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俺と聖女でひとつの身体  作者: 天川 和
四翼世界編
66/268

65:魔王救出戦4(ミユウVSテリリ)


 ミユウとリテリさんの試合が始まった。


 リテリさんは聖女候補には似つかわしくない大鎌……のはずだが、今の服装と怪しい仮面には似合い過ぎていた。


 対してミユウのソレはククリナイフだ。普通のナイフと違い刃が曲線、黒い刀身自体が緩い曲線で反っている。それを左右の手に装備。


 ミユウの手が動いた……気がした。それと共にククリの黒い刀身が白く光る。



(今、何かしたか?)


(ホーリー・エンチャントですね。スクロールを使いました)


 ディアがそう答えた。


(それと同時に……)


 その言葉が終わるよりも早くリテリさんが手にした大鎌で背後を一閃した。甲高い音が二つ響き、二本のククリが石畳を転がる。


「エンチャントに意識を引きつけ二本のククリを投擲。ククリの曲線を生かしてブーメランのように戻るようにしたようだけど?」


「そう、挨拶、代わり」


 リテリは振り返り、両手をミユウに見せた。


「では、わたくしからも」


(大鎌が無い?上っ!)


 ミユウが飛びのくと同時にソレは空から石畳みに突き刺さる。


「思いの他、上手くいったわ。狙いも正確」


 そう言いながら、突き刺さった大鎌を引き抜く。


(なるほどね……自身の属性ではなく、スクロールをわざわざ使うなんて、この子の本質は()()()()()()じね)



「「では、本番を」」



 どちらが差に動いたのか?俺には見えない。今現在も見えてはいない。武器を武器がぶつかり合う音と火花が二人の存在を確かなモノにしているだけだ。


 実際に二人は消えているわけではない。少なくとも打ち合う瞬間は止まるのだ。なら何故見えないのか?速過ぎて見えない?違う。生き物である限りどんなに鍛え上げても魔力を応用しても肉体には限界がある。見えないほどの高速など肉体が崩壊する。


 簡単なことだ、脳が認識しないのだ。視界に入って目には映っていても脳が認識しない。


 何故なら認識し、見えている者は存在しているから。


(見事な戦いですね。両手で二本、小手に二刃、膝、肘で四刃、両つま先、両踵で四刃。計12のやいばでの連続攻撃です。終点が見えないので現状防御、回避しか手がありません。また囮と本命が入り混じり、それが同時なのでやっかいです)


(凄いな。ミユウもだが、それを防いでいるリテリさんも)


(こういった場合、一度距離を取るのがセオリーなのですが……)





「つまり、相手が距離を取ろうと引いたら終わりだ」


「どういうことです?ウォボス?」


 ウォボスの説明にリセルナが訪ねる。


「そうか、リセルナはミユウの単体戦は初めてか。簡単なことだよ、この場合距離を取るには上に飛ぶか、後ろに飛ぶか、二つだけだ。だか、どちらにも着地の硬直が存在する」


「なるほど、その硬直の僅かな隙があればミユウの速さなら……」


「そうだ、勝負は決まる!今回のように速さに自信のあるやつは自分の速さを過信する。そろそろだぞ」





(上に、飛ぶ)


 相手の動きからミユウはそう判断した。対峙した相手の速さ、脚力を計算にいれて自由落下の場所を一瞬で割り出す。場所の特定はリテリが飛ぶ前には終わっていた。


 そして、予想通りにリテリは上に飛んだ。


「「形態変化・豹」」


 ミユウの筋肉が盛り上がる。それは獣人化。それによって得られるモノは人形態を遥かに凌ぐ力と速さ。五感の驚異的な向上、そして第六感。


「!!」


 だが、リテリの自由落下は始まらなかった。何故ならそこは夜空だから。そこは『魔女』本来の戦場。


「子猫かと思ったら、豹なのね」


「何故?」


「?」


「何故、浮いて、いられるの?」


「夜空を飛び回るのは、『魔女』にとっての当たり前としか言いようがないけれど?」


「魔女……」


「でも、思ってたのと違うわね?」


「何の、こと?」


「貴女の本質、本当の姿……」


 ミユウが飛んだ。石畳みが陥没し粉塵をまき散らす。一瞬でリテリの居る上空へと到達し渾身の一撃を繰り出した。


「獣・撃破散!」


「ホーリー・シールド・トリプル」

「エナジー・コンバージョン」


「なっ!!」


 無詠唱で現れた光の盾を三枚とも貫通し、ミユウの拳はリテリを捉える。そして、ミユウ自身が自由落下を始める。


 落下中のミュウの思考は乱れていた。自分の渾身の一撃の効果が無かったからではない。魔族が、魔女が聖域魔法を使ったことを自身の心が処理しきれないのだ。


(何故、魔族が、闇そのもの様な匂いをさせている貴女が、聖なる力を使うの?)


