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ライフの未来

「なあどっちがいいと思う?」

「なにがだよ」


音也は早朝の京都に向かう電車の中でずっとブツブツ言っているのを気になりながらも聞き流していたが、音也が今度は執拗にエンリーに答えを求めてきたのだ。


「お土産だよ、碧先生からもらったのをどれをあげるかで悩んでるんだよ。全部自分のにしたいけど、それじゃあやっぱりまずいだろ、かといって、付箋を二人に渡して本を自分のにしちゃうと、あとでバレた時の怒りが想像できるだけにさすがにできないし、かといって、この日本語版は捨てがたいし、だけど英語版のサイン入りもほしいしさっ」


「そうだな、碧華ママのサインは貴重だぞ、本当に異例なんだぞ。よっぽどお前のこと気にいったんだな」


「そうかあ、なんか地味にうれしいなあ。あの碧華先生に気に入られたなんてな。確かにお前から聞いていた通りの人だな。でっどうすればいいと思う?」


「しるか」



その後も音也は京都駅に到着するまで悩み続け、

結局結論がでないまま、音也は大学にそのまま向かい、

その後サークルにも顔をだしたりとして家に帰りついたのは夜になっていた。


「ただいま」

「お帰り音也、どうだった?あれ渡してくれた?」


「ああ、渡したよ、喜んでいたよ。俺疲れているんだ。もう寝るから、起こさないでくれよ」


「あら冷たいのね。話ぐらい聞かせてくれてもいいでしょ。あなたの好物たくさん買って待ってたのに」


「・・・・」


音也は何も言わずに無言のまま部屋に入って行った。


「お母さん、そっとしておいてあげたら、お兄ちゃんもしかしたら失恋したのかもしれないわよ」


「ああ、そういえばエンリーくんの彼女の妹さんが可愛いってしきりにいっていたものね。でもあの音也が振られたの?あらじゃあ初めての失恋なの?可哀そうに」


二人の話声は音也にも聞こえていた。


『いいたいこと言いやがって』


音也は自分のベッドに横になると机においたリュックを眺めながらため息をついた。


「どうするかなあ…」


「日本語版まじでいいんだよな。はあ・・・やっぱり、日本語版置いておきたいよなあ、けど、どうせ母さん俺の部屋はいるなっていっても勝手にはいるしなあ・・・どうするかな・・・」


音也が悩んでいると、ラインの音が鳴った。


「誰からだ?」


スマホをのぞき込んだ音也は不意に飛び起きた。ラインは碧華からだった。


「どっどうして?」


〈音也くん、家に戻ったころかな? 疲れてるところごめんね。エンリーも今帰ったんだけど、エンリーから聞いたんだけど、日本語版なんだけど、私ちょうど、初版本から全部日本語版を再発注しようかと思っていた所だったから、もしよかったらあなたの分も一緒に注文してあげましょうか?〉


音也はそのラインをみて何度も何度も読み返した。


「なんで? なんであったばかりの俺に?? いたずらじゃないのかな、俺騙されているんじゃないのかあ?えええ~」


音也は碧華の申し出に信じられないというかのように何度もその文面を読み返した。

そして、失礼のないように慎重に返信を返した。


〈あの・・・そんなことをお願いしても本当にいいのでしょうか?日本語版を読ませてもらってやはり英語版とは違う意味で改めて感動していた所なんです。初版本から日本語版が読めるなんて感激です。料金は支払いますので是非よろしくお願いします〉


音也が返信すると、すぐ既読がついた。


〈そう、じゃあ注文しておくわね。だから日本語版の詩集はお母さまにきちんと渡してね。私の知る限り、日本でのファン第一号さんにお礼がしたいから。それに梟のぬいぐるみ本当に可愛いくて私の宝物になっちゃったから、本当に渡してね〉


〈了解しました。今すぐ渡してきます。でも一つ聞いてもいいですか?どうして碧華先生は自分に正体を明かしてくれたのですか?あの時、とぼけてもよかったですよね〉


〈あら、本当に私無意識に言っちゃったのよ。日本にも私のファンの子がいてくれたなんて感激しているのよ。それにね、エンリーが家に友達を連れてきてくれてうれしかったのよ。ライフもあいつはいいやつですって、あの子が人を褒めるなんてめずらしいのよ。あなたは信用できる子よ。またいつでも遊びにきてね。あなたなら大歓迎よ〉


〈ありがとうございます。碧華先生も京都にくる時は観光地以外のおすすめ穴場を案内しますよ〉


音也は意を決し、恐らく部屋の前でうろうろしているであろう母親と妹へお土産を渡すべくリュックの中をまさぐった。

そして、勢いよく扉を開くと夕飯を食べたいと先にいい、腹ペコのお腹をみたしながら、聞きたがっている話をしゃべりながら、そして最後に碧華からのお土産を二人に手渡した。 

