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俺と聖女でひとつの身体  作者: 天川 和
四翼世界編
62/268

61:勇者の解呪戦


 『勇者ファウ=ボルト』四翼世界の勇者。魔王を捉え、その際に魔王の呪いを受ける。それは、常に魔力を消失する呪い。そして、この世界での魔力の枯渇は、肉体の消失を意味する。つまりは死だ。


 『呪い』を受けた勇者の為に『聖女リセルナ』は自らの体内にて勇者の魂に魔力を補充する方法をとった。


 俺の前々世界で言えば、魔力の充電器といったところか。その為に勇者が勇者本来の身体で過ごせる時間は限られいた。それは一日の6分の1。


 しかし、四翼世界の勇者ファウ=ボルトは幸運だった。


 何故なら俺、ファウ=バルドは……『呪い』に関しては専門家だからな。




「それで勇者様は、『解呪』を行うのですか?」


 虹色に輝く髪の少女。『聖女リセルナ』がそう尋ねた。屋敷内の一番広い部屋に俺を含めて4人が集まっている。


「いきなりどうしたんだよ?『エルフの解呪師』でもお手上げだって言ってたろうがよ。今日の正午の魔王の処刑で、呪う魔王が死ねば解けるって話しだったろう?」


 大柄な男がそう言った。たしか、ウォボスだったか。


(魔王の処刑か……確かにそうなのだろう。しかし、ディアの言葉が()()()()それは最悪の悪手だ)


「ファウ?どうしたの?、それに、今日は。いつもと、何か違う、よ?」


 猫耳少女がそう答えた。確か……ミユウ。鋭いなこの娘。野生の感とでもいうのか、ボルトとバルドの違いに気づいているのか?


 ファウ=ボルトには、俺ファウ=バルドのことを口止めしていた。ややこしいな。


 勇者に俺のことは口止めしていた。


 この世界で目覚めて一時忘れていたが、俺には帰らねばならない場所があるからだ。長居する気はなく、俺のことが周囲に発覚した場合に間違いなくひと悶着ある。そんなことに貴重な時間を取ってはいられない。


「まぁ、細かいことはいいから。すぐ終わるから」


 口調を真似る。本来の主とは主導権を代わってもらった。これにもひと悶着あったが、ここでは省く。


「……勇者様がそうおっしゃるなら」


「リセルナがそう言うなら、俺もいいぜ」


「私も、分かった」


 3人の許可は取った。現れたモノに反応して邪魔でもされたら面倒だからな。


 なんせ、これから現れるのは「呪い」だ。浮上させ、実体化し、弱点化し、干渉化すればいいだけ。俺にとっては、それこそやり慣れた手順だ。


「じゃ、始めるね」

(まぁ、見ておけって!)


「『バステルの正門』発動!!」


 『バステルの正門』は、精神系の呪い。それが肉体を持たない精神体であろうと絡め取り、動きを封じる。尚、万能ではない。それ自体が呪いの性質を持つ為に、神格によっては弾かれる。


「「拘束する!!」」


 そこには、禍々しい門が現れ、門の隙間から放たれた『鎖の束』が一面を埋め尽く……………………さなかった。


 発動しない。



 しーーーーーーーーん



 正にそんな擬音がピッタリの状況。



 俺の魂に刻まれた『呪い』が消えた訳ではない。存在は感じる。ただ、何も起こらなかった。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


「ぷっ……」


「だ、ダメよ、ミユウ。笑ったりしたら勇者様に悪いわ」


 俺は、ポーズを決めたまま固まっていた。勇者の体型が滑稽さを倍増させる。


「ば、ばすてる?何じゃそりゃ?うぁはははは!」


「もう、兄さんまで」


 何が起こっている?


「これは、あれ、まちがいない」


「あははは!、ん?何だ?ミユウ」


「これが、噂に聞く、ちゅうに……」


「成程、これが厨二病なのですね?流石、勇者様」


 何が流石なのか分からんが、その純粋な瞳は止めてくれ。


「えっと、勇者様、わたくしは良いと思いますよ?そんな勇者様も素敵です」


 聖女リセルナのフォローが胸を抉った。


(き、君、何してくれちゃってるのさっ!)


 今は苦情は受け付けない。俺自身、余裕が無い。


(ディア…………状況、解析)


(はぁ…………傷心のマスターもアリですね)


 何で、嬉しそうなんだよ。


(いいから、頼むよ)


(はい♡)





(『解析』完了。無効化された模様)


(無効化?)


(勇者のアクティブ・スキルに『不戦勝』を確認。『解析』)


(『不戦勝』……勇者に対峙したあらゆるモノに戦わずして勝つスキルですね。これは凄い。私でも戦おうと思った瞬間に負けが確定します。バステルの正門の対象がファウ=ボルトであった為に『不戦勝』が発動した模様)




 『不戦勝』。このスキルにて魔王にすら戦わずして勝った男。それが勇者ファウ=ボルトであった。


 俺は理解した。間違いない!この男がそうだ。この男こそ俗にいう…………。


(お前……『チート能力持ち世界最強転生者』かよっ!)


『戦う相手が勝手に負けて、世界最強』とでも言えばいいか。


 こうして、勇者の解呪戦は俺の敗北で終わりを告げた。俺の心に別の意味で深い傷を残したまま……魔王を処刑させない為に必要な最初の一手は不発に終わる。


(厨二病って言われた……)


(傷心のマスター。これに付け込んで、今なら落とせるかも……)


(声、モレテルゾー。ディア)




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