08:スキル決め(二度目)
「さて、決まったかの?」
蛍のような光が舞う空間で俺はその声を聴いている。聴いていると表現しているが、それは耳なのか頭の中なのかすら理解できず、現実味が無いにも拘らず恐怖感もない。夢の中がしっくりくる場所。
目の前の老人は、見た目はだだの老婆にしか見えない。
「ああ、決めたぜ。」
俺は迷わずそう答えた。
「では?今度はどんな能力を求める?」
「即死能力にするよ」
「……はぁ」
あ、この婆さんため息をつきながら、やれやれといった感じに首を左右に振りやがった。どう見ても着物。縁側におばあちゃんといった風情だが見た目通りなはずもなく……。
「やめておけ」
「ん?」
「即死能力は役に立たないと言っておる」
この婆さん何言ってんの?強いだろ、即死能力だよ?
「お主、転生してから害虫駆除でも始めるのか?それならば役に立つ能力かもな。むしろそれ以外では役に立たん」
「はぁ?強いだろ!即死!戦う前に相手は死ぬ!だよ?」
「アノ世界では、毒、麻痺、即死、この3つに関しては対処法が確立されておる。即死能力など相手からすれば何もされてないのと一緒。一方的にボコられてお終いじゃて……」
「……え?そうなの?」
「お主この23年間何をしておった。それこそ学校に入学して子供が一番に習うことじゃ」
「学校には行けなかったんだよね。貧乏だったし。普通に毒も麻痺も食らってたよ?俺、即死の対処法なんて知らないけど?」
「まぁ、いいや。じゃ、時間を止める能力で!」
「……はぁ」
やれやれといった感じに首を左右に振りやがった。さっきと同じだねこれ。
「せっかくもう一度転生させてやろうとゆうておるのに、自殺志願者だったとは知らなんだ」
「なんで自殺志願者になんの?」
「それでは聞くが時間を止めて何をする?」
「そ、それはあれだよ。色々便利だろ?時間を止めて人助けとか定番だろ?そそそ、それに、普段は見られない男にとっての桃源郷をほんの少しだけ垣間見るとか?」
「ほう、覗きに使用しますとな?……通報しますじゃ」
「最後だけ拾うなよ!」
「はっきり言っておくが、時間を止めた時点で何も見えんようになる。覗きには使えんぞ?」
「は?なんで?」
「時間が止まっておるのじゃ。光の反射も止まるじゃろ」
見えるとは簡単に言えば光の反射を網膜が捉えた状態だ。反射してくる光が止まっているなら網膜はなにも映らず何も見えない。そこは只の暗闇だ。
「良かったな。通報されずに済んで」
「そこから離れろよ!でも、だからと言って自殺志願者は大袈裟だろ」
すると婆さん、憐れむ目で俺をみた。
「めんどくさいので、すご~く簡単に説明するが……時間が止まると言ことはのぅ、全ての現象が止まるということじゃ。光は元より大気の振動も無くなるので音も聞こえない、臭いもしない、作用も反作用も重力も全てが止まっているのじゃ、触覚も失われ移動そのもが出来ない。そこでは5感も6感も生も死も止まった世界じゃ。物には触れることも出来ず存在するが存在しないと同義。時間とは止まった時点で虚無となる。止めてしまった時点で二度と動かすことは出来ない無の空間じゃ。生きた者が時を止めたならばそこは無限地獄となるのじゃ。だから自殺志願者だとゆうたのよ」
「めんどくさいので……まで聞いてた」
婆さんは一気にまくし立てるとズズーとお茶を飲んだ。いや、そのお茶どっからだした?
「でも、アノ世界には魔法があるだろ?何とかならないの?」
「魔法に不可欠な『過程』と『結果』も止まる。同じじゃよ」
まぁ、良くは分からないがそういうことらしい。怖いな……時間停止。
「まぁ、アノ世界での話しじゃ……」
「ちなみに聞くけどさ」
「なんじゃ?」
「じゃ、ちょっと視点を変えて時間旅行能力なんて……どうかな?ほら、失敗しても過去に戻ってやり直すとか……」
「過去に戻っても何もないぞ?そこには燃えカスがあるだけじゃ」
「はぁ?」
出来ないといわれたほうが納得した。燃えカスってなに?
「まぁ、よい。ここまで付き合ったのじゃ。簡単に説明してやろう」
本当はここまでのサービスはしないのじゃがのぅ。とか婆さん。
聞こえてるよ。
「時間とは簡単に説明すると『火のついた導火線』じゃ」
「……導火線?」
あれだよね。ダイナマイトとか花火の先っちょについてるやつ。
「ふむ。火がつき激しく燃え、進み続ける部分が『現在』。まだ燃えていない部分が『未来』」
とすると……過去は?
『現在』とは可能性を燃やして輝く炎だという。可能性とは燃えてない『燃料』を指す。
『現在』は『未来』を燃料に燃えて進む。そして燃え尽きた後の燃えカスが『過去』ということなのだろう。
『過去』が燃えカスであるならば、『過去』には過去の自分などは存在しないことになる。過去の世界すらもだ。そして存在するモノは……昔とはそうだったという思い出。記憶や記録だけ。
なぜなら、燃えてしまった『過去』は既に灰になっているのだから……。
では、過去に戻れた時そこには『燃えカス』という名の『何』が存在しているのだろうか?『燃えカス』とは何だ?
「わかったかの?良く言うであろう。今このひと時は掛け替えのない一瞬なのだと。ひと時ひと時を全力で生きろと!」
なんか婆さんドヤ顔だ。なんか腹立つ。そして付け加える。
「アノ世界では時間旅行は不可能となっておる……どれ、そろそろ頃合いかの」
「ん?頃合い?」
その時、微かな違和感を感じたのだがその時の俺にはその違和感の正体を理解することはできなかった。
結局俺の「スキル」は前回のまま……と落ち着き、二度目の『転生』を準備する。
前回と違うのは、少しだけプラスαで『相棒』を付けてもらったことくらいか。
「ところで、今回の転生では俺ってイケメン?」
「期待してよいぞ。特別を用意しておる」
「そうかー。じゃ、世話になった。行くよ」
そして俺は『転生』する。
妹が待つであろうアノ世界に。二度目の『ファウ=バルド』として。
さて、どうやって兄と証明するかな。俺の心配はそんなことだった。
「や~と行きおったか。『小僧』もそうじゃが『アレ』にも困ったもんじゃ」
「まったくやる気など無かった者が……何を考えておるのかのぅ」