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誰だそいつは?

四月になると、栞は大学二回生に、優は高校三年にそれぞれ学年が上がっていた。

優は受験生だというのにまだまだのんびりしている優を見かねて、五月に入り、連休を境にエンリーが日曜日に六時間のスパルタ家庭教師をかってでた。


平日もエンリーが午後の授業がない日は夜に二時間程度家庭教師をしてくれるようになった。もちろん栞もいつも同じ部屋にいたのだが、栞は勉強を教えるというよりは隣でスマホをみていることの方が多かった。そのおかげで優も栞の時同様塾には行かず、何とか大学受験に挑もうとしていた。

その為、栄治と碧華はあえて勉強のことは本人の意思に任せ放任主義をつら抜いていた。


今日は帰り際、以前行われていた模試の結果が担任から配られた。その結果を目の当たりにして優は大きなため息をついていた。


「はあ~、どうしてこの世に数学なんて教科があるんだろう」


優はつい数分前に担任から返された模試の結果を眺めながら大きなため息をついていた。


「ねえ優模試判定どうだった?」


クラスメイトの美耶と多美が優の机に近づきたずねた。二人とも成績は優と同じぐらいだった。


「聞かないで~、数学が壊滅的だよ~」


優は机に手を置き模試結果を覆い隠した。それを奪い取りながら驚きの声を上げた。


「何このいびつな形、数学以外いい点なのに数学が壊滅的じゃん」

「もう見ないで、数学なんてこの世から消えてなくなればいいのに」


「でも優はいいじゃん、英語と国語ができるんだから。みて多美、優ったら英語190点だって、信じられない。みてよ数学が全滅でもB判定でてるんだよ」


優の模試の結果を奪いながら盛り上がっていた。優はため息をつきながら帰り支度を整え、その模試結果を奪うと二人に言った。


「二人とも帰らないなら先行くよ。電車間に合わなくなるよ」


優は教室の時計に視線を向けながら言うと二人は慌てて用意を始めた。三人は学校を出て駅に向かいながらも模試も話しで盛り上がった。


やがて電車に乗り、乗り換えの駅でクラスメイトとは別れ、ホームで次に乗る電車が三十分の時間があったため駅のホームのベンチに座りボーっと向かい側のホームを眺めていた。その時向かいのホームに電車が到着して学生服をきた他校の学生がゾロゾロと電車からおりてきていた。


優は何気にその様子を眺めていると、その中の一人がこちらに向かって手を振っているように見えた。優自身、眼鏡をかけていなかった為、顔立ちまではみえていなかった。


誰かに手を振っているのだろうと気にも留めていなかったが、五分後、数人の学生が優がいるホームにも来て電車を待っていた。その中の一人が優の前で立ち止まり声をかけてきた。


「桜木?」


その声に顔をあげると、目の前に田尾が立っていた。


「あれ田尾くん久しぶり、今帰り?」

「ああ、桜木も?珍しいな」

「そうだね、今日は七時間目がカットになったから一時間早いんだ」

「そうなんだ」


優はそれから何を話していいのか言葉が出てこず黙っていた。田尾も何も言わずに電車を待っていた。その時、優を呼ぶ声が聞こえた。優が振り向くとそこには碧華が手を振ってこっちに向かって歩いてきている所だった。


「ママ!」


優は立ち上がると碧華に駆け寄った。


「まさか優がいるとは思わなかったわ」

「ママのほうこそ、帰るの明日じゃなかった?」


「うん、そうなんだけど、今日の便がとれたから帰ってきちゃった。だってみんないないと寂しいんだもん」

「そんなこと言ってもどうせ、仕事のことでテマソン先生と喧嘩して帰ってきたんでしょ」

「あら優ったらエスパー?だってテマソンたら酷いんだから」


そういいながら碧華は優を自分の所に抱き寄せた。その時に優の隣で驚いたような顔をしてたっている田尾に碧華が気づき、優を離すと田尾に向かって話しかけた。


「あなた・・・確か優の小学時代の同級生の田尾くんだったわよね」

「あっはい、初めまして」

「あら~私お邪魔しちゃったのかしら?」

「いえ、さっき偶然あっただけですから」


田尾は緊張した様子で返事を返していたが碧華の姿をみて驚いているようだった。


「そう。あっそうだ、優、ママちょっとお惣菜買い物して帰るから一本後の電車で帰るわ。栞が帰ってたら言っといて、ご飯だけ仕かけてくれたらいいからって、今日は木曜日だから栞の当番でしょ。どうせあの子何も用意してないでしょうから」


