70:魔王救出戦9(聖女リセルナVSスタア)
「双子?」
「勇者様に負けて泣いてた魔族だろ?」
「違うって、それはあそこにいるし」
「また第三聖女って言ってたな?」
「何か分けわからんが、まだまだ楽しめそうだ」
「リセルナ様~頑張ってーーーっ!」
そこに現れたもう一人のレムスタリアに会場がどよめく。
今日何度目だろう。次から次と好奇心を刺激する展開に会場内の目は釘付けだった。元々、処刑が娯楽となる程に日常的退屈にて集まった観客達なのだ。非日常の連続に興奮も最高潮に達した。
「スタアも名乗ってしまいましたね。しかも素顔まで晒して」
リテリがため息を付きながらそう言った。先程、レムリが素顔を晒したばかりだ。正体は隠す段取りだった。故に自分もテリリと名乗ったのだ。だが、それで誤魔化しきれると思ったリテリもリテリだった。葵に至ってはアオイと言葉にしたら即バレである。
「うむ……何を考えておるのか、スタアの性格は良くわからぬ」
演技を崩さない魔王ルクス。
「いいえ、スタアちゃんは凄く分かりやすいですよ。今のスタアちゃんは本気なのです」
レムリが答えた。
「本気?」
「はい、今のスタアちゃんは、いつものスタアちゃんより、一味も二味も違うはずです」
「…………」
「…………」
「まさか、同じセリフを聞くことになろうとはな……根は同じか。まさか負けフラグではあるまいの?」
(スタアがレムスタリアを名乗る。それは、如何なる決意の表れなのか……この戦いに何らかの思惑あると言ったところか……)
対峙する聖女リセルナとスタア。方や虹の聖女、そしてスタアはレムリが理想とする自分として作り上げた別人格だった者。
「始めますわよ?」
対するリセルナ。
「ええ、どうぞ」
……とだけ答えた。
聖女対聖女。リセルナ自身も経験がない訳ではない。それは、魔法、魔術による遠距離戦。スタアの魔力が高まり会場内に広がる。嫌な気配では無い。まるで、さわやかな風の様な優しい魔力の波動だった。
リセルナは思う。
(色は蒼。これが魔族の魔力?これは、どちらかと言えば……)
魔力は密度を増す。その高濃度ゆえに具現化し蒼い煌めきとなり始めた。それは大気中の水分が凍り、日の光に輝くダイヤモンドダストのように会場を包む。
「『蒼鏡展開』!!」
「『蒼の牢獄』!!」
一連の流れを無詠唱にて発動する。本来ならば詠唱を必要とするレムスタリアの切り札だったはず。それをスタアは他の魔法同様に無詠唱にて発動してみせた。それはもはや、『蒼の牢獄』には隙が無いことを意味する。
「!!」
何らかの反応をしようとした聖女リセルナは成すすべなく蒼鏡にて正六面体の中に閉じ込められた。かつて、抜け出せたものは居ない『蒼の牢獄』。リテリが再現した『月の牢獄』が魔王ルクスの第三形態に破られたことはあるが、それを数えては理不尽だろう。それは、会場の灯りを反射して輝いた。
「え?」
「リセルナ様」
「うそっ!」
「魔王ハージルと同じになってる?」
観客の視線はリセルナの六面体とハジールの六面体を行き来する。会場が静まり返る。
「スタアちゃん」
レムリだけは、スタアの行った事がどれ程の高度な技術なのかを理解していた。それが今、目の前で行われている。
(こんな事が?)
「ほう、『蒼の牢獄』を無詠唱で使いおったか」
「腕を上げましたね」
「スタア様の『蒼の牢獄』。この勝負、決まりましたか?」
ルクス、リテリ、葵の声が聞こえた。
(え?何言ってるの?凄いのはそこではないのに?)
『蒼の牢獄』に閉じ込められた聖女リセルナ。しかし、レムリの驚きはそこには無かった。そして、閉じ込めたスタア本人は次の行動に移ろうとしない。
「フリは止めたら?」
スタアが正六面体に向かってにらみつけた。
「少し驚きました」
その声と共に六面体が解除され、そればかりか『蒼鏡』が背後に控えるかのように寄り添った。
「……」
そこに現れたリセルナは蒼い髪、瞳。魔力の残光が蒼い髪より煌めきとなり零れた。まるで、目の前のスタアの様に。
「『蒼鏡展開』」
そう言い放ったのは聖女リセルナだった。
更に六枚、リセルナの背後に『蒼鏡』が現れた。
「お分かりいただけましたか?」
「何を分かれと?貴女がとても人真似の上手い事は理解出来ましたけど?」
「あら?思ったよりも動揺してませんね」
「どんな理不尽な事でも起こり得るものですわ」
(『蒼鏡』の主導権を奪われた?)
