どうして僕には作ってくれないのさ!
バレンタインが明後日に近づいた二月の土曜日の事。
今日は優の学校が休みということもあり、栄治だけが仕事だったため、
栄治用の朝食を用意し送り出すと碧華は早朝からコタツの机の上に真っ白な九十センチ幅のジャンボロール画用紙を広げてかれこれ一時間以上も座ってその画用紙とにらめっこ状態でいた。
その沈黙を破ったのは二階から起き出してきた栞と優だった。
「おはようママ、朝早くから何してるの?」
休日ともなると、朝寝坊を決め込む栞が珍しくきちんと服に着替えて化粧も済ませ、
自分から起き出してきてリビングにいた碧華に話しかけてきた。
「栞、優おはよう。あなたたち早いわね。二人とも朝食食べる?」
碧華が立ち上がりながら言うと、栞がそれを遮った。
「大丈夫、エンリーが朝食作ったから食べにおいでって電話がきたんだ。ママはどうする?サンドイッチ作ったって言ってたよ」
碧華は時計をみると時間は七時半になっていた。
「あらいいわねえ。でもこれ仕上げないといけないから、持ってきてもらえるとありがたいなあ」
「わかった。じゃあいこうか優」
「うん」
珍しく二人とも朝早くから起き出していたのは、
今日は優が久しぶりの土曜日の休日というのもあって、
免許をとりたての栞が碧華の車でエンリーと優を乗せ三人で仲良く映画に出かける予定だからだ。
この映画はアニメだったために、エンリーは全く興味がないことはわかっていたので栞はあえてエンリーを誘わず、公開以前から優も観たいと言っていたので、テストが終わったばかりの優を誘って姉妹二人で行こうと話がついたのだが、栞の運転でショッピングモールに行くと聞いたエンリーが自分が送迎すると言ったのだが、車に慣れたいと言い張る栞に根負けしたエンリーも同行することで話がついたようだった。
「今日はあなたたち映画に行くんでしょ?」
碧華は目の前の真っ白な画用紙を見ながらため息をついて答えた。
「うん、車本当に使っていいの?」
「大丈夫よ、あなたにエンリーのあの高級車を運転なんかされたら心配でそっちの方が仕事どころじゃなくなるから」
「ママ、私そんなに運転下手じゃないよ」
栞は怒ってみせた。
「あらそう? でもまあ、エンリーがついてるから大丈夫だと思うけど、気をつけて行くのよ」
「わかってる。ところでママ、何してるの?そんな大きな画用紙広げて?」
栞は机の全てを占領するほどの画用紙を指さしてたずねた。まだ何も書いていないようだった。
「これ? テマソンに本店のショップに飾る絵を頼まれたのよ」
「えっ? ママが絵を描くの?」
栞の横で聞いていた優が突然聞き返した。
「違うわよ。絵はテマソンが描くらしいんだけど、絵の真ん中に私の字体で日本語の詩を書いて送れって言ってきたのよ」
「ええ~あの高級ショップに飾る用なの? プロの書道家に頼めばいいのに」
「そうよねえ、私も嫌だって言ったのよ、なのにテマソンたらAOKA・SKY専用のブックコーナーを作りたいからその壁に飾る用の絵がいるって聞かないのよ。自分で描けばいいのに、まったく、こんな大きな画用紙に先に日本語の文字だけ書けって言われたってどう書けばいいっていうのよ。まったく! 言い出したら人の意見なんか聞く耳もたないんだから」
「そうだね。私もこれに字を書くのは嫌だな。もうテマソン先生の下絵の構想はできてるの?」
「これがそうよ」
そう言って小さい紙を栞と優に見せた。そこには確かに真ん中には詩を書くスペースがあり、下の方にレイモンドとアーメルナの二人が両手をつなぎ楽しそうに花畑で踊っている絵が描かれていた。
「ねえこれって、全体を絵じゃなくてシャリーおば様の写真か何かにしたらいいんじゃない。ママ去年の夏にグラニエ城の近くの森に素敵な湖があって花がたくさん咲いててきれいだったって話していたでしょ。この絵ってそこのイメージなんじゃないの?空の部分にママの詩を小さく書いたほうが素敵なんじゃないの?」
