64:魔王救出戦3(計画)
「魔王ルクス……真の魔王?」
魔王ルクスの翼の陰から更に四つの人影が現れた。それぞれに漆黒の衣服を身に着け、目の部分だけ隠れる仮面を着用していた。だが、俺ファウ=バルドにはその四人が誰なのか理解できてしまった。本来なら八翼世界に居るだろう人物達。
俺が見知った者達の登場は、一時的ではあるが最悪の事態を防ぐ。ルクス達が何をしようとしているのかは不明だが、取り合えずはディアが出る事態を避けられた。
「その魔王が何の用ですか?」
「そう、身構えるでない。争いに来たわけでないのじゃ。魔王を騙るその者の処刑を見に来ただけじゃったが……気が変わった。その者の身柄はこちらで預かろう。魔王を騙ったのじゃ、処罰は魔王軍で行うのが道理と思うが?」
「魔王ルクス、貴女が真の魔王なら道理なのでしょうね。しかし、狂言ではないととの補償もない」
「ふむ、相手の実力を測れる程度には出来る者と踏んでおったのじゃが?」
「こちらも勇者パーティーとして人類の希望を背負っています。魔族に魔王を奪われましたではすまないのです」
「なるほど、理解した」
「…………」
「では、こうしよう。幸い我の部下も四人、そちらも四人。団体戦で決めよう。あくまでも試合じゃ。殺し合いではないぞ?殺したらその時点で何勝していようと負け。どうじゃ?」
リセルナは思考を巡らす。
(なるほど、その手で来ましたか。これだけの観衆、わたくし達が断ったら魔族相手に逃げたと思われかねない。それは、人類の希望である勇者様にあってはならないこと。そして約束してしまったら勇者パーティーとして破るわけにもいかない。この魔王を名乗る者は人類の敵でありながら、観衆の目との味方を得る。上手いやり方です。これでは、受けて勝つ以外に選択が無い)
魔王の背後の四人を見る。シルエットから女性型魔族。魔王ルクスほどの脅威は感じられない。そもそも魔族なのかも疑わしい。一名を除いて禍々しさが感じられないないのだ。一名は明らかに闇の属性。しかし、他の三名は……。
「いいでしょう。でも二勝二敗になったら?」
「引き分けでも良いが、我が出ようかの?」
この時点で、聖女リセルナは勝利を確信した。最終的に勇者ボルト様を魔王ルクスと対戦させるだけで勝ちだ。『不戦勝』で二勝。あと一勝を三人の内、誰かが取ればいい。
会場が違った意味でざわめき始めた。
「何?あの人たち」
「魔族だってよ。勇者様パーティーと試合するらしいぜ」
「なんか、処刑予定の魔王が偽物らしいわ。それで本物が怒って身柄を引き渡せって言ってるらしい」
「それで勝った方が処刑の権利を得るらしいよ」
「面白そうじゃん!」
「私、勇者様の戦い見るの初めてよ!」
会場も盛り上がってきた。
「では、その条件で」
「うむ、決まりじゃな」
「結構です」
「それと……」
「我らにとっての景品の安全を確保したい。流れ魔力で壊れてもつまらんじゃろ?」
「景品ですか。魔族の言いそうな事ですね。結界に触れないのであればご自由に」
「うむ、感謝する」
リセルナがその言葉に驚きの表情を見せる。
「どうした?」
「い、いえ。魔族に感謝されたのは初めてだったので……」
「そうか?交流を持てばもっと新たな驚きを体験できるかも知れぬぞ?」
「……失礼します」
お互いに左右両端に陣取り互いの場所へと戻る。
「葵お姉さん、レムリお姉さん、では計画通りにお願いね」
「ルクス様、キャラ、キャラ!」
「うむ、頼むぞ?」
「了解だよ、ルクスちゃん!」
「レムリ様もキャラ、キャラ。私達は魔王軍幹部の四天王ですよ」
「そっか、ルクス様お任せをっ!」
「ふぁふぁふぁ!漆黒の輝きにて汝の魂を喰らう!」
『ダーク・プリズン』
レムリから放たれた蒼い光は、事の成り行きを静かに見守っていた魔王ハジールを正六面体となって取り囲んだ。何のことはない只の『蒼の牢獄』であった。
