40:神に最も近い戦乙女
『リリス=バルド』は知っていた。それが何者であるのかを。
『帝国第一戦乙女』『ソフィア=ヴァルキュリア』
『白金の戦乙女』『神に最も近いとされるヴァルキュリア』
『レギュラー・ヴァルキュリア』の名実ともにナンバーワン。
(なんで……ここに……来てるの?皇帝の傍を離れないあの女が)
「「『バステルの正門』」」拘束!!
「「発動する!」」
(ダメ!お兄ちゃん!気づかれてしまう!)
使っちゃダメ!!
背後に現れた禍々しい門から伸びた鎖の束がソフィアと呼ばれた『戦乙女』に向かう。
だが、鎖はそこに『何か』があるかのように向きを変えてしまった。『戦乙女』を囲むように鎖が戸惑う。
『解析』!
「何が起こっている!?」
(神格により『呪い』がはじかれています)
(通じないってことか!?)
(遠隔では無理です。接触して発動する必要があります。マスター)
つまり、殴れってことだ。駄目だ、手がない。
「ほう、女、面白いものを飼っているな」
(お兄ちゃんが……気づかれ…ちゃっ……た)
リリスの身体から力が抜けた。
ソフィアが空中から手をレムスタリアに向けて、握った。本当にただ、握った。
「ぐぁーーーーー!」
俺の身体に激痛が走った。身体を握りつぶされる感覚。そして、これは……恐怖。魂に染み入る恐怖。
五感が強制的にレムスタリアの身体より切り離され、一瞬でブラックアウトした。高速で引かれる体感は俺の存在そのものが体験している現状。
そのまま俺はレムリの身体の中より引きずり出されたのだった。
「私が飼ってやろう」
な……何が…………地面に倒れたレムスタリア、こちらを見るリリス、俺の視界に二人の姿が見えた。つまり俺は外から二人を見ているってことだ。
何が起こっている?しかも、リリスの視線が、俺を捉えている。
(俺が見えているのか?リリス?)
「ソフィアは魂を取り込んで使役する。本物のヴァルキュリアなんだよ…………お兄ちゃん…………」
リリスのつぶやきが聞こえてきた。
『ヴァルキュリア』
本来は北欧神話において、戦場での生と死を定める『戦乙女』。戦場で死んだ者の魂をヴァルハラに連れて行く役割を担う者。しかし、この『八翼の世界』においては意味が違う。連れていく場所などありはしない。
ならばどうする?
そう、自らが使うのだ。
強き英雄の『力』を取り込み、自らの糧とする。
(お兄ちゃんが取り込まれちゃう)
(お兄ちゃんがまた居なくなる)
それはいや、それはいや、それはいや……。
泣いてるだけじゃダメ!
なんとかしなきゃ。なんとかしなきゃ。なんとかしなきゃ。
叫んでいてもダメ!
お兄ちゃんが取り込まれる、今度こそ私の好きなお兄ちゃんが消える。
祈っているだけじゃダメ!
なら!!
(出来るかもしれない、いや、やらないと、やるしかない!)
トラウマが蘇る。だけど、タメラウナ!
「コウ……チク」
リリスの足元に『魔法陣』がうっすらと浮かび上がる。
リリスは叫ぶ!
「「「『構築』」」」発動っ!
『魔法陣』に魔力が走り輝く。
「リリスが『構築』するっ!!」
瞳を閉じて息を吸い込む。
お兄ちゃんの細胞を構築!細胞の分裂を構築!分裂の増殖を構築!増殖の高速化を構築っ高速化高速化高速化ぁっ!!
リリスの声、放たれる魔力に呼応した『魔法陣』の多重制御!
「まだだ…もっと早く、早く、正確に、正確に!!」
地上では足りなくなった。空中にて『魔法陣』展開。
増える増える増える増える増える!超多重展開、多重制御!
細胞から骨格を構築、血管を構築、臓器を構築、脂肪を構築、筋肉を構築、血液を構築、保存を構築、免疫を構築、外皮を構築、髪を目を舌を爪を全部全部全部構築っ!!
それは、人体模型のようでもあった。ただ違うのは『本物』
(もう死なせない、もう死なせない、もう死なせない)
やって!やれ!わたしの『構築』!!
「「おにいちゃんをこうちくーーーーーーーっ!!」」
リリスを埋め尽くしてした『魔法陣』が砕ける。
リリスの魔力はカラだ…………。
コレでダメならもう…………。
視界が赤く染まる。
それは奇跡だったのだろうか?いや、奇跡は起きないから奇跡なのだ。いや、魔力がもったことが奇跡だ……ならば……これは必然か。
『ファウ=バルド』の肉体は…………現れた!!
「なっ!俺?」
俺は一瞬で判断する。いける!!