優の何気ない言葉に、碧華は急に携帯を取り出しスマホのギャラリーに入れてある写真を開くと、そこに保存されていた画像とテマソンの絵とを見比べながら叫んだ。
「いいじゃない!ナイスアイデアよ優!さすが私の娘だわ!」
碧華は素晴らしいひらめきに上機嫌になって優を抱きしめた。
「私もその方がいいと思う。シャリーママ引き受けてくれといいわねママ」
「そうね。後でさっそくメール入れとくわ。あっ早く行きなさい」
「うん、行こう優」
そういうと二人はいそいそと隣に朝食を食べに行ってしまった。一人になった碧華はしばらくの間テマソンが描いた絵と以前撮影してあった湖の写真とを何度も見比べながらイメージを膨らませた。
そして一時間ほど過ぎた頃、隣から朝食を食べた娘達と共にエンリーが入ってきた。
「エンリー、今日は娘達のお供させちゃってごめんね。勉強あったんじゃないの?」
「いえ、僕もちょうど服と本を買おうかと思っていたのでちょうどよかったんです。特に優ちゃんはセンスいいから」
「ちょっとエンリー、それじゃあいつも選んでいる私のセンスが良くないみたいじゃない!」
膨れながらいう栞に優がエンリーに助け船を出した。
「だって栞ちゃん、いつもエンリー兄さんの服を選ぶ時は迷いまくって決められないでしょ。どっちもいいとか言ってさっ」
「そういえばそうね。優ちゃん! 頼りにしてるわよ。ねっエンリー」
栞は怒りだすのかと思いきや自覚があるのか、素直に優に甘えた声ですり寄った。エンリーもホッとした顔で頷いて見せた。
「あっこれ、ママのサンドイッチ作りましたから、お腹すいたら食べてくださいね。またお茶漬けだけとか簡単にすましちゃ駄目ですよ」
「わあ!ありがとうエンリー、あなただけね、ママの体の心配をしてくれるのは、私は優しい息子を持って幸せ者だわ」
碧華はエンリーからサンドイッチののったお皿を受け取ると二人でまだじゃれて抱き合っている二人の娘の方をちらりと見た。
娘達は知らん顔でとぼけている。
「じゃあ仕事のお邪魔をしちゃ悪いので僕達は映画に行ってきます。夕食は僕達で作りますから、安心して仕事に集中してくださいね」
「えっ?本当?エンリーが作ってくれるの?」
「ちょっとママ、エンリーの言葉きちんと聞いてた?僕達っていったのよ、エンリーはもちろん私と優も作るのよ。ねえ優」
「そうだよママ、私達だってたまには料理作るのよ。エンリー兄さんに教えてもらいながらだけど」
「そうよ。だから、今夜は楽しみにしててね。ヒロおばあちゃん家でみんなで食べよ。おばあちゃんも楽しみにしてるって言ってたし」
「そう、じゃあ楽しみね。今日は一日仕事がはかどりそうだわ」
碧華はその後娘二人も抱きしめると、サンドイッチを冷蔵庫にしまうと、再びリビングへと戻って仕事を再開した。
九時半過ぎ、三人は何とかショッピングモールについた。大ヒット映画ということもあり映画館内は大混雑していたが事前に予約していた為、三人はスムーズに映画館内に入ることができた。
その後食堂街で軽めの昼食をそれぞれ好きなものを食べた後、エンリーの服選びに一時間を費やし、買ったばかりのエンリーの服を車に積み込むために栞とエンリーは駐車場へと行き、優はクラスメイトの誕生日プレゼントを選ぶ為雑貨屋へと来ていた。
「優? ねえあなた優じゃない!久しぶり!」
突然背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
振り返るとそこには小学時代の同級生の沙理と雪が立っていた。
「えっ! 沙理、雪! 久しぶり~元気?」
「元気元気、優は変わらないわねえ」
「全然変わってないからすぐわかったわよ」
「失礼ねえ、身長は伸びてるよ」
二人も小学時代の面影は残っていてひと目みてすぐに二人だと気づいた。
「わあー本当に久しぶりねえ~、そうだ優、明日暇?」
「明日?うん家にいるけど」
