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夏本番、アトラス滞在記⑥

先に喫茶店にはいっていた子供たちに遅れて合流した碧華は約束通りに碧華が試作したボデイーバッグを音也に渡した。


それを受け取った音也は予想以上の喜びを示した。

音也はさっそく、服のあちこちにいれてあるスマホや財布などをその中に入れ込み始めた。


「碧華先生、後で返せっていわないですよね」


「大丈夫よ。それよりエンリーどう? フレッド用は色合いはもう少し濃い深緑で、これにはついてないけどポケットもあるんだけど。えっと写真がこれなんだけど」


碧華はそういいながら、フレッド用にテマソンが縫い上げた別のバッグの写真を見せた。


「そうですね。確かに写真の方が兄さんは好みだと思いますよ」

「本当? 直した方がいい箇所とかない? そうだ、ライフはどう思う?」

「いいんじゃない」

「あらなあにその返答、ライフ冷たいじゃない」

「だって僕は関係ないからね。ずるいよ碧ちゃん!試作品でいいから僕にも作ってよ」


「あらライフ、あなたには先月、今あなたがもっているそれ私が作ってあげたじゃないの。縫製も布の質もその方がいいのよ」


テマソンがいうと、嫌な顔をしてライフが言った。


「そうかなあ? よくわかんないけど、音也のバッグの方が僕好みなんだよな。質とかいいからさ、碧ちゃんがデザインしたのが欲しいんだよな。いつも僕には作ってくれないじゃないか」