どの様な作用が働いたのか、自分の意に反して『牢獄』が解除されたのは間違いなかった。
「いつ見てもえげつねぇな。俺の妹ながら怖え女だ」
葵との戦闘のダメージはもうないのか、いつも通りのウォボスがそこに居た。
「ウォボス、聖女様は、成るべくなら、戦いたくない」
「知ってるって。だからわざわざ相手の自慢の技を相手以上に上手く使って見せて戦意喪失させるってんだろ?」
「魔力探知から、相手の、魔力の本質を知り、そのまま、自身の本質を、同じ色に、描き換える、無ければ混ぜて創る、それが、聖女リセルナ」
「どんな魔力の色も持っている……『虹の聖女』とは良く言ったもんだ。けど、された方はたまったもんじゃねぇよな。自身の積み重ねた時間が一瞬で無意味な物になる。立ち直れる奴は……まぁ、居ねぇだろうな」
(さて、魔族の女。お前は何を見せてくれるんだ?これで終わりじゃねぇだろう?)
何がそうさせたのが、ウォボスの中にあった『リセルナ暗殺』説は綺麗に消えていた。そればかりか、魔族側の戦いに興味を覚える自分。
(勿論、リセルナの勝ちは変わらねぇが、楽しませてくれるんだろ?)
「ご覧の通り、わたくしは貴女より貴女の技を上手く扱えます。このまま続けても無意味かと。負けを認めてくださいませんか?」
「『蒼鏡』の主導権が消えたから、もしやと思っていましたわ。『牢獄』も使えるとみて間違いないわね。でも……」
「?」
「私は、レムスタリアとしてここに居ますの。今度はこちらが訪ねますわ。それがどんな意味かお分かり?」
「さあ?」
「敗北は有り得ないのですわっ!」
「そう……残念です……」
「「『蒼の牢獄』!!」」
発動したのは聖女リセルナだった。リセルナが無詠唱にて『蒼の牢獄』をスタアに向けて放つ。第三聖女が自身の技をその身に受ける。それを誰が予想できただろう……。
だが……。
スタアに向かった『蒼鏡』はスタアを囲み閉じ込める直前で砕けた。
「!!」
「毒は解毒剤と揃って初めて価値が出るのですわ。自身の技の解除方くらい用意していて当然」
本人は予想していたのだろうか?こんな事態を。
「もっともな意見です」
リセルナも慌てた様子は見られない。それは、絶対なる自信。これまでの経験がそうさせている。『同じ技では負けない』。
「自身の技を毒と例えるか。スタアらしいのう」
「あのリセルナとかの聖女、一瞬でレムスタリアの技を自分の物にしましたね。自身の持つスキルゆえでしょうか?」
「見たところ……あの聖女も勇者同様に規格外じゃの。既にツガイの可能性もあるのう」
「ならば、候補でしかないスタアに勝ち目は……」
「本来なら無いのう……しかし、レムスタリアは、お主達の一押しなのであろう?特にもう一人のレムスタリア……レムリが全然動揺しておらん……と言うか、勝ちを信じ切っておる顔だ」
「確かに……」
「我らの気付かない何かがあるのやも知れぬぞ?」
「シャイニング・トリビュート」
スタアの攻撃魔法が放たれた。反射することに特化し、繰り返しの反射にて劣化しない攻撃魔法。それは上空へ。
「蒼鏡!」
上空へ向かった光の槍が『蒼鏡』に反射して角度を変える。
「蒼鏡!」
向かった先に現れた『蒼鏡』にて再び角度を変え、リセルナの死角より飛来する。
……が、リセルナの『蒼鏡』が守るように遮り、反射させる。それはスタアの横を掠め、会場の壁に突き刺さる。スタアが今したことを、リセルナはもう実践してみせた。
「中々、狙いが難しいです。ええと、こうでしたね」
リセルナもスタアと同じ攻撃を始める。反射を利用した魔法攻撃。そして、スタアも同じ攻撃を続けた。
互いに反射による攻撃と反射による返しを行い、光の槍があらぬ角度から飛び交うこととなった。
『蒼鏡』の扱いに慣れ、返す狙いが正確になり始めたリセルナ。徐々にスタアは不利となる。蒼の聖女が『蒼鏡』を使用した戦闘で不利とは皮肉。
「くっ!」
やがて、リセルナの攻撃がスタアを捉える。
「スタア様!もう、その攻撃は危険です!」
葵はスタアを祈るように見つめていた。事実、『蒼鏡』の使用枚数で不利。リセルナに押されるのも時間の問題だったのだ。これはリセルナとレムスタリア、本来の魔力の差なのか?
