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俺と聖女でひとつの身体  作者: 天川 和
四翼世界編
74/268

73:残り六つの世界へ


「では、みんなの意見を聞かせてほしいかな?現状の打開策や、これからの行動指針、何でもいいよ」


 魔王ルクスが皆を見渡した。今は魔族形態ではなく人形態になっている。この場に居る者それぞれが、一様に暗い表情をしている。


「ルクスちゃん、お茶が入ったよー。熱いから気を付けてねー」


 そこにお茶が到着した。運んできたのは処刑されるはずだった四翼世界の魔王ハ-ジル。


「来た来た。おじさん、ありがとう」


 天使の微笑だった。だが、魔王だ。


「お兄さん達も怖い顔してないでお茶飲もうよ?」


 お兄さん達と呼ばれた面々。勇者ボルト、聖女リセルナ、神職ウォボス、獣人ミユウ。


「はぁ、何故わたくしが魔王城でお茶を飲む羽目になったのでしょうか……」


「ん?それは指名手配、お尋ね者だからだよ?」


 ルクスは明るく答えた。


「はぁ、虹の聖女のわたくしが指名手配なんて……」


「まぁまぁ、リセルナ。結構いけるよ。魔族のお茶も」


 勇者ボルトはお茶を啜っていた。


「勇者様!危険では?魔族のお茶なんて!」


「悪意や魂胆があったら持ってすらこれないから安心だって」


「まぁ、そうですけど」


 そう言いながら飲んだリセルナ。


「あら、美味しい……」


 その反応にウォボスやミユウも手を付ける。



「しかし、勇者一行を指名手配するとかこの国の王も腹黒ですね」


「リテリお姉さん、そう言わないであげて、元は……と言えば私達にも少しは責任あるし」


「少しじゃねぇだろっ!、全部だろ!」


 ウォボスが声を上げた。


「ウォボス、テリリ様の前で、叫ばない、うるさい!静かに!」


「す、すまねぇ……」


 ウォボスの扱いはミユウに任せるのが一番の様だ。そして、何故かリテリに懐いているミユウ。


「あの、ミユウさん?わたくしはリテリです。テリリとか言う人は知りませんけど?」


 今のリテリは聖女モードだ。衣服も着替えて仮面も外した。バレるはずはないと本気で思っていた。しかし、ミユウにとって大観衆の前で一糸まとわぬ姿を晒さずに済んだのはテリリのお陰だ。晒してしまっていたら若い少女にとっては最早、世紀末だ。それを救ってくれたテリリは救世主。正に世紀末救世主だった。


「テリリ様が、そういうなら、えと……師匠?」


「何で、師匠ですかっ!」


「んー、何となく?闇の師匠?」


「あーそれ、リリスにも何となく分かるかも?」


「リリスまで!」



「でも、私達の事なんて所詮ただのきっかけですわよね」


スタアが続ける。


「元々計画していなければ、あの手際は無いですわっ!」


 確かにそうだ。ファウ=バルドが消えるとほぼ同時に重装備の兵士が会場に雪崩れ込んできた。罪状は魔族との密約。試合に負ける代わりに報酬を得たとして聖女リセルナを連行しようとしたのだ。しかも王の勅命として逮捕状も準備されていた。恐らく全員分が用意されていて今回はリセルナの分が使われたのであろう。気を失っているリセルナに成すすべはなく、しかしボルト、ウォボス、ミユウが反発した。途端に国家反逆罪が適応された。それを救った形となったのがリリスの『構築』で掘られたトンネルで助け出されていた魔王ハージルであった。転移魔法で魔王城へ。そして、今に至る。


「聖女の称号もはく奪でしょ?準備万端ってこのことですわね」


「過ぎたことはしょうがないよね。これからの事を考えようよ」


「魔王ルクスに慰められるなんて……しかも、こんな可愛い子供だったなんて……そうですね。切り替えましょう」


「では、まず。最優先をふたつ」



「ひとつ、お兄さんの言ったことは本当の事なのか?嘘なのか?」


「ふたつ、本当だとしたら私達はどうするべきか?嘘だとしたら何故そんな行動に出たのか?」


「その前にあの赤毛の女性、どうやってファウの肉体を準備したのでしょうか?人体を作るなんて神の領域でしょう?」


「葵お姉さんそれはね、この世界の前世界の技術だね。クローン……だったかな。間違いないと思うよ。でも、それをこの世界で行うには障害が多すぎるはずなんだけどね。可能性があるとしたら、遺跡物やオーパーツを集めていると噂の『世界鑑定協会』……うん、赤毛の女性はその関係者の確率が大きいね」


