48:悠久の魔女との食事
元々広い部屋ではあったが『レムリ』『スタア』『ディア』『葵』『ルクス』『リテリ』そこに学院から帰って来た『リリス』が加わり七人でテーブルを囲んだ。せっかくなので夕食でもしながら……となったのだ。誰が作ったかって?
勿論、俺だ。
食事の準備ならメイドである葵がするべきなのだ。しかしこのメイド、料理は全然出来ない。ある意味、ほとんど部屋からは出してもらえない、自分からは外にめったに出ない生活をしていたのだから当然か。
俺は厨房の窓から見える穴を見てため息をついた。
「リリス~」
「何?お兄ちゃん」
一応は助手的な意味も含めてリリスと葵には手伝ってもらっている。ただの食器出し、運ぶ係だが。
「庭の穴、埋めとけよーー」
「了解だよっ、お兄ちゃん!」
返事はいいのだが。
この妹、学院帰りに早く帰ろうと大ジャンプして来やがった。結果、着地で大穴。お前は竜騎士かっ!
いや、ピンポイントで庭への着地を褒めるべきか?
「お兄ちゃんの料理、久々だねっ」
「そうだったか?」
「レムリも料理は出来なかったよな?」
レムリに声をかける。
「そうなんです。食べる専門です!」
いつもはスタアが作ってくれる。レムリが出来ないのにスタアが出来るのは同一人物としてどうなのか?と首を傾げたくもなるが……まぁ、本来スタアはレムリの出来ないことが出来てしまう理想の自分なのだから料理くらい出来て当然なのか?
「まぁ、レムリもスタアも俺の為に頑張ってくれたからさ、俺からの感謝の気持ちだ。味は保障するよ」
「べ、別に貴方の料理なんて楽しみではないのですわ。物珍しらしさで興味があるだけですわ」
そう言いながら、スタア。レムリからの分離、実体化してまでガン見するのはやめてくれると嬉しい。それ、相当量のエネルギー使うよね?元々良く食べる『レムスタリア』。二人になったら食材、足りるか?
食事の準備が出来た。
「ファウ様のお料理~」
皿を上に掲げるのはお勧めしないぞレムリ。どう見ても賢そうには見えない。
リテリさんが腰掛ける。俺、レムリの正面だ。テーブルの端に二人で向かい合う形となった。
長い黒髪が床につかないように纏め上げている。何か凄い色気がある。18でこれとは恐るべし『王国第二聖女』。危うく『リリスの口付け』が発動しそうになった、危ない、危ない。
だか、彼女の本質を見てしまった今ではそれも納得か。『魔女』
『魔女』と聞いた者は魔法が上手な女、少しカオス寄りの女……程度に考えるかもしれない。
しかし、『魔女』とは一子相伝、親から子へと受け継がれる。『魔王』と似ているが『魔王』が『軍』を預かるのに対して『魔女』は『個』だ。いずれにせよ、レアジョブだ。ただ、立ち位置は『闇』。
『聖女』の光に対しての『魔女』の闇、対極に位置する者。
だが、『魔王』を知ってしまったらそれも眉唾物だ。何故かって、どれもこれも人間がカテゴライズ、区別化したものだからだ。
そんな、リテリさんだが一応の誤解は解けたと思っていいのだろうか?
その割にはリテリさんの様子がおかしい。いや、おかしいというよりも……壊れたレムリの様だ。
「リテリさん、それで……」
話しをするためにレムリに主導権を代わってもらう。
「ひゃいっ!…………コホン、はい?」
なんだ?『ルダーの真伝』を使用する前よりも警戒されている?何を見てきたんだ?女性に警戒される過去など、男として悔しいが何一つ無い。
「俺のことは理解してもらえたと思いますが?」
「今は、ファファ、ファウ様?」
「そうですけど?」
『ディア』の事『リリス』の事『葵』との事まで全て話した。そして、俺を目撃した『戦乙女』戦のことも全てだ。
「はい、あ、改めてレムスタリアの、か、か、『解呪』に感謝します」
「では、誤解は解けたと思ってもいいですか?」
あの時の少年……お兄ちゃんがレムスタリアの中の男の人……だった。
「はい、お兄ちゃん」
時が止まった。
いや、この世界では時は止まらない。時間は干渉不可の絶対厳守事項だ。
リテリさんは下を向いている。自分が何を言ったのか気づいてない?
『スタア』『ディア』『葵』『ルクス』『リリス』の食事をする手がピタリと止まった。
ゆっくりと、ゆっくりと、首だけこちらを向く。ホラーかよ怖いよ。
「はっ、お、お、リリスちゃんのお兄様……でよろしいのですよね?」
「え?、そ、そ、そ、そうですよ。リリスのお兄ちゃんです」
「おほほほほほ」
「はははははは」
俺とリテリさんの声が重なった。
『ディア』は思った。やはりこちら側に足を踏み入れましたか。と
『葵』は思った。バカなの?今度は第二聖女なの。と
『リリス』は思った。お兄ちゃんがまた妹を増やした。と
『スタア』は思った。これはレムリに取っても強敵ですわ。と
『ルクス』は思った。わしも、ひとくくりなのだろうか。と
五人の首は正面を向いた。再び食事をとり出す。いや、お前ら絶対食事に意識いってないだろ。そんなことを考えていたらレムリが出てきた。
「リテリ姉さま、今まで黙っていてごめんなさい」
「ううん、いいのよ。きっとそれが最善だったわ。もし、外部に……王家辺りにでも漏れていたら『魔女』認定されてもおかしくなかったわ」
王家の血統には『聖女』を良く思わないものも居る。しかし、表立っては出てこない。何故か……それは重罪だから。
「そんな噂が出たら、わたしが潰しますけどね」
すごい迫力だった。
「それで、レムスタリア」
「今はスタアちゃんもいるから、レムリと呼んでください。姉さま」
「そう、なら、レムリ。貴女の中にいらっしゃるファウ様だけど」
「はい」
「本来の身体はどうなっているのかしら?」
これは、俺も考えていた。俺の肉体はこの世界に存在するのか?
「分からないです」
「そう、何か手がかりでもあれば……」
「ありますよ?」
そう言ってレムリは封筒の中から一枚の紙をだした。それは綺麗にコーティングされていた。
「これは?」
「ファウ様のお姿です」
これがあの少年だった彼?少年だった頼りなさは無い。それもそうだ、自分が知ってる彼は8年前の彼なのだから。そう……今はこんなに逞しく……。
「リテリ姉さま?」
凝視し過ぎたようだ。
「なに?」
「お顔が赤いですけど、ご気分でも?」
「な、何でもないのよ。これがあれば探せるかも知れないわね」
「本当ですか?」
「ええ、これ、私が預かってもいいかしら?」
何故か緊張が走る。これ、欲しい……。これ、欲しい。
「はい、よろしくお願いします」
その声に力が入り拳を天高く掲げた。
(私の人生に一片の悔いなし!)
「ね、姉さま?」
「な、何でもないのよ。では、手を打っておきます。食べましょうか?」
ここで初めて二人は食事を口にした。
そして気づいた。
ちゃっかりテーブルでディアが食事をしていた。思えばディアが食事をしているのを見たことがない。腹、空かせてたのだろうか?
今度から食事時は呼んでやろうと俺はそんなことを思った。




