83:勇者ディアレスVS勇者ボルト
ディアレスの色を魔力探知で追い。到着した先は何もない只の荒野だった。
人の気配どころか生き物すら居ないのではと思える。
ディアレスは、そこに佇んでいた。
「勇者様、何かおかしいですっ」
「どうやら、俺達が来ることを知っていたようだぜ。ボルト」
確かに一面何もない場所を選んだとしか思えない。では、そんな場所を選ぶ理由とは?
「ふ~ん、何か余裕だね。よほど自分の腕に自信があるのかな?」
そう、戦闘する前提に他ならなかった。なら、ディアレスは知っていたことになる。
ディアが口を開く。
「あら?奇遇ですね。こんな何も無い所で再開するなんて」
四人は一定の距離を取って止まる。
「まぁね、君に訪ねたいことがあってね。答えてくれると嬉しいけど」
ボルトは自分の身体を前面に出した。戦闘の意思があるだけで自分に意識が向けば『不戦勝』が発動する。
「何でしょうか?勇者ボルト?」
(さて、君はどうかな?)
ボルトは一気に距離を詰める。抜かれた剣はディアの剣で受け止められ甲高い音が響いた。
「これが質問ですか?」
「へぇ、戦えるんだね」
本来なら『不戦勝』で戦闘不能になるはずだ。だがディアレスは剣を抜いた。そして受け止めた。
ボルトは距離を取る。
「間違いない!『魔神』だよ!」
ボルトの指摘で他の三人も戦闘態勢を取る。ボルトがそう判断したのならそうなのだ。
「みんな、相手は魔神、何かしてくる前に一気に決めるよっ!」
『鬼神剣・弐ノ型』
『形態変化・豹・獣撃破砲』
『七光・連弾』
『グラビトン・スラッシュ』
それぞれの攻撃が一斉にディアレスに向けられた。すかさずリセルナが皆に防御障壁を掛ける。攻撃後の余波に備えたのだ。
それぞれの攻撃が荒野を陥没させ土砂を空中に大量に巻き上げた。衝撃波が岩を砕く。だが、場所が場所だけに人的被害は無い。
「……やった……か?」
「ウォボス、それ、言っちゃダメ」
ディアレスが疾風となって抜けた。背中の『八翼天翔紋』が光を放っていた。それは『勇者ディアレス』としての力の解放。
一気に三人を抜き去ると一番後ろに位置していたリセルナを捉える。腹部にめり込んだ拳で身体を『くの字』に曲げたリセルナをそのまま上に持ち上げた。
「ば、バケモノかよっ!!」
あれで無傷でいられるはずが無い。無いのだが現にディアレスは無傷だ。
ウォボスは印を結ぶ。その動きをみたミユウは『神降ろし』だと判断する。
……ならば、降ろすまでの時間が必要だ。
『形態変化・黒』!!
ミユウを中心に巻き起こった魔力の渦は闇を成す。それをミユウは纏った。闇の黒豹。かつてリテリの反応速度を超えた超速の獣。
だがその超速の攻撃はカウンターで返された。動いたのはミユウが先。だが、後から行動を起こしたディアレスの攻撃がミユウを捉えるのが先だった。リセルナと同じ運命を辿る。しかも、空いた左手一本で。
『神降ろし』!!
ウォボスの『神降ろし』が完了する。
『スサノオ』!!
言霊が終わり。スサオノを降ろしたウォボスが攻撃態勢に入る。
『叢雲・鬼神剣』!!
叢雲に手を掛けるが、そのまま後ろに倒れて動かなくなった。いつの間に移動したのか、ディアレスがウォボスを見下ろしていた。
それこそ一瞬の出来事だった。勇者ディアレスの戦闘力は圧倒的だった。
「君、強いね」
ボルトはその戦闘を見ても別段、驚いていない様子だ。
「そうでもありませんよ?私のマスターはもっと強いから」
その言葉に初めて表情を変える。
「流石にソレはないでしょ。君のマスターってバルドでしょ?それはないよ。君より強い奴なんて僕以外存在するのかな?」
瞬間、ボルトの頬が切れた。血が滴り落ちる。
「マスターの悪口はゆるしません」
ボルトは自らが血を流しているのを手のひらで確認する。
「何故、俺に攻撃できるんだ?ありえないだろっ!」
「仮面がはがれてますよ?ボ、ク、」
「ちっ!!」
ボルトが舌打ちした。
『グラビティー・フィールド』!!
ディアレスの足が大地にめり込んだ。それは高加重の領域。肉体が絶えられても鍛えることのできない内臓が潰れ破壊される。そんな高重力。
「まぁ、いいや。この状況はこっちにも都合がいい。君が魔王ルクスから奪った『宝珠』を渡してもらうよ」
「何故そのことを?でも、お断りします。これはマスターから託された大事な物」
確かにそうだった。ボルトがその事実を知る機会はなかったはずだ。
「俺が、この俺がよこせと言っているんだよっ!素直に渡せばいいんだよっ!」
それは、勇者ボルトなのか?あまりにも変わった口調もそうだが、表情すらも穏やかさが消えていた。
「勇者にあるまじき行為ですね」
「勇者、勇者かぁ?やってみたが、つっまんね。感謝の言葉とかいらねぇんだよ。やっぱり俺は悲鳴が好きだなぁ」
ボルトはディアレスまで歩いてきた。自身は影響を受けないらしい。
「なぁ、女。おめぇは強い。俺の女になれ。そうすれば飼ってやる。死にたくないだろ?バルドより満足させてやる。勿論、夜の方もなぁ。良い声で鳴いてくれよ」
「下種がっ!『八翼天翔ざ……』」
耐えていたディアレスが膝をついた。
「あははははは!やっぱりかっ!」
ボルトは文字通り腹を抱えて笑った。
「お前の唯一の弱点はあの男か。あの男のことになるとお前は冷静でいられなくなる。今、俺に意識を向けてしまっただろ?」
確かにその通りだった。ディアレスの意識は遠くの山に向けられていた、傷つけた攻撃もたまたまその線上にボルトが居ただけなのだ。それが今、ファウの事を言われて意識をボルトに向けてしまう。そしてボルトの『不戦勝』が発動した。
「さてどうするか?このまま殺してもつまらんな……そうだ、実はお前が裏切ったのは俺に惚れたからにするか。そして、宝珠を持って押し掛けた。あいつはどんな顔をするか楽しみだなぁ。なぁ?」
「!!」
戦闘不能状態のディアがら魔力が溢れてボルトを吹き飛ばした。
「マスターの身体も、心も傷つける者は許さないっ!」
「へっ、お前自分の状況分かってんのか?魔力が枯渇寸前で消滅寸前なんだぜ?バカか?」
そのとき、ディアレスが微笑んだ。待ち焦がれた者に向ける、そんな笑みだった。
「ええ。私の役目は終わりました……」
「『ナロナの増減』!!反転する!!」
重力の領域が消滅した。
「『バステルの正門』!!発動!!」
伸びた鎖は優しくディアに巻き付くと主の元に運んだ。
「立てるか?ディア」
「はい、マスター……」
ディアの姿が透ける。
「マスター…これで……よろしかったでしょうか?」
ディアはそう言って崩壊し始めた自身の身体にてファウを抱きしめた。ファウ=バルドはそれを黙って受け入れる。
魔力の枯渇で消えていく状態のディアレスは、ファウに口付けしようとし……最後の想いが叶わぬまま完全に消滅した。
「ああ……十分だよ。ディア。良く時間を稼いでくれた」
「お前は最高の相棒だよ」




