで拭いながら手袋をはずすと背中に背負っていた小さなリュックにスマホを入れ、

中からペットボトルを取り出してミネラルウォーターを口に含みだした。


ヴィクトリアとエンリーは首を傾げながらも休憩することにした。


他もみんなも既にそれぞれめいめいに地面に腰をおろし、

噴き出す汗をぬぐいながらミネラルウォーターを飲んで休憩していた。


「ねえ栞ちゃん、写真って何をあいつに送ったんだい?」


「えっ、何って目の前の景色と同じ早朝のきれいな風景の二つだけよ」

「?」

「あら栞ちゃん、今朝の様子見てたの?」


栞の意味深な言葉にピンときたのがチャーリーだった。

隣にいるヴィクトリアもエンリーも何のことだかさっぱりわからない様子だった。


「ええ、食堂に出ようと思って廊下にでて廊下の窓から下を見下ろしたら偶然目の前の景色と同じ景色が目に入ったものだから」


「目の前と同じ景色・・・」


エンリーがそこまで言って分かったようだ。

まだ首を傾げているヴィクトリアにチャーリーが耳打ちした。


「お姉様、たぶんだけど、栞ちゃん、ほら目の前に座ってる二人を写してライフ君に送信したんじゃないかしら?今朝、教会を掃除してくれたの優ちゃんだけじゃなくて、音也くんもなの。教会をでてすぐ二人一緒に仲良く走って部屋に戻って行ってたから」


「まあそうだったの? もしかしてライフピンチなんじゃないかしら。そうね、そういえば碧ちゃんが言っていたわね。音也くん優ちゃんを好きらしいって、あらあら、音也くん好感度アップね。それに引き換え、今日のライフは好感度急下降じゃない。大変ね。面白くなってきたわね。リリーに教えてあげようかしら、あの子、こんな状況大好物よ」


「あら、でもお姉様、今日はリリーちゃん、ビルさんの仕事の接待に同行してるんじゃなかったかしら」


「そうだったわね。残念ね、じゃあ私も報告だけしてあがようかしら」


そういうなり、ヴィクトリアも腰につけていたウエストポーチから携帯を取り出すと

目の前の道を挟んで背を向けて二人で座って話し込んでいる優と音也の写真を撮りだした。


そうこうしていると、ものの十分もしないうちに、一台のトラックが城からやってくるのが見えた。

その車には栞が宣言した通りすごい表情をしたライフが運転していた。  


ライフは車を止めるなりすぐに運転席からおりると、

真っ先に優と音也のいる場所に向かって何やら話しかけているようだった。


その様子をヴィクトリアは面白そうに携帯で撮影していたようだった。

その後合流したライフが優と音也の間に入り、ゴミを一生懸命拾う姿がみられた。


マジョルカの森周辺や湖周辺のゴミ拾いも全て終わり、

その後のピクニックの間でもライフは二人の側を離れずずっと邪魔をし続けたのは言うまでもなかった。

 


 その日、ヴィクトリアの携帯にはひっきりなしに、実況中継しろと、催促の電話をヴィクトリアにかけてくるリリーからの電話があった。


ヴィクトリアはその後、夕方まで携帯を切っていたことは言うまでもない。


そしてなんとその日の夕方、

くる予定のなかったリリーが予定を変更し、翌日にはフランスに行くという四人を空港まで送るという名目で十人乗りのリムジンに乗って城に駆けつけたリリーの姿があった。



「あれママ、今日は父さんとバールガムに泊まりだって言ってなかったっけ?」


ライフは自分の部屋をでてすぐ前の通路の窓からしきりに何かを見ているリリーを見かけて声をかけてきた。


「その予定だったんだけど、ママンも一緒にカリーナのパーティーに行くっていうから、一台で空港にいった方がいいでしょ。朝は特に車が渋滞するしね。だからリムジンを特別に手配してあげたのよ。ちょっとここに用事もあったしね。明日には戻るわよ。ビルは明後日には栄治さんと合流するからまた別々だけどね。それよりライフ、あなただけここの塔を使ってるの?他のみんなは全員東塔に泊まってるんでしょ」


「そうだよ、ここには僕のお気に入りの部屋があるからね。おばあ様も僕の部屋にしていいって許可もらってるし、着替えとか必要なものは置いてるんだ。寝るだけなら別に塔が違っても問題ないからね」


「あらそうかしら」


リリーはそういいながら、チラッとライフに視線を移しただけですぐに通路の下の方を熱心に眺めていた。


「何をそんなに熱心にみてるのさ、何かあるの?」


ライフは気になってリリーの横に立ち通路の窓から下をのぞき込むと、

ちょうど東塔の方から、優と音也が二人で並んでこちらの塔に向かって歩いてくるところだった。


「あいつ、また優ちゃんと話してやがる、昼間さんざん言ったのに」


そう言うなりライフが駆け出そうとした瞬間、

スッとリリーの腕が伸びてライフの左腕を掴んだ。


「あら、お邪魔しちゃだめよ坊や。あんなに楽しそうにおしゃべりしてるじゃない」

「何見てんだよ。そろそろ老眼鏡かけろよ」


ライフはリリーを振り切って下に行こうとしたのだがリリーがなかなか離してくれなかった。


「そうだわ。これからママンの和室でトランプするんでしょ。私も参加しようかしら、さっ、私達は先にママンの和室に行ってましょうよ」


そういいながら嫌がるライフをひっぱりながら反対方向へと歩き出した。


「行きたきゃ一人でいけばいいだろ。僕は向こうに行きたいんだ」

「あの二人もすぐにくるわよ」


「あの二人、食堂に立ち寄るつもりなんだよ。二人きりになんかさせてたまるか」


暴れまくるライフが力技でリリーの手を振りほどくと、

すごい速さで反対側の通路を駆けだし、アッと言う間に階段へと消えていた。


「あらあら、本当に面白い状況になってるじゃない」


リリーは息子が走りさった通路を眺めながら独り言をつぶやいた。


その夜、栞や優たちがヴィクトリアの部屋に集まり、

トランプで盛り上がったが、二人ペアになりするゲームの時に、

ライフ一人が余ってしまいリリーとくむ羽目になり、

膨れだすライフを相手に面白そうに笑いながらご機嫌なリリーが一人勝ちをして夜が更けていった。


翌朝になっても相変わらず仲のいい優と音也の様子に一人ご機嫌斜めのライフをからかいながらリリーは優に話しかけた。


「優ちゃん、家の息子がやきもちを焼いてるから、たまにでいいから相手してあげてね」

「えっ?」


優は何のことだか理解していないようだった。


そんな優にリリーは笑顔を向けただけでそれ以上は何もいわなかったが、息子があわれでならなかった。


『ガンバレ息子!でもなんて可愛いのかしらあんなにむきになっちゃって、本当に好きなのね優ちゃんのこと』


リリーは優の側に行き、嬉しそうに話しかけている息子をみながら小さく微笑んだ。


その日は朝食後、栞と優、それにエンリーと音也の四人はリリーとチャーリーに丁重に別れの挨拶をすると、

ヴィクトリアとライフと共に、リリーが用意した大型のリムジンに全員乗り込み、

碧華とテマソンが合流する空港へと向かった。


一行はその後フランスに向かい、シャリーとフレッドがフランスの空港まで出迎えてくれる手筈になっていた。  


結局リリーは結局空港まで同行せず、

みんなを送りだすと、

最愛の息子の珍しい嫉妬する様子を目の前で堪能し、

ご機嫌でビルの待つアトラス第二の都市バールガムへと慌ただしく戻って行った。



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