77:来訪者と真実
魔人を名乗りはしたが、今はこれといってすることが無い。蒔いた種には芽を出す時間が必要だ。待つしかない。自らのシナリオを俺の口から先に暴露され、その手を使えなくなった者が直接目の前に現れるのを……。
俺、レムリ、スタアの共同生活で起こったことと言えば、スタアが料理担当になり、食事が旨くなったことと、スタアが赤毛の女を屋敷中探し回り散らかしまくったことくらいだ。
「何処に隠しましたの?」
「何のことだ?」
「赤毛の女よっ!」
「またそれか……」
「重要な事ですわ」
(周りの女性がもう一人増えるかどうかは重要な問題よね?嘘は言っていない)
「それならもう現れることはない」
「信じろと?」
「お前たちが居るからな……発動することはない」
(発動?それってまさか……)
「アレは呪いなのね?」
「さて、何のことだ?呪いには奴ほど詳しくないのでな」
「まぁ、いいですわ」
どうやら、納得した様子だ。スタアとの話が終わるのを待っていたのか、レムリが口を開く。
「ところでファウ様?あれから十日ほど過ぎましたが、こうしていて大丈夫なのですか?」
「あぁ、こちらにはレムリの中の宝珠とリセルナがら取り出した宝珠、合わせて三つの宝珠がある。待っていれば欲しがっている奴がのこのこと現れるさ」
「三つ?欲しがっている奴?……」
レムリはずっと考えていた。ファウ=バルドの行動の意味を。何故、自分が本物で、今までの自分は偽物だと言ったのか。何故、一連の事件を自分に関連付けたのか。何故、今のファウ=バルドの仕業にする必要があったのか。
確かなことは一つだけ。
ファウ様は、本物も偽物もない。一人だけ。そう確信していた。そしてこの魔人ファウ=バルドは必要な事なのだと。
そう考えると一つの疑問が掠める。状況はファウ様を疑えと示していた。もし、あの場で決定的な出来事が起こっていたら、何を言っても誰もファウ様を信じない。だから、ファウ様は先手を取った。
今の状況はファウ様が作り出した、首の皮一枚のギリギリの状態なのでは?
そうしたら、有り得ない考えが浮かんだ。あの会場の中に一連の事件の首謀者がいた?考え過ぎだろうか……?
初めに気づいたのはスタア。何気に部屋の隅を見ただけだった。ソレが何であるか脳が情報を伝えるまで間があった。いつからそこに居たのか?それは良く知る人物。
『蒼鏡』!!
スタアは展開した『蒼鏡』を俺の防御とする。こいつにはそういった側面があったな……。口は悪いが、自分の防御を考えずファウ=バルドを第一に守る。本当に……。
「ツンデレちゃんですね、スタア様?」
「「ディアレス様」」
レムリとスタアの声が重なった。
「こんなところに隠れていたとは、もう終わりですよ?」
(まさか、一連の事件の首謀者はディアレス様?)
緊張が走る。
「ディア……」
「この勇者ディアレスの究極至高のメニューであの世とやらに送って差し上げますっ!」
(なんだよそれ、美味しそうだな……)
「ディア、芝居はいい。報告を」
「「へっ?」」
またもレムリとスタアの声が重なった。息ぴったりだな、お前ら。
「大体お前、戦闘できる状態じゃないだろう?」
「もうーっ。せっかくの再開ですのに~っ。寂しかったですか?マスター?」
「はいはい、寂しかったよ」
どうやら、満足したようだ。
「では、報告しますね」
(ディアレス、相変わらずだな)
「あのぅ、ファウ様、これは一体……」
「ディアレス様が戦闘出来ないって……」
「ああ、この身体を維持できるのはディアレスのお陰だ。ディアがこの身体を魔力で維持している」
「私のこの身体と同じ原理ですよ?」
ディアレスが付け加えた。
「例えるなら、私から生まれたマスターですね。母性愛に目覚めそうですっ」
「あーはいはい。二人分だからな、ディアでなければ不可能だが、ディアでも戦闘の魔力にまで回せないのさ」
「でも、でも、ルクスちゃんはその体はクローンとか言ってました」
「クローン?成程、クローンか。クローンでも自我はあるんだよ。そんな面倒が起りそうな方法はゴメンだ」
「つまり、一連の事は全てディアレス様との芝居?」
「そうですよ?どうでしたっ?私の演技っ!」
「でもどうして、いきなり?」
「私も詳しい事は分からないです。マスターに俺の身体を作って維持しつつ、敵対する芝居をしろと言われただけですから」
そう、あの時。ディアが俺に不信感を持ったあの時。俺は呪いどころではなかったのだ。
あの時、正にあの瞬間に聖女リセルナの中の『聖女の宝珠』が『時の宝珠』へと変わろうとしていた。
恐怖で変化するものとばかり思っていた。リセルナを『解析』しておくべきだったのだ。
リセルナの宝珠は『嫉妬』で変化する。正に黒髪のあの状態だった。もはや強引にでも取り出す他なかった。出なければ、完成と共に聖女は命を落とした。そして、予想は付く。俺の仕業になるはずだった計画。
肉体はディアに作らせた。ディアが初めてその姿を現したときに俺の身体も作るといってたのを思い出したからだ。
後は、これを仕組んだやつのシナリオに乗った。世界を破壊したファウ=バルドを演じ、呪いを赤毛の側近らしく見せ、ディアに敵対させる。俺が孤立したと思わせねばならなかった。誤算は、レムリだ。あそこは……。
「貴方はファウ様ではありませんっ!」
……との止めの一言が欲しかったのだ。まさか、一緒に来るとは思わなかった。
「ファウ様、前の世界を滅ぼしてしまって、その世界を元に戻すため……とは?」
「俺が、そんな凄い人間に見えるか?」
「神々にゲームを挑んで、世界の『決まり事』を作ったのではありませんの?」
「何処の誰だよ。その人間離れした奴は」
「グニスにレムスタリアを呪わせ自作自演し、死んでたことでアリバイを作ったのではありませんの?」
「死んでアリバイとか、そんなトリック炎上ものだ」
「では、では……貴方は私達レムスタリアの知ってるファウ=バルドですの?」
「勿論だ。ファウ=バルドは後にも先にも俺だけだ」




