68:魔王救出戦7(痴話喧嘩?)
今更だ。『解析』にて『葵』の使用している『触媒』が自らの命であるとの結果に身体が動いてしまった。
完全に勇者ボルトを無視して主導権を奪った状態だった。
すまん、ボルト。この埋め合わせは必ずする。
「また、君は勝手なことして!」
ボルトの声もするが、今は無視だ。
「ほんーーーとに、バカだな。お前」
「なっ、バカなのはそっちでしょ?何よこれ!バステル使うとか、こっそりと何かしたかったんじゃないのっ!だからあんな回りくどい伝言にしたんでしょうがっ!」
「優先順位の問題だ!」
「な、何よそれ!」
「お前の方が大事だって言ってんだよ!」
「……な、なによそれ……ば、バカなの?」
葵は下向いて視線をそらした。
(マスター、何か愛の告白みたいになってますけど?)
(い、いや、仲間としてだぞ?)
(知ってますよ。マスターにとっての一番は私ですからねっ。ただ、色々と各方面に問題を起こしそうですよ?)
何だよ、各方面って。
会場も異様な雰囲気に騒めいた。
「今度は何?」
「さっきの星空はあの魔族が原因らしいぞ」
「で、何であの状態?」
「あの魔族、自分の命を使って星空を創ったらしい」
「そのままじゃ、死んでたってこと?」
「何それ~」
「それを、勇者様が助けた?」
「勇者様、お前が大事だーって叫んでたよね?」
「何、何、告白?」
「うそ~魔族よ?」
「リセルナ様は?」
「聖女と勇者と魔族の三角関係?」
「自身の陣営が失格になっても魔族を救うなんて、愛ねっ!」
「ロミーオンとジュリーエッタみたいなやつかな?」
会場が静まり返る。皆が、これからの会話を聞き逃さないように聞き耳を立てていた。
「ゆ、う、しゃ、様」
その声に振り向く。そこには黒髪の少女がボーっと立っていた。
(誰?)
「ひっ!」
ボルトが声にならない声を上げた。
「な、何かな?リセルナ」
(聖女リセルナ?いや、いや、いや、虹色の髪の輝きはどうしたよ?リテリさんの黒髪並みに漆黒だぞ?)
(聖女リセルナを『解析』しますか?)
ディアがそう尋ねてきた。嫌な予感しかしない。人間への『解析』はなるべく使いたくない。本人の隠し事すら暴いてしまう可能性があるからだ。過去には赤髪の同業者が暗殺者、最近では第二聖女が『魔女』である真実を暴いている。
(いや、止めておこう。人の秘密を見られるから見て良いってモノでもないしな)
(了解しました、マスター)
「説明していただけますよね?あの魔族の女と何処で知り合ってどんな関係ですかっ?」
あー、これは浮気を問い詰める妻の図だ。
「落ち着いて、リセルナ。今のは僕じゃないんだよ。バルドなんだ。ファウ=バルド!」
うんうん、正に言い訳する夫だな。
「そうですの、バルドさんですの」
「そ、そうなんだよ。バルドが勝手に僕の身体を使ってね、いやーまいったよー」
(ボルトよ、それで女性が納得するなら苦労はしないぞ)
「わたくしの目を見て言えますか?」
「言えるよ。僕はあの魔族を知らない。そして、君に嘘は付かない」
「納得しました」
(納得しちゃったよ……)
瞬間、リセルナの髪の色が虹色に戻る。どういった原理だ?
「では、ファウ=バルド様。出て来ていただけますか?」
まぁ、そうなるよな……。
「勇者ボルト殿、聖女リセルナ殿、少しよろしいかのう?」
そこへ魔王ルクスがやって来た。
「何やら、アオイの勝利となってしまったようじゃが……」
「俺は認めねぇぞ!」
そこへ動けるようになったウォボスも加わる。
「うむ、こちらも同意見じゃ」
「「「え?」」」
3人の声が重なった。それはそうだろう、後のない魔族側に一勝が転がり込んだのだ。ここは無条件で受けるべきところだ。それを魔王ルクスは不服だと言う。
「そこでじゃ、今の試合は無効。再戦を提案したい」
「こちらは構いませんが、本当にそれで?」
「うむ、アオイもそれで良いな?」
「勿論です!!」
返事はいいが、ミノムシがゆらゆら動く。忘れてた。
「「解放!!」」
葵に巻き付いた鎖は一気に解け、門のへと吸い込まれる。門が閉じるとそれは消えた。聖女リセルナが勇者ボルトを見つめる。正確には俺、ファウ=バルドを見ていたのだろう。そんな気がした。
解放された葵にルクスが近づく。
「さて、葵。あ奴を救う算段にはもう少し掛かりそうじゃ。その為の時間をこの魔王ルクスにくれぬか?」
「はいっ!」
「神国につくられたお主ではなく、本当のお主で勝ち取らねば意味が無いぞ?」
「…………」
「そしてファウ=バルドをこの状況から救ってみせよ、自身の力で今度こそ!」
「では三回戦の再開じゃ!」
「よっしゃー!」
「はいっ!」
再び、ウォボスと葵は対峙する。
「よう、お前、死ぬ気だったのかよ?」
「…………」
「お前、言ってたよな。この試合には大切なものが掛かってるって」
「…………」
「相変わらず、だんまりかよ。けど、命を投げ出すだけの価値のあるモノを持ってる奴は嫌いじゃないぜ。俺にもあるからよ」
「そう?」
「だからよ、ガラじゃねぇんだが、少し無茶しようと思ってな」
「何故、私にそんなことを?」
「お前ら魔族のくせに調子が狂うんだよ。上手く言えねぇが、俺のここに少しだけ響く。そして、お前がこの試合に掛ける思いを打ち砕く俺は、俺の目指す最強の俺じゃなきゃならねぇ。それが命まで捨てようとしたお前を打ち破る俺なりの手向けだ」
そう言ってウォボスは親指を立て、自分の胸を指した。
「切って終わりじゃ面白くねぇだろ?さっきと同じと思わない方がいいぜ」
「私も先程までの私じゃないから、甘く見ないで。貴方の思う最強の貴方を破り願いを叶える!」
「じゃ、始めるかっ!」
二人は同時に距離を取る。どちらも同時に印を結ぶ。それぞれが違う印だが申し合わせたようにタイミングが合う。印を結ぶ回数まで同じ、そして…………。
「「「神降し」」」
言霊までが重なった。