「まあ、この子は」


「あら、そんなことをいったらテマソンが可哀そうよ。あなたの誕生日になったらテマソンと一緒に新しいのを作ってあげるわ」


「本当?約束したからね。そうだ、紙に書いておいてよ。碧ちゃん、いつもとぼけるからさ」

「はいはい」


そういうと、碧華はテーブルにあった紙の使い捨てのコースターの裏に誓約書と書いて、誕生日に新作をプレゼントをする約束を書き記した。

それを隣でみていた栞が碧華の耳にささやいた。


「エンリーにもお願いねママ」

「あらもちろんよ」


そういうとそれをライフに手渡しながら、エンリーに向かって言った。


「あなたにも今度はファイルとかノートパソコンとかも一緒に持ち運びできる大きめのリュックを作ってあげるわ。肩掛けカバンよりリュックの方が移動しやすいでしょ」


それを聞いたエンリーは嬉しそうに頷いた。


「なんだよ碧ちゃん、やっぱりこいつと僕への反応違い過ぎだよ。ひいきだよ」


ライフは碧華に向かって膨れてみせた。


「あらそんなことないわよ、エンリーにはいつもお世話になっているし。でもまっ、ライフには将来お世話

になるかもしれないから、気合を入れて作らせていただくわよ。もちろん」


碧華はそういってライフにウインクしてみせた。


その時、喫茶店にご婦人の二人連れが入ってきた。

そのご婦人は碧華たちの方に視線を向けて驚いたような顔で近づいてきた。

一人はサングラスをしていていかにもセレブと言ったいでたちだった。


「あら碧華様にテマソン様ではありませんか?」


日本語で話しかけてきたその女性はおもむろにサングラスを外すと、なんとカリーナだった。


「まあカリーナ様、よく会いますね。この間は本当に助かりました。ありがとうございます」


碧華はその女性がカリーナだと知ると、立ち上がりその女性に一礼をした。


「あら、やっぱり碧華様。今日はAOKA・SKY仕様なのですね。一瞬通り過ぎてしまう所でしたわ。碧華様、わたくしのことは呼び捨てでとこの間申し上げておりますわよ」


「あら…そうだったわね。じゃあカリーナ、あなたも私のことは碧華でいいっていいましたよ」

「あら、でもやはり碧華様は碧華様ですわよ。呼び捨てにはとてもできませんわ」

「じゃあ、私も呼び捨てはできないわね」

「あら困まりましたわ」

「じゃあ、僕と同じように碧ちゃんっていう呼び方はどうですか?」


二人の会話に割って入ってきたのは碧華の向いの席に座り、

カリーナのすぐ横に座っていたライフだった。

ライフは立ち上がると、カリーナに一礼しカリーナの顔をみて笑顔で言った。


「あらあなたは確か、レヴァント家のご子息のかたでしたわね。ごきげんよう」

「これは光栄です。カリーナ様が僕の顔を覚えていてくださっていたなんて」

「あら当然ですわ。わたくし面食いなんですのよ」


そういってカリーナも笑顔をライフに返した。

カリーナは一緒にいた女性に何かを小さく囁くと、

碧華には何語だったのか聞き取れなかったが興奮したように碧華に近づき握手を求めてきた。

碧華は首を傾げながらもその女性と握手を交わした。


「この子スイス人なんですのよ。碧華さ…あっこほんっ!碧ちゃんの大ファンなんですのよ。新作本の販売の順番の列に並びにきていたんですけれど、今夜スイスでパーティ―の予定が急遽はいってしまったので夕方の便でスイスに一時戻る所でしたの。わたくしもちょうど同じパーティ―に参加予定だったので一緒に行くところでしたのよ。また朝一番で戻ってくる予定なんですけれど」


「あら、本社で販売するなんて告知だした覚えはないんだけど…もうそんなに並んでいるの?」


「そうですわよテマソン様、ファンを甘く見てはいけませんわよ。わたくしなんか、発売すると告知があったその日から召使たちに交替で並ばせていますのよ。毎朝八時には必ず顔を出すようにはしてますしね」


「ねえカリーナ、そんなことをしなくても、ネット予約で十分じゃないの?私も昔ファンをやってたグループのコンサートチケットを買うためにお店の前で徹夜で並んだことあるけど、大変じゃない。ねえテマソン、いっそのこと、ネット予約販売の人にも特典つけてあげたら並ぶ人減るんじゃないの?」


「あら、お言葉を返すようですけれど、ファン心理とは、発売すぐに手に入れたいものなんですのよ。ネット予約ですと届くのに時間がかかりますでしょ。発売日に発送されるんですもの」


「そう…じゃあ、発売日に間に合わなかったら大変よね。どうしよう。焦っちゃうわね」


「碧ちゃん、大丈夫ですわ。本当のファンは気長に待ちますわよ」

「発売日までに間に合いそうになかったら正直にネットで懺悔告知するわね」

「碧華先生、それだと間に合わす気がない発言に聞こえますよ」


「あら音也くん、間に合わす気がないんじゃなくて、間にあう気がしないだけよ。だってまったくいいアイデアがひらめかないんだもの。テマソンもちょくちょく新作発表会の方をあれこれ言ってくるし、分身の術を使わなきゃ無理よ。だいたいテマソンがいけないのよ、完成予定もないのに先に発売予告をいれちゃうんだもの」


「あら碧華、あなたこうでもしないと、いつまでたっても次回作を考えようとしないじゃない。それにね、ディオレス・ルイの本業はバッグ販売よバッグの新作発表会の方が先なんだから、バッグを優先するのは当然じゃない」


「でもねえ~」


「クスッ碧ちゃんならできますわ。わたくしバッグの新作発表会の方にも参加させていただきますわよ」


「いつもお買い上げありがとうございますビモンド夫人。今回の新作も素敵な仕上がりになっていますわよ」


「あら本当ですの?毎年新作を楽しみにしてますのよ。また主人にバッグが増えたのかって愚痴られそうですわ」


「カリーナ、バッグの新作本当にどれも素敵なんだけど、今企画している目玉商品の展示品は絶対見る価値があるわよ。私も今から楽しみなの。音也くん、あなたのお母さん天才じゃないかしら、すごい物作ってくれたんだから、あなたのおば様も達人ね。お礼言っておいてね」


