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俺と聖女でひとつの身体  作者: 天川 和
魔女、魔王編
52/268

51:八翼世界の異物


 ここ『八翼世界』には生物が住める大地との意味で、大きく分けて三つの大陸がある。


 北に位置する雪と氷の『シルベア大陸』。


 国といった概念(がいねん)はなく、多数の部族が暮らしている。生活の基盤は狩猟であり海辺では漁も盛んだ。一応、交易も行っている。


 また、『遺跡』『迷宮』の数は多くは無いが、分厚い氷に閉ざされている場合が殆どだ。それ故、進んで調査しようとする者も存在せずに手付かずの状態が多い。稀に、砕けた氷の先に入口を見つけて入り込む者も居るが、その場合その者は二度と戻ることはない。



 南に位置し東西に横に広がる『アウラン大陸』。


 数百年級の樹木が覆い茂る大陸であり『魔族』の生息地。『魔王ルクス』を中心に組織された軍隊『魔王軍』を持ち、『シルベリア大陸』『アイシス大陸』に攻め入る準備をしていると噂される大陸である。


 大陸の詳細は人類側には殆ど知られていない。しかし、有史以来、過去三度の勇者対魔王軍の戦いで多くの動植物が毒、麻痺、即死といった効果を付加することが発覚。その為に人類の毒、麻痺、即死に対する対策方法が発達した歴史がある。その後の三つのバッドステータスは無効化出来るまでになり、今に至る。



 そして、中央に位置する『アイシス大陸』


 一番大きな大陸に小国も含めると八つの国がある。特に『エスリ王国』『アンニージェ神国』『トイネア帝国』の三つの大国がそれぞれの国境を境に隣接し、経済と産業の中核を担っていた。


 また、大小多くの『遺跡』『迷宮』のある大陸でもあり、調査も盛んに行われている。『遺跡』からは大昔の財宝や希少な金属。『迷宮』からは魔具や武器装備が発見される。


 野生の動物が住み着くこともあるが魔物の類は存在しない。むしろ魔物より厄介と言われる『太古の罠』が数多く存在するのだ。知能のある生き物なら住処にしようなどとは思わない危険地帯でもあった。それでも一攫千金や知識を求める者が毎年挑戦し、少なくない人数が帰らぬ人となっている。


 この三国だが、小さな小競り合いは起きているものの、人類の共通の敵である『魔王軍』討伐のため表向きは協力関係にある。考え方はそれぞれ異なるが、目的は一致していた。



 『エスリ王』が王制を布く『エスリ王国』。


 『勇者』を支える内助の功であるべき……との考えから『聖女』を育てる『王国国立魔導学院(聖女科)』が設立された。実力に裏付けされた『聖女候補』を国の政策の一番に(かか)げ、国民も支持している。



 『女神アンニージェ』を唯一神と拝め信仰する『アンニージェ神国』。


 『女神』が自国に(つか)わす『勇者』こそ真実、本物であるとの考えから、他国に現れる『勇者』を公には認めない。しかし、自国に現れた勇者に心身共に仕える『真巫女』を育ている。



 『トイネア女帝』による統治の国『トイネア帝国』。


 自身が『戦乙女』であるが故に、共に戦場を駆け背中を預けるパートナーであるべきだ……との宣言から近接特化の『戦乙女』を育て上げている。


これらの国はいずれも『勇者』に対しては、人類の切り札との共通認識を持っていた。



 特に『エスリ王国』では、『魔王軍』侵攻の際には真っ先に戦場になる『防波堤』の役目を担う為に『勇者』の復活を何処の国よりも待ち望み、『聖女』に対しては期待と信頼と特別な思いが込められていた。正に、王国では、国の存亡に関わるのだ。





 ただ、俺『ファウ=バルド』は考える。『魔王軍』の人類に対する侵攻はあるのだろうか?……と。



 学院から戻ると、ルクスはいつもの窓際の椅子に腰掛けで庭を眺めながらお茶を(すす)っていた。相変わらず足は床に届かずブラブラさせている。


 この『魔王』を見ているとその常識を疑う自分がいた。勿論、自称『魔王』でしかなかった少女が確定『魔王』になったのは『女神』の存在が大きい。『女神』のお墨付きがあったからに等しい。


 ただ、両者が口裏を合わせて俺達を騙している可能性もあるにはあった……がそれに関しては『否』と結論が出ていた。何故って『視た』からだ。それに、俺が転生前にした『神』とのやり取りの確認も、この『女神アンニージェ』を本物だと決定付けた。ただ、それによって新たな疑問が出てしまった訳だが…………。


「戻ったぞ~」


「おかえりなさい。お兄さん」


 どうやら今日は子供モードの様だ。まぁ、実際子供なのだが。


「ルクスィ~。ただいまー、着替えて来るねー」



 リリスは名前の後ろに小さな『ぃ』をつけて呼ぶ癖があるが『魔王』に対してもそれは変わらないようだ。


「おかえり、リリスお姉さん」


「しかし、ルクス……」


 ルクスは飲んでいたお茶をテーブルに置き俺を見た。


「なぁに?お兄さん」


「魔王様ってのは、よっぽど暇なんだな?」


 俺が見る魔王はいつもお茶飲んでいる。魔王として仕事している風には見えなかった。たしか、『魔王軍』の仕事は『治安維持』……とか言ってたな。何から何を守る治安維持かは教えてもらえなかったが。


