61:勇者の解呪戦
『勇者ファウ=ボルト』四翼世界の勇者。魔王を捉え、その際に魔王の呪いを受ける。それは、常に魔力を消失する呪い。そして、この世界での魔力の枯渇は、肉体の消失を意味する。つまりは死だ。
『呪い』を受けた勇者の為に『聖女リセルナ』は自らの体内にて勇者の魂に魔力を補充する方法をとった。
俺の前々世界で言えば、魔力の充電器といったところか。その為に勇者が勇者本来の身体で過ごせる時間は限られいた。それは一日の6分の1。
しかし、四翼世界の勇者ファウ=ボルトは幸運だった。
何故なら俺、ファウ=バルドは……『呪い』に関しては専門家だからな。
「それで勇者様は、『解呪』を行うのですか?」
虹色に輝く髪の少女。『聖女リセルナ』がそう尋ねた。屋敷内の一番広い部屋に俺を含めて4人が集まっている。
「いきなりどうしたんだよ?『エルフの解呪師』でもお手上げだって言ってたろうがよ。今日の正午の魔王の処刑で、呪う魔王が死ねば解けるって話しだったろう?」
大柄な男がそう言った。たしか、ウォボスだったか。
(魔王の処刑か……確かにそうなのだろう。しかし、ディアの言葉が真実ならそれは最悪の悪手だ)
「ファウ?どうしたの?、それに、今日は。いつもと、何か違う、よ?」
猫耳少女がそう答えた。確か……ミユウ。鋭いなこの娘。野生の感とでもいうのか、ボルトとバルドの違いに気づいているのか?
ファウ=ボルトには、俺ファウ=バルドのことを口止めしていた。ややこしいな。
勇者に俺のことは口止めしていた。
この世界で目覚めて一時忘れていたが、俺には帰らねばならない場所があるからだ。長居する気はなく、俺のことが周囲に発覚した場合に間違いなくひと悶着ある。そんなことに貴重な時間を取ってはいられない。
「まぁ、細かいことはいいから。すぐ終わるから」
口調を真似る。本来の主とは主導権を代わってもらった。これにもひと悶着あったが、ここでは省く。
「……勇者様がそうおっしゃるなら」
「リセルナがそう言うなら、俺もいいぜ」
「私も、分かった」
3人の許可は取った。現れたモノに反応して邪魔でもされたら面倒だからな。
なんせ、これから現れるのは「呪い」だ。浮上させ、実体化し、弱点化し、干渉化すればいいだけ。俺にとっては、それこそやり慣れた手順だ。
「じゃ、始めるね」
(まぁ、見ておけって!)
「『バステルの正門』発動!!」
『バステルの正門』は、精神系の呪い。それが肉体を持たない精神体であろうと絡め取り、動きを封じる。尚、万能ではない。それ自体が呪いの性質を持つ為に、神格によっては弾かれる。
「「拘束する!!」」
そこには、禍々しい門が現れ、門の隙間から放たれた『鎖の束』が一面を埋め尽く……………………さなかった。
発動しない。
しーーーーーーーーん
正にそんな擬音がピッタリの状況。
俺の魂に刻まれた『呪い』が消えた訳ではない。存在は感じる。ただ、何も起こらなかった。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「ぷっ……」
「だ、ダメよ、ミユウ。笑ったりしたら勇者様に悪いわ」
俺は、ポーズを決めたまま固まっていた。勇者の体型が滑稽さを倍増させる。
「ば、ばすてる?何じゃそりゃ?うぁはははは!」
「もう、兄さんまで」
何が起こっている?
「これは、あれ、まちがいない」
「あははは!、ん?何だ?ミユウ」
「これが、噂に聞く、ちゅうに……」
「成程、これが厨二病なのですね?流石、勇者様」
何が流石なのか分からんが、その純粋な瞳は止めてくれ。
「えっと、勇者様、わたくしは良いと思いますよ?そんな勇者様も素敵です」
聖女リセルナのフォローが胸を抉った。
(き、君、何してくれちゃってるのさっ!)
今は苦情は受け付けない。俺自身、余裕が無い。
(ディア…………状況、解析)
(はぁ…………傷心のマスターもアリですね)
何で、嬉しそうなんだよ。
(いいから、頼むよ)
(はい♡)
(『解析』完了。無効化された模様)
(無効化?)
(勇者のアクティブ・スキルに『不戦勝』を確認。『解析』)
(『不戦勝』……勇者に対峙したあらゆるモノに戦わずして勝つスキルですね。これは凄い。私でも戦おうと思った瞬間に負けが確定します。バステルの正門の対象がファウ=ボルトであった為に『不戦勝』が発動した模様)
『不戦勝』。このスキルにて魔王にすら戦わずして勝った男。それが勇者ファウ=ボルトであった。
俺は理解した。間違いない!この男がそうだ。この男こそ俗にいう…………。
(お前……『チート能力持ち世界最強転生者』かよっ!)
『戦う相手が勝手に負けて、世界最強』とでも言えばいいか。
こうして、勇者の解呪戦は俺の敗北で終わりを告げた。俺の心に別の意味で深い傷を残したまま……魔王を処刑させない為に必要な最初の一手は不発に終わる。
(厨二病って言われた……)
(傷心のマスター。これに付け込んで、今なら落とせるかも……)
(声、モレテルゾー。ディア)




