55:闇VS闇(2)
「その前に……あの子たちの灰が飛んでしまわないように」
リテリの手に光が集まると5つに弾ける。それはかつて「第三聖女」であった灰を囲むと光のベールで包み込んだ。ここまでになると『完全復活』でも生き返ることは無いだろう。肉体が灰になり魂の痕跡も無い状態では無から生を作り出すのに等しい。
「ふむ、光と闇の相反する力を使い分けるか。しかし魔女の血統が何故に聖女なんぞを目指したのか」
魔王ルクスの言葉に、リテリはただ灰を見つめていた。その横顔は何を思うのか。
「リテリ様、あの」
葵の言葉にリテリは人差し指を一本だけ立てた。
「様は、いらないわ。私達姉妹でレムスタリアとファウ様の無念を」
「はい!」
『ルナー・エクリプス』
リテリが呟く。戦いは静かに幕を上げた。
「なるほどのう。先代からの謎が一つ解けたわ」
満月だった月が欠けていく。
「興味深いですわね。先代魔王からの疑問とは?」
リテリは空中から動かない。只『静』にそこに居る。
「この八翼世界に対しての『月』は本来有り得ない衛星との事じゃ。まず大きすぎる。そして常にこちら側に一面しか見せない。月の裏の顔は誰も知らないのじゃ。」
月は欠け『半月』となった。
「本来持つべきはずの無い『月』という衛星。それが存在する理由が今解けたということじゃよ」
「月の存在理由?」
葵は考えたことも無かった。星読みをしていた時でさえ月が何故そこにあるかなど…………。
「教えていただけます?」
そう問うリテリの口元は、聖女には有り得ない妖艶さが浮かぶ。
ルクスは両手を見つめ握って開く。
「なるほど、見事なものじゃ。『魔女』」
『月』は殆ど消えようとしている。
「『魔具』じゃな?一子相伝、『魔女』の…………つまりはリテリ=ユイーシ=ルクルブ只ひとりのための『魔具』が『月』の正体じゃ」
完全に『月』が消えると辺りは光のない闇に包まれた。
「正解ですわ。『月』は『魔女』の『魔具』。決して闇夜を照らすための存在じゃないの」
リテリの言葉に葵は背筋が寒くなった。
(今の声はリテリ様?けど…………けど…………)
(成程、『魔女』の本質は闇。『第二聖女』の裏側は誰も知らない…………つまり『月』そのもの…………しかし)
「しかし、忘れてはおらぬか?このルクスとて魔の王を受け継ぎし闇そのモノ!」
「強くて強大な敵が立ちはだかったらどうします?『勇者』がいるなら頼るのも良いでしょう。仲間を集めて数で対抗するのも良いでしょう。愛と絆と友情と努力と根性で乗り越えるのも良いでしょう」
暗闇の中にリテリの声が響く。
「でも、もっと簡単な方法があります」
葵には暗闇の中なのにはっきりとその口元が見えた。いや、見えた気がした。それは…………。
「相手を自分の強さまで引きずり下ろせばいい。違うわね自分より弱くすればいい。そうすれば勇者も仲間も愛も絆も友情も努力も根性も必要ない…………今の貴女のように」
(リテリ様は泣いてる)
「貴女の死で決着としましょう?心配しないで。死人にでもしゃべらせることは可能だから」
「怖いね、リテリお姉さん」
「あら?お可愛い事」
「キャラ作りしている場合じゃなくなったからね」
「始めても?」
「うん、いいよ」
それを合図に轟音が鳴り響く。大気を割く音が二人の後を追いかける。互いがぶつかり合った反動で互いが大地を転がる。
「普段からその姿でいたら?可愛いわよ、魔王ルクス」
「どうもっ」
ルクスの外見は少女のそれではなくなっていた。7歳の少女に見えても魔族ということだ。
そしてその動き。スピードもパワーも十分な攻撃。体重差は本来、近接戦において最も重要な要素だが、ルクスの打撃は小柄な子供の体重からくるソレでは無かった。受けるリテリの大鎌が震え、金属音が響く。
『ルナー・エクリプス』にて魔力浸食されていてこれである。夜の加護と月の加護をもつ自分がそれでいて互角。
(魔王は伊達じゃないってことね)
「へぇえ~。リテリお姉さん、見えてるね?私の動き。驚きだよ」
もはや、『葵』には介入できる戦いでは無かった。只、見守るだけしか。
二人が同時に地を蹴った。舞台は空中へと移動する。
形態を人の姿から魔族へと変化させたルクスは、魔女のテリトリー。『夜空』での戦いへと足を踏み入れた。
