少しは悩め馬鹿野郎!
楽しい時間というのはあっという間に過ぎるもので、
集まってから既に五時間半が過ぎようとしていた。
「さて、お楽しみの皆様、そろそろ外の方も暗くなってまいりましたので女子の皆さまの安全の為にそろそろお開きにしたいと思います。さあ~というわけで最後のビッグイベント、プレゼント交換の時間がやってまいりました。皆さんプレゼントをテーブルの上におだしください」
田尾の合図で一斉に全員カバンから持参したプレゼントをだした。
だが、またしても優が注目を浴びてしまったのだ。
というのも、皆持ってきたのは、文房具だとか男子に至っては、
さすがに田尾のたわし以下の者はなかった。
それでも洗剤だとか、お菓子一袋っていう者もいた。
「ちょっとあなたたち、チョコがダサかったんだからもっとましなもの用意できなかったの?」
「なんだよ、プレゼントは手作りか家にある未使用の物だったじゃないか、使っていない物なんか男は常備してるかよ」
反論する男子の中で船木だけは自慢気に自分の持ってきたものを見せた。
「俺のはすごいぞ、未来のパティシエの俺様が朝早くから作った手作りクッキーだぞ、すごいだろ!」
そう言って透明の袋に可愛いリボンをつけた袋をみんなの前に見せた。
「おい舟木、お前そればい菌とか入ってないかあー?」
冗談ではやし立てる男子に女子も協賛のブーイングを起こした。
「失礼な。俺ん家は洋菓子屋だぞ、未来のパティシエの手作りクッキーを味わえるなんてお前ら幸せなんだぞ!」
「本当なの~」
信じられないという女性陣の声にまたしてもマイクを持ったままの田尾が叫んだ。
「よし舟木、俺様が代表で一つ毒見をしてやるよ。倒れたら、救急車を呼んでくれよな」
「いいぞ田尾!」
田尾の言葉で舟木も仕方ないなあという態度で、袋を開け、クッキーを一つ取り出し田尾の口の中に一つほり込んだ。
そのとたん、お腹を押さえてうずくまりその場で田尾が倒れた。
全員心配して駆け寄ったが、田尾の口から出たのは意外な言葉だった。
「上手い!」
「なんだよビックリするだろうが」
一番驚いたのは舟木のようだった。
「安心しろ皆の集これは正真正銘プロのお菓子だ!」
「だろ!」
田尾の言葉でみなは安心して様子だった。
「じゃあみんなプレゼントはチョコの時と同じやり方でいいか?」
マイクを持ち直した田尾が聞くと、ほぼ全員が賛成の手を挙げた中、一人手を挙げなかった人物がいた。
「なんだ雪、お前反対なのか?」
「だって、さっきの感じで行くと、結局、途中で回すのじらしたりして一周回ってこなかったじゃん!」
「別にいいんじゃね?誰かのに当たるんだからさ」
「嫌よ、だって私、これ欲しいんだもん。ここからスタートしたら絶対回ってこなさそうなんだもん」
そう言って指を差したのは優が持ってきた大きな袋だった。
一同が優の袋に注目した。
田尾もマイクを持ちながらその優の持ってきた袋に近づいて優にたずねた。
「確かに中身が気になるなあ、その大きさは。舟木みたいに食べ物でもなさそうだけど、桜木何をもってきたんだ? 開けて確認してもいいか、危険物だと幹事として除外しないといけないからな」
「危険物って何よ! 私が持ってきたのはね。実はトートバッグだよ。家にあったハギレ布を組み合わせてママに縫ってもらったんだ」
そう言いながら、きれいにラッピングしてある袋を慎重に開くと、
昨日作ったトートバッグをみんなの前で開封し見せるとオオ――といういうどよめきが起きた。
そしてすぐに女性陣から黄色い悲鳴が上がった。
「え~何これ可愛い犬の刺繍がしてある。ねえ優これ本当にもらっていいの?」
「うん、その為に作ったんだし、男性陣にも黒だったら使えるかなって思ったんだけど」
優が言うと、男性陣からも欲しいという声が多数上あがったので優も内心ほっとしていた。
「これは今回の一番の目玉品ですなあー。これではミュージック交換になるとなかなか周らなそうですな…これは吾輩もほしい一品であ~る。うーむ、しばし待たれよ」