「リテリ、気づいたかの?」
「ええ、魔王ルクス。詠唱していますね」
「お主の知る、何かか?」
「いいえ」
「ふむ、ではこれが……」
「ええ。スタアの狙いですね。詠唱の時間を稼ぐ為の……」
「もう一度言いますわ。私がレムスタリアを名乗った以上、負けはありませんっ!」
「「『蒼の監獄』」」
会場全体に鏤められた魔力のダイヤモンドダストは空中にて立体的な魔法陣を描く。それは広い会場全体に及び、ダスト一つ一つが光の糸で繋がる。そして聖女リセルナを囲むように狭まりひとつの塊となった。
まさに一瞬で現れた、蒼の魔力で創られし金剛石、巨大なブルーダイヤモンド。その中に捕らわれたのは聖女リセルナだった。
「牢獄は監獄のひと部屋にしか過ぎないでのすわ。貴女が私の技を使うと限定で考えれば詠唱の時間は稼げますの。先程も言いましたわよね?自身の技は回避方法と対だと。貴女の敗因は私の技に拘ったこと……」
兵士がリセルナの反応を確かめに駆け寄る。明らかに押されていたのはスタアだった。それが一瞬で覆った。
「し、勝者レムスタリア!!」
勝利宣言と共に『監獄』が解かれる。リセルナの髪、瞳が元の虹色に戻っていく。
「確かに、拘り過ぎました」
勿論、『監獄』に捕らわれたリセルナは『牢獄』同様に主導権を得ようとした。しかし、出来なかったのだ。『監獄』の魔力の色を再現できなかったのだ。
「あれは?どんな色を混ぜても同じにならない。まるで、そう……全く同じ色に同じ色で行う無意味な配色。本来混ぜる必要が無いのに混ぜてしまった様な……」
「貴女風に言えば、元々ひとつの色が分かれて違う名前を持った。呼び名は違っても同じ色……ですわ」
「?」
「でも、次は勝てませんわね……聖女リセルナ」
事実、負けたリセルナよりもスタアの見た目は酷いものだった。
「勝って尚、冷静に状況判断しているのですね?」
「無論、今の私では……ですわ。機会があれば『蒼』の貴女では無く『虹』の貴女と対戦したいですわね?」
「……」
リセルナはスタアを不思議そうに見つめると。
「ええ、是非」
そう答えた。
「『蒼の監獄』……」
レムリだけはスタアが会場に描こうとしていた魔法陣に気づいていたのだ。魔力の残光を空中の塵に使い、それぞれを繋げることによって完成させる。
魔法陣の完成後は、それらが対象にひとつに集まることによって『牢獄』……鏡よりも強固な蒼金剛石の『監獄』となる。
(わたくしにも出来るでしょうか?スタアちゃん)
「よう、リセルナ。残念だったな」
満面の笑みのウォボスが出迎えた。
「少しも残念そうには見えませんよ?兄さん」
「まぁな」
「でも不思議ではなくて?騙し、裏切り、踏みにじるのが魔族。あの状態でわたくしを開放するなんて……有り得ない事」
「事故死してもおかしくなかった場面だな。天下の聖女リセルナ様が、完全に動きを封じられた」
ウォボスは一時期、自分が考えていた可能性を口にした。
「ええ、いい経験でした。油断と言ってしまえばそれまでだけど……これからは、再現できない魔力の可能性を考慮に入れるべきですね」
(わたくしの再現できない魔力の本質。あれはいったい……)
ガハハと笑っていたウォボスから笑みが消えた。
「けどよぉ、面白れぇと思わないか?」
「何をです?」
「ミユウ、俺、お前と、この魔族との戦いで失うモノ無く、得るモノがあった事実がだよ」
魔族は何も与えず奪うだけ、人類の天敵ゆえに排除するべきモノ。それが四翼世界の常識だった。
「……そうですね」
「これで、一勝二敗一引き分けじゃな。では最終戦じゃ!」
「向こうは……やはり勇者ボルトね」
リテリの声で一同が会場中央を見た。そこには『不戦勝』の勇者ボルトが。
「では、こちらは……」
魔王ルクスはこう告げた。
「レムリお姉さん、出番だよ。勇者ボルトにはレムリお姉さんしかないよっ!」
「「「…………」」」
僅かな沈黙が訪れる。先に声を上げたのはリテリだった。
「魔王ルクスっ!ふざけているのですか?先程の戦いを見たでしょう。レムリは何も出来なかったのに……」
ルクスはリテリを手で制した。
「リテリお姉さん、私は真面目だよ。確かにさっき、何故負けたのかすら分からない。けど、今はキャラを作って無いでしょ?これ以上真面目な証明はないよ」
スタアの反応はルクスに同意だった。
(レムリ、レムスタリアの可能性は見せたわ。貴女は貴女らしく今を超えなさい。そして、ファウを取り戻せるのは貴女だけなのだと私も思うわ……)
「第五試合勇者ボルト対レムリ!!」
再びの対峙だった。




