79:首謀者
俺にとっては最後の穏やかな日だった。そして、夕方になりついに姿を見せる。今回のレムスタリアの呪いから始まった、宝珠を狙った事件の真の首謀者。
ご丁寧に俺を犯人にする筋書きまで準備し、その方向へと誘導していった者。
「久しぶりだね?お兄さん」
初めから答えはそこにあった。魔王ルクス、八翼世界の魔王。
「よお、ルクス。今日はキャラはいいのか?」
「真面目な話だからね。お兄さんの持つ三つの宝珠を渡してほしいな?」
上目使いでする子供のおねだりだ。
「俺の質問に答えてくれたら、良いぜ?」
「何かな?答えられたらいいけど……緊張するねっ」
「お前の計画通りこうして『魔人』まで名乗ったんだ。答えてもらうさ」
「本当なら『魔神』だけどね。うん、いいよ。質問は何?お兄さん」
俺は一気にまくし立てた。
「レムスタリアを呪うことが出来たのは誰か」
「フェイゼノルン邸の隣に魔王の隠れ家があったのは何故か」
「魔王軍が一度も姿を見せないのは何故か」
「常に物事の主導権を握り、ミスリード出来たのは誰か」
「俺に起こっていた『挿げ替え』を行えるものは誰か」
「最後の『挿げ替え』が遅れたのは何故か」
「リセルナの嫉妬を煽り、時の宝珠化を狙える者は誰か」
「俺を首謀者として誘導できる立場に居たのは誰か」
「そして、勇者、聖女、魔女、戦乙女、真巫女は何故集められたのか?」
「なんだろうな?その質問」
ルクスは考える仕草をする。
「まるで私が、一連の事を起こした首謀者みたいな質問だよね?」
「残念だがなルクス。俺はそう見ている」
「悲しいなぁ、でも、聞いてあげる」
「始めるぜ?」
全て、魔王ルクスが関与したとすれば説明が付く。
「まずグニスの件。グニスとはパペット・デーモン。何物にもなれるが意思も命も無い操り人形。主の思い通りに動くオモチャだ。ディアが魔王ハージルから聴いたよ。魔王の呪いは魔王本人の呪いだとな。つまり、あれは魔王ルクス……お前本人によるもので間違いない。偽装まで施され、見事に騙されたよ」
「二つ目、フェイゼノルン邸の隣に魔王の隠れ家があることが既にオカシイ。不自然過ぎて逆に気にしなかった。レムスタリア、いや、俺を監視するには絶好の場所だ。しかもソフィアの襲撃で半壊、一緒に住めることに成ったのだから笑いが止まらなかっただろう?」
「三つ目、魔王軍が一度も姿を見せず、常にルクス一人で行動する不自然さ。お前は俺の『解析』を警戒したんだ。恐らく側近の中に見られてはいけない者がいたと予想出来る」
「四つ目、思えば色々な謎はお前が常に会話の中心になって解けていった。『治安維持』『決まり事』『宝珠』『世界の有り様』『魔王が死ぬとその世界が滅ぶ』。だが、俺達にはそれが真実か確かめる術がない。お前が嘘を混ぜても気づけない。捏造した物語でも真実をあらぬ方向へ誘導できる存在はお前だけだ」
「五つ目、『挿げ替え』を行える位置に居るのは誰か。俺の近くに存在し、俺の死を観測出来、その時点で『挿げ替え』を行える力を持つ可能性のある者。限られてくるだろう?お前に無くても魔王軍の誰かが『挿げ替え』を持つのだと考えればつじつまが合う」
「六つ目、最後の『挿げ替え』が遅れたのは何故か?あの時、女神アンニージェが下界に居たからだ。直ぐには行えなかった。そこでお前は世界征服までズルズルと行う羽目になった。今か今かと目を光らせていただろからな。そして、俺をワザとリセルナの近く、勇者ボルトの中へと飛ばした。勿論、思惑があっての事だ。いや、最終目的の手前……といったところか」
「七つ目、リセルナの宝珠は『嫉妬』で変化する。決定的なのはレムリに言った一言。動きを止めて抱きつけ。お前の指示だったそうだ。実際、嫉妬により時の宝珠になりかけてたよ。あの場面でリセルナの宝珠が変化して死亡した場合、お前は最もらしく俺の中に居るもう一人の俺の話を切り出すつもりだった」
「八つ目、お前が書いたシナリオでは俺の正体は前世の『魔神』だ。流石に『魔神』を名乗る程の実力ではないからな、『魔人』を名乗ったのはお前へのメッセージだ。それで気づいたんだろう?俺がお前を疑っていると?予想通りお前は他の宝珠を集めて一人でここへ来た。一番の目的は宝珠だからな」
「九つ目、勇者、魔王、聖女、魔女、戦乙女、真巫女とメンバーが次々と集まるのが不思議だった。だが、考えれば簡単だ。この世界の『決まり事』にある。魔王あるところに勇者アリ。お前が第三聖女に手を出したことによって、ディアレスが俺のスキルとして関わることになった。勇者が関われば、サポートするためのシステムである聖女…………リテリさんは魔女でもあるが、戦乙女、真巫女も関わる。お前が『決まり事』を利用して集めたパーティーは、最終的に前世界を滅ぼした『魔神』に仕立てられるはずのファウ=バルド」