「ルクス様、神は関与していないって事でいいのですね?」


「断言は出来なくなってきたけどね。そう考えていいと思う」



「では、お兄さんの言ったことに関して考えてみようか?」


「ディアレス?レムリを除けば一番近くに居た貴女の見解は?」


「魔王ルクス、貴女は冷静ですね。この時点でも真偽を確かめようとしている。残念ですが本当の事だと思います」


「根拠は?」


「呪いの事に関して余りにも知識が薄い。あれはマスターではありません」


「ディアレス……貴女ほどの者が、冷静でいられないとは……」


「どう受け取れば?」


「そのままの意味だよ?」


不穏な空気が流れる。


「待て待て、お前ら。まさか始める気じゃないだろうな?勇者と魔王の戦いなんてやめろよ!ルクスが死んだら八翼が滅ぶんだろ?」


「ウォボスおじちゃん、心配してくれるの?」


「お、おじ……お兄さんだ。本当とは信じがたいが、殺して確かめる気もねぇ」


ディアがため息を付く。


「そうですね、考えてみますか……まず、話の筋は通っているように見えます……でも、不確定要素があまりにも多い気がします」


「つまり?」


「計画に穴があり過ぎです。計画を立てたのが私の知るマスターなら納得ですが、神にゲームを仕掛ける狡猾な男の計画とは思えません」


「では便宜上、本物だと名乗るお兄さんを本物、そうではないお兄さんを偽物とするね」


「どちらかと言えば、私にとっては逆ですわ」


「まぁまぁ、スタアお姉さん。便宜上だからね?」


「ディアレスの発言から、実は偽物が立てた計画かも知れない可能性も出てきたね。そうなると今までのお兄さんが演技だったことになる。でもこれは一番の謎を解明できない。どうやって『挿げ替え』を行ったのか」


「そう、可能性は薄いですね」


「では、本物が言ったことは嘘なのかと言うと、聖女リセルナの『宝珠』を奪った事の説明が付かないね」



「本物の話からまとめるね。過去改変を行い『前世界』を滅ぼしてしまったのは自分。そこで、滅ぼしてしまった世界を元に戻そうとする。けど、既に世界は再構築されて八つの世界に分けられていた。そこで彼は神々に退屈しのぎになり得るであろうゲームを持ちかける。そうしてゲームの『決まり事』がつくられた」


「スクスィさ、リリス思うんだけど、お兄ちゃんはどうやって神様と連絡とったの?」


「「「!!」」」


「そうです。ただの人間が神とどのようにして取引を行えるほどの連絡を?しかも言ってました。『神々に』と。この中で、神と連絡を取れる方は?」


 誰も居なかった。


「これほどの面々が集まって不可能なことを一人の人間が行えるものでしょうか?」


「確かに……でも、出来ないと決めつけるのは止めよう?そういった物がある世界だった可能性もあるし」


「続けるね。だか、乗り気でなかった女神アンニージェは本物の記憶を消し、普通の生活を送って欲しかった。そこで生まれたのが偽物のお兄さん。記憶を消されたのは偽物で以後、常に表層に出ることになる。本物は深層に潜り暗躍したのが今の状態だってことだけど、疑問点は?」


「スタア……レムリは貴女の存在を初めから知っていたのかしら?」


「いいえ、リテリ姉さま。しばらくは気づけませんでした」


「そうですか、なら、偽物は本物の存在を知らなかったのでしょうね。でも今は……」


「ええ、知ってしまった……」



「疑問点は、まだまだあるよ?グニスに呪わせたってどうやって?何故グニスは従ったの?偽ものを解呪の専門家に育てたのに、解呪は勇者でもかまわなかったって何かが……オカシイよね?ちぐはぐだし、助ける気満々でしょ?助けたら『宝珠』が手に入らないよ?」


「あの時、一応は話の流れが通っている気がしましたが……こうして改めて考えてみると不自然なことだらけですわ」


「そう、だからこれからの方針を決めよう。事実としてあるのは『ファウ=バルド』が肉体を得て聖女リセルナから『宝珠』を奪った事。そして、レムリが付いていった事」


「こうしてみると、確かなことはこれだけしか無いんだ?」


「なら決まっていますわっ!レムリを探せばいい。傍には必ずファウがいる」


「それと提案なんだけど、みんなには各世界に行って『宝珠』がどうなっているのか確認してほしいかな?そして『宝珠』を保護して欲しい。ファウ=バルドに渡す訳にはいかないからね。でも、気を付けて。あまり目立ってしまうとその世界の『魔王軍』が排除しにくるよ」



(お兄さん、何をしようとしているのか知らないけど、私達を甘く見ないでよね)




四翼世界編、短いですが終わりです。

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