72:世界の破壊者
何故こんなことになってしまったのか……。もう少しだったのに、もう直ぐ元に戻れたはずなのに……。
居なくなったファウ様が戻って来たはずなのに。
その男はいきなり会場に現れた。
しかし、レムリはその姿を知っている。何度も、何度も今の姿で夢に現れた男性。葵の念写符にてその姿を始めてみた時から焼きついいている。見間違うはずが無かった。
「てめぇっ!リセルナに何をしたっ!」
倒れた聖女リセルナを支えてウォボスが怒鳴った。
「宝珠を抜いただけだ。時期に目を覚ますさ」
男はそう答える。でも魔力が無い事は知っている。だから魔法は使えない。
「貴方、何者です」
リテリが大鎌を構える。
「この姿で会うのは初めてだったな。俺はこの世界ではファウ=バルドと呼ばれている。転生者だ」
「違うっ!貴方はマスターではないっ!」
勇者ディアレスが声を荒げるのは珍しかった。それだけこの男がファウ=バルドを名乗ることが許せなかった。顕現した時点で『八翼の天翔紋』にて正体が知れ渡った。
男は続ける。
「そして、ただの人間だよ。この八つの世界が創られる切っ掛けとなった、前世界を滅ぼしてしまっただけの……ただの人間さ」
その男の傍らには知らない赤毛の女性。手渡された見たことも無いモノをこちらに向けていた。聖女リセルナはアレで『聖女の宝珠』を抜かれた。
「いつから?ファウのふりをしていたの?」
葵が睨む。折り鶴が周りを囲む。
「ふりではないよ。元々俺がファウ=バルド本人だ。ハッキリ言えば、お前たちがファウ=バルドと呼んでいた者こそ作り物、偽物だよ。それとは知らずに動くもう一人の俺だ」
「道理で、誰なのか見当が付かないはず。考えてみれば、ファウ=バルドの死のタイミングを知るにはこれ以上ない場所であったといえるのう」
確かに本人と同一ならば、これ以上の隠れ場所はない。
宝珠を狙う者は誰であろうと『決まり事』に従い排除する。それが『魔王』の務め。
「何故、こんな真似を?お主の話が本当ならばソレがどのような物か誰よりも理解しているであろうに」
男は丸い薄い金属を取り出すとそれを見た。
「まだ、時間はあるか……良いだろう。おれは、世界を滅ぼしてしまった時に決めた。例えどんな手を使おうとも壊してしまった世界を元に戻すとな。そこで、神々にゲームを持ちかけた。八つの宝珠を集める者と守る者とに分かれた争奪戦だ。今の世界の『決まり事』はこの時に決まった。ゲームにルールは必要だろう?」
「『宝珠を求める者』の排除、監視者として『魔王』。これは神側の駒だ。『監視者魔王』を排除する俺側の基本は情報操作。駒の切り札は勇者。永遠を生き退屈していた神々は、アンニージェを除いて乗ってきたよ。最終的にはアンニージェも他の神々に押し切られて同意した」
「俺はいずれかの世界に転生するはずだった。誤算があったとすれば、一度目の転生は、アンニージェが行った事と、子供で転生してしまった事だ。子供の身では出来ることが限られてくる。そして、その世界が過去や未来の概念を書き換えた箱庭世界だったこと。更に、俺の目的を女神が転生を理由に消すつもりだったことだ」
「いや、実際に女神は消した。俺が身代わりに創り出した表層に居るファウ=ボルドの記憶操作は行われた。そして安心したはずだ。バカなゲームはもう行われないと」
「俺は、その策を利用させてもらうことにした。幸い、間抜けな作り物の方のファウ=バルドがここでも役に立った。だが、これだけは理解できたよ。アンニージェはファウ=バルドにただ穏やかな第二の人生をおくってほしかっただけだと。女神の慈悲とでもいうべきか?だが、俺の意思は変わらなかった」
今までファフと過ごした日々を思い出し、レムリの瞳から涙が溢れた。ファウ様は間抜けなんかじゃない。
「まず俺がしなければならないことはファウ=バルドを解呪の専門家にすること、そして、アンニージェに俺の介入を疑われないことだ。時間は掛ったが、子供のころから上手く誘導し、それは成し得た」
「そして、次にグニスにレムスタリアを呪わせるように仕向けた。時の宝珠を狙っている俺以外の誰かが居ることを匂わせるためだ。なんせ、その時点で俺は『リリスの口付け』で死んでいるからな。真っ先に除外される。二度目の転生が行われる確率にも自信はあった。アンニージェ以外の神々の中ではゲームは続行されているからな。俺が居ないとゲームが終了してしまう。恐らくは他の神々からの後押しがあって2度目の転生が行われた」
「まぁ、解呪は勇者がしても構わなかったが、保険のつもりだった解呪がおれに回ってきた。これも誤算があったとすれば聖女レムスタリアの中に送り込まれたことか……そして、何の因果か俺と同じくもう一人のレムスタリアがそこには居たこと、勇者ディアレスがあいつに付いてきたことだ」
「レムスタリアを呪うように仕向けた?自ら呪いを仕掛け、自ら呪いを解いた自作自演だったとっ!?」
スタアから魔力が溢れ出していた。これは、怒り。
「仕掛けたのは俺だが、解呪したのは作り物の方だ。勿論、何も知らない奴は、俺の思惑通りに踊ったに過ぎない」
「それでか、『リリスの口付け』で死亡した時だけは『挿げ替え』が起らなかったのか。それだけが不自然だったのじゃ。ファウ=バルドの死が確定すると起こる『挿げ替え』。しかし、遺跡にて死んだときは起こっていない」
「そうだ。あそこで俺は死んでいたとの事実が必要だった」
「ファウ様、もうそろそろ……」
赤毛の女が呟く。
「時間か」
ファウ=バルドはディアレスを見る。
「ディアレス」
「……」
「マスターに返事も無しか?」
「戯言を、私のマスターは貴方では無い。私のマスターは未来永劫一人だけ!」
「そうか、残念だよディア。ならばレムリっ!俺と来い!」
「え?」
「ファウ=バルドと居たいのだろう?」
「…………」
「何をバカなことを!レムリ、聞かなくていいですわっ!」
スタアの言葉に反してレムリが歩き出す。
「レムリ?」
「ゴメン、スタアちゃん。ファウ様を一人に出来ない……」
「……レムスタリア、賢い選択だ」
ファウ=バルドが手を差し出す。
ディアレス、リテリ、ミユウが同時に行動を起こした。
「ディアと呼んでいいのはマスターだけっ!」
「させませんっ!!」
「形態変化・豹」
だが三名が届くより早くファウ、レムリ、赤毛の女はその場から消える。
「「「なっ」」」
「空間移動とは、只の人間に出来る事ではないの……」