 レムリ達に今回は、口出ししないようにお願いしてあった。さて、切り出すか。


「『魔王軍』の治安維持……だっけか……ちゃんと出来てるのか?」


「……私がのんびりしているって事は、出来てるって事なんだよ?」


 ルクスはそう言って微笑んだ。こうしている分には人類にとっての恐怖の象徴『魔王』だとは思えない。年相応の7歳の女の子だ。


「お兄さん、私から何か情報を引き出そうと思った?」


 まぁ、話せないのは以前聞いていたからね。元々、話してくれるとは思っていない。今日は別の事だ。


「残念でし……」


「実は、グニスが盗み出した『聖女の宝珠』だけど、『解析』が済んだよ」


 『ディア』が俺から離れていた時に出会って、吹き飛ばしてしまった『魔王軍四将グニス』。王国の宝物庫に保管されていた『聖女の宝珠』と呼ばれていた宝を盗み出したが『ディア』に回収されていた。それの『解析』が完了したのだ。


 ルクスは無言でお茶を飲む。


 ……さてこの反応はどっちだ?


「…………」


「結果から言うと、アレ単体では何の効果も意味もない『何かの一部』って結果だった」


「…………」


 知っている反応か?それとも知らないのか?


「ア…………ニージェは?」


 ニージェと呼ぶことにしてたと思い出し、言い直す。


「朝に何処かに出かけた切りだよ。もう直ぐ戻るかな?」


「そうか、なら好都合だ」


「好都合?」


「『聖女の宝珠』、正確な名称は…………」



「『時の宝珠』だ」



 俺は、その名を告げる。


「ふ~ん」


「驚かないのか?知っていたか?」


「どうして?」


「この世界の決まり事(ルール)に対して、この名称は矛盾すると思わないか?」


「…………」


 ルクスは無言だった。俺は続ける。


「転生前にニージェに散々言われていたことがある。それは、時間に対してだ。時間には干渉できない、時間停止も時間旅行もコノ世界では出来ないと……」


「…………そうだね。出来ないよ」


「なら、何故、『時間』の名を冠したアイテムが存在する?グニスがそれを欲しがったのは何故だ?」


「…………何故だろう?」


 ルクスの雰囲気が変わった。何か致命的なミスをしたのか?だが一連の謎を解明するためには避けて通れない。


「グニスの呪いの件には仮説がある」


「そう?聞かせて、お兄さん」


 何故グニスがレムスタリアを呪ったのか、直接襲う行動に出なかったのか。


「レムスタリアの内にも『聖女の宝珠』がある。だがそれは『聖女の宝珠』であって『時の宝珠』ではない。現状は別物に過ぎない」


 しかし、グニスの行動から奴が欲しかったのは『時の宝珠』と考えられる。ならばグニスがレムスタリアを呪った理由は……ひとつだ。


「呪うことによって『聖女の宝珠』が『時の宝珠』になる……これが俺の仮説だ」


 ルクスが俺を見ていた。表情は読み取れない。これが7歳の女の子か?人間に当てはめるのは間違っているが……。


「………凄いね、その通りだよ。『聖女の宝珠』はね、宿主の『恐怖』を(かて)にその性質を変化させるの。お兄さんの考えた通りだよ。私達『魔王軍』はそれを回収する必要があったの。グニスは方法を間違ったけどね」


 ルクスは俺から視線を反らすように湯飲みを手に取った。


 『恐怖』を(かて)に?


 つまり、レムスタリアが『呪い』の痛みの『恐怖』、『解呪』出来ない『恐怖』を味わうごとに宝珠は『時の宝珠』に近づくという事だ。



 だが、誤算があった。『スタア』の存在だ。『レムリ』が創り出したもう一人の自分。


 一時期『スタア』は『レムリ』の恐怖も苦痛も一人で受け入れていた時期があった、しかし同時に『レムリ』の苦痛や、恐怖はその期間無くなっていたのだ。


 『レムリ』が『スタア』の存在に気づいてからも二人で分けた。それが約一年も持たせる結果に繋がったのだ。二人で恐怖や痛みを分け合うことで『時の宝珠』に変化しなかった。なっていないのなら取り出す訳にもいかない。


 そして、俺がレムスタリアに転生し、グニスの計画は頓挫(とんざ)した。



「………で、お兄さんは『時の宝珠』は何だと思っているの?」


「読んで字の如し、だろ?これだけでは恐らく意味をなさない、だけど……」


「お兄さん……『解析』だっけ?」


 俺はその声に………。


 ルクスから慌てて距離を取る。


 7歳の女の子が発するとは思えない重圧に呼吸すら荒くなり、冷や汗が伝う。


「私、言ったよね?……魔王軍はね、治安維持が目的なの。この世界に害をなす、決まり事(ルール)を破る者を排除する者達」


「ルクスっ!何の真似だ!」

 

 僅かに悲しみを湛えているように見えたのは錯覚だったのか……次の瞬間、明らかな殺意が俺に向けられた。


「ルクス、よせっ!」


「この世界の異物はお兄さんなんだね……目的の為にも消えてもらうよ」




 こうして俺は…………。


 蒼の聖女レムスタリアは、絶望的な『魔王ルクス』との戦いに突入した。




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