74:蒼の聖女VS蒼の聖女(1)
「あの……ファウ様?」
「ん?」
「わたくしはどうしたら?」
ファウ=バルドは大き目の椅子に腰かけていた。それは何処から探してきたのかと思えるくらいの見た目まんま『支配者の椅子』であった。二人では大きすぎる部屋。広間にテーブルと椅子が並べられている。何処かの貴族の別荘なのか作りは豪華だが今現在、人の気配はない。
今どきは『魔王』でさえこんな椅子は使わない。その傍らにはレムリが寄り添うように立っている。
あれから七日かけて遺跡を巡りここに落ち着いた。
「好きにしろ。部屋は自由に使って構わない。何なら、帰っても構わない」
「なら、先ずはお掃除ですね。わたくし、あまり得意ではないですが、お料理も頑張りますね」
両手の拳を握ってやる気を見せる。
「聞こえなかったのか?帰ってもか……」
「帰りませんっ!」
沈黙が流れる
「……俺と来い……とおっしゃいました」
「……」
「まさか、本当に来るとは思っていなかった……?」
「……」
「……わたくしを信用できませんか?」
「ふん、好きにしろと言った」
ファウ=バルドを見つめるレムリだったが、やがて微笑んだ。
(はい、好きにしますね。ファウ様)
「……で、これは何だ?」
夕食時、テーブルには本日の惨状がならんでいた。
「ふぇ……」
「ふえ?」
「いいえっ!失敗しました。直ぐに作り直します!」
ファウは口に入れた。
「あっ」
「いいや、見た目ほど食えない訳ではない。腹に入れば皆一緒だ」
(ファウ様……)
レムリは食事するファウ=バルドを見るのは初めてだ。葵の念写符を見ながらいろいろな想像はした。食事するファウ、眠るファウ、歩くファウ、踊るファウ色々だ。その想像の答えが目の前にあった。目が離せなかった。
「何を見ている?」
「あ、いいえ」
ファウ=バルドの手が止まった。
「一つ尋ねる。答えたくなければ答えなくていい」
「何でしょうか?」
「何故、付いてきた?お前の知るファウ=バルドは俺では無い。奴は今では完全に俺と同調し消えた。スタアがそうなる運命だったようにな」
「でも、スタアちゃんはファウ様が救ってくださいました」
「だからそれは俺では無い。消えてしまったファウ=バルドだ」
レムリが下を向いた。
「ファウ様が一人になってしまうと思えたから……」
「お前が消えたファウ=バルドに好意を持っていた事は知っている。もう一度言うが、俺では無い。姿形が同じで名前も同じなら誰でもいいのか?あの間抜けも報われんな」
その言葉にレムリがファウ=バルドを睨みつけた。
「お前でも、そのような顔をするのだな」
「わたくしの事はどうとでも……でも、ファウ様は間抜けではありませんっ!ご自分を悪く言うのは、いけないと思います」
「だから俺の話しでは……」
(え?展開された?)
レムリはその時、自身と同じ魔力を感じ取った。
「「『蒼の牢獄』」」
(スタアちゃんっ!)
「「『蒼鏡展開』」」
俺を囲もうとした『蒼鏡』をレムリの『蒼鏡』が弾き飛ばした。弾き飛ばされた『蒼鏡』は主の下へ戻る。そこには…………。
「見つけましたわ、偽物っ!」
スタアが立っていた。魔力の残光が髪を伝い神秘的な装いを引き立たせた。
「スタアちゃんっ!駄目っ!」
「レムリ、退いてっ!そいつを捉えれば全てが解決するのですわっ!」
レムリが俺をかばうように前へ出る。
「出来ませんっ!」
スタアは驚きの表情をする。
「スタアか、良くここが分かったな」
「気安く呼ばないでほしいですわ。この名前は偽物が軽々しく口にしていい名前じゃないのですわっ!」
(そうよ、私の名前はファウに貰った私が私である証)
「レムリが居る場所なら分かりますわよ?ただ、動き回るから時間が掛っただけよ」
「ここへはお前ひとりで?」
「それが?」
「好都合だ…………レムリ、スタアを生かして返すな!」
ファウ=バルドの口から出た言葉に……。
「「!!」」
二人の動きが同時に止まった。
(そう……やっぱり……遅かった)
スタアは予想していた。自分がそうだったのだ。つくられた人格はやがて、目的を果たした本体に取り込まれ消える。自分を救ってくれたファウは、自分の知っているファウは、もう居ないのだと理解した。
「いま……何と?」
「生かして返すなと言った。出来ぬなら、お前も俺には必要ない」
どの様な想いがそうさせたのか、レムリは消え入るような声で呟いた。
「スタアちゃん……ゴメンね……」
「本気……のようですわね。分かるわ。自分の事だもの……」
『蒼の聖女』対『蒼の聖女』リセルナの様な写しではない、どちらもレムスタリア。本物同士の有り得ない対決が始まった。