そういうと田尾はその場にしゃがみ込みこみ考える人ポーズをとった。
「よし、仕方ないこうしよう。誰かルーズリーフ持ってないかー?」
その声に一人が反応した。ちょうど夕方から塾に直行するらしい男子が一人いたのだ。
彼からルーズリーフを二枚もらうと二十三の数字を二回書き、
それを二十三に切り分け同じ数字を二枚ずつ四つ折りにした紙を二組作った。
その一組を全員に適当にシャッフルし渡すと、
テーブルの上に置いてあるもう一組の紙を自分の頭にかぶっていた帽子の中に入れるとこれもまた手で混ぜた。
「よしこれで何番かわからないだろ、じゃあ順番に一番の紙を持っている奴から引いて行って自分が引いた番号と同じ番号を持っている奴に自分の持ってきたプレゼントを手渡すっていうのでどうだ?」
田尾の説明で今度は文句をいう人間はいなかった。
やがて一番から順番にひいて行った。
そして優はちょうど真ん中だった。
先に当たっているメンバーは落胆を隠そうともしないで本人からプレゼントを受け取っていたが、優の番になるとその行く先に注目した。
優が引き当てたのは二十番の数字だった。
「え~と二十番の人」
優がそういうと優の隣で悲鳴があがった。当たったのはなんと雪だった。
「きゃ~やったあ。優、私よ、これ私もらってもいいんだよね。こういうの欲しかったんだ~」
そう言うなり優に飛びついた。
優はテレながらそのトートバッグを雪に手渡した。
雪は嬉しそうにそのバッグを受け取ると胸に抱きしめて飛び上がらんばかりに喜んでいた。
「おい雪、お前わざとじゃないのか?」
「何よ、あんたも見てたでしょ、このくじを作ったの田尾じゃん、文句なら田尾に言いなよ」
「くそ~俺も欲しかったなあ~おまえらもあきらめろ、まだまだ俺様のたわしも残っているからサクサクくじいくぞ~」
そう言って、再びくじが続いた。
全員がそれぞれに品物を受け取ることができた。
幸い自分の物をひき当てた者はいなかった。優も新品の櫛と鏡を引き当てた。
大盛況のうちにプレゼント交換も終わり、
優も大勢の友達とライン交換も済ませ、また会う約束をして別れた。
*****
その日の夕方、優が家に戻ると、玄関に大きな荷物が届いていた。差出人はライフからだった。
「優、今日どうだったの」
碧華が台所から顔を出しながらたずねた。
「うん、楽しかったよ。あのトートバッグもすごい人気だったし」
優はそれだけいうと、大きな箱を開け始めた。
その箱を開けると更に白い紙がたくさん巻かれた何かが入っていた。
優はその白い紙を開けると中にはお座り状態の高さ五十センチぐらいあるオオカミのぬいぐるみが入っていた。
そのオオカミの首にはハートのネックレスがかけられていて、
背中にリュックのようなものが背負ってあり、
そのリュックの入り口部分を開くと中からカードが出てきた。
そのカードを開くなり優の顔が曇ってしまった。
「優どうしたの? あら~可愛いじゃない、ライフったらこんなかわいいオオカミどこで見つけてきたのかしら」
一緒に中身をのぞき込みながら碧華がたずねると優は顔を曇らせていた。
「そうだね。確かに可愛い・・・」
「どうしたの優難しい顔して」
「あのね、この子の背中のリュックにメッセージカードが入っていたんだけど」
「何何、バレンタインの愛の告白?」
「ええ~違うと思うよ、だって最近まったくメールくれないし、でも何が書いてるかまったく読めないんけど愛とかの単語じゃなさそうだし」
そう言って、優はそのメッセージカードを碧華に見せた。
碧華がそのメッセージカードに視線を移すと、
確かに英語の筆記体で何か書いているようだったが、
崩し過ぎていて碧華にも綴りが何か全く読めなかった。
「本当ね、これじゃあ訳しようがないわね。まったくライフも愛の告白なら日本語で書いてくればいいのにねえ」
「もうママ違うって、義理よ義理」
