62:魔王救出戦1(開幕)
薄い木製の扉が開き、一人の少女が入って来た。四翼世界の宿屋の一部屋である。
「……で?何か情報はあったかの?」
「はい、何でも、四翼世界の魔王の処刑が今日の正午、この街の中央広場で行われるとか。地図も手に入れてきましたが?」
「……バカなことを」
八翼世界の魔王ルクスはお茶を啜った。この世界のお茶は、やれ、渋みが足りないとか文句を言いながらもすっかり慣れた様子だった。
「お兄さんを見つける前にやらなければいけないことが出来たよ」
「え?」
その言葉に反応したのはレムリだった。聖女服は着用していない。他のスタア、リテリ、葵、リリスと、この世界の一般服。ただ、ルクスだけは白黒基調のゴスロリ服だった。魔王としての拘りがあるらしい。ゴスロリな魔王もどうかと思っていても誰も口にしなかった。
「ルクスちゃん、ファウ様を探すよりも優先?」
「そうだよ、レムリお姉さん」
「皆には大体教えちゃったからハッキリ言うけど、魔王が死ぬとその世界は消滅するんだよ。つまり、この世界は本日正午を持って消える。無くなっちゃったら、お兄さんを探すどころではないよね?」
「いまさらっと凄い事を言いましたね、魔王ルクス。世界の消滅?」
「そうだよ、リテリお姉さん。前に言ったよね?魔王は神から監視者、治安維持の任を負っているって」
「ええ、まあ」
「つまり、その監視者を排除するってことは、その世界での時間の概念を守るものが居なくなることを意味するの。つまり安全装置のなくなる世界。人種がそんな愚行に走る世界なら神は……」
「世界そのものを消す……と?」
「それが『決まり事』」
「しかし、人類にとって魔王とは天敵、悪の王、災いを成す者です。魔王が何たるかを聞いた今でも信じ切れるかと言われたら……そして、全ての人類は魔王は倒す者と認識しているでしょう」
「リテリお姉さん、言いたいことは理解出来るよ。でも、その認識は誰が決めたの?」
「それは……」
「まぁ、それが普通の反応だよね。でもね、不思議に思ったことはない?」
「何を?」
「魔王あるところに勇者あり。人種の希望として勇者は魔王討伐に向かう。その為に人種一丸となって勇者をサポートするシステムが常識。聖女しかり、戦乙女しかり、真巫女しかり」
「…………」
「さぁ、勇者様、魔王だから倒してくださいと言わんばかりの整えられた舞台。何をしたからではなく、何をするからではなく、理由は簡単……魔王だから」
「…………」
「そうして、魔王を倒した世界は消滅するんだよね~」
「それではまるで……」
「何かな?葵お姉さん」
「それではまるで罠です」
「そう、罠だね。そう持っていきたい何者かの罠だよね」
「神ではないのですか?」
「それは違うと断言できるよ。神がしたことは『決まり事』決め。それをどう使うかは人種次第ってスタンスだよ」
ここで、ルクスは一呼吸置いた。
「では、この何者かの罠だけど、そうすることの利点は何だと思う?」
「宝珠……」
「ん?何かな?リテリお姉さん」
「消滅した世界の宝珠はどうなるの?」
ルクスはスタアを見る。
「スタアお姉さんは多分、分かるよね?」
魔王ルクスが宝珠について語った時に、スタアはある疑問を抱いていた。八つの世界にひとつづつ宝珠が存在するのなら、何故、八翼世界には二つ存在するのかと。その時の動揺を見られていたようだ。魔王ルクス、7歳でも魔王は魔王であった。
「他の世界に移動するのですわね?八翼世界には宝珠が二つ存在したのですわ。つまり、確実に一つの世界では魔王討伐が行われて消滅したことになります」
「そう、面白いでしょ?人種が再び手に出来ないように八つに分けてそれぞれの世界に飛ばしたはずの宝珠は、魔王討伐との大義名分で倒してしまった世界が消滅する事によって違う世界に飛ばされる。もし、これが7つの世界で起こったら…………」
「一つの世界に八つの宝珠が揃うことになりますわ?」
「……そのことについて神は?」
「聖女の宝珠が八つ揃っても大した問題じゃないからね。時の宝珠に変化してさえいなければ」
(…………まぁ、成り行きを楽しんでいる事は確か。勇者にしか魔王は倒せないとか『決まり事』があるくらいだからね。さて、アンニージェ殿はどちらか?楽しむ側か?それとも……)
「つまりルクス様は四翼世界の魔王の処刑を阻止しようとおっしゃるのですね?」
「葵お姉さんの言う通り。なるべく騒ぎは起こしたくなかったけど初の共闘といこう!」
「世界の危機ならそちらが優先です!ファウ様がいらっしゃる世界なら尚更です!」
レムリもやる気のようだった。一時期の放心状態からは、すっかり回復したようだ。
「レムリがその気なら私に異論はないわ」
スタアの了解も得た。
「リリスもいいよ。でも、世界が消滅したら例の『挿げ替え』は起こるのかな?」
「お兄さんが居るのなら起こるとは思うよ。でも、安全策で行こうよ。確実とは思うけどまだお兄さんの存在を確認したわけではないからね。『挿げ替え』に期待してお兄さんが実はいませんでしたではシャレにならないよ?」
(それに、箱庭世界の八翼と違い四翼世界では何処までが只の記憶となるのか不確定すぎるからね)
「了解だよっ」
「リテリお姉さん?」
「私は貴女のことを全面的に信用していません。でも、今回だけは同じ最終目的のために共闘します」
「それで十分だよ。では作戦を説明するね」
ルクスはそう言って地図を広げた。ここに、世界を救うために魔王を救出する戦いが幕を上げる。




