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___ねぇ、本好き? 『Another story』

作者: 水桜

 こちらは、「__ねぇ、本好き?」のもう一つの物語です。

「__ねぇ、本好き?」をはじめに読むことをおすすめします。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「私、雫の小説が読みたい!」


炎天下の学校の帰り道、美嘉が私にそう言ってきた。

「ええっ?」

私は困惑した表情を浮かべながら、曖昧な相槌を打つ

そんな私に美嘉は

「え〜、駄目なの?」

と、驚きと不安が混ざった表情で私をみてくる

そんな顔をされたら断りたくても断れない

「べ、別に! いいよー」

なるべく明るい口調そう言った。

「おおっ! じゃ、明日楽しみにしてるね。ばいばーい」

といい、手を振る美嘉。全く、無邪気な子だ。そんな美嘉に私は手を振り返して、素早く踵を返し、我が家へと向かう。

あーぁ、明日、美嘉に小説を読ませるのかぁ

私は楽しみと憂鬱が混ざり合った微妙な気分で家へ帰っていた。

 

 家に着くと私は制服から部屋着に着替え、パソコンを開いた。

どの小説を美嘉に読ませよう?

私は、これまで書いてきた私の小説をいちから読み返していった。

……駄目、全然駄目。いいのが一つもみつからない。

私は「はぁ〜」と溜息をつく。

どれもどれも駄目作だ。こんな小説を美嘉に読ませていいのだろうか。

 それに、この小説いつ書いたんだっけ?

私は、受験のため小説を書くことを一旦ストップしていた。

もうどれくらい経ったのだろう。

一年? それとも一年半? それ以上?

そんな昔に書いたものを美嘉に読ませるのはちょっと気がひけた。

 それに、それにやっぱり……読まれたくない。

恥ずかしい、とかそういうわけでもないんだけど…ね?

 なんでそんなに読ませたくないかというと、美嘉は小説に厳しいからだ。

普段から行動を共にしている私だからこそわかること

 私たちは小説の話でよく盛り上がるのだが……

小説の話になると美嘉は目つきが変わる。普段のおっとりした目つきから厳しい目つきに。

まぁ、それぐらい小説には真剣ということだ。

そして、あの小説はああだこうだ、ここが駄目だ、などと隅から隅まで細々と文句をぶつける。

別に素晴らしいと美嘉が思った小説には文句など言わずに褒めたたえてるけどね

私はそれを聞いてまぁ共感できたり共感できなかったりと…

とりあえず! 美嘉に読ませるのには結構な勇気がいる。

私は、美嘉にズタボロに言われる自信があった。

だから読ませたくない

 あと、理由がもう一つある

【美嘉の小説と比べられるのが怖い】

正直、この理由が一番大きい。

別に美嘉のことを信じていないとかそうゆうわけじゃないけど…さ

 私は一度、美嘉の小説を読んだことがある

その時、私は悔しいけど

「美嘉の小説には敵わない」

って思ったんだ。

同い年なのに…こんなに差が出るんだなぁと思い知った

読んでて飽きない。その上とても面白い美嘉の小説。

そんな素晴らしい小説の横に私が書いた小説を並べるなんて…私には絶対にできない。

ただの恥さらし、いわゆる公開処刑ってやつだ。

美嘉の小説と比べたら、私の書いた小説なんかとんだ駄目作に思えてしまうぐらい。

もはや、私の書いたものは「小説」と言えるものなのか。

ただ「小説」という衣装を着せただけのただの文字の連なりに見えてくるほどにね。

 君のその表現力が欲しい、その面白さが欲しい、情景だってとても綺麗に書いている

私はそうやって、無いものねだりばっか。

 ……ほんと私、何考えてるんだか。我ながら呆れてくる

そんなこと考えてる暇があったら、小説を書けばいいのに。

うん、そうだよ。小説を書こう

私はそう自己完結し、wordを開く。

 ……この感覚、久しぶり。

受験前以来の感覚の懐かしさに私は少し浸っていた。

 そして、執筆し始めて数分。

やっぱり、楽しいなぁって私は思った。

こうやって、ひとり静かな空間で自分だけの物語をかく……好き。

この時間がたまらなく好き。

この感覚が忘れられない。忘れたくない。

だから私は小説を書くのをやめないのだろう。一旦ストップしたとしても、やっぱり書きたくなるのだ。

不思議な魔法にかかったように。

「……できた!」

私は一つの作品を書きあげた。

題名は「__ねぇ、本好き?」だ。

これは私の一つのメッセージでもある。これに、気づいてくれるだろうか?