「『ロクスヌの離脱』!復帰化!!」
「「発動する」」
恐怖は無くなった。代わりに懐かしいような吸い込まれるような安堵感。
『ロクスヌの離脱』によってリリスの『構築』した肉体に入り込む。
「バカだろリリス。無茶し過ぎだ」
リリスは俺の死後『構築』にトラウマを持っていた。
俺を死なせた呪いを作ってしまった『能力』故に。
「お兄ちゃん……つかって……やっつけて」
魔力切れのリリスは必死に意識を保っている。
「ああ、どれだけ持つ?」
「ごめん……120秒」
それが、私の『構築』の限界……。
「十分だ!」
後を考えなくて良いなら問題ない。妹の『構築』した肉体で!
リリスが俺の為に創った肉体で!
「60秒でケリをつける!}
やつは高みから見下ろしていた。余裕でいられるのはここまでだ。
「神に最も近い戦乙女か知らないが、地べたに墜としてやる!!」
「「発動する」」!!
右に『ゼギルの空移』 黒粒子が渦巻く
左に『ジェムの光動』 黒粒子が渦巻く
中央に『タロスの巨腕』 黒粒子が渦巻く
右翼に『ギンガルの超星』 黒粒子が渦巻く
左翼に『スピルの金剛』 黒粒子が渦巻く
頭上に『ネルの界断』 黒粒子が渦巻く
飛翔する!神速する!剛力する!神撃する!神鋼する!超魔する!
「そして全てを」!!
「「発動する」」!!
粒子が混じり結合し融合。弾けて爆発的に溢れ出す。それは気流をなし、天を突いた。
雲が、天が割れた。
好きに使え。今度ばかりは止めない!壊れるのが前提だ。
呪いの荷重に肉が軋む。呪いのバランスが崩れる。
しかし、今の俺は……何も気にしなくていい。
120秒で壊れる身体だ。
「どうした?見えていないのか?」
黒いオーラの残像をソフィアの前方に残し、俺はソフィアの後ろから声をかけた。
「っ!」
振り向きざま。ソフィア。
「『十連刺剣』!」
空中から飛来する10のレイピアの魔刃を束にしてつかみ取り……黒く浸食し砕いた。
「ならば、『全域光殺』!」
「だから無駄だって」
ソフィアより飛来する膨大な魔力の光弾は、全て黒き粒子のオーラが消滅させた。これが一番理解できるだろう?無駄だと!
そして、そのまま下へと殴り飛ばす!
「おらっ!」
ガキンッ!頭装備を砕く音と共に感触!拳が砕けたがどうでもいい。
「なっ!」
ソフィアは頭から地面に突っ込む。土煙が舞う。
「どうだ?土の味は。それが、お前のバカにしてた大地の味だ」
「き、貴様!」
「でも、誉めてやる。まぁまぁの硬さだ。一撃とはいかないか」
俺は一気に距離を詰めると、反応出来ていないソフィアに向かって言う。
「お前はもう、詰んでる」
「き、貴様ごときにっ!」
ソフィアが距離を取ろうとした。させるかっ!
「オラッ!」
一撃でソフィアが浮いた。周囲の瓦礫も一気に巻き上がった。
「オラッ!オラッ!オラ!オラ!オラ!オラァーーー!!」
拳を叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む!叩き込む叩き込む叩き込む!
「オラ!オラ!オラ!オラァーーー!!」
腕の鎧が砕ける!胴の鎧が砕ける!足の鎧が砕ける!残像までが質量を持ち追い打ちを掛ける!ソフィアが受けるダメージは、俺が殴った数以上の追加効果を含む!!
「持っていけ、今の全力だ」
俺の右拳は砕けている。なら左で十分だ。
全ての粒子を左に集めた。
「オォーーリャーーー!!」
吹っ飛ばした。ただ、吹っ飛ばした。それだけだ。
「ドールズだっけか?ちゃんと、ソフィアを拾って帰れよ」
「ファウ様?そのお姿は……」
レムリの意識が戻ったらしい。リリスとレムリが駆け寄ってきた。
「ファウ様!」
「お兄ちゃん!」
「どうしたのですか?そのお姿……と、とにかく回復を今直ぐに」
それを俺は、手で制した。
二人が俺の手を取る。自分の胸元に抱える。
痛いんだけど、砕けてるし。でも、いいか。
「あっ……」
どちらの発した声だったのか。
俺の肉体は限界のようだった。魔力で構成した肉体が自然に戻ろうとしている。本来あるべき方法での誕生では無いのだから当然か。魔力構成が解け始め光の粒子になって散っていく。命が散るのに等しい。
「すまん、学院には行けそうにない」
「お兄ちゃん、早く戻って!」
俺は首を横に振る。『ロクスヌの離脱』を使ったのはつい1分前だ。まだ使えない。
「戻る方法がないんだよ……」
「そんな…………」
「楽しかったかな……今にして思えば。色々とありがとうな。レムスタリア」
「リリス、もう気にするな。お前が生きていたら、それだけで俺はうれしいから」
「嫌です!!嫌です!!絶対……いやです」
「いやだよ!おにいちゃん!!」
あぁ、二人とも泣かせてしまったか……。
「じゃぁな!」
そうして俺は二度目のこの世界から………
消える