「この俺と戦うパーティーだった」
「こんな俺なんかの為に、大層なメンバーだよな?ルクス」
「お兄さんを送る……盛大な花火のつもりだったんだよ?う~ん、凄いねお兄さん。やっぱり、異物はお兄さんだったかぁ。概ねその通りだよ。でもお兄さんがいけないんだよ?私の最初のシナリオ。レムスタリアからの宝珠の回収を邪魔するから。なら、お兄さんを犯人にしちゃえって変更したの」
「そうそう、リリスの口付けで死んだお兄さんに『挿げ替え』が起らなかったのは、その時はお兄さんなんて、知らなかったからだよ。これは言わなくても分かるか……。でも、もっともらしい理由が付いたでしょ?お兄さんが犯人になる理由」
そう、起こってたはずの事が一度だけ起こらないのは、それには理由があるからだと疑われる。
「でも、お兄さんがもう一人のファウ=バルドを演じるから計画は破綻。だってそうでしょ?リセルナが死んでない状態では煽ることも出来ない。死んでくれてたら勇者ボルトが皆を引っ張って盛り上がるはずだったのになぁ。更に、皆が矛盾点とか指摘しだして私だけ違うとは言えない雰囲気になっちゃうし……結局お兄さんをフォローする事とか言ってしまったりして……滅茶苦茶」
ここでワザとらしいため息を付く。
「でも、感謝して欲しいな。無茶ばかりするお兄さんの尻拭いしてたのは私なんだからね。何度死んだか知ってる?」
「ルクスちゃん……何で」
レムリがスクスに声を掛けた。
「レムリお姉さんにもスタアお姉さんにも恨みはないよ?時の宝珠が欲しかっただけなの」
「目的は何だ?」
「宝珠を集める目的なんてひとつでしょ?過去改変だよ」
悪びれも無くそう言い放った。
「……お前、ソレがどんな結果をもたらしたか知って」
「知ってるよ。でも、大丈夫。私なら上手くやるよ。後はお兄さんの三つが揃えばいいだけ」
「いいだけって、俺のは時の宝珠にはなって……いや、出来るのか?時の宝珠にっ!」
聖女の体内にて変化させる必要は必ずしも無いってことだ。スルクの言葉が本当なら……。
「そう、そうして『決まり事』を無くすの。私七歳だよ?あと数千年も『決まり事』に縛られるのは嫌なのっ!」
「もういいです、ルクス」
何が起こったのか理解するまで動けなかった。いや、今も理解なんてしていない。
今のはディアの声に間違いない?
「ルクスちゃんっ!」
レムリの悲鳴で把握した。ディアの剣がルクスの胸を貫いていた。
「ほ……ら、だから……嫌なの……『決まり事』なん……」
魔王ルクスから魔力が消失した……。ルクスが死んだ?何だ、このあっけなさ。
「やっぱり嘘でしたわマスター。世界は終わらない。八翼世界は現在も存続しています」
何を言ってる?何をやってる。なら、なら、お前も俺に嘘をついたことになるんだぞ?お前の目的は……まさか。
「お前、なにしてるっ!」
「ねぇマスター?そんなくだらない事の為に宝珠を使うなんて愚かですよねっ」
「何を言って……」
ディアはルクスの亡骸を探ると五つの宝珠を取り出す。
「これで、八個揃いました。後は、恐怖を振り撒けばいいのですね?嫉妬が一個ありましたね。それはどうしましょうか?」
八個揃った?まさか……
「何をする気だ?」
デイァレスを警戒しながらレムリを『解析』する、宝珠は……なかった。
「決まってます。マスターと二人だけの世界を作ります。邪魔する者の誰もいない世界。楽しみに待っててくださいねっ」
俺の持っていた宝珠は……無い。朝の食事の時か!
「ディーーーアぁああっ!!」
「「バステル・発動する!!」」
……が、門から伸びた鎖の束がディアレスに届くことはなかった。
「ルクス……『決まり事』を無くす、そんなことの為に『宝珠』を求めたのかよ……」
『決まり事』という名の呪縛。呪いを断ち切りたかった魔王ルクスの亡骸だけが残された。
「ファウ様」
「ファウっ!」
「何故、ディアレス様が?」
「俺は馬鹿だ。今までのディアレスの行動の不自然さを除外していた。怪しい行動は数多くあったんだ。ディアレスは『時間の概念』を使う気だ!」
魔王では勇者に勝てない。『決まり事』だ。
なら…………。
そうなら…………。
生まれて7年の魔王に拒否権が有るはずがない!
「ファウ様………お身体が………」
「ん?ああ、ディアからの魔力供給が止まった。だが、暫くは持つ。ディアを追うぞ!」




