表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺と聖女でひとつの身体  作者: 天川 和
魔女、魔王編
41/268

40:神に最も近い戦乙女


 『リリス=バルド』は知っていた。それが何者であるのかを。


 『帝国第一戦乙女』『ソフィア=ヴァルキュリア』


 『白金の戦乙女』『神に最も近いとされるヴァルキュリア』


 『レギュラー・ヴァルキュリア』の名実ともにナンバーワン。


(なんで……ここに……来てるの?皇帝の(そば)を離れないあの(ひと)が)



「「『バステルの正門』」」拘束!!



「「発動する!」」



(ダメ!お兄ちゃん!気づかれてしまう!)


 使っちゃダメ!!



 背後に現れた禍々しい門から伸びた鎖の束がソフィアと呼ばれた『戦乙女』に向かう。


 だが、鎖はそこに『何か』があるかのように向きを変えてしまった。『戦乙女』を囲むように鎖が戸惑う。


『解析』!


「何が起こっている!?」


(神格により『呪い』がはじかれています)


(通じないってことか!?)


(遠隔では無理です。接触して発動する必要があります。マスター)


 つまり、殴れってことだ。駄目だ、手がない。



「ほう、女、面白いものを飼っているな」



(お兄ちゃんが……気づかれ…ちゃっ……た)


 リリスの身体から力が抜けた。


 ソフィアが空中から手をレムスタリアに向けて、握った。本当にただ、握った。


「ぐぁーーーーー!」


 俺の身体に激痛が走った。身体を握りつぶされる感覚。そして、これは……恐怖。魂に染み入る恐怖。


 五感が強制的にレムスタリアの身体より切り離され、一瞬でブラックアウトした。高速で引かれる体感は俺の存在そのものが体験している現状。


 そのまま俺はレムリの身体の中より引きずり出されたのだった。


「私が飼ってやろう」


 な……何が…………地面に倒れたレムスタリア、こちらを見るリリス、俺の視界に二人の姿が見えた。つまり俺は外から二人を見ているってことだ。


 何が起こっている?しかも、リリスの視線が、俺を捉えている。


(俺が見えているのか?リリス?)


「ソフィアは魂を取り込んで使役する。本物のヴァルキュリアなんだよ…………お兄ちゃん…………」


 リリスのつぶやきが聞こえてきた。



 『ヴァルキュリア』


 本来は北欧神話において、戦場での生と死を定める『戦乙女』。戦場で死んだ者の魂をヴァルハラに連れて行く役割を担う者。しかし、この『八翼(はちよく)の世界』においては意味が違う。連れていく場所などありはしない。


 ならばどうする?


 そう、自らが使うのだ。



 強き英雄の『力』を取り込み、自らの糧とする。



(お兄ちゃんが取り込まれちゃう)


(お兄ちゃんがまた居なくなる)





 それはいや、それはいや、それはいや……。


 泣いてるだけじゃダメ!


 なんとかしなきゃ。なんとかしなきゃ。なんとかしなきゃ。


 叫んでいてもダメ!


 お兄ちゃんが取り込まれる、今度こそ私の好きなお兄ちゃんが消える。


 祈っているだけじゃダメ!





 なら!!


(出来るかもしれない、いや、やらないと、やるしかない!)


 トラウマが蘇る。だけど、タメラウナ!



「コウ……チク」


 リリスの足元に『魔法陣』がうっすらと浮かび上がる。




 リリスは叫ぶ!


「「「『構築(コウチク)』」」」発動っ!



 『魔法陣』に魔力が走り輝く。



「リリスが『構築(コウチク)』するっ!!」



 瞳を閉じて息を吸い込む。



 お兄ちゃんの細胞を構築!細胞の分裂を構築!分裂の増殖を構築!増殖の高速化を構築っ高速化高速化高速化ぁっ!!


 リリスの声、放たれる魔力に呼応した『魔法陣』の多重制御!



「まだだ…もっと早く、早く、正確に、正確に!!」



 地上では足りなくなった。空中にて『魔法陣』展開。


 増える増える増える増える増える!超多重展開、多重制御!



 細胞から骨格を構築、血管を構築、臓器を構築、脂肪を構築、筋肉を構築、血液を構築、保存を構築、免疫を構築、外皮を構築、髪を目を舌を爪を全部全部全部構築っ!!


 それは、人体模型のようでもあった。ただ違うのは『本物』


(もう死なせない、もう死なせない、もう死なせない)


 やって!やれ!わたしの『構築』!!



「「おにいちゃんをこうちくーーーーーーーっ!!」」


 リリスを埋め尽くしてした『魔法陣』が砕ける。


 リリスの魔力はカラだ…………。


 コレでダメならもう…………。


 視界が赤く染まる。



 それは奇跡だったのだろうか?いや、奇跡は起きないから奇跡なのだ。いや、魔力がもったことが奇跡だ……ならば……これは必然か。


『ファウ=バルド』の肉体は…………現れた!!


「なっ!俺?」


 俺は一瞬で判断する。いける!!


