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俺と聖女でひとつの身体  作者: 天川 和
四翼世界編
72/268

71:魔王救出戦10(勇者ボルトVSレムリ)


(どうやら向こうはレムリ様のようですね)


(……ああ)


 ボルトの視線の先には、ルクスに何やら耳打ちされるレムリが居た。


(しかし、ルクス。何か策はあるのか?ハッキリ言って勇者の持つ『不戦勝』は無敵だぞ?)


 大歓声の中、レムリが中央までやって来る。



「では五回戦勇者ボルト対レムスタリア!!」



「またレムスタリア?」

「魔族にはよくある名前なんだろ」

「あの魔族、負けて泣いてた子だよね?」

「何でもいいんだよ。可愛けりゃ」

「勇者様ーーーー!!」

「今度は泣くなよーーーレム子ーーー!」

「何だよレム子って」

「レムスタリアって言いにくいよな」


 勇者側が勝って終わるか、引き分けで終わるかの最終戦。会場には不思議なことにレムリを応援する声も響いていた。そして、それをとがめる者も居ない。



「先程は失礼しました」


 そう言ってレムリは頭を下げた。


「え?……ああ。僕は気にしてないから」


「嫌な女だと……お思いになられましたか?」


「そ、そんなことないよ?」


 ボルト、何で疑問形だ?


「ありがとうございます。ファウ=バルド様」


「え?僕はボルト……」



 開始の銅鑼の音がボルトの声をかき消した。


 先に動いたのはレムリだった。



「「蒼鏡展開(そうきょうてんかい)」」



 レムリを中心に囲むように現れたそれは、既に今回何度も目にしている『蒼鏡』。両手を胸の前に合わせ、瞳を伏せる。蒼い髪からこぼれ落ちる魔力の残光は黒い衣装が更に輝きを引き立たせていた。そしてそれは光の輪を頭上に形作る。過去に一度だけ、グニスの呪いを解いた解呪戦でだけみせた光の輪が、今回発動した。


 それはまるで天使の輪だった。いや、衣装が黒なら堕天使か?




「なにっ!」


 ウォボスが大声を上げる。


「ウォボス、うるさい!」


 ウォボスの隣のミユウ。


「すまねぇ、け、けどよ、アレ、アレ見ろよっ!あれはもはや戦闘行為だろがよっ!」


「……だと、思う……リセルナ様?」


「ええ、間違いなく戦闘行為に当たります。『蒼鏡』は、あの双子の戦闘の起点となる物です」


 リセルナは考える。


(なら何故、あの魔族は戦闘不能にならないのか?)

「なら何で、あの魔族は戦闘不能にならねぇんだ?」


 ウォボスも同じことを考えていたようだ。


(勇者様のスキルを破る方法を見つけた?いいえ、それはあり得ない。破るためにはソレが何であるかを知らねばならない。確かにあの魔族は一度対峙している。その時に『不戦勝』に気づいて対策を講じたとして、こんな短期間で出来るものだろうか?)


 リセルナ自身、『不戦勝』にどうしたら勝てるか考えたことがあった。しかし、結果は『勝てない』だったのだ。



「ホーリー・バレット」


 レムリの魔法が発動。今まで勇者として戦闘になったことが無いボルトは完全に虚を衝かれた。無論、勇者としての高い能力はあるが、これまで『不戦勝』ひとつで済んできたのだ。故に、反応が遅れた。


「!!」


 しかし、レムリの『ホーリー・バレット』はボルトに向かうことなく自身の『蒼鏡』へ。しかも反射させるでもなく『蒼鏡』を砕き始めた。呼び出しては砕く。


「へ?」


 何とも間の抜けた声がボルトから漏れる。それは中のファウ=バルドも同じ気持ちだっただろう。『不戦勝』にならずに始まったかと思えば『蒼鏡』を砕き始めるレムリ。


(ご乱心でござる……)


(マスター?)


(い、いや、だってあれ。そうとしか)


(マスターは私の事もそうですが、ご自身がどれ程までに想われているのかを自覚する必要があります)


(?)


(成程、そういう事でしたか)


(何?分かったのか?)


(マスター。準備をお願いします)


(何の準備だよ?)


(勿論、帰る準備ですよ)


 『蒼鏡』が砕け、魔力の鏡が破片となって場内に散らばった。『蒼鏡』だったものが本来の魔力へ戻ろうと淡い光を放つ。それは魔力の高密度な力場となり得る。レムリは高密度な魔力空間を自身を中心に作り出したのだ。ならばその力場を必要とするモノとはいったい?