「明日ね、カラオケジャンジャンでバレンタインパーティーするんだけど、来ない? ちょうど今明日の事で盛り上がっていた所だったのよ。優がくるって知ったらみんな喜ぶよ。優は中学は一人私立にはいっちゃったけど、他のメンバーは地元の同じ中学に入学したからけっこう高校はばらけちゃったけど今でも連絡取ったり集まったりしてるんだよ、今回も同じ小学校出身の人間がほとんどだから優も知ってるメンバーだと思うし。みんな喜ぶよ」
「本当? でもカラオケかあ・・・私歌下手だしなあ」
「いいじゃん、行こうよ。私も歌下手だけど、メインは歌じゃないんだから」
「何?カラオケに行って歌を歌わないの?」
「場所を借りるのよ。あのね、優彼氏いる?」
「いないけど・・・」
「じゃあ参加オッケー! 私らもうすぐ高三じゃん、受験組が勉強が本格化する前に、みんなでさわごうってなったの、でっ月曜日バレンタインじゃん、だから今フリーの男女集めてさ、プチ同窓会しようってなったの。高校は結構バランバラに進学したから会う機会なかったからね。参加条件は今フリーだってことだから」
「え~でも私の知らない子とかもいるでしょ。私なん行ったらしらけない?」
不安そうにいう優の肩を叩きながら沙理が笑顔で笑いながら言った。
「もう優は相変わらず心配症だね。待って、じゃあみんなにラインで聞いてみるから」
そう言って沙理はスマホを取り出すとラインでつぶやいた。すると、ちょうど土曜日の二時すぎというのもあって参加予定者のほとんどがすぐに既読がついてオッケーサインを送ってきた。
「見てみんなオッケーだって、大丈夫だよ、女七人男八人だったからちょうど一人たりなかったんだよね。ねえ、もう聞いちゃったんだから来なよ」
そういって沙理は自分のスマホの画面を優にみせた。そこには優って桜木の事か?懐かしいなあなど、女子だけではなく男子たちも覚えてくれていた様子で歓迎の言葉が次々に書き込まれていた。
「ええ~でもなあ・・・」
優がまだ渋っているのをみた沙理が強引にラインを送信してしまった。
「は~いもう参加するって送っちゃったあ」
「あっこら沙理、あんたは相変わらず強引なんだから」
「いいじゃん、ねえ、今日は誰と来てるの?」
「お姉ちゃんとその彼氏」
「ええ、じゃ優お邪魔虫じゃん、ねえ、私達と一緒に遊ぼうよ。今から明日交換するバレンタインのプレゼント選びに来たんだ」
「何よそれ」
「えっあっそうだったまだ説明してなかった」
「もう沙理は説明不足なんだよいつも、あのね優、明日のカラオケにね、参加者全員誰かに渡すプレゼントを持参ってルールなんだよ。バレンタイン近いから5百円以内のチョコと後家にあるいらないもの持参ってルールなんだ」
沙理の代わりに雪が説明した。
「何それ、チョコはわかるけど家にあるものって何でもいいの?」
「いいみたいだよ。だってチョコの交換だけじゃつまんないじゃん。家で余ってるいらないものを持参ってルールにしたのよ。ただし未使用品か手作り品限定」
「それなんだかおもしろそうだね」
優がいうと、沙理が優の腕に自分の腕をからませて優に言った。
「ねえ、私達、四時から映画みるんだけど優も一緒にみない?」
「ごめん、午前中に観たんだ」
「ええ~残念~じゃあさっそれまで暇でしょ、一緒に明日用のチョコ一緒に選ぼうよ。ねえいいでしょ久々なんだし、話し聞きたいし」
「うん・・・そっか、明日のチョコ買わないといけないんだ。お姉ちゃんにのせてきてもらってるからお姉ちゃんに聞かないと・・・」
優がどうしようか迷っていると、荷物をおきに行っていた栞とエンリーが戻ってきた。
「優! 友達?」
優が振り向くと、そこには栞とエンリーが立っていた。
優は栞たちの所に駆け寄り今は話した内容を簡単に説明した。
「うん小学校時代の同級生、あのね明日、カラオケ誘われたんだけど、明日持って行くチョコこれから買うんだって。一緒にどうかって誘われたんだけど」
「いいじゃん、エンリーがこれから探したい本があるっていうから私達は適当に時間つぶしてるから行っといでよ。どうせ本選び時間かかるだろうし、時間あまったら適当に時間つぶしてるから」
「いいの?」
「うん、終わったら電話してちょうだい」
栞は友達に軽く頭を下げると、エンリーの腕に自分の腕を通し、
右手を振って本屋のある方向へと二人で歩いて行ってしまった。
「ちょっと優、あれお姉ちゃんの彼氏?すっごいイケメンじゃん、どこに国の人?」
その様子を見ていた沙理と雪が興味津々で優に詰め寄ってきた。
「アトラス人だよ、こっちの大学に通ってるんだ」
「ええ~すっごーい、ねえねえ話聞かせてよ」
「そうだよ、どうやったらあんなイケメンと知り合いになれるのよ」
その後、沙羅と雪からの質問攻めにあいながらも優は久しぶりの幼馴染とのショッピングを堪能した。
結局、優は1時間半程度買い物やおしゃべりを楽しんでから本屋に向かうと、本屋の中の椅子に栞が座ってスマホを見ていたが。エンリーはまだ本を探している最中らしかった。
既に買い物かごの中には文庫本難しそうな本などその他いろんなジャンルの本が入れられていた。
「優買い物終わった? お友達は?」
「うん、これから映画だって、私さっき観た映画だったから別れたんだ。明日会うしね」
「そっか、あのね、エンリーがこれから別の本屋に行きたいっていうんだけど、優どうする? 家に先に寄ったげようか?」
「いいよ、ついでに新刊の小説チェックしたいし」
「そう、じゃあ決まり」
そういうと、栞はエンリーの所に行くと、優が戻ったことを告げ、三人は車に乗り込み今度は市内でも一番大きい書店へと向かった。
そこでもまた大量の本を買いこんだエンリーはご満悦のようだった。
優も最新刊の小説を一冊買って、三人は途中食材を買いにスーパーに立ち寄り、家に戻った。
三人が家に戻ると、もう既に六時になっていた。慌てて、三人は夕飯作りに取りかかった。
結局作る時間が無いという理由で好きな具材を自分で選んで巻く形式の手巻き寿司に決定したため、酢飯を作る以外は食材ごとに切り分けるだけの簡単なものになった。
だが、ヒロも碧華も栄治も大満足し喜んだ。
特に、料理を一日しなくてもよかった碧華はご満悦の様子だった。
「あ~お腹いっぱい、三人ともごちそうさま」
「ところでママ、朝やりかけていた仕事は完成したの?」
優が聞き返すと、テレビに視線を移していた碧華が答えた。
「あれ? 優のアイデアのおかげでバッチリよ。早速、テマソンに話したら、シャリーに話してくれたみたいで、今日は向こうは快晴みたいだから、今日森に写真撮りに行くって言ってた。明日の午後から天気が崩れる予報なんですって。私が向こうに行くまでに、その写真とテマソンの絵を合成して、最後にママがぶっつけ本番で文字を書くことになったのよ。でもそれほど大きく書かなくてよくなったから、結局向こうで仕上げることにしたのよ」
「そっかあ、シャリーママの写真すごいきれいだもんね」
「そうよね、楽しみ。さっきティムも一緒に、今夜はグラニエ城にお泊りするってメールきてたわ。ティムなんかお城に泊まれるって興奮ぎみだったみたいよ。あの子あんなタイプだったのね」
「ティムさんって編集部の人でしょ?」
「そうなのよ大人しそうにみえたけど、いい子なのよ。最近じゃあシャリーのお気にいりになっちゃって、撮影の時はいつも彼が同行してるみたいよ。一応男だから頼りになるしね」
「でもシャリーママも最近あちこち撮影に行ってるみたいだね。よくメールきてるよ。この間もドイツ行ってきたって写真送ってきてたよ」
栞と碧華がシャリーのことで話が弾んでいると、夕飯の片づけを始めかけていたエンリーが聞き返した。
「ヴィクトリア様は母が突然押しかけてご迷惑なんじゃないんですか?」
エンリーの問いかけに碧華は笑顔で答えた。
「大丈夫よ、ダメならダメだってママンならはっきり言うはずだから。シャリーは初めてじゃないし、テマソンが先にリリーお姉様に許可の連絡入れといたって言ってたから」
そう言いながら碧華はポケットからスマホを取り出した。
メールのチェックをしながらいう碧華に対して、それでも心配そうにしていたエンリーだったが栞に何やら言われたらしく小声で反論していたエンリーを横目でみながら優が思い出したように碧華にたずねた。