  

その中身をみた二人が悲鳴にも似た感激の歓声を家中にとどろかせたのはいうまでもなかった。

その本と一緒にメッツセージカードが同封されていた。


*****


 〔この度は素敵なふくろうの手作りマスコットをいただきありがとうございます。


ご子息から、私の本を愛読して頂いているとお聞きし、感激しております。


これはほんのお礼の気持です。受け取っていただけると幸いです。  AOKA・SKY〕


*****


月曜日の夜、写楽家で碧華がプレゼントした本で盛り上がっていた日の朝、桜木家ではいつも一週間が始まっていた。


碧華はいつものように三人分のお弁当を作り、

栄治と優を起こし、その後栄治の車で出発する二人を見送り、

栞を起こし栞と共に朝食を食べると大学に向かった栞を送りだし、

洗濯を済ませ家事が一段落した後で、まだ寝ているであろうライフを起こす為に隣に顔を出した。


すると意外にもライフはもう起きていてスマホで真剣な顔で何か検索している様子だった。


碧華は開いたままの扉をノックしてライフに声をかけた。


「ライフおはよう。朝食食べた?」

「うん、エンリーの奴が朝早くに叩き起こしに来てあいつの作った朝ごはん食べたから」

「そう、じゃあ気が向いたら買い物に行かない? 帰るの明日でしょ?」


「いいよ、今日は一日アニメみるつもりだったから、お菓子買いたいしさ。今から行く?」

「そうねえ・・・もうすぐ九時になるし、行こうかな。じゃあこっちの玄関に車持ってくるわね」


碧華はそう言うと家に戻ると鍵を閉め車を隣の玄関へとまわし、二人は近くのショッピングモールに買い出しに向かった。

その道すがら碧華はライフに話し出した。


「ライフ、あなた優と音也くんのことだけが気になってわざわざ日本に来たんじゃないんでしょ? どう着てみて何か心境の変化はあったの?」


「なんのことかわからないな。もちろん優ちゃんの事で来たんだよ、ちゃんとお邪魔虫は排除したし、目的は達成したよ」


「そう? じゃあ明日には本当に帰るのね?」


「何? 僕はまだ帰らないって居座るとでも思ったの? 碧ちゃんがいてほしいっていうならいてあげてもいいけどね」


「あら優しいわね。ねえライフ、おばちゃんに話しても何も解決しないと思うけど、独り言ぐらいなら聞いてあげるわよ、答えは自分でみつけなきゃいけないけど、言葉にだして初めて気づく思いもあると思うしね」


「はあ・・・ママに聞いたの?そうだよね。筒抜けだよね。わかってたんだけどね、なんでだろうな、気が付いたら日本行きの飛行機に乗っていたんだ。前にエンリーの奴が家出した時の気持ち、今ならわかる気がするなあ・・・ここに来たって何の解決にもならないし、おせっかいなおばさんもいるのになっ・・・なんでだろうな」


碧華はバックミラー越しにライフを見たがライフは横を向いたままだった。


「安心しなさい。私はあなたに説教できるような立派な人間じゃないから何も言わないわよ。結局は自分で決断しなきゃいけないんだから、誰かに言われたからこんな人生になったなんて生き方なんてつまんないじゃない。思いっきり悩みなさい。答えはどこかにあるはずよ。あなたがどう生きたいのか、人生の岐路にあなたは立っているのよ。あなたの決断で多くの人たちの人生を変えてしまうかもしれないけれど、あなたがその多くの人の犠牲になる必要もないと思うわ。あなたがそう感じているのならだけど」


「碧ちゃんらしい考え方だね。だけど理想と現実は違うんだ。僕に選択史はないんだ」


「そうかなあ。人生なんて何が起こるかわからないものよ。それと一緒で、自分の決断一つでいくらでも変わるものよ。もしかしたら一秒後に空から隕石が落ちてきて私達一瞬で天国に逝っちゃうかもしれないわよ。私達が今命を落としても会社も世界も何事もなかったように明日はきて世の中は動いていくわよきっと」


「確かにそうだね・・・」


「そうよ、自分しかいないなんて思いこんでいるのはあなたの思い上がりよ。だからといって、答えは私も知らないわ。あなたが自分で見つけるしかない。愚痴やため息ならいくらでも聞いてあげるわ。あなたの気がすむだけいていいのよ。今、あなたがリリーお姉様やビルさんと話したくないっていうなら、ぜったい取りつがないわ。テマソンにもくぎを刺しておいてあげる、あなたに関しての質問には一切答えないから聞かないでって、そうね栄治さんにも言っておいてあげるわ。ビルさんからのあなたに関しての質問には何も答えないでってね」


