76:蒼の聖女VS蒼の聖女(2)
『蒼鏡散開』
それは現れたときに既に砕けた鏡の破片。広間一面に巻き散らかされ埋め尽くす。そして淡い光を放つ。広間の床全体が光を放つ光景。
対する、スタアは魔力の残光にて塵を空中に配置し、それを光の糸でつなぐことによって魔法陣を描く。
スタアの『蒼の監獄』
レムリの『偽典・バステルの正門』
小細工はしない。今の自身の全力を持って戦わねば勝てぬ相手。いや、そもそもこの争いに勝敗はあるのか?自分自身に打ち勝つ。聞こえは良いがソレが可能だろうか?自分に勝ったと同時に負けた自分も同時に存在してしまう。まさに矛盾。
これは、そんな戦いだった。
そんな争いに勝敗を決定づけるものが有るとすれば……。
巻き付いた鎖は隙間なくスタアを巻き尽くす。
結晶化した蒼金剛はレムリを閉じ込めた。
そこから動きが無い。
「……………………」
どれ程の時間が過ぎただろう、僅かだったようで永い。
「……らちが明かないな。レムリもういい。スタアも収めろ。一生このままでいるつもりか?」
少しの間の後、ソレはお互いを開放した。
「ファウ様、ごめんなさい……わたくしには、やっぱり出来ません……」
スタアはレムリを見つめている。
「…………」
ファウ=バルドはため息を付いた。
「そんなことは初めから分かっている。俺は、生かして返すなと言ったのだ。やり様は他にもあるだろう?」
「え?」
「生かして返さなければいいのだ。こちら側に引き入れろ。説得してみせろ」
沈んでいたレムリの表情に明るさが戻る。
「はいっ、ファウ様っ。それなら簡単ですっ!」
(簡単……なのか?)
レムリはスタアに向き合おう。
「……そんな分けだから、スタアちゃん。覚悟してね」
「な、何ですの?説得なんてされませんわよ?」
「ふふふ、衝撃の事実を聞いても同じことが言えるかな?スタアちゃん」
何故かスタアが居ると、レムリは子供っぽさが前面に出てしまう。不思議だ。
「衝撃の事実?」
「気になる?気になるでしょ?」
「……な、なりませんわよ」
「ファウ様の秘密だよ?」
「「なっ」」
スタアと同じ反応をしてしまった。
「気にならない?気にならない?」
繰り返しながら、スタアの周りをぐるぐると回る。
「…………気に、気になりますわっ!いいから教えなさいっ!」
「それはね……」
レムリはスタアに囁く……。
「ファウ様は……の。だから………だよ?」
「うそ……」
スタアが勢いよくファウ=バルドを振り返った。そしてものすごい勢いで歩いてきた。座っているファウの前に立つと、顔を近づける。そしてじっと、目を見た。
「何の真似だ?キスでもするつもりか?」
「望むならいいですわよ?言ってごらんなさい。キスしてくださいって」
「この身体は新品なのでな。俺のファースト・キスの相手として死ぬまで記憶に残ることに成るが?」
「私の身体だって新品ですわ」
二人の会話にレムリも加わった。
「はーい、はーーい。わたくしも新品です」
「レムリはリテリ姉さまと葵とキスしたでしょうがっ!」
「あれは女の子同士だから……したのもされたのもファウ様で……」
何やらブツブツ言っていたが最後は聞き取れなかった。スタアはファウのあごに手をやると上を向かせ、左右から顔を何度も繰り返して確認する。
「いいわ、合格よっ!」
合格らしい。
「勘違いしないでよね?別に貴方のためじゃありませんのよ?レムリがわたくしを必要としているからですわっ!」
「そう……か」
スタアとはそうだったな。
俺は吹き出しそうになるのを堪えた。
「では、俺の側につくと理解していいのだな?」
「はい」
「わたくし達……」
「レムスタリアは……」
「「ファウ=バルド様に、この身も命もお預けいたします」」
二人がファウ=バルドに膝まづく。
「ファウ様のなさろうとされていることにお役立てください」
「この命、安くありませんわよ?成し遂げて見せなさい」
俺は、すまないと言いそうになるのを堪える。
「ならば今より、俺は『魔人ファウ=バルド』を名のる!!」
「はい、ファウ様」
「いいわ、ファウ」
ここに『魔人ファウ=バルド』が誕生する。
…………もちろん、自称だった。




