94:白金の戦乙女VS黒死の戦乙女(?)
「見つけたっ!!ソぉフィアーーーーっ!!」
ソフィアは侵入者に気づいていた。それが裏切り者の『黒死の戦乙女』リリス=バルドであることも。知っててあえて、ここまで通した。
「来たか、リリス=バルドっ!」
人形であった頃の黒死でないことは一目瞭然。気迫が違う。
前に出ようとした『影死の戦乙女』メルチ=ヴァルキュリアを手で制する。
リリスは一気に距離を詰める。かつて速さならリリスだとリテリに言わしめたそのスピード。そのままの加速で飛んだ。着地と同時に己の全てを掛けた奥義を発動する。
「こぉーーれーーがっ!今の、わぁーたぁーしぃーのぉーっ!!」
それはこの世界の誰一人、目にしたことない旧世界の異物。
それのもたらす効果を予測できたものが居たであろうか?
いや、居るはずもなかった。
……そう、それが神に最も近いと呼ばれた戦乙女。
『ソフィア=ヴァルキュリア』だったとしてもだ。
その破壊力は正に計り知れない心の重圧となって見る者を苦しめる。
『呪い』といっても過言ではなった。
「誠意ですっ!!」
「「「『ジャンピング土下座』」」」
「リリスの繰り出したソレは、旧世界の国ニッポンに伝わる技でありながら、繰り出せる者は数少ないとされた伝説の奥義であった」
「何故なら、繰り出した者は己の膝を痛める。熟練したモノでなければ使いこなせないのだ。また、ひねりを加えて着地する亜種も存在するが、リリスの使用したソレは正当な伝統に則ったものであった。だが、土下座の熟練者とは何だ?」
「それは、最早……」
「ちょっと、そこっ!」
「え?」
「うるさいよ、黙って!」
「ご、ごめん」
メルチだった。いつの間にか解説を乗っ取られていた。侮れない……。
「はっ!……り、リリス=バルド!何の真似だ!」
(何だろ?煙?……?)
リリスのおでこは土下座の際に叩きつけた床を陥没させていた。その衝撃はどれ程の物だったのだろうか?
おでこから、煙が上がっていた。
「もう、貴女にしか頼れないの。お願いしますっ!」
「そこには、土下座の重圧。こちらは悪くないのに何故か罪悪感を感じると言う、人の心理を付いたモノ。ソレは正に心のトリックスター。それは白金の戦乙女とて例外では無かった。ソフィア=ヴァルキュリアは思う。これを戦闘に利用できないモノかと。もし、利用できたのならばそれは……」
「そこっ」
「ひゃい……」
「だから。うるさいよっ」
「ご、ごめん」
メルチだった。また解説を乗っ取られた。
「影死……今日は良くしゃべるな?」
「も、申し訳ありません、ソフィア様。また、出番が来るなんて夢にも思わず、これが最後かもと思うと……」
「……そうか、まぁ、良い!」
「あ、ありがとうござますっ!」
「……」
「……じゃなくて、こっちの話を聞いてっ!」
「そうだったな、で、何だったか?」
リリスは息を吸い込む。
「お兄ちゃんと、みんなを助けてっ!!」
再び頭を床にこすり付ける。
ソフィアはそんなリリスを見下ろしている。
「……で?」
沈黙が流れた。
「わたしが、それを行うことの見返りはなんだ?」
「え?」
「この、ソフィア=ヴァルキュリアの力を借りたいのであろう?タダでとは虫が良過ぎぬか?」
「確かにそうだ。力を借りたいと言って、分かりました……で済むはずが無い。相手はこの地上で最も美しく、最も強く、最も聡明で、神に最も近いお方なのだ。いや、既に神を超えたと言っても過言ではない。お、お、お兄ちゃんがワザと勝たせてもらってから、舐めプは止めたと聞く。ならば、そんなお方への対価とは……」
「メルチ、お兄ちゃん言うのは恥ずかしい事じゃない!それに、私は舐めプとか使わないから。勝手に私の代弁しないで」
「ご、ごめん」
「な、何でも言うことを聞くから……」
ソフィアが興味を示した。
「何でも?今、何でもと言ったか?」
「い、言ったよ?」
「そうか、では……お前の兄との仲を取り持て」
「「「はぁいぃ?」」」
メルチとリリスの声が重なった。
「そ、ソフィア様、どういう事ですが、リリスの兄とは再戦して叩きのめすのでは?」
「そうだ、だが、考えてみろ。本気のわたしは最早負けない。やるだけ無駄だ。そこで考えた」
「な、何をでございますか?」
「ならば、最強のわたしと、唯一わたしに勝ったことのある男との間に生まれる子供は、どれ程の強さを秘めているのかとな」
「おお、それは素晴らしいお考えでございます」
(ちょ、メルチあんた本気?)
(言い出したら、聞かないのは知ってるでしょ?)
「どうだ?この条件を呑むのであれば力を貸そう。夫の危機なら妻が動かねばならぬ」
皆の顔が浮かんだ……が、ひとり人増えるくらいいいか。リリスは考える事を放棄した。
お兄ちゃんが何とかするよね。
(後の事は後で考えよう~)
「いいわ、お義姉ちゃん!!お願いします!!」
「任せるがよい、わが義妹よ!今この時よりソフィア=バルド=ヴァルキュリアを名乗ろう!」
こうしてファウ=バルトの知らぬところで災いの種は巻かれた。
だがそれと同時に確かにこれ以上ない援軍を得たのであった。
そう、スタアが残したメモの
「そふいあ」
とは、ソフィアに頼れとのファウからのメッセージだった。
ソフィアが犯人とか怪しい……ではない。それは、何故か。
兄妹の文字遊びには『決まり事』があった。それは、答えをそのまま伝えてはならない……だった。
つまり名前だけが記された『ソフィア』は消えた四人に関与していない。
協力を得られるかはまた別の問題だった。
そう考えると、後の3つのメッセージの意味もリリスには理解出来たのだ。
ただ、一つを任せると余計なトラブルも持って来る『リリス=バルド』は健在だった。