(わたくしにはスタアちゃんの様に、魔力の塵で会場に魔法陣を描くことは出来ない。なら、今できるわたくしの全てをこれに掛けるしかない。スタアちゃんが見せてくれたレムスタリアの可能性とファウ様が見せてくれた……)



「「偽典・バステルの正門」」



「「発動いたしますっ!!」」



 レムリの周りの鏡の破片は一斉に消滅する。それは、それらを消費したモノが存在する事を意味していた。


 そして、ソレが現れる。


 『バステルの正門』……それはファウ=バルドが使う呪いの正門。しかし、そこに現れたのは蒼き輝きを放つ宝石の門。いや、門自体が宝石。ドワーフですらその細工には嫉妬を覚えるだろう。それは工芸の神の細工とでも言うべき美しさと神秘さを兼ね備えていた。


 ただ……。


「可愛い……でも、十分です。ファウ様だけの門ですから」


 大きさが小人サイズであった。


 小人サイズの門がゆっくりと開き、中からたった一本の鎖が伸びた。金剛石を輪にして繋げた鎖。それはボルトに巻き付きついた。


 勇者ボルトは動くことも出来ずに絡めとられる。いや、違う。動かなかったのだ。


「申し訳ありませんけど、暫く時間をいただきます」


「ああ、構わないですよ。どうやら、君が相手にしているのは僕では無いらしいからね」


 レムリは微笑む。


 初めからレムリはボルトを見ていなかったのだ。中のバルドだけを見ていた。初めの会話からして自分に向けられていなかったと感じる。取る行動の全てがファウ=バルドだけのモノ。故に勇者ボルトには対峙していない。


(なるほど、上手く『不戦勝』の弱点を突いたね)


 思えばボルトが魔王の呪いを受けたのもウォボスに向けられた呪いに割って入ったからだった。自分に向けられた明らかな敵意や意思には当然反応する。不特定多数への悪意に自分が含まれていても反応する。だが他人個人に向けられた悪意に身代わりにはなれない。


(そして、それは好意も含まれるようだね?)



「ファウ様?」


 俺は、ボルトに代わり表層へと出る。


「よう、レムスタリア」


「ファウ様、あの……」


「初めてみる技だな」


 確実に強くなったレムスタリア。魔力にて再現するには高度。そして、この鎖の強度は……。


「え?」


 俺はボルトの身体に巻き付いた宝石の鎖に目をやる。


「これだよ、これ」


「スタアちゃんとファウ様の真似をしてみました。動きを止める必要がありましたので……でも、必要なかったみたい」


 まさか勇者ボルトがすんなりと拘束されてくれるとは思っていなかったのだ。凄く協力的で拍子抜けしていた。


(こんなことなら、素直に返してくださいとお願いしても良かったかも?……返してくださいって、ファウ様はわたくしのモノじゃないのに)


自分の考えに顔が熱くなった。


「レムスタリア?」


「は、はい、ファウ様」


「で?これから先は?留紅須(ルクス)は何と言ってた?」


「え?いいえ、何も……」


「…………」


何も?何もって何も?


留紅須(ルクス)の言葉をそのまま教えてくれるか?」


「はい、確か……良いかレムリ、お主は何も考えるな、いや、あ奴の事だけ考えておればよい。そして動きを止めて抱きつけ。そうすれば後はファウ=バルドが何とかしてくれるじゃろう……と」


人それを丸投げと言う。


「何か、策を練るから時間を……とか、聞こえてきた気がするんだが……」


(面倒になったなっ!七歳のお子様)


「では、ファウ様」


そういうとレムリは両手を広げた。


「ちょっと待ったーーっ!何、何、何する気さっ!」


 ボルトが出てきた。ボルトがゆっくりと後ろを振り向く。


 全ての色が交じり合った黒髪のリセルナが居た。何となく分かってきた。あの状態のリセルナが最強ってことだ。全ての魔力の色を混ぜたリセルナ。しかし、虹は光だ。光を混ぜると白になる。なら混ぜた魔力とは……。


「ファウ様を抱きしめますっ」


「……も、申し訳ないけど、それは却下で……」


 そして、引っ込む。忙しい奴だ。


「そういう事らしい」


「そうですか、では、後はファウ様にお任せします」



(マスター早く戻りましょう。この距離で対象に拒絶が無く、受け入れる状態ならば可能のはずです)


(ん?戻るって、どうやって?)


(…………)


 ディアが黙る。


 何も考えていないような発言のファウ=バルド。いや、他の事に心奪われているような……。


(マスター本気で言ってますか?)


(…………)


(何かおかしいですよ?本当に貴方、私のマスターですか?)


(何言ってんだディア。俺は俺だ。それより戻る方法が有るのか?)


(過去に一度それをやっています)


(過去に?)


(まだ、分かりませんか?ソフィアとの戦闘の時です)


(……ああ、ロクヌス)


(…………)



それは、ディアレスが感じた自身の呪いを誰よりも熟知しているはずのファウ=バルドへの違和感だった。



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