(その詠唱で発動するのが驚きですよ、レムリ様。あと、漆黒は輝きません、魂を喰らっちゃダメです)
葵は心の中で突っ込みを入れた。
「スタア……レムリのあれは何かしら?」
「リテリ姉さま。多分、レムリの中の魔王軍のイメージですわね。それでも……」
「そうね。それでもしっかりと『蒼の牢獄』を発動させるなんて流石、わたくし達の見込んだ聖女候補」
「そうですわね………本当、レムリは強い子ですわ」
「何言ってるの、貴女もレムスタリアでしょう?」
「そうでしょうか?私はあの人のお陰で、今では完全な『個』となりつつあります。…………もうレムリは一人でも『レムスタリア』としてやっていけるのでは……と、最近のレムリを見ていると思うこともありますわ……」
「あの子が認めるはずがないわね。あの子の性格は知っているでしょう?それこそ、貴女には愚問よね?」
スタアは、ただほほ笑んだ。
「ところで、対戦相手は決めたのですか?」
「……レムリは戦力外ですわね」
「蒼鏡をあのまま維持しないといけないものね」
「はい」
「なら、決まりね」
「そうですわね」
「「レムリは勇者担当で」」
レムリの知らない所で対戦相手が決まっていた。
ウォボスは魔族を信用してはいない。この試合にしても必ず何か裏があるはずだ……と。隙をついいてボルトを狙うのか?いや、ボルトなら大丈夫だ。なら、聖女リセルナ狙いだ。それがウォボスの出した結論だった。今の状態では、リセルナを失うことはボルトの死にも直結するからだ。うっかり試合で死なせてしまえばいい。
魔族なら、呪いの事も知っている可能性がある。試合が長引けばそれだけでも命に係わる限られた活動時間。そもそもこの試合を受ける流れになってしまったことが不自然だ。
(リセルナ気づいているか?一見こちらに有利に見えて、これはかなりまずい状況だぞ)
「リセルナ、魔族の奴らがハジールに変なことしたんだが聴いてるか?ダーク・プリズンとか」
「ええ、試合の巻き添えで傷つかない為の措置らしいわ」
「ミユウ見えるか?」
ミユウがハジールに目をやると瞳孔が縦長に細くなる。
「大丈夫、居る、問題ない」
気のせいか?白い紙が見えた気がしたんだが。
「そうか、ならいい。それで?初戦は誰が行く?」
「そんなの、決まってる、私」
「そうか、お前の速さで度肝を抜いてやれ。それと……」
「分かってる、時間は、掛けない。行って、くる」
勇者陣から出て来る人影が見えた。
「あ、来たよ。猫の子だ。可愛いよね」
「なら、わたくしですね」
リテリがデスサイズを手にする。立てると160あるリテリの身長を超える。
「いきなりリテリ姉さまですか?」
「リリスが居ればそれで良かったのだけれど……あのタイプにはわたくしよ」
猫のようなしなやかな筋肉、防具も軽装。速さ重視の近接タイプに間違いない。
リリスには重要な案件を任せてある。今回の作戦の要。リリスでなければ出来ないこと。本来なら、リセルナとか聖女の相手をしたかったが……完全な遠距離のスタアや中距離の葵では相性が悪すぎる。
両者が中央で対峙した。
「私は、ミユウ。貴女は?」
「リ……魔王軍四天王テリリ」
まさか、聖女候補である自分が魔王軍を名乗ることになろうとは……。聖女を諦めてはいても複雑な気持ちだった。
「そう、テリリ。貴女、私の嫌いな、闇の匂いが、濃い。だから、負けない」
「無理よ。夜は私のテリトリーだもの」
「これは、貴女が?」
そう呟いてミユウは空を見る。突然の夜が明ける気配はない。
「だとしたら?」
「私も、夜が好き」
(なるほど、夜行性だったわね。猫って……)
銅鑼の音が響いた。それと共に湧き上がる歓声。全てがミユウに対する声援だった。
「ミユウ対テリリ!試合開始じゃ!」