「ありがとう碧ちゃん、もうしばらく考えさせてよ」


「悩みなさい、悩むべきものがあるというのは幸せなことよ、答えは必ずあるわ。よし、お菓子たくさん買い込んでやけ食いするか、お腹いっぱい食べて思いっきり笑ってたくさん寝たら何か見つかるわよ」


「本当?」


「信じることが大切なのよ。もしくは自己暗示をかけるとかね。諦めないかぎり、あなたの中にいるあなただけの神様はきっと答えを導き出してくれるわ」


「僕の中にいる神様?」


「そうよ、レヴァント家はマティリア様が守り神様だったかしらね。私もマティリア様の存在は感じるし、あなたを守ってくださっていると思うわ。だけどね。私はこうも思っているの。私はね不安な時はいつも心の中にいる自分だけの神様にお願いするのよ、だってその他大勢が信仰している神様にお願いしても神様は忙しすぎて聞いてくれないかもしれないでしょ。それぞれの心の中に生まれた時から自分だけの神様がいるって思っているの。あなたの中にもいらっしゃるわ。あなただけの神様は、あなたを生まれた時からあなたの中にいてあなただけを見てきてくれているから、あなたを一番よく知っている神様よ、あなたの最善の答えをきっとあなたに教えてくれるわ、あなたさえ聞く耳を持ちさえすればね、たまには自分の心に問いかけてみるのもいいものよ。何がしたいのかをね」


「さすが詩人だね碧ちゃんは、僕少し元気が出てきたよ」


「そうだライフ、お菓子のやけ食いもいいけど、これからカラオケ行こうか?」

「カラオケ?」


「そうよ、誰の目も気にしないで個室で思いっきり唄えば気分もスッキリするわよ。あなたも知っている英語の歌もあるんじゃないかしら?」


「いいね。行こう!」


そう言うと二人はカラオケに向かった。

ほぼライフ一人が歌っていたが碧華は楽しそうにその歌声を聞いていた。

ライフも思いっきり声をだして歌ったことで少しスッキリしたようだった。

そしてもうすぐ帰ろうかという時、ライフは突然マイクを持って叫んだ。


「ぁあああああー!」


ライフはそう叫んだ後、しばらくその場に立ち尽くしていたが、スッキリしたいつものライフの顔に戻っていた。


「帰ろうか」

「もう気がすんだの?」

「うん、ありがとう。もう一度真剣に考えてみるよ」


「そうよ、一応努力してみてどうしても嫌なら誰かできる人間に押し付けちゃいなさい。あっこれは私がいったなんて言っちゃ駄目よ」


「そうだよ。できる人間がやればいいんだよね」


「そうよ、あなたにはあなたにしかできない特別がきっとあるはずよ。さあ家に帰ろう、お腹がすいてきちゃったわ。お昼は面倒だからラーメンでいいわよね」


「僕ラーメン好きだよ」


二人は腕を組んで笑顔でカラオケを出て家路についた。

翌日、ライフはすがすがしい顔でアトラスに帰って行った。


後日、リリーからライフの日本での様子を聞かれた碧華だったが何も答えなかった。

ただ一言だけつけ加えた。


「ライフなら大丈夫じゃないかしら。私がいうのも変かもしれないけれど、何も解決策を見出さないで逃げ出すような子じゃないと思うわ。もう少し待ってあげたらどうかしら、きっと自分で答えをだすと思うわ。ごめんなさい生意気なことを言って」


〈碧ちゃんありがとう。私達は急がせ過ぎていたのかもしれないわね〉


リリーも何か思うところがあるのか、その言葉を繰り返しながら感謝を言って電話を切った。

後日テマソンも仕事の連絡の合間にライフの事を話してきた。


「碧華ありがとう。あの子ね、アトラスに戻ってから顔つきが変わったのよ。たまに家に着てカラオケっていうのかしら、あれを日本から買って帰ってきて、家のリビング占領して歌うからいい迷惑なんだけど、ストレス発散だっていうから好きにさせているわ。あの子なりに自分がどう生きたいのか模索しているようね。私はあの子がどんな選択をしても応援してあげるつもりよ、私は何も言える立場じゃないんだけどね」


「そうしてあげて」


碧華はライフの未来が輝いていますようにと祈らずにはいられなかった。

私の宝物達がみんな笑顔でいられる解決策が見つかりますようにと、

碧華は首につけているネックレスにそっと触れながら心の中で祈りを捧げた。


『レヴァント家の守り神マティリア様、どうかライフの決断した未来が光輝くものになりますようにあの子をお導きください』



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