「そう?でも義理チョコの代わりにこんなかわいいの送ってくる?」
「知らないよう」
そう言って優はスマホを取り出すと、どこかに電話をし出した。
「あっエンリー兄さん、あのね今時間あるかな?」
〈優ちゃんお帰り、大丈夫だけど何?今家?おりて行こうか?〉
「あっ大丈夫、いつでもいいから訳してもらいたい文章があるんだけど」
〈英語の訳?いいよ。部屋にくる?これから栞ちゃん、今朝のアニメをライフに自慢話するってテレビ電話するとこなんだけど、優ちゃんもくる?〉
「うーん、別にいいや、別に慌てないから、晩御飯食べてからお願いします。じゃあ」
そう言ってすぐに電話をきってしまった。
「ねえ今の優からだったんでしょ。なんだって?」
エンリーの横でエンリーのノートパソコンを操作していた栞がたずねた。
「うん、英語を訳してほしいって、でもなんだか様子がおかしかったな。ライフとは話したくない感じの返事だったし」
「そう言えば最近優の様子がおかしいのよね」
「様子って?」
「うん、前だったらライフのメールが来ると嬉しそうに見て見てってみせにくるのに最近はまったくみせにこなくなったのよ。というかライフからメールあんまり来ないみたいね。私には頻繁に愚痴メール書いてくるのに」
「あいつ栞ちゃんの所にも愚痴を送ってたのか、今度きつくいっとかなきゃだめだな。だけど君のほうからライフに週末からみにいっているようにみえるけどな」
「そう? だってライフってからかうとおもしろいんだもん。でも気になるなあ・・・実はね今日の同窓会って男の子も何人か参加してるんですって、運命の出会いなんかあったかもしれないじゃん。それにね、さっき優宛にライフから大きな荷物が届いてたんだよ。気になる~私ちょっといってくる」
「えっライフどうするのさ」
「あっ切っといて」
そういうと栞はすぐに立ち上がるとエンリーの部屋を飛び出した。
残ったエンリーは画面にでたライフに何も言わずにブチッと画面を切って栞の後を追いかけた。
その頃ライフはスマホを片手にテマソンの家のリビングのソファーを陣取り自分のノートパソコンを広げながらパソコン画面にブツブツ文句を言っていた。
「なんだよ、ようやくつながったと思ったのに」
「あなたねえ、日曜日だからって朝早くからきてずっとスマホと自分のノートパソコンの両方を睨みつけて何してるのよ。そんなこと自分のマンションででもできるでしょ」
テマソンがブツブツ文句を言ってきた。
無理もない、早朝六時にやってきたかと思いきやもう五時間もリビングのソファーを占領しているのだ。
テレビをつけようとすると気が散るからつけるなだとか文句ばかりいいながら何もしようとせず、ソファーの上で横になっているのだ。
「別にいいだろ。ちょっとだまっててよ。今栞ちゃんからようやくメールきて今からテレビ電話する所だったんだから、まったくなんなんだよ、繋がったと思ったらエンリーのやつすぐ切りやがって」
そう言いながらライフは今度はエンリーの携帯に電話をかけ出した。
「おいエンリーなんだよさっきのは? 栞ちゃんは? 一瞬写った気がしたけど」
〈うるさい! 今取り込み中なんだよ。かけてくるな!〉
エンリーは突然のライフからの電話を切ると隣の勝手口から姿をだした。
ちょうど碧華は夕食の準備をしている最中のようだった。
「お邪魔します。あの栞ちゃんは?」
「ちょうどよかったもうすぐ夕食よ。栞なら戻ってくるなり二階にあがっていったみたいよ」
その時、玄関のチャイムの音が鳴った。
「エンリー代わりにでて」
碧華は鮭を取り出している最中で手が離せない様子だった。
「わかりました。はい、どなたですか?」
エンリーがそういって玄関の鍵を開け引き戸を開くと、
そこには高校生ぐらいの男子が立っていた。
驚いたような顔をしたその青年は口ごもりながらもエンリーに向かって一礼するとエンリーの話かけた。
「あのこちら桜木優さんのお宅ですか?」
「そうですけど、何か御用ですか?」
