42:敗北からの高揚
ここは…………。
「お目覚めですか?ソフィア様」
目だけを動かし、声のする方を見た。そこに居たのは『戦乙女』。『ドールズ』のひとりだ。
ベッドに寝かされていた。周りは殆どと言っていいほどに何もない部屋。ただ、着替えと睡眠をとるためだけの部屋。いつもなら、何も思わない。
だか、今はつまらない部屋だと思った。
「そうか、私は……負けたのか……」
「はい、それはもう、見事な負けっぷりでございました」
「そうか、見事だったか……」
ふふふ……。あはははは。笑った。何年ぶりだろう。いや、私はそもそも、この世界に来て笑ったことなどあったのか?
退屈な世界だった。私の知っているモノは何もない世界。
そして、私の求めていたモノはこの世界にもないのだと諦めた。
そして、心を殺した。求めるから手にすることが出来ずに傷つく、いら立つ。
傷つきたくないから求めない。無い事への言い訳がたつ。
そして考えることを否定した。そうすれば楽でいい。
命令に従うのは楽だ。考えなくて楽だ。だから、命令に忠実だった。
それが、どうだ。今は……。
「私が、汚してしまったな」
アノ戦いを汚してしまった。
アノ男との戦いから2日が過ぎていた。
あの時、求めていたモノが現れたのに、心を騙していた私では……対応出来なかった。
全力で戦える相手が、あの時そこに存在したのに。
「うん、悪くない」
この世界での初敗北。『神に最も近い戦乙女』とまで言われた。
「は?」
「負けるのも良いものだ!」
身を起こす。
「あの男、名は何と言ったか?……私を負かしたやつだ」
「さぁ?ただ、『黒死の人形』が兄と呼んでおりましたが?」
「そうか、『リリス=バルド』の兄か」
もう一度会いたい。会って『本気の私』で戦ってみたい。浮きだつ高揚感に胸が高鳴った。苦しいほど胸が高鳴った。
完全な私で完全な勝利の暁には…………。
「あの男、気に入った。是非とも私のモノとしたくなったよ」
圧倒的力でねじ伏せられた。この身は反応さえ出来ずに全て封殺された。
今度は、私がねじ伏せてやろう。そして、お前の口から言わせてみせる。
さて、お前は私と同じ思いに至ってくれるのか?
またも胸が高鳴った。
「本気の私と戦ってもらうぞ!」
「それはそれとして、お前」
「はい」
ソフィアは少し間を置いた。
「解けているな?」
気づかれた?
確かに今の私は解けている。『ドールズ』に施されたマインドコントロールと言う名の呪縛。だって仕方ないじゃない。ソフィア様を守りながらの撤退戦。追撃に現れたのは『王国第二聖女』。
あれは、ソフィア様と違った意味で規格外だ。あれは『聖女』の皮をかぶった『死神』。他の三人はどうなったか知らない。私は自分の『能力』のお陰で助かった。あの恐怖は忘れないだろう。出来ればもう会いたくない。あの『死神』になんか。
逃げて逃げて逃げて、気づけば国境を越えていた。安堵した私は気づいた。
逃げ切れたのは私とソフィア様だけ。
そして、解けていることに。
「何のことでございましょう」
「人形が見事な負けっぷりなどと、言うものか」
「!」
「それに、お前は表情があり過ぎだ」
「何の、ことか…………」
「まぁ、いい。他の物にはバレないようにしておけよ」
お前には感謝しているのだ。お前が私をここまで運んだのだろう?
『影死の人形』『メルチ=ヴァルキュリア』は頭を下げた。