「ホーリー・バレット・トリプル」

「ホーリー・ランス!」


(まずい、着地を狙われている)


 身体を捻り落下の向きを変える。だがそれでは直撃を避けられない。


「今だ!」


 ミユウは地面へ着地前に思い切りケリを放った。獣人の力と速さ、そしてここしかないとのタイミングにて風圧を利用し、少しだけ、ほんの僅かだけ着地を遅らせた。


 ホーリー・バレット・トリプルとホーリー・ランスは、先に着地点に到達し石畳みを(えぐ)った。死にはしない攻撃だろう。死にはしないが、空中の敵に自身の攻撃を無効化された。もう一度試してみても同じことだろう。手が無い……。


 ミユウの試合は終わっと言って良かった。


 着地後に転がり構える。


(でも、構えて、どうなる?)


 上空から見下ろす彼女を見た。魔でありながら聖を使い自分を追い込む者。闇でありながら光を使う者。


 どちらも動かなかった。見下ろすテリリ。見上げるミユウ。


「……はぁ……」


 テリリが深いため息を付く。


「それで?待ってるのだけど?」


「待つ?何を?」


「貴女の本質、偽りのない貴女自身……貴女も使ったらどうなの?」


「!!」


「別に闇の者だからと言って聖属性を使用してはならないとの決まりはないのよ?聖属性を使用したからとわたくしが聖なる者なんて言う気も無いわ。また、逆も然り。使えるモノならば使う。それだけよ。それが貴女とわたくしの違い。全てを出さずに諦めたように見えるのだけれど、違うかしら?」


「なっ」


「自分に制約をかけ、誤魔化し偽って大事な試合に負けようとしている貴女は……はたして勇者パーティーに相応しいのかしら?仲間の信頼を貴女自身が裏切り、貴女自身が仲間を信頼していない……その事に気づけてる?」



「「ミユウーー!!惑わされるな!!」」


 ウォボスの声が聞こえた。


「ミユウーー!チャンスはあるわっ!!落ち着いてっ!!」


(聖女様、そんなに声を張り上げて……)


「ミユウさんっ!ネコパンチ連打ですよ!」


(無口なボルトまで。私、猫じゃないって言ってるのに。そして、いつもの的外れなアドバイスありがと)



「確かにそう。私は、自分が嫌い。私の、血統が嫌い。だから、闇の、匂いが嫌い、闇の、属性が嫌い」


「そのようね……」


「……でも、分かった、気がする。確かに、ここで手を抜いて、負けるくらいなら、全てを出して、去る方がいい!皆の為にっ!」



「「形態変化・黒」」



  大気の渦がミユウを中心に巻き起こった。そしてそれは明らかな魔力を含む。色は黒、そして闇

 衣服も防具もはじけ飛びそこに現れたのは闇を(まと)う完全な『黒豹』だった。


「これほどとはね……」


 『黒豹』は一気に距離を詰める。それは例えるならば全てを直進だけに向けた爆発。そこには防御も、次の行動も何も存在しない。ここに来て初めてリテリの反応が遅れる。


「っ!」


 防御に構えようとしたリテリの大鎌が弾け飛び、そのまま空中で押し倒おされる形となる。慣性は止まらずリテリを下に石畳みに叩きつけ削る。そして、粉塵をあげながら壁際にて止まった。


 石畳に落ちた大鎌が甲高い音をたてて転がった。


『黒豹』の牙がリテリの喉に触れていた。


「っつ……こ、降参よ。わたくしの負けです」



「「勝者!ミユウっ!!」」



 会場から一斉に歓声が響き渡った。


「ミユウ?」


 ミユウは動かない。


「……疲れたのね。無理もないわね……まぁ、最初は誰もがそうよ。それにしても……」


 (予想外の『闇』。まだ振り回されてはいるけど、扱えるようになったのなら本気を出すことになるかも知れない相手)