「あの、僕田尾っていいます、今日一緒にカラオケに行ったんですが、忘れ物があったので届けにきたんですが、優さんは戻ってますか?ラインしたんですが反応がなかったものですから」
「帰ってますよ。お待ちください」
エンリーはそういうと、階段に向かって優を呼んだ。
すると、優が階段を駆けおりてきた。
そして優が玄関に顔をだすと、エンリーは二階に上がって行った。
優はエンリーの呼び声で下におり玄関にいた人物をみて驚いた。
「田尾くん、よく私の家わかったね」
「うん、沙理に聞いたんだ。俺あいつとは近所だから、これお前のだろ?」
そう言って田尾が手に持っていたのはオオカミのキーホルダーだった。
そのタグの所をみると優と書き込んでいた。
「あれ、私のだ。ちょっと待って」
そういって家の中に戻った優は玄関に置きっぱなしになっていたリュックの端につけていたはずのオオカミのキーホルダ型のぬいぐるみが無くなっているのに気が付いた。
「本当だ私のだ、これどこで?」
「カラオケ屋から電話もらったんだ。部屋に落ちてたって、俺幹事で電話番号書き込んでいたからさ、連絡くれたんで取りに行ってきたんだ」
「わざわざありがとう」
「いいよ、大切なものだったら大変だと思ってさ」
「うん、これお気に入りだったんだ。本当にありがとう」
優は嬉しそうにそれを受け取った。
その様子を頭をかきながらみていた田尾が突然聞いてきた。
「そういえばさあ、桜木っていつも何時の電車で帰ってるんだ?土曜日とか、夏休みとかしか見かけないからさ帰りの電車」
「毎日じゃないけど六時二十分着ぐらいかその前ぐらい」
「そうかあ、俺の方が早かったのかあ。朝もまったくあったことないしなあって思ってさ」
「朝は学校まで送ってもらってるから」
「そっかあ、遠いもんな、じゃあお互い勉強頑張ろうぜ。またラインするよ」
「うん、今日はありがとう。すごく楽しかった。また誘ってね」
「オッケー、親に反対されないように勉強に励むわ」
「そうだね。バイバイ、気をつけて帰ってね」
「ああ~」
優は田尾を曲がり角を曲がって姿が見えなくなるまで見送ると手を振った。
それを二階の窓を開けてこっそり見ていた栞がにやけ顔でそっと窓を閉めた。
「栞ちゃん、盗み聞きはよくないと思うよ」
「あら、姉としては心配じゃない。ライフったらもたもたしてるから強力なライバル登場しちゃったじゃない。ねえどんな子だった田尾くんって」
「えっ普通だったと思うけど」
「もう顔よ顔」
「う~ん、テレビにでているアイドルみたいな顔立ちしてたよ」
「イケメンってこと? どこの学校に行ってるんだろ。気になる~ラインするってことはライン交換してるってことでしょ。これは優を問い詰めなきゃ」
「ちょっと栞ちゃん、こういうことはそっとしておいた方がいいんじゃ・・・」
引き留めるエンリーを振り切り栞は優を呼びながら下におりて行ってしまった。
「女の子ってどうして人の事をああも気にするんだろうな。そっとしておいてあげればいいのに」
エンリーがブツブツ言っていると、又ライフから電話がなった。
「だいたいコイツがはっきりしないから優ちゃんが不安になるんじゃないか」
エンリーは電話の相手がライフだとわかるとしばらくほっていたのだがあんまりうるさいので仕方なくとると、エンリーが携帯に出たとたんにライフが矢のように口走った。
〈おいさっきのはどういう事だよ。取り込み中ってなんだよ。優ちゃん家にいるんだろ? 何してるのかしらないか?〉
「ああもううるさいな、だからまだ取り込み中なんだよ。今優ちゃんに男子が会いに来てて、お前から届いた荷物なんか玄関に置きっぱなしで、楽しそうに玄関の前で話してるよ。じゃあな」
エンリーはそれだけいうとすぐに携帯を切ってしまい、電源まで切った。
「少しは悩め馬鹿野郎!」
エンリーはそう呟くと栞を追いかけて下におりて行った。
ちょうど夕飯ができたところらしくヒロも来ていた。