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俺と聖女でひとつの身体  作者: 天川 和
魔女、魔王編
43/268

42:敗北からの高揚


 ここは…………。


「お目覚めですか?ソフィア様」


 目だけを動かし、声のする方を見た。そこに居たのは『戦乙女』。『ドールズ』のひとりだ。


 ベッドに寝かされていた。周りは殆どと言っていいほどに何もない部屋。ただ、着替えと睡眠をとるためだけの部屋。いつもなら、何も思わない。


 だか、今はつまらない部屋だと思った。


「そうか、私は……負けたのか……」


「はい、それはもう、見事な負けっぷりでございました」


「そうか、見事だったか……」


 ふふふ……。あはははは。笑った。何年ぶりだろう。いや、私はそもそも、この世界に来て笑ったことなどあったのか?



 退屈な世界だった。私の知っているモノは何もない世界。


 そして、私の求めていたモノはこの世界にもないのだと諦めた。


 そして、心を殺した。求めるから手にすることが出来ずに傷つく、いら立つ。


 傷つきたくないから求めない。無い事への言い訳がたつ。


 そして考えることを否定した。そうすれば楽でいい。


 命令に従うのは楽だ。考えなくて楽だ。だから、命令に忠実だった。


 それが、どうだ。今は……。


「私が、汚してしまったな」


 アノ戦いを汚してしまった。



 アノ男との戦いから2日が過ぎていた。


 あの時、求めていたモノが現れたのに、心を騙していた私では……対応出来なかった。


 全力で戦える相手が、あの時そこに存在したのに。


「うん、悪くない」


 この世界での初敗北。『神に最も近い戦乙女』とまで言われた。


「は?」


「負けるのも良いものだ!」


 身を起こす。


「あの男、名は何と言ったか?……私を負かしたやつだ」


「さぁ?ただ、『黒死の人形』が兄と呼んでおりましたが?」


「そうか、『リリス=バルド』の兄か」


 もう一度会いたい。会って『本気の私』で戦ってみたい。浮きだつ高揚感に胸が高鳴った。苦しいほど胸が高鳴った。


 完全な私で完全な勝利の暁には…………。



「あの男、気に入った。是非とも私のモノとしたくなったよ」



 圧倒的力でねじ伏せられた。この身は反応さえ出来ずに全て封殺された。


 今度は、私がねじ伏せてやろう。そして、お前の口から言わせてみせる。


 さて、お前は私と同じ思いに至ってくれるのか?


 またも胸が高鳴った。


「本気の私と戦ってもらうぞ!」




「それはそれとして、お前」


「はい」


 ソフィアは少し間を置いた。




「解けているな?」


 気づかれた?


 確かに今の私は解けている。『ドールズ』に施されたマインドコントロールと言う名の呪縛。だって仕方ないじゃない。ソフィア様を守りながらの撤退戦。追撃に現れたのは『王国第二聖女』。


 あれは、ソフィア様と違った意味で規格外だ。あれは『聖女』の皮をかぶった『死神』。他の三人はどうなったか知らない。私は自分の『能力』のお陰で助かった。あの恐怖は忘れないだろう。出来ればもう会いたくない。あの『死神』になんか。


 逃げて逃げて逃げて、気づけば国境を越えていた。安堵した私は気づいた。


 逃げ切れたのは私とソフィア様だけ。


 そして、解けていることに。



「何のことでございましょう」


「人形が見事な負けっぷりなどと、言うものか」


「!」


「それに、お前は表情があり過ぎだ」


「何の、ことか…………」


「まぁ、いい。他の物にはバレないようにしておけよ」



お前には感謝しているのだ。お前が私をここまで運んだのだろう?



『影死の人形』『メルチ=ヴァルキュリア』は頭を下げた。




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