 ミユウの纏った黒い魔力が飛散していく。身体が元に戻ろうとしているのだ。しかし、先程、衣服も防具も吹き飛ばしての形態変化だったはず。なら、このままでは……。


「しょうがない子ね。ボロボロだけど、裸よりはましでしょう」


 リテリは着ていた黒いコートを脱ぐとミユウにかけた。


「次は、もう少し考えなさい。女の子なんだから」



「「「ミユウっ!」」」



 ボルト、リセルナ、ウォボスが駆け寄ってきた。


「疲れて眠っているだけです。心配いらないわ」


「そ、そうですか。良かった……」


「むしろ、今後が大変よ?彼女はあなた達の為に自身の禁忌と向き合う覚悟を決めたのです」


 リテリは歩き出す。


「支えてあげなさい」


「お?おう。当たり前だ!後、恩に着る」


「?」


「流石に、これだけの人の前で裸ってのもよ。そのせいで、あんたが……その…………」


 そう言ってウォボスは視線を反らした。頬が赤い?


「魔族にお礼ですか?」


「それとこれは別だ」


 少しだけ振り返った。


「良い仲間を持ったわね」


 それは誰に向けた言葉だったのか。




「あ、リテリ姉さまが戻ってきましたっ!でも、コートを脱ぐと何か、エッチなお姿に……」


「レムリ、それリテリ姉さまの前で言ってはダメよ。恐らく、本人は自分の姿に気づいてないから」


「まぁ、魔女の時のリテリ様は妖艶と言うか、あれが当たり前と言うか……普段の清楚さとは真逆ですよね」


「聖女リテリの時の反応が楽しみじゃのう。どんな顔をするのか」


「あ、次の対戦相手が出てきました」


 一同が中央に目をやる。そこには……。


「「「「勇者」」」」


「では、レムリ。出番よ!」


「はい!頑張って……」


「開始と同時に降参していいから」


「……降参してきまっ……ええーーーっ!」



 二人が中央に対峙する。一方は四翼世界の勇者、一方は八翼世界の第三聖女候補。


「僕は勇者ファウ=ボルト、君は?」


 その言葉に、レムリはもちろん、魔王陣の者がすべて言葉を失った。


「今、何とおっしゃいましたか?」


「勇者ファウ=ボルトだけど?」


「……しません」


「え?」


「許しませんっ!ファウ様のお名前を、もじってバカにしたようなその名前っ!」


「え?ええー?ちょ、何を訳の分からないことを」


 レムリの髪が発光し魔力の残滓が煌めきとなって立ち昇る。それは淡い蒼の光を放ち神秘的にさえ見えた。


「君は?とおっしゃいましたね。名乗らせていただきます」


「え?う、うん」


「わたくしは、エスリ王国第三聖女『レムスタリア=アルバーノ=フェイゼノルン』。『蒼の聖女』がお相手したしますっ!」



勇者コールで沸き立つ会場が一瞬静まり返り、どよめいた。


「あの魔族、何て言った?」

「聖女だってよ」

「エスリ王国って聞いたことあるか?」

「無いわよ、そんな国」

「蒼の聖女だって?」


そして、どよめきが笑いに変わった。


「名乗ってしまったぞ?」


「え、ええ、そうですわね。でも、あれはレムリの聖女モードです。もしかしたら……」


「もしかしたら?」


「もしかしたら、大番狂わせが起るかも知れません」


「聖女モードなんてものがあったのかの?あの第三聖女に?」


「ええ、学院ではいつもそうですわ。聖女の自覚のある時のあの子は人の上に立ち皆を導ける者。そして皆の期待に応える者です。今のあの子は一味も二味も違うはずですわ」


「うむ、では、期待してみるとするか。お主らの一押しではある聖女候補じゃが、我にはヘッポコにしか映らんかったからのう」


「ルクス様、ヘッポコっておいくつですかっ」


「ところで、リテリよ。勇者の名前……ファウ=ボルトらしい」


「ですわね」


「偶然か?」


「前にも言った言葉を言わせてもらうと……」



「この偶然は出来過ぎています」



「「二回戦!勇者ファウ=ボルト対レムスタリア!」」


 銅鑼の音が響き、二回戦が開始された。



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