44:聖女は死神の如く
あれは何だったのか?『レムスタリア』の身体の中から引き出された『力』。帝国の『戦乙女』を圧倒的な戦力でねじ伏せた。しかし、あの力は『聖女』の中にあって良い力ではない。
「『呪い』は解かれたと言っていたのに……」
呪いそのもの……いや。
あれは、むしろ『聖女』の対局に位置する闇の力。
『レムスタリア』に害をなすのであれば排除しないと。
『レムスタリア』は最後の希望。『聖女』に届く可能性、私達の希望。
私とクローリアはその資格を失ってしまったのだから……。だからあの子に害をなそうとする者は許さない。
考え事をしていたらお客様がお帰りのようだ。お見送りの時間だ。
勿論、帰しはしないのだけれど……。
「お待ちしておりました。帝国の『戦乙女』の方々」
『第二聖女』『リテリ=ユイーシ=ルクルブ』は続ける。
「投降していただけませんか?身の安全は保障します。この要求が受け入れられない場合、痛い目をみていただきます。本日の私は、手加減出来ませんよ?」
『レムスタリア』に害をなそうとした者達。投降は呼びかけた。拒否するならきっと、『聖女』としては対峙できない。
立ち止まった四人、一人はソフィアを背負っている。合計で五人だ。
この人物は知ってる。『第二聖女』『リテリ=ユイーシ=ルクルブ』。
四人の考えは一瞬でまとまった。重要なのはソフィア様の脱出。
『第三聖女』の実力は『黒死』と引き分けたという。ならば……。
そう、ここで彼女らは選択を誤った。
「『影死』行け!ソフィア様を頼む」
『影死』と呼ばれた者はうなづいた。そのまま、残りの三名が『第二聖女』を囲む。
「そう、それが返答ですか。残念です……ううん。違うわね。むしろ望む展開に感謝かしら?」
『影死の人形』は『第二聖女』の横を過ぎる。瞬間!
「『ダーク・ワールド』」
辺り一面が『夜』となった。日の光、鳥の囀りが一瞬で消えた。
『月』が出ている。『新月』だ。
「お早いお帰りを……」
『影死の人形』はその言葉が自分に向けられたと気づいたか?
『第二聖女』を抜けて全力で走り抜けた。意識のないソフィアを背負いながら。虫の音が響く夜の中を駆けた。
「では、始めてよろしかしら?」
『ドールズ』の三人はその声に構える。武器はリリスと同じ武器『ランス』。『ドールズ』の武器は支給品で共通だ。本来は馬上での突進力を利用する武器だが、『ドールズ』ではあっても『戦乙女』の突進力、瞬発力は持ち合わせている。馬などいらない。そして相手とのリーチが段違いならば一方的に攻め倒せる。はずだった…………。
『ドールズ』三名の同時攻撃。その動きを捉える物がこの世に何人いるだろう。それほど速く、予備動作のない無駄のない攻撃だった。
ガキンッ!
金属がぶつかり合う音が三つ同時に響いた。三人は驚愕する。自らの攻撃を弾かれたからではない。その武器に戦慄したのだ。
おおよそ『聖女』が持つには相応しくない。それは、大鎌。
『デス・サイズ』
『第二聖女』はそれを片手で、小枝でも振るかのように軽々と操って見せた。
彼女を知る人間なら驚愕する所はそこではなかっただろう。何せ、『第二聖女』が動いたのだ。『静の聖女』が動いた。敵の攻撃に対して『静』に佇む彼女が自ら動いた。
だが、『ドールズ』はそのことを知る由もない。
攻防が続いた。いや、一方的に自分達が攻められていた。防御するしかない。
何なのだこの『聖女』は空中を飛び回る。『ドールズ』ではそれが出来ない。
こちらの攻撃は空を切り『能力』は平然と受け止められる。
滑らかに滑るように踊るように……。
夜の空を自由に駆けまわる姿……それは、まるで『魔女』。
『第二聖女』は空中で停止した。
そこへ足音が近づいてきた。
「お帰りなさい。お待ちしておりました………準備は整っていますよ」
そこに現れたのはソフィアを背負った『影死の人形』だった。
『影死の人形』は仲間の三人を見て啞然となった。何故、ここに居るのかと。
「影死!何故、戻ってきた!」
「い、いや、私は確かに……」
帝国を目指していた。だが結果は戻って来た。
空中の『第二聖女』を見上げる。
彼女は『満月』を背にしていた。シルエットは大鎌を持った『死神』
「満月だと?」
「月は出ていたか?」
「いや、無かった」
「各自、警戒」
「では、始めましょうか?」
ドールズ四人は動けない。いや、動かない。
動けばどうなるか知っていた。
それも違う、知っていたのとは違う。見せられたのだ。
たった今、見せられた。
大鎌にて首が刈られる自分達を。
戦ってはダメだ、恐怖を感じないはずの『ドールズ』が恐怖していた。それは『人形』であるがための証明が解除させられたことを意味していた。
何なのだ?『この聖女』は?これが、『聖女』である訳がない。王国の第二聖女とは『聖女』の皮を被った『死神』だ……。
「影死、今ならお前の『能力』が使える、行け」
「武運を!」
『コンファインメント・フルムーン』
声がするより、光が辺りを埋め尽くすより前に『影』へと潜り込む。そして影から影へと移動を繰り返し逃げに逃げた。逃げて逃げて逃げて気づくと国境だった。
「あら?抜けられてしまった?成程、影。意外な盲点をみつけてしまったわ」
「教えてくれたお礼よ、見逃してあげるわ」
一帯に日差しが戻る。
三名のドールズの姿はない。勿論、逃げられたわけではない。
では、何処へいってしまったのか?
「レムスタリア。貴女の中に居る存在は私が排除します……貴女のためにも」
この時間だと学院かしら。早い方がいいわね。
場合によっては力尽くでも…………。




