【32話】昔話
私が村へ戻ると地獄の様な光景が広がっていた。
村の大半の家は燃えており、血の匂いがする中で民家程の大きさの狼が大量の狼と数少ない村人とで殺し合いをしている。何故だか分からないけどこの光景は見覚えがある。何でしたっけ…?
「あーあ。俺達が居ない間に随分と面白そうな事になってんな。あんな変な奴に構ってねぇでこの戦いの様子を見てれば良かったなぁ。」
いつの間にかお兄さんが私の隣に居た。出来ればもうこの人とは関わりたくない。
それにこの光景を見て面白そう?さっきからこの人の態度にいちいち腹を立ててしまう。
「あはは。そんなカオしないでよ。冗談だからさ☆」
「冗談でも笑えないです。もうどこかへ行ってください。」
「はぁー。そんなに俺の事キライ?ただの冗談好きの愉快なお兄さんじゃないか。」
「あなたが自分の事を本気でそう思うならあなたは正常な人間ではないです。」
正直、ここまで他人に対して嫌悪感があるのは生まれて初めてです。
「まぁまぁ。俺は君を不愉快にする為じゃなくてちゃんと協力する為に来てるんだ。そう邪険に扱うなよ。…そうだ。その証拠にこれをあげよう。」
「!!これは!」
お兄さんは何故か掌から溢れそうな程の私の拳銃の弾を私に渡してきた。
「どうしてあなたがこれを持ってるんですか!?」
「君は気付いてないかもしれないけどさっき君の持ってるもののメカニズムを調べさせて貰ったよ。」
そんな…!私の手から拳銃が離れた瞬間なんて無かったのに!これもあの人の魔法なの…?
「まぁこんな事はどうでもいいんだ。まずはあのでかい魔獣の話をしよう。あの魔獣はどう頑張っても殺せない。」
「どういう事ですか?生き物である以上何らかの手段で死ぬはずです。」
「ちっちっちっ。君の世界ではそうかもしれないけどこっちの世界では死なない奴もたまにいるよ。」
…君の世界?この人は何で私が異世界から来たって知ってるのだろう。
その理由も分からないままお兄さんは話を進める。
「さて、あの魔獣の事を知る為に少し昔話をしようか。むかしむかし村から離れたある所に変わったおじさんが住んでいました。そのおじさんは村人なら誰しもが恐れる狼の様な魔獣に魅力を感じてしまいました。おじさんは島中の狼型の魔獣を手なずけ、自分の家で飼うことにしました。そこでおじさんは自分のペットの事を知る為に一匹一匹の能力を調べる事にしました。…あ、そういえば言い忘れてたけどその狼型の魔獣は一匹一匹に何かしら能力があるんだよ。…えーとどこまで話したっけな……あ、そうだそうだ。そこでおじさんは不思議な事に気付きます。なんと一匹だけ何の能力も持たない個体がいたのです。おじさんは不思議がっていましたが特に気にすることも無く、狼達と楽しく暮らしてました。そして月日が流れ、島に悪い人がやって来ました。そのクソ野郎の名前はサニィです。その人は村人達が健康であり、どう頑張っても自分に勝てないと判断し、その島に住み着くことにしました。そして無駄に魔力のあるサニィは島全体に残留する蘇生魔法をかけ、定期的に人を殺し、その人の臓器をとある人に売りつけるという作戦を実行しました。ここでサニィは今は村人達は自分には勝てないけど自分を超える子供が生まれたら面倒だなと思い、今度は島全体に女が爆死する魔法をかけました。それを唯一知っていた変わり者のおじさんは怒ってサニィを襲います。が、ただのおじさんがギルドの超上級冒険者であるサニィに勝てるはずも無く、サニィに殺られて蘇生されないように島の外に死体を捨てました。これで完全犯罪。もうサニィが黒幕だと知る者も居なくなったと思われたが、実はもう一人それを知るものが居た。それはおじさんのペットの一匹。しかも何の能力も無いと思われていた魔獣だった。実はその魔獣の能力は”不死”。いかなる事が起きようとも絶対に死なない能力の持ち主であった。その魔獣は雌の仲間や自分の主人が殺されるのを見て怒り狂いました。そしてずっとサニィを探していると。それがあの暴れてる魔獣。どうだい?このお話は面白かったかい?」
「じゃあ結局どうやってその怪物を大人しくさせるんですか?」
「そうだね。やり方はあるよ。この島のどこかに切ったものを別世界に飛ばす剣とかあるよ。」
「じゃあそれを見つけて…」
「ダメダメ。たった一人のクズの為に今まで住んでいた自分の世界から追放するなんて可哀想でしょ。」
「じゃあどうやって…?」
「今はあの魔獣は自我を失ってるから思い出のある物を見せて思い出して貰えば多分大丈夫。」
「その物って心当たりあるんですか?」
「今は二つ村にあるから……あと一つがなぁ…。宝箱から盗られてたんだよなぁ…。」
「じゃあサニィさんの家にあるんじゃないですか?」
「そうだといいんだけど……行くしかないかぁ。」
「私が取ってきます。あなたはここであの怪物から皆さんを守ってあげてください。」
「分かった。例のものなんだけど、確か名前は忘れたけどあの魔獣の名前が書いてある赤い首輪だ。」
「分かりました。では行ってきます。」