空を流れるようにそれでいて慣性を無視したかのような動きで飛び回る『魔女』の動き。大鎌での攻撃も重さを増したように思える。そして、速くなる。速くなる。まだまだ速くなる。速くなる。速くなる。
そして、今まで反応していたルクスが遅れた。
「なるほど、反応出来る速さはここまでの様ね?」
声はクルスの頭上からした。
「本当に凄いね「魔女」って。ゴメンねリテリお姉さん。出し惜しみしたら失礼だったね」
ルクスを頭上を見あげるでもなく、瞳を閉じてそう呟く。
今の魔王ルクスは、魔力操作を行えない。厳密には行えるが『ルナー・エクリプス』で魔力浸食状態で使用すれば身体の細胞破壊により発狂してもおかしくない激痛に襲われる。そして、発動した魔法、魔術も過程を浸食されて従来の効果を発揮しない。つまり現状、魔王ルクスは攻撃魔法、防御魔法、補助魔法などあらゆる魔術を封じられている状態。
そんな魔王ルクスが魔力を使用した。
「うわっーーーーーーーー!」
戦いには似つかわしくない少女の叫び声が響く。それだけ聞いていたなら、可愛らしいとさえ思えたかもしれない。
「なっ!」
「いたっ……本当、シャレにならない痛さだね。これ」
一時は驚きの表情を見せたリテリだったが直ぐに戻る。
「なるほど……それが、貴女の本当の姿ってことね?」
身体は二回り大きくなった。翼は更に大きさを増したかぎ爪も長く鋭さを増した。だが、何よりも危険なのは頭の二本の角。先程まで無かったアレは、正に『闇』。自分の魔具である『月』と同種の気配を感じる。
「誇っていいよ?私の第二形態って『勇者』用なんだ……」
「よ?」
最後だけリテリの背後から聞こえた。何が起こったのか理解できなかった。
だが…………。
「!!」
左腕の激痛で自身に何が起こったのかを理解した。左腕を持っていかれた。言葉通りだ。
魔王ルクスの手には千切れたリテリの左腕があった。
「くっ!!」
(今は回復している暇はない)
「本当リテリお姉さんって凄い人種だね。腕を千切られて悲鳴ひとつ上げないなんて」
「あの子たちの……を……思えば、こんな痛み……くっ!」
「でもね、勝負はついたと思うよ?私は命まで奪うつもりはないから」
魔族とは、魔王とは何なのか?『葵』は思う。自分の式神は半身を消し飛ばされた。アレは命を奪える攻撃だった。そして、今は命を奪うつもりはないと言う。そこには、何か別の意味があるのだろうか?
(魔王がそれを言うのか?)
「え?」
「レムリをっ!スタアを!そしてあの人を殺した魔王がそれを言うのかっ!」
「これにはね、訳が……」
「でもそう、ルクス、貴女の言う通りね……勝負は付いたわね……」
「でしょ?」
「でもそれは、貴女が思うのと私が思うのとでは違うようね?」
『月の牢獄』!!
無詠唱にて発動していた月光の帯が魔王ルクスを取り囲む。それは月の光を濃縮した月光の鏡。
「しまっ!」
上下左右前後と魔王ルクスを取り込み正六面体となった。正にレムスタリアの『蒼の牢獄』であった。
「戦いにおいては、勝ったと思った瞬間にこそ油断してはいけないわ。肉を切らせて骨を断つ。古典ね」
魔王との戦いでは、決めていたことが一つあった。それは、レムスタリアの技で魔王を殺すこと。その為に月の光で鏡を創った。『蒼の牢獄』の再現の為に……。只の感傷だとは理解している。それでも…………。
痛みと出血で一瞬意識が遠のく。
(まだ、最後まで終わらせてからよ)
「レムスタリア、借りるわね。貴女の技」
『シャイニング・トリヴュート』
リテリを中心に光の槍が現れる。それは数を増し、増し、増し、増し…………。
魔王ルクスを捉えた牢獄へと放たれる。後はその中の存在が消滅するまで反射を繰り返す。
「終わった……」
こうして、魔王ルクスは敗北した。しかし、先程リテリ自身が言葉にしていなかったろうか?
戦いにおいては、勝ったと思った瞬間にこそ………。
「こふっ!」
リテリが血を吐く。
かすむ目で自分の胸から突き出たソレを見つめる。それは魔王の手により潰された自身の心臓だった。
「リテリお姉さんでは勝てないんだよ………『勇者』以外では勝てない。それがこの世界の『決まり事』だから。本当に誇っていいよ。魔王の角を折り、第三形態まで使わせたこと……」
最後の言葉はリテリには届いていなかった。
……夜は………終わっていた。
第二聖女の死までを追加。




