04:聖女腹黒説
手のひらを付けず両手の指だけをそれぞれの指に合わせて胸の前でゆっくり上下に動かしている。その姿が可愛らしい。そして、理由は何かは知らないが何故か上機嫌になっている『レムスタリア』。
「『ファウ』様は善人なのですね?」
鏡の中のレムスタリアの浮かべる微笑に見蕩れた……。
( 胸を鷲掴みにして、なんじゃこりゃ!ドーン! )
『ディア』だ。
(……流石、私のマスター。善人ですね)
「はいそこ。意味不明の擬音やめる!」
(あぁ、こんなマスターにお仕え出来て『ディア』は果報者です)
『レムスタリア』には『ディア』との会話は聞こえていないようだ。『ディア』との会話は心で思っている言葉となるのだから当然か。その分、隠し事が難しい。つい思っていることが漏れることもある。
(それはそうと、マスター。『聖女様』の感情は喜びです)
「何がうれしいんだ?この状況で……」
普通ならば、自分の中から知らない声がするとか、何の疑問も抱かずに受け入れられるはずがない……と思う。俺だったら気味が悪いし、まず自分の精神を疑う。
ありえない声?幻聴?おかしくなってしまったのかと……。
しかし何故かは分からないが、この聖女様は初めから受け入れていた。これはもう器の大きさとか、懐が深いとか、肝っ玉が据わっているだとかの問題ではない。
それは、もう『異常』といっても良いだろう。
では、この『聖女』の状態を俺なりに考えてみよう。
16にしては大人びていた初めの印象からすれば、今の『聖女』は年相応かそれよりも幼い。『箸が転がっても可笑しい年頃』って幾つだったか?
『レムスタリア』と同じ年齢の俺の妹と比べても……いや、俺の妹の方がヤバイので比較にならん。
とにかく、会話中どんどん見た目と行動がちぐはぐになっていった気がするのだ。
ただ、強引に当て嵌めることが出来るものがある。
世の中で天然とか呼ばれてる最強人種の可能性。
想像してみよう。ある日突然。
「わたくし!天然なのです!」
違和感がないのがヤバイ。むしろ言いそうでヤバイ。
(マスター?)
「ん?」
(妄想でお楽しみのところ申し訳ないのですが)
「妄想ってのやめてくれないか?」
(そんなことよりも『レムスタリア』様は……)
「あぁ、会話の中に矛盾があったな。これが演技だったら『聖女様』は中々の腹黒かも知れない」
そう、この状況を……全てを知っていて演じている可能性が出てきた。