「碧華先生にそう言ってもらえるなんて知ったら二人とも喜びますよ。今まで変な趣味だって親戚中に馬鹿にされてきたみたいですから」


「ええ~うそ! へんだなんて信じられない、すごいと思うんだけどなあ・・・あの着物は」


「着物?」


「あっ今のは聞かなかったことにしてねカリーナ、バッグには着物生地は使っていないから、あくまでも展示品の話だから」


「碧華、それ以上しゃべらない方がいいわよ。秘密が駄々洩れよ」


「ご安心くださいな。他言は致しませんわ。でもそちらの彼、わたくしどこかでお会いしたことはないかしら?」


カリーナは音也の顔をまじまじとみながら言った。


「そうなの音也くん?」

「いえ僕は初めてお目にかかりますが」

「そう?最近どこかで…お名前をお聞きしてもいいかしら?」

「はい、音也 写楽と申します」


「写楽…しゃ…あっ、思い出しましたわ。今度のパーテイーの余興に今アトラスで話題の日本のバイオリン奏者の智也写楽さんを急遽フランスに招いているんですのよ」


「あっ、それ俺のいとこですよ。そういえばそんなことを言ってました。急に演奏の依頼が来たって」


「あら、じゃあ音也くんが独りぼっちで一晩過ごさなきゃいけなくなった原因を作ったのはカリーナだったの?」


「あら、どういう意味ですの?」


「あのね。もともとこの子、いとこの智也君に会いにくる予定だったのよ。でも今日合流する予定だったいとこさんが急に予定が入って音也くんの相手をできなくなったから、十三日に変更してほしいと連絡がきたんですって、だからこの子たちの予定に同行させてあげることにしたのよ」


「あら、そうでしたの?ごめんなさいね」


「いえ、お気になさらないでください。僕は逆にラッキーだって思っているんですよ。こうしてあなたのような素敵な女性にお会いできましたし、お城にも泊まれることになっていますから」


「あらじゃあ、あなたも十二日のパーティーにいらっしゃらない?ご招待いたしますわよ」

「えっ本当ですか?」

「えっいいのカリーナ?」

「ええ、かまいませんわ。智也写楽さんのいとこさんなら大歓迎ですわ」

「あっでも、パートナーがいないわ。二人一組の参加が条件よね」

「あら、仕方ありませんわ。特別によろしいわよ」


「ありがとうカリーナ。実は私気になっていたのよ、十二日は音也くんを一人でホテルに残してパーティーに行くこと。あっそうだわ。ねえテマソン、この際ママンさそったらどうかしら?昨日も最近パーティーへの招待状がママンあてに来なくなったってぼやいてたし」


「そうねえ…私にもぼやいてたわ。だけど、迷惑よ」


「えっママンってもしかしてヴィクトリア様のことかしら?」


「ええそうよ。だめかしら?」


「まあ~! ダメだなんて、こんな光栄なことはありませんわ。ヴィクトリア様はもうご高齢ですから、パーティーは引退なさったってお聞きしておりましたから、招待はご遠慮していましたのよ。ヴィクトリア様がいらしてくださるのなら大歓迎ですわ」


「本当?じゃあ今聞いてみるわ」


そういうと碧華はすぐにスマホを取り出すとヴィクトリアに電話を入れた。


すると、ヴィクトリア様は二つ返事で了承の返事をし、

カリーナと変わっても直接パーティーへの参加を快諾したのだ。


このサプライズにはカリーナ自身もかなり感動している様子だった。


「ああ~夢じゃないかしらヴィクトリア様がわたくしのパーティーへ参加してくださるなんて、今日はなんていい日なんでしょう」


カリーナはこの後も上機嫌で碧華たちと出発の時間までおしゃべりを楽しんだ。

碧華たちは空港を出て、グラニエ城に到着したのは夕方の5時を過ぎていた。

カリーナと友人も上機嫌でスイスへと出発していった。



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