気づいてくれたら、それほど嬉しいことはない

 この作品を美嘉に読んでもらおう。

たとえ、厳しい意見が美嘉の口から出てきても、それを受け入れるのだ。

それが、今の私の実力なんだからさ


 翌日、私は美嘉に昨日書きあげた小説…「__ねぇ、本好き?」を読ませた。

美嘉は小説がコピーされた紙を受け取ると「わぁー! ありがとう」といいながら、早速私の小説に目を通していく。

ドクンッと私の鼓動が高鳴ってるのがわかる。

美嘉は表情を一切変えずにすらすらと読んでいく。

大丈夫かな、面白いとか思ってくれてるかな、と私は不安だった。

そんな私の不安を打ち消すように、どんどん美嘉の表情は明るくなっていく

「ねぇ! すごいね! 面白いし!」

と、美嘉は私に向かっていった。

「…っ」

私の小説を褒めてくれた驚きと嬉しさで私は声を失う

「ええ!? ちょっ、雫??」

…どうやら私は泣き出しちゃったらしい。

私の頬を熱い涙がつたってく。

美嘉がポカーンとした顔で私を見つめてくるけど、そんなのおかまいなしに私の涙はどんどん頬を流れていった

嬉しい、嬉しいの。

不安だった、ずっと

だって、私と美嘉の繫がりって「小説」だけなんじゃとか想像しちゃって…

だから、私の小説が期待外れだったら美嘉は私から離れていっちゃうんじゃ…って思ってたから。

よかった、美嘉の期待に応えることができたのかも。

「嬉し涙だからさ…! 気にしないで」

私は涙を拭いながら、美嘉にいった

「え、あ! うん、わかった!」

と美嘉はいい、再び私の小説に目を向けた。

二人の間に沈黙がおきる。でも不思議、なぜか心地よい。

他の人との沈黙はこんな心地よくない、逆に辛い。

なのに、なんでだろうね?

君との沈黙は心地よい。話さなくても思いとか言いたいことが伝わってるようで……__

「あのさ、嬉し泣きってさっき言ってたけど…そんなに嬉しい?」

沈黙を破ったのは美嘉の方だった。

不思議そうな目で私に問いかけてきた。

「えーっと…じつはさ」

私は思っていたことを全部素直に言うことにした。

私たちは小説だけでしか繋がっていないんじゃとか私から離れていっちゃうんじゃとか…

心の底で思っていたこと全部。美嘉にぶつけることにした

私が全部言い終わると美嘉は呆れた顔で私に向かって「バカ!」と言った

「別に、小説だけで繋がってるだとか思ったことないよ! もー、なんで雫はそう考えすぎちゃうのかなぁ??」

少し怒り気味に、でも優しく私にそう言う君。

…そっか、私のただの勘違い。

よかった。それにしても私は美嘉の言う通りほんとバカだなぁ。

そんな、バカな勘違いしちゃうんだからさ

「ありがとう!」

私は偽りのない笑顔でそう言う。

「うん!」

美嘉も笑顔で返してくれた。

 言葉で表せないぐらいに、感謝してる。

ありがとう、そう言ってくれて。

これは、私にとって大切な思い出だよ、美嘉。







 今の私たちは、お互いの小説を普通に読みあうようになった。

やっぱり、美嘉の書く小説はすごく面白い。

そして、私もこんな小説が書けるようになるまで頑張ろう、と私はいつも思うんだ

これからも、お互いの小説を読みあって、時には厳しい意見を言い合いながら一緒に成長していけるといいな…!

ね、美嘉!









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― 新着の感想 ―
[一言] 好きです。 もういっそ私と結婚しません? あ、でも美嘉ちゃん、嫉妬しちゃうかなぁ。 ……絶対する。あの性格だもんね。
[良い点] なんだよ。雫ちゃん、君はそんなこと思ってたのかよ。 と、なるところ。 特別感まで味わえて最高なところ。 [気になる点] なし。 [一言] 貴女の文章に引き込まれました。誰よりも早くコメント…
[良い点] 相変わらず文章が読みやすく、テンポが良くて、最後まで楽しませてもらいました。 [一言] 二人とも、とても良い子ですが、雫ちゃんが良い子過ぎて、もらいますね。感涙ものですね。
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