「そうだママ、お願いがあるんだけど」
「何?」
「あのね、布の端切れが余っているのあったらもらっていい?」
「何に使うの?」
「今日ショッピングモールで沙理と雪にあったんだけど、明日中学時代の同級生たちが何人か集まってプチ同窓会するんだって、集合はカラオケなんだけど、プレゼント交換するのに手作り品かいらない物持参なんだって、トートバッグ作ろうかなって思って、縫うのやってくれる時間ある?」
「沙理ちゃんって小学時代仲良かった子でしょ、わかった。今日食事の支度しなくてよかった分仕事はかどったから、それぐらいだったら縫ってあげるよ生地選びは自分でしてね」
「うん、ありがとうママ!」
それからすぐに、優はトートバッグの生地選びを開始し、
簡単なトートバッグにする予定が、生地自体が最高級品なためか、
お店で売っているような仕上がりになってしまった。
「ヤバイなあ・・・これじゃあ見た目が高価すぎるかな~」
優は完成したトートバッグを見てため息をついた。
全体的に黒を基調とした帆布生地を使っているのだが、
底の方は茶色の本革を重ねて、
上の方にハトメ金具の穴をあけ、
アクセントに銀色の太目のメタリックのひもを通し、
正面には横十センチ、縦十五センチのポケットもつけた。
そのポケットには以前にキーホルダーの原画としてテマソンが描いた犬のイラストの刺繍も縫い付けた。
優はその完成した作品をテマソンにテレビ電話でプレゼントに使ってもいいかたずねると、
テマソンも友達にあげるプレゼントにしてはすごい完成度だと絶賛していた。
栞にも見せると、栞が自分も欲しいと言い出し、
結局エンリーには濃いブルーと栞には水色の二人分の色違いのトートバッグも縫うことになった。
その上、ファスナーを付けろと指示し、栞はポケットにはもちろんキツネをあしらっていた。
エンリーのはどうするのかと栞に聞いたが栞はお揃いにするからと、
エンリーには聞こうともせず、エンリーのにも同じキツネを刺繍していた。
夜の十一時、ようやく完成したその完成品を栞はうれしそうに早速エンリーに持って行ったようだった。
翌朝、トートバッグをもらったお礼にとエンリーから昼食の食事の提供が提案され碧華は大感激をしていた。
当のエンリーも本当にそのトートバッグを気に入り、
月曜日から早速学校に持って行っていたようだった。
そしてその話を聞いたライフが碧華に苦情の電話をかけてきた。
〈ちょっと碧ちゃん、どうして栞ちゃんとエンリーにお揃いのトートバッグを作ってやって、どうして僕には作ってくれないのさ! 僕にも優ちゃんとのお揃いを作ってよ!〉
「え~だって、優に作ってって頼まれた分は友達にあげる用だって聞いてたから」
〈そうだったんだ。さっきさ、エンリーの奴自慢してたからさ、でもわりといい感じだから僕のも作ってよ。優ちゃんとお揃いのやつ、そうだ優ちゃんの好きなオオカミでいいからさ〉
「ええ~めんどくさいなあ、優は別に自分用を欲しいなんて言っていなかったわよ」
〈そんなことないよきっと優ちゃん遠慮してるんだよ。いいから作ってよ〉
強引にいうライフにやれやれと思ったが、
渋々作ることを了承した碧華だったが同じ生地の端切れがもうないことを告げると、
ライフは次の週末テマソンの元に押しかけ、
同じ物を作ってくれとせがみに来たとテマソンがブツブツ言っていたが、
ちゃっかり自分もペンギン柄を作り、
書類の持ち運びに使っていたことが判明し、
のちにさんざん碧華にからかわれたのは言うまでもなかった。
テマソンが作ったトートバッグは結局ライフは優のも作ってもらい、
碧華が作るより遥かに高級仕様なトートバッグを後日優宛に送ってきていた。
それをみた優は嬉しそうにテマソンにお礼の電話をいれていた。
このことを知ったライフが作るように言ったのは僕だよと、
ちゃっかり優にアピールして優からのありがとうのメールをゲットしてご満悦だったようだ。




