58:帰還者
「帰ったぞー」
「聖女リセルナ様、只今、戻り、ました」
一人は大柄な男190を超える巨体、外見は正に野獣。もう一人は小柄な少女、しかし頭には猫耳、しっぽまで完備。
「ご苦労様、それで『八翼世界』はどうでした?ウォボス」
ウォボスと呼ばれた男は椅子に腰掛けながら答える。
「あー、あれはもうだめだ。勝手に自滅だよ」
「自滅……ですか?」
「こっちは北の大陸を纏め上げて戦力にしたってのに、いざとなったら『勇者』がみんなおっ死んで『魔王軍』に蹂躙。向こうに取ってのバットエンドだ」
「勇者が皆?複数いたのですか?」
猫耳少女が答える。
「凄い、歪んだ、世界。少なくとも3人の、気配を、感じた」
「まさか『翼欠けの勇者』」
「それなら、それで、良かった。歪みが、広がる前に、消えて」
「まぁ、そ、そうですね。ミユウの言う通りです」
「ところで『勇者』といえばうちの勇者様はどうだ?」
ウォボスの問いにリセルナは自分の胸に両手を添えた。
「ここに……今は眠っておいでです」
「かーーーっ、聖女様の胸の中でおねんねかよ」
「ウォボス……」
「ウォボスっ!!」
ミユウが珍しく大声を上げる。この娘が感情を表に出すことは稀だ。
「分かってんだョ!俺のせいだ!俺があの時油断していなければ、ファウが魔王の呪いを受けることなんて無かった!」
「ウォボス……」
「ウォボス、それは、言わない、約束。ファウに聞かれたら、また、ぶっとばされるよ?」
「リセルナ、俺はお前にも申し訳ねぇと思ってる……俺は」
「ウォボス兄さん、いいのです。例え一日のわずかな時間だけしか会えないとしても……わたくしの中で魔力供給しなければ消滅してしまうのだとしても、共に居られるのならばそれで」
沈黙が流れる。それぞれが何かに考えを巡らせている。
「この話は、ここまでにいたしましょう。ファウ様に聞かれでもしたら3人ともお叱りを受けてしまいますよ?」
「だな……」
「うん、」
「だが、これだけは言っておく。俺はお前とファウのためなら命も惜しくねぇ」
「私も、そう」
「ありがとう、兄さん、ミユウ」
「で、話は変わるが、捉えた魔王の処刑が明日なんだってな?」
「はい。明日の正午に執り行います」
「これで、真の平和が、訪れるね」
(いや、聞こえてるんだけどな……。しかし、この大男がこの子の兄とはな。どう見ても美女と野獣だ。兄妹には見えない)
お兄ちゃん!
何かのイメージが浮かびそうだったが、それは唐突に消える。
そしてこの状況、懐かしささえ覚えるこの状況。
現状を整理すると俺は『聖女』の中にいるらしい。それでいて不安も恐怖も感じない。しかも話の内容からして、俺は『勇者』らしい。
流石にそれはどうなんだと思うが。俺の記憶では……。
前世の記憶を持ったままの転生後は、親も兄弟も存在しなかった。物心ついた時点で一人。幸いに『解析』スキルがあったので食うだけなら問題なかった。
少しずつだが金も稼げるようになり帝国に店を出した。繁盛していたとは言えないが二人で……。
ふたり?
いや、俺はずっと一人だったはずだ。だから遺跡でも『リリスの口付け』に対応出来ずに一人で死んで……。
リリス?