「『ロクスヌの離脱』!復帰化!!」



「「発動する」」



 恐怖は無くなった。代わりに懐かしいような吸い込まれるような安堵感。


 『ロクスヌの離脱』によってリリスの『構築』した肉体に入り込む。



「バカだろリリス。無茶し過ぎだ」



 リリスは俺の死後『構築』にトラウマを持っていた。


 俺を死なせた呪い(リリスの口付け)を作ってしまった『能力』故に。


「お兄ちゃん……つかって……やっつけて」


 魔力切れのリリスは必死に意識を保っている。


「ああ、どれだけ持つ?」


「ごめん……120秒」


 それが、私の『構築(コウチク)』の限界……。


「十分だ!」


 後を考えなくて良いなら問題ない。妹の『構築』した肉体で!


 リリスが俺の為に創った肉体で!


「60秒でケリをつける!}


 やつは高みから見下ろしていた。余裕でいられるのはここまでだ。


「神に最も近い戦乙女か知らないが、地べたに墜としてやる!!」



「「発動する」」!!


右に『ゼギルの空移(くうい)』   黒粒子が渦巻く


左に『ジェムの光動(こうどう)』   黒粒子が渦巻く


中央に『タロスの巨腕(きょわん)』  黒粒子が渦巻く


右翼に『ギンガルの超星(ちょうせい)』 黒粒子が渦巻く


左翼に『スピルの金剛(こんごう)』  黒粒子が渦巻く


頭上に『ネルの界断(かいだん)』   黒粒子が渦巻く




飛翔(ひしょう)する!神速(しんそく)する!剛力(ごうりき)する!神撃(しんげき)する!神鋼(しんこう)する!超魔(ちょうま)する!



「そして全てを」!!


「「発動する」」!!


 粒子が混じり結合し融合。弾けて爆発的に溢れ出す。それは気流をなし、天を突いた。


 雲が、天が割れた。



 好きに使え。今度ばかりは止めない!壊れるのが前提だ。


 呪いの荷重に肉が軋む。呪いのバランスが崩れる。


 しかし、今の俺は……何も気にしなくていい。


 120秒で壊れる身体だ。


「どうした?見えていないのか?」


 黒いオーラの残像をソフィアの前方に残し、俺はソフィアの後ろから声をかけた。


「っ!」


 振り向きざま。ソフィア。


「『十連刺剣』!」


 空中から飛来する10のレイピアの魔刃を束にしてつかみ取り……黒く浸食し砕いた。


「ならば、『全域光殺』!」


「だから無駄だって」


 ソフィアより飛来する膨大な魔力の光弾は、全て黒き粒子のオーラが消滅させた。これが一番理解できるだろう?無駄だと!


 そして、そのまま下へと殴り飛ばす!


「おらっ!」


 ガキンッ!頭装備を砕く音と共に感触!拳が砕けたがどうでもいい。


「なっ!」


 ソフィアは頭から地面に突っ込む。土煙が舞う。


「どうだ?土の味は。それが、お前のバカにしてた大地の味だ」


「き、貴様!」


「でも、誉めてやる。まぁまぁの硬さだ。一撃とはいかないか」


 俺は一気に距離を詰めると、反応出来ていないソフィアに向かって言う。


「お前はもう、詰んでる」


「き、貴様ごときにっ!」


 ソフィアが距離を取ろうとした。させるかっ!


「オラッ!」


 一撃でソフィアが浮いた。周囲の瓦礫(がれき)も一気に巻き上がった。


「オラッ!オラッ!オラ!オラ!オラ!オラァーーー!!」


 拳を叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む!叩き込む叩き込む叩き込む!


「オラ!オラ!オラ!オラァーーー!!」


 腕の鎧が砕ける!胴の鎧が砕ける!足の鎧が砕ける!残像までが質量を持ち追い打ちを掛ける!ソフィアが受けるダメージは、俺が殴った数以上の追加効果を含む!!


「持っていけ、今の全力だ」


 俺の右拳は砕けている。なら左で十分だ。


 全ての粒子を左に集めた。


「オォーーリャーーー!!」


 吹っ飛ばした。ただ、吹っ飛ばした。それだけだ。



「ドールズだっけか?ちゃんと、ソフィアを拾って帰れよ」





「ファウ様?そのお姿は……」


 レムリの意識が戻ったらしい。リリスとレムリが駆け寄ってきた。


「ファウ様!」

「お兄ちゃん!」


「どうしたのですか?そのお姿……と、とにかく回復を今直ぐに」


 それを俺は、手で制した。


 二人が俺の手を取る。自分の胸元に抱える。


 痛いんだけど、砕けてるし。でも、いいか。


「あっ……」


 どちらの発した声だったのか。


 俺の肉体は限界のようだった。魔力で構成した肉体が自然に戻ろうとしている。本来あるべき方法での誕生では無いのだから当然か。魔力構成が解け始め光の粒子になって散っていく。命が散るのに等しい。




「すまん、学院には行けそうにない」


「お兄ちゃん、早く戻って!」


 俺は首を横に振る。『ロクスヌの離脱』を使ったのはつい1分前だ。まだ使えない。


「戻る方法がないんだよ……」


「そんな…………」


「楽しかったかな……今にして思えば。色々とありがとうな。レムスタリア」


「リリス、もう気にするな。お前が生きていたら、それだけで俺はうれしいから」




「嫌です!!嫌です!!絶対……いやです」


「いやだよ!おにいちゃん!!」


 あぁ、二人とも泣かせてしまったか……。


「じゃぁな!」


 そうして俺は二度目のこの世界から………




 消える



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