「わかった」

「じゃあね」


碧華はそういうと笑顔で優に向かってウインクすると、キャリーバッグを持つとくるりと向きを変えて右手を上げて駅の階段をおりて行ってしまった。それを手を振りながら見送っていると田尾が隣に立ち碧華に一礼しながらたずねた。


「桜木の母ちゃんてあんなだったっけ?どこの女優さんかと思ったよ。どこかに行ってたのか?」


碧華の今日の服はAOKA・SKYバージョンそのままで帰ってきた様子で、水色の上下の高級スーツを着こなし、肩にはディオレス・ルイの高級バッグをかけ、化粧もバッチリ決め、今日はなんといつもはかぶらない淡い栗色のロングのウエーブのかかったウイッグもかぶっていたのだ。いつもの碧華とは別人のいで立ちだった。

優は碧華を見送ってから田尾に言った。


「うん、アトラスに行ってたんだ。知り合いが向こうにいるの。ママったら日本に帰ってきたらいつも空港で即効で着替えるのに、きっと着替え忘れたんだろうなあ。あんな目立つ格好で家まで帰る気なのかな・・・あっ田尾くん、私の事は気にしなくていいから、お友達の所に行きなよ」


「あっいいんだ。あいつらどうせすぐ降りるからさ。ていうか俺、桜木とゆっくり話したいなって思ってたんだよね。どうせ降りる駅一緒だし一緒に帰ろうぜ。あっそうだもうすぐ桜木の誕生日だろ?」


「うん、あれ?でもどうして知ってるの?」


「この間小学時代の卒業文集みたんだ。そうだ。誕生祝に、駅おりたらコンビニでプレミアケーキか何かあったらプレゼントさせてよ。今日あった記念にさっ」


「ええ~いいよ。悪いもん」


「気にしない気にしない、あっじゃあ、俺来月誕生日だからプレゼント交換ってどうよ。のど乾いてるんだよね俺」


「実は私もなんだ。じゃあコンビニと言わずそこでジュース買って飲もうか?まだ乗り継ぎまで15分ぐらいあるし、プレゼント交換ってことで」


優はそう言うと少し向こうにある自動販売機を指さしいうと二人でジュース代を出しあい並んでベンチに座りながらジュースを飲んだ。


ジュースを飲む前に「ハッピ―バースデー」と言いながら乾杯した。


その後優は結局田尾に家まで送ってもらった。その様子をまたもや部屋から目撃した栞は、ちょうどライフとテレビ電話で会話中のライフについ目撃実況中継をしてしまったのだ。


「あれ~優だ!今日は帰ってくるの早いなあ。あれ?時間的にママと同じ電車かなって思ったのに制服男子に送って貰ったんだ優、誰だろう?」


栞は開け放っている自分の部屋の窓から優の話声を聞きつけて窓に駆け寄ると、家の前の道で制服姿の男子と親しそうに会話している姿を目撃したことをつい口走ってしまった。

ちょうどその時、栞は電話でライフから碧華が急に帰国したと報告の電話をもらっていたのを忘れて実況中継してしまったのだ。


〈ちょっと栞ちゃん、制服男子ってどういうこと?ねえ誰だそいつは!〉


栞の言葉を聞いたライスが叫んだが、既に栞からの電話は切られていた。


それもそのはず、栞は二階の自分の部屋から目撃した瞬間に

スマホを放り出して栞はそのまま、階段をかけおりていったのだ。


残されたアトラスのライフはまたもや心穏やかではなくなってしまった。

その日一日ミスの連発をしてしまいビルから大間玉を喰らってしまった。


その後どうなったのか栞に何度連絡してもまったくつながらず、

その日優からもメールはなかった。


モヤモヤの数日を過ごすライフを尻目に

栞も優もその日から一週間の間ライフにメールはおろかテレビ電話をすることすらしていなかった為、


苦情をエンリーに入れたが、いつもの調子で逆に怒鳴られライフは情報を聞き出すことができず悶々とした日々を過ごすこととなった。


その日の夜も日本の桜木家では久しぶりに帰ってきた碧華のお土産や百貨店で購入したおいしそうなお惣菜やケーキ、それに碧華が持ち帰った優宛のアトラスのファミリーからの誕生日プレゼントに遅くまでおおいに盛り上